第41話 勇者の実力
聖剣グラムを構えたルナの身体が青白い光に包まれる。以前は純白だったと記憶している。もしかするとデミゴッド化の影響かも知れない。
動いたのはポレートからだ、無数のダークバレットをルナに放つ。魔法をチョイスしたのは魔法師団団長だからだろうか。
だがルナがグラムを振るうと、ダークバレットは全て打ち消された。剣圧だけで攻撃を無効化出来るルナの方が、僕よりよっぽどチートだ。
ポレートはダークバレットのみならず、様々な魔法をルナに放つも、全てグラムの剣圧で打ち消された。
業を煮やしたポレートは、牛頭マッチョになったその身体を活かし、ルナに襲い掛かる。グラムと打ち合うことが出来るのは、ポレートが四肢に魔力を纏わせているからだ。
もし、ミノタウロスが魔力操作できたなら、これほどの強敵になる事が分かった。奴らの頭が牛でよかった。
それを危なげなく凌ぐルナ。凄いの一言だ。ヒリヒリする様な攻防が暫く続いた。
「ルナァァァァァ!」
「本当に何なのよ!」
戦いに変化が出始めた。ルナが徐々に押し始めたのである。
「くそ!くそ!くそぉぉぉ!」
ポレートが逆上している為か、戦いが雑になって来たのだ。逆にルナの攻撃は面白いように当たる。戦いに冷静さを欠いてはいけない。
「くそぉぉぉ!もういい!全て消えてしまえ!」
ポレートはそう叫ぶと魔力を急激に高めはじてた。しかし、これだけの魔力をポレートがコントロール出来るとは思えない。これはもしかして……
「ルナ!自爆だ!」
「分かってるわ!」
ポレートの自爆を分かった上で対処法を考えているルナ、どこまでも冷静だ。しかし、時間はあまり残されていない。
「ねえ、アンタは何で、自爆してまで私はを倒したいの?」
「お……お前が俺を裏切ったからだ!」
ルナは困惑の表情を浮かべる。
「でも、私はアンタの事なんか知らないけど……会ったことある?」
「会ったことなどあるか!!!」
「へ」
「これから出会う予定だったのだ!!!」
「はぁぁぁぁぁ?」
「なのに……なのにお前は、あんな男と付き合いやがって!」
この世界にもストーカーはいらっしゃるようです。
「………………」
ポレートに思いっきり睨まれた。皆んな呆気に取られている。
つまらない、本当につまらない理由だ。そんな理由で多くの犠牲者を出し、ルナも酷い目にあった。だが、そんなつまらない理由でも人は狂気に走る。もちろん悪魔のささやきはあったのだろうが、人の心の脆さが伺い知れる。
「そう……なら、消えなさいあ……アンタ1人でね……」
ルナがポレートに向け、グラムを振るうと、信じられない事に魔力が切れた。
「なっ……何故?!」
魔力が断ち切られ、自爆する恐れの無くなったポレートは、瞬く間に一刀両断された。
実に鮮やかな勝利だった。沢山の要人がいる中、誰一人傷付ける事なく、魔の者を滅した。
直後、謁見の間は大歓声に包まれた。
「凄いもんだな……」
「いいところ、アンタに持って行かれてたしね、これぐらいは……」
「さっきの話しは本当なのです?」
この変な喋り方はシェラだ。
「せ、聖女様……」
「ルナ様は本当にハルトさんと付き合ってられるのです?」
変なところに食いつかれた。
「シェラ、お前こんな時に何を……」
「大事な事なのです!」
「お……おう……」
シェラの勢いに思わず気圧されてしまった。
「どうなんです?」
「付き合ってません!」
「本当です?」
「本当です!」
「分かったです!」
納得していただけたようだ。
「何が分かったんだよ……ったく」
「野暮なこと言わないです」
探知の範囲を広げてみてもなにもかからない。取り敢えずの脅威はさった。
「な……何だったのだ……今のは」
「ポレートが魔人化したようですね」
『「魔人?!』』
「恐らく、魔物が封印されている魔石を、体内に取り込んだのだと思います」
「我が君の仰る通りです」
「フレイ……」
ポレートはルナが倒したが、謁見の間は騒然としていた。
「我が君、この者の体内に魔石を残しておくと、暴走します。抜き取ってもよろしいでしょうか?」
僕だけでは決めれないので判断を仰いだ。
「陛下、よろしいでしょうか?」
「う……うむ、任せる」
「フレイ、頼む」
「はい」フレイの回収魔法により魔石は回収された。
魔物が封印された魔石を扱うのは始めてだ。
「フレイ、これも普通の魔石袋で暴走を防げるのか?」
「そうですね、問題ありません」
「陛下、この魔石は然るべき機関で、解析するべきだと思います」
「そうだな……」
「では、我々にお任せ頂けますか?」
ザクションが申し出てくれた。この場合、中立機関であるギルドが最適だろう。
「いいだろう、ギルドに任せる」
「ありがとうございます」
僕は魔石をザクションに手渡した。
「では、我が君、私はこれで、御用がある時はお呼び立て下さい」
フレイが剣化し、鞘に収まると、僕の体内へと消えた。
「余の判断は正しかったようだな、神剣の主よ」
「恐れ入ります」
本人の主張により、神剣の処遇に付いて、誰も口出ししなかった。
ポレートの魔人化と言う、不要なイベントを挟んでしまったが、皇帝との謁見は終了した。
晩餐会迄の時間は調査団に用意された屋敷で自由に寛いで良いとの事だ。勿論個室完備である。
いつもの如く、パーティメンバーは僕の部屋に集まっていた。
「何か、疲れたな……」
「本当だぜ」
「あの襲撃が、あんなにも、くだらない理由だったとは……」
「ルナも災難だね」
「本当そうよ」
ポレートのような輩は潜在的に何処にでもいるのだろう。
「これはルナだけの問題じゃねーからな、エイル、ロラン、レヴィ、お前らも可愛いから、充分に気を付けろよ」
「「「え」」」
面倒くさい展開になりそうだったので、間髪入れず話を続けた。
「皆んなみたいに、有名で可愛いとポレートみたいな輩が一定数出るんだよ。表に出てるか出てないか、社会的影響力があるか無いかの差はあるがな」
「つまり、あんなのがまだまだ居るってこと?」
「そうだ、それでもポレートのケースは稀だろうがな、まず魔族と取引なんてしねーだろうから」
「つーかよ、何であんなんになるんだよ」
「そうだな、まずは自分本意な性格と言うのが当てはまるだろうな、好意で行った事なんだから良い事をした的な意識をもってるんだ」
「それってどう言う意味?」
「ハルトの善行はアレイスターにとっては迷惑みたいな感じか?」
「う……痛いところを突くな……もし、僕に罪の意識が無ければそう言う事になる」
「じゃハルトもああなるの?キモっ!」
「ちげーよ、僕には罪の意識はちゃんとあったよ」
「悪いと思いながらやるとか、ハルトお前も中々イカれてるな!」
「おい……」
「あはは、まあその辺にしとこうか」
「釈然としないが、聖皇国での問題は一応の解決を迎えたと判断しても良いのだな?」
「ああ、その通りだ」
「晩餐会を楽しんだ後は我が家に帰るのみだ」
「かなり帰って無い気がするね」
「帰りの道中も含めると約1か月ぐらいになるだろうな」
「帰ったらソッコーでカウンセル行こうぜ!!」
「それもいいけど、まずは家でくつろぎたいわ」
「わかる、わかる、今回のクエストは短い期間の割にキツかったもんね」
「そうだな、全滅するかもって思ったのはウチも流石に初めてだ」
「ハルトに負けんように精進せねばな」
「どっちかって言うと、それはウチだな。今のウチは乱戦になると何もできなくなる」
「それは私も同じかな、ターゲットが多いと何をやっていいのか分からなくなっちゃう」
「探知を鍛えるといいかもな」
『『探知?』』
「探知で敵味方を識別して、ターゲッティングするんだよ」
「なんだそれ?」
「この空間に男は僕だけだろ?それを探知でマーキングするんだ」
「ふむふむ」
「んで、マーキング対象にだけ魔法を放つんだよ」
「おっ」 僕にヒールがかかった。
「出来た!」
説明するそばから、早速エイルが成功した。
「そうそうそんな感じだ!……て言うか天才かよ……僕は結構苦労したんだけどな」
「てへ」
「よし、ウチもやってみる!」
「いやレヴィはやるな!こんな所で攻撃魔法掛けられたら、大惨事になっちまうじゃねーか!」
「えーっ」
「おっ」ヒールが掛けられた。
「ウチも出来た!」
「治癒魔法も使えたのか!」
「ったりめーだろ!天才だからな!」
「いや2人とも本当、すげーよ……」
「いや、ウチにこの発想は無かった……やっぱハルトはすげーな」
「だよね!」
「天才に褒められると、嬉しい気分になるな、ありがとよ!」
「探知にこんな使い方があるとはな……」
「今度私も試してみるわ」
「なあ、皆んなちょっと相談があるんだけど……」
「何だ?」
「あのさ、僕がこんなことを言うのはおこがましいんだけど、拠点をグーテンベルクに移さないか?」
「まあ王都に近くて便利なんだけど……」
「立地的にマイオピアより各地に移動がしやすくなるがな……」
「メリットはたくさんあるけどね……」
「あそこは税がバカ高いからなぁ……」
「グーテンベルク……恩賞で貰ったんだ」
『『は?』』
マイオピアに愛着がないわけではないが、この世界の発展を考えるなら、領主として自領で色々開発した方が早い。僕自身はグーテンベルクに移り住む決意を固めている。学園は瞬間移動で通学できる。できれば皆んなと一緒がいい。そんな僕のワガママをぶつけてみた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます