第42話 愛の告白

 晩餐会までの待ち時間の間に、僕は思いの丈を皆んなに打ち明けた。僕に優しいこの世界に、僕なりのやり方で恩返しがしたいのだ。


「グーテンベルク領を恩賞で頂いたって……ハルト……どう言うことなんだ……グーテンベルク領は、ブロエディ侯爵領だろ……」


「ブロエディ侯爵は失脚したよ」


「おいおいおい、まさか王国で起こったクーデターって……」


「そうだ、ブロエディ侯爵だ」


「前々からきな臭い噂はあったけど……本当にやると思ってなかったわ」


「ヤツも魔族にそそのかされたクチだよ」


「ね、ねえ、ハルト……もしかして爵位も貰ったの?」


「ああ、伯爵になった」


『『伯爵』』


「もうデタラメだな……」


「それは僕も思うが、僕にとっても都合のいい話だったんでな」


「都合のいい話って何なのよ」


「僕は付与魔法で世界の常識を変えたいんだ」


「もう、充分変えてると思うけど……」


「戦いとか、そんなんじゃないんだ。皆んなが安心して暮らせる世界を作りたい。僕は魔族だけが悪いとも思っていない。だから世界を変えるために、もっと大きな規模で働きたいんだよ」


「うわー案外、野心家だったんだな!」


「それは違うぞレヴィ」


「うん?何でだよ」


「ルナ、エイル、ロラン、レヴィ、僕をそんな風にしたのは、お前たちだからな」


「どう言うこと?」


「皆んなが、僕にしてくれたことの、僕なりの恩返しがしたいんだよ……お前たちが僕の生き甲斐なんだよ」


「な、なんか、話が飛躍してるわね……」


「そうだな、飛躍してるかもな……でも僕はお前たちを愛してる……一生掛けてでも僕はお前たちが笑って暮らせる世界を作りたい。そして幸せにしたい。野心なんかじゃなくて、極々私的な理由だよ」


『『…………』』


 皆んなが、押し黙ってしまった。何か変な事を言ったのだろうか。


 暫く沈黙が続いた。心なしか皆んな顔を赤らめている気がする。


「し、し、し、仕方ないわね……アンタが作りたい理想の世界が出来たら、考えてあげてもいいわよ!」


 口火を切ったのはルナだが、なんだか様子がおかしい……


「わ……私は別に……い、今のままでもいい……でも、ハルトが作る世界で幸せになりたいかな……」

 

 エイルも様子がおかしい。


「わ、わ、私もハルトを手伝おう!……その暁には……私も……」


 ロランまで……


「そ、そこまでウチらの事を想ってくれてるんなら……ウチも覚悟を決めるよ」


 レヴィ……なんの覚悟だろう……


『遂に覚悟を決めたのね』


『ウンディーネ、何の事だ?』


『今、皆んな愛してるって言ったじゃない。一生掛けて幸せにするって』


『あ……』


 そうだった。この世界は一夫多妻なのだった。家族として愛していると言ったつもりだったのだが、完全に誤解された。て言うか4人同時に告白とかあり得るのか……


『ハーレムおめでとう!応援してるわ』


 ウンディーネのにやけ顔が想像できる。ウンディーネは正しく解釈していたようだ。


 どうしよう……


「あの、皆んな……」


「なによ、グーテンベルクについて行ってあげるって言ってるのよ!」


「私も……」「私もだ……」「ウチも……」


 ……まあ、皆んなを愛しているのは事実で、僕の手で幸せにしたい気持ちはある。


「ありがとう」


 今はこのセリフが、僕の精一杯だった。


「じゃ、わ、私は晩餐会の用意をしてくるわ」

「あ、ルナ待って私も」「私もだ」「ウチも」


 皆んな顔を赤らめ、慌ただしく僕の部屋を後にした。


「遂にやったわね」

 ウンディーネが姿を現した。


「いや、でも、何か……な」


「ヘタレのハルトらしくて、良い告白だったと思うわよ」


「あは……」


「でも、本当に愛してるんでしよ?」


「それは、そうだが……」


「急がなくても良いけど、ちゃんと真実は打ち明けなさいよ」


「神の事か……」


「まあ、焦る必要は無いわ……デリケートな問題だから時間を掛けてあげてね」


「分かった」


「話しは変わるけど、ハルト、時間のある時、私に付き合いなさい」


「別に、構わんが何があるんだ?」


「その時のお楽しみよ、じゃぁ戻るわね」


「ああ、またな」


 毎度毎度のまさかの展開だった。更に責任が重くのし掛かるが、嫌じゃない。これはプレッシャーではなく、やり甲斐なんだと思う。


 何やかんや考えているうちに、晩餐会の時間になった。会場は立食パーティーのような雰囲気だった。席が決められているより、この方が都合が良い。


 そして、係の者に連れられ、ルナ達がやってきた。僕はただただ、ドレスアップされた彼女たちの姿に見惚れてしまった。


「な、なによ……」

「似合ってるかな……」

「わ……私はなんだか落ち着かん」

「ハルト……見惚れてただろ」


「う……うん、見惚れてた……皆んな綺麗だ、似合ってるよ」


 改めて思った。こんな魅力的な女性達と同居していて、何もなかった僕はやはりヘタレだと。


 陛下の挨拶が終わり、晩餐会は始まった。陛下の側では騎士団長のバナンスと魔法師団副団長のパニーが目を光らせている。公人の苦労は僕には計り知れない。


 入れ替わり立ち替わりで、色んな人達と挨拶を交わした。流石に覚えきれない。こんな時、名刺が有れば良いのにと思った。


 活版印刷で名刺を作る程度なら今の技術でも出来そうだ。自領に入ったら早速試そう。


「ハルトさん」


「シェラか」


「昼間はご活躍だったです」


「それはルナだろ」


「看破したのはハルトさんです」


「それを言うならフレイだろ」


「その前に、何故何事もなかったように剣神を使役しているのです……」

 そう言えばそうだ。フレイとは初対面だった筈なのに不思議とそんな感じもしなかった。極々自然に命令していた。


「僕にも分からない、無我夢中だったしな」


「余裕そうに見えたです」


「シェラに補正が入ったんだろう」


「ハルトさんは、マイオピアに帰られるのです?」


「そうだな、明日には立つよ」


「もっと色々お話ししたかったけど、残念です」


「聖皇国には近いうちにまた来る、その時に時間が有れば飯でもいこう」


「はいです!___後ろがつかえてますので、またです!」


「ああ、またな」

 厳密にはシェラとは道ですれ違っただけの関係だ。しかし、フレイヤ繋がりで不思議とそうは感じないし、懐かれている。


「ハルト殿、はじめまして、皇国宰相のネクサスです」


 若い、ロン毛の優男にしか見えないが、官位的には皇国のナンバー2だろう。 


「昼間の活躍は拝見致しました。それがしには凄いも何も分かりませんでした」


「はじめましてネクサス様、お褒めに預かり光栄です」


「私は、ハルト殿と陛下がお話しになられていた国益に繋がる相談に興味があります」

 都合の良い相手が食いついてくれた。


「恐縮です。改めて交渉の席は設けさせて頂きたいのですが、交易と共同公共事業が中心になります」


「かなり政治的なお話しのようですが、冒険者の貴方が何故そのような?」


「詳しくは王国からの発表をお待ち下さい」


「貴方が、そう仰るからには何かあるのでしょうね、楽しみにしております」


 ネクサスとは、今後も上手くやっていきたいものだ。名前と顔を覚えてもらう事はフックになる事は間違いない。


 晩餐会は挨拶に始まり挨拶に終わった。折角ドレスアップした皆んなともっと楽しみたかったのだが残念だ。


「あー疲れた、やっぱ堅苦しいの、苦手だわ」


「レヴィらしいな」


「ハルトは上手くやってたよね?」


「僕は、ああ言う場に慣れてるからな」


「慣れてる?」

 ロランとレヴィには、まだ前世の事は話していなかった。


『ルナ、エイル、2人にも前世の事を話すぞ』


『そうね、その方が良いわね』


『2人にも話していない程で行く、合わせてくれ』


『うん、任せて』


「皆んな聞いて欲しい、実は……僕はこの世界の人間ではないんだ」


「「やっぱり」」


「え……」


「君の動向を見ていると、同じ理(ことわり)で育ったとは考えにくいのでな」


「ハルトはウチの知らない魔法の強化、原理だっけ?誰も知らないような事、沢山知ってるしな」


「……もしかして、いつか元の世界に帰るのか?」

 不安な表情を浮かべてロランが問う。


「それは無い、元の世界の僕は死んだよ」


「え……」


「ハルト……お前……」


「僕は前世ではな、化学者で薬の研究をしていたんだ……でも、僕の作った薬が悪用されそうになってしまった。そんな危険な物を世に出すことができず、止むを得ず、その薬ごと自爆したんだよ」


「自爆って……」


「流出を避ける為には仕方なかったんだ。自爆してなくても、助からなかったしな」


「それが以前話していた、ある禁忌の阻止か」


「そうだ、隠していてすまなかった」


「今話してくれてるじゃねーか」


「ありがとうレヴィ」


「ベラベラと喋れる内容では無いしな」


「まあな……取り敢えず、そんな僕をフレイヤがこの世界に転生させてくれたんだ、だから厳密にはこの世界で生まれた事になるがな」


「フレイヤ様に感謝しないとね」


「そうね」「そうだな」「おうよ」


『『ハルトと出会えた事を』』


 嬉しくて泣きそうになった。いや、実際は泣いていた。僕の方こそ皆んなと出会えて良かった。

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