第40話 聖剣エクスカリバーの正体

 宿舎に戻ると、調査団の皆んながロビーに集まっていた。これからホルダー城で褒賞の授与式が行われ、夜には冒険者を労うため宮中晩餐会が行われるそうだ。


 僕もザクションに言われた通り、メンバーに組み込まれた。


「ハルトさん登録証が出来てますよ」

 ザクションからダイヤランクの冒険者登録証を受け取った。


「ありがとう、仕事が早いな」


「ハルトさんには、大変お世話になりましたので、多少の便宜は計りますよ」


「それは、頼もしいな」


「それよりも、ハルトさんが素直に参加してくれてよかったです」


「ルナ達の手前もあるしな、僕はある程度常識人だよ」


「常識外れの事ばかりしてますのにね……」


「しみじみ言わないでくれ……」


「善処しますね、ではまた後ほど」

 ザクションは、忙しそうだ。


 取り敢えず、僕の聖皇国での目的は果たされた。マイオピア出発から4日目の事だった。王国で1日ロスったと思っていたが、結果、想定よりも巻きで達成出来た。


「ハルト、おはよう」

「おはよう、ハルト」

「ちーっす」

「さっきは、ありがとうな」


 ルナ達に声を掛けられた。すると探知に変化が現れた。僕に対して、相当数の敵意が向けられたのである。


 殺意などの様な強い敵意ではない。これは嫉妬だ。ルナ達と仲良く話す僕を妬む気持ちを、探知で補足できたのだ。


 これは使える、うまく立ち回れば、魔族と繋がりのある人物をあぶり出せるかもしれない。


「おはよう、皆んな」


「ロランと何かあったの?」

「散歩に行く前にロビーで会ったんだよ」


「密会か!」

「ちげーよ!」


「怪しいわね……」

「もうちょっと信用しようぜ」


「そ……そうだ!ほ、ほ、本当に何にもない!」

 何にも無いのに何かありそうな言い方だ。

しかし、皆んな事情を察したのか、それ以上突っ込んで来なかった。いい仲間だ。


 全員集合したところで、ギルド職員の先導で、ホルダー城に入った。調査団には道中も温かい声援が送られた。


 褒賞授与の前に今回の犠牲者に対する追悼の辞が読み上げられた。皇国内に追悼碑も建立されるとの事だ。冒険者だからと言ってないがしろにするつもりはないようだ。聖皇国自体は真面な国だと判断しても良いだろう。


 続いて、冒険者各自に恩賞が送られた。これもまとめて授与されるのではなく一人一人皇帝から声が掛けられた。皇帝から直接声を掛けられる事は珍しいらしく、皇国側の成果に対する満足度と誠意が伺える。僕が異変を察知したのは、ルナの順番が来た時である。宮中魔法師団、団長のポレートから邪気が発せられたのである。邪気と表したのは、様々な負の感情が入り混じっているからだ。エイル、ロラン、レヴィに対しては何も発せられていない。これはもしかすると私怨かもしれない……。


 続いて僕の番だ。僕は引き続きポレートの動向に気を配った。


「ダイヤランク冒険者ハルト」


「はっ!」


「そなたは、今回のクエストには参加しておらなんだが、ザクションからの報告を聞き、是非会うてみたいと思うておった」


「光栄にございます」


「アバドンの討伐、デュランダルの発見、そしてデュランダルの勇者を見出したこと。その全ての功が規格外じゃ」

 探知が反応した。ポレートから明らかな敵意が僕に向けられている。ルナの時と違い、敵意のみだ。やはり私怨の線で間違いなさそうだ。


「余には其方の働きに相応しい褒賞が思い浮かばん。何か望みはないか?」


 色々ある。交易や王国との共同公共事業。枚挙にいとまがない。しかし、いずれもこの場で話す事ではない。


「お願いしたい儀はございますが、後日改めてでも宜しいでしょうか?」


「ふむ……」


「国益に繋がる相談に御座います」


「分かった、ハルトとは後日改めて場を設けよう」


「ありがとうございます」


「余からもひとつ頼みが有るのじゃ」


「何で御座いましょう?」


「これへ」皇帝が合図を送ると、マッチョの男達が台座に据えられ剣を持ってきた。この扱いは聖剣だ。


「頼みと言うのは、この聖剣エクスカリバーを其方に預かって欲しいのじゃ」


「聖剣を……何故に?」


「其方なら聖剣の主を導き出す事も可能なのじゃろ?」

 ロランの経緯も知っているのか。


「ホルダー城に据えられているより、其方の手に渡った方が勇者発見に役立つであろう」


「そう言う事なら是非もありません。お預かり致します」


 僕はエクスカリバーを手に取った。謁見の間からは大歓声が上がった。


「折角じゃ、聖剣を抜いてくれまいか?」


「承知いたしました」

 聖剣の柄に手を掛けた。デュランダルとは違った感覚が、伝わって来た。この感覚は聖剣と言うよりは……


 エクスカリバーを抜くと、ひとりでに僕の手から離れ激しい光に包まれ、 6振りの剣に分身した……その姿はまるで……フィンファ◯ネル……。


「なっ……聖剣が分裂……」

 謁見の間が騒つく。


『主様よ、その剣エクスカリバーではない……』

『え……』

『その剣は神剣フレイ、意思をもって、持主の敵を撃つ剣じゃ』

『早く命令しないと、あの人間が危ないぞ』


 神剣フレイは、僕に敵意を向けていたポレートに矛先を向けていた。フレイはポレートに向かおうとしていた。


「止めろフレイ!」僕が命令するとフレイはピタッと止まった。


『お前達ありがとう、教えてもらわなかったら大惨事だったよ』


『手間が省けたかもだけどな』


『確かにな』


「戻れフレイ!」僕がフレイを呼び戻すと、元の1振りの剣に戻りひとりでに鞘に収まった。


「ハルトよ、今のは一体?……」


「陛下、この剣はエクスカリバーではありません」


「何と!」

 謁見の間が更に騒めきたった。


「この剣は、神剣フレイです」


『『神剣フレイ!』」


「神々の勝利の剣、フレイか……」

 そんな事、僕は知らないが『さようで御座います』本人が教えてくれた。


「その通りです」


「聖剣ではなく神剣であったか……」


「はい」


「ハルトよ、其方はこの神剣を扱えるのか?」


 陛下の質問に呼応するようにフレイが眩いばかりの光を放った。


「恐らくは」


「そうか…………ならば神剣フレイはハルトに託そう、世界の為に役立ててくれ」


「宜しいのですか?」


「宜しいも何も我等では、手に取ることすらできぬ。宝の持ち腐れじゃ」


「分かりました、有難く頂戴いたします」


 謁見の間が大歓声に包まれた。しかし……


「陛下、なりません。陛下の英断に水を差すようで、申し訳ございませんが、どこの馬の骨とも分からぬ物に、聖皇国の……」

 ポレートの言葉をを遮るようにフレイが更に輝きを増した。そして……

「黙りなさい、魔王の間者よ、私は全て見ておりましたよ」

 フレイが実体化していた。


 その容姿はフレイヤと瓜二つだった。ただ髪型と装いは大きく違う。髪はアップでまとめられフルプレートアーマーを身に付けていた。


「な、なんだ貴様は!」


「私は剣神フレイ……勝利の女神です」

 勝利の女神!凄くテンションの上がるネーミングだ。フレイの登場で謁見の間はちょっとしたパニックになっている。


「私は見ていましたよ、お前がアバドンを手引きするのを」


「ポレート!それは真か!」


「め……滅相もございません……事実無根にございます」


「では、その胸にしまっている魔石は何ですか?」


「魔石じゃと?!」


「け……決して、そのような物はございません!……」


「ポレートよ確かめさせてもらうぞ」


 ポレートの様子がおかしい……

「みんなそいつから離れろ!」


 ポレートの魔力がどんどん膨れ上がっていく。そしてポレートは懐から魔石を取り出し、謁見の間にばら撒いた。


「クックック……もう……もうよいわ!」


 ポレートが撒いた魔石から、ミノタウロスとグレンデルが生み出されていた。ポレートが撒いたのは例の特殊な魔石だろう。


「ここで倒してやるぞ!勇者ルナァァァァァァ!!」

 やはりルナへの私怨だった。そんな事よりも驚かされたのはポレートの変化だ。容姿はすっかり魔物化している。因みにミノタウロスベースだ。そして魔力は人間の物とも魔族の物とも違う……だが恐ろしく強大だ。


「フレイ、皆んなを守りつつ、魔物を殲滅させろ」


「承知いたしました」


 ミノタウロスとグレンデルの処理はフレイに任せ、僕はルナと共にポレートと対峙した。


 他のみんなは陛下や貴族の護衛にあたってくれている。ナイスコンビネーション。


「ルナ……知り合いか?」


「知らないわ……こんなの、何なのこれ?」


「奴は……恐らく、魔石を体内に取り込んでいるな」


「何それ?!」


「僕にも分からない……魔人ってところか……魔力が魔族とは桁違いだ」


「ハルト……ここは、私に任せて」


「まあ、ご指名だしな……了解だ」

 僕は魔物の殲滅に参加しようと思ったが、ロランとフレイがあっという間に片付けていた。


 僕はルナとポレートの戦闘範囲に結界を張り、戦闘の巻き添えによる被害に備えた。


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