第37話 聖皇国ギルド本部
聖皇国ギルド本部の外観は巨大な教会のようで、内部はミニマリストが好みそうな、シンプルなデザインで統一されていた。潤沢に資金のあるIT企業のオフィスのようだ。
僕は受付でマイオピアギルドマスター、レビットさんから預かった書類一式を手渡した。
「プ、プラチナランク冒険者のハルト様ですね!ギルドマスターに確認をとります。少々お待ちください」
ギルド本部でもプラチナランクは珍しいのだろうか、少し注目を浴びてしまった。僕はだだっ広い待合の隅っこの席に腰を下ろした。今日だけでも色々有った。やっと人心地ついた気分だ。
別行動したものの、ギルドマスターが出張る案件ならルナ達の件もあるし、かなり待たされるのだろうと思っていた。それはそれで体を休めることが出来るので、全然問題ない。
しかし、慌てた様子で、さっきの受付の娘が近付いてきた。
「ハルト様、早速ギルドマスターがお会いになるそうです!ご案内いたしますので、こちらへどうぞ」
「ああ、ありがとう」
案外どころか全然待たされなかった。僕は2階にあるギルドマスター執務室まで案内された。
コンコン「お連れいたしました」「どうぞ」
「はじめまして、ハルトさんギルドマスターのザクションです」
驚いた……ギルド本部のギルドマスターは女性だった。ブロンドの髪を後ろで束ねたうなじがセクシーだ。見た目だけなら20後半ぐらいなのだが……年齢不詳だ。しかし、この世界の女性は美しい……今、僕の周りには芸能人ばりの美女が綺羅星のようにひしめいている。
「はじめまして、ハルトだ」
まだ口調が落ち着かない。
「すまないが、気持ちが昂っていて、さっきから言葉使いが荒い……決してアンタを軽く見ている訳じゃないから、気を悪くしないでほしい」
「分かりました。そもそも荒くれ者の多いギルドでそのような気遣いは不要ですよ」
「そうか、感謝する」
「早速本題に入らせて頂きます」
「よろしく頼む」
「レビットの推薦状によれば、ハルトさんは1人で魔族を討伐することが出来るとありますが、それは本当ですか?」
「ああ、本当だ。証言が欲しいなら、ここに来ているルナ達に聞くといい。証拠が欲しいなら、見せることも出来るが……結構グロいぞ……」
「ルナ……ハルトさんは、勇者ルナとお知り合いなのですか?」
「そんなところだ、証拠はいいのか?」
「えっ、ああ、証拠ですね、見せていただけるものなら、見たいですね」
「もう一度確認するが、グロいぞ?」
「構いません」
「分かった」僕は空間収納からアバドンの首を取り出した。
「こ……これは……もしかして……魔王アバドン……」
「正解だ、因みに、ついさっき退治したばっかりだ」
「………………」ザクションの意識が何処かに行ってしまっている。
「おーい戻ってこい」
「ハッ!……まっ……まっ……まっ……まっ……魔王!!!!!!」
「らしいな」
「ちょ……ちょっと待って下さい……ハルトさんお一人で倒されたのですか?」
「うーん、先にルナが戦っていたが…………まあ第2ラウンドって感じだったしな……まあ倒した時に戦ってたのは僕1人だ」
「お1人で魔王と…………」
「そうだな、ベリアルと戦ったこともあるぞ」
「3大魔王と!……結果は?」
「痛み分けって所だな」
「あの……ハルトさんは、もしかして勇者ですか?」
「多分違う」
「多分?」
「実はな、大迷宮の最下層で聖剣デュランダルを見つけたんだ」
「え」
ザクションの意識がまた何処かに行ってしまった。
「おーい戻ってこい」
「ハッ!……でゅ……でゅ……でゅ……でゅ……デュランダル!!!!!!」
「見るか?」
「はい!是非!」空間収納からデュランダルを取り出し、テーブルに置いた。
「持ってみてくれ」
「はっ!はい!」
ザクションがデュランダルを持ち上げようとするが、ピクリとも動かない。
「む……無理ですね……」
「そうか……」
「てことは、やはりハルトさんは勇者なのでは?!」
「うーん……それだと困るんだよな……」
「え……それは何故?」
「使い道がないからだよ」
「聖剣ですよ?」「聖剣だな」「聖剣ですよ?」「聖剣だな」「聖剣ですよ?」
「おい……」
「あっああ……すみません、ついムキになってしまって」
「僕にはレーヴァテインとクレイヴソリッシュがあるんだよ」
「へ」
ザクションの意識がまた何処かに行ってしまった。
「おーい戻ってこい」
「ハッ!……それって、神剣ですよね……」
「見るか?」
「はい!是非!」
コンコン「マスター準備が整いました」
「あっ……直ぐに向かいます」
「ルナ達の報告会か?」
「そうですね……一緒に来られますか?」
「んー……そうだな無関係って訳でもないしな」
「では、参りましょう」
ザクションに連れられ1階の大ホールに移動した。ギルドマスターから少し遅れて僕も大ホールに入った。『ハルト!』妙に注目を集めてしまった。僕はルナ達の所へ移動した。
「何やってんのよ?」
「いや、成り行きで……」
「お前は、一つ一つ突っ込ませ過ぎだぜ」
「申し訳ない……」
「まあ、いいよね」
「いいよね!」
「いいから静かにしろ、ただでさえ注目を集めていると言うのに……」
「悪い…………ん……」ロランに反応してデュランダルが光った。
「なあ、ロラン」
「なんだ」
「あのな、デュランダルがロランを呼んでるみたいなんだ」
「はぁー!?」
ロランはわりと大きな声を上げ、注目を集めてしまった。
「あ、申し訳ない……」
「ハルト……君は何を言ってるんだ?」
ロランは小声で言ったが割と大きい。ロランは気遣いは出来でもその辺の器用さは持ち合わせていないのだ。
「とりあえず持ってみたら、はっきりするぞ」僕も合わせて小声で言ってみた。
そして、ロランにデュランダルを手渡した。「え」思った通りロランは普通にデュランダルを持つことが出来た。
「ええええええええええええええええ!」
「さっきから何な…………え……」
「2人目の勇者誕生だな!」
報告会が始まる前に、歴史的な瞬間を演出してしまった。
「おーロラン勇者だったんだ!」「マジかロランすげーな」
この後しばらく騒ぎになって、ロランコールまで巻き起こってしまった。勇者を見出したのは誉れある行為だが、報告会の進行を大幅に遅らせてしまったのは反省すべき点だ。
この報告会で何故あんな乱戦になったのかも分かった。大空洞で休息中、同行していた司教が魔族に連れ去られてしまった。ルナは司教を救出するべく、魔族を追った。そのタイミングで魔族とミノタウロスの軍団が襲撃をかけてきた。ルナは魔族を追うことよりも仲間とミノタウロス軍団を倒すことを選択した。
だが、ルナの退路に壁が出現し、合流は阻まれた。仕方なくルナは別の道を探っている時に魔族に殺されそうになっている司教を発見する。そしてルナは魔族を倒したが、司教に化けていたアバドンに討たれてしまった。
これが真相だ。やっぱり真面に戦って敗北した訳ではなかった。
本当の真相はサマエル抜きにしては語れないが、今のこの場で言うべきかは、判断しかねている。
ギルドとしては今回の結果に満足しているようだ。魔王を討ち取り、聖剣を発見し、おまけに勇者まで見つかったのだ。人類レベルで見ると喜ばしい事ばかりだ。しかし、クエストに参加したメンバーは犠牲者の事をそう割り切れるものではない。
本件は、ギルドから依頼主である皇国側に報告され、ギルドの褒賞とは別に皇国側から褒賞が送られるとのことだ。クエストは完了だが、調査団は、もうしばらく聖皇国に滞在する必要があるそうだ。
調査団にはギルドから超高級な宿舎が用意されるそうだ。僕はまだザクションさんと話しが有るのでギルドに居残りだ。
「で、どこまで話したっけ?」
「レーヴァテインとクレイヴソリッシュです!」
「そうだったな」
僕はレーヴァテインとクレイヴソリッシュを抜いた。
「はぁーっ!!!……これが神剣……」
「刀身に触れたら大怪我するぞ」
「ハルトさんは、何か異次元ですね……」
「それより、ダイヤランクの事なんだが」
「直ぐに手配しますよ」
「あれ?クエストは?」
「魔王の首に、聖剣に勇者……これ以上の手柄ってなかなか思い付きませんよ……」
「なるほど……」
「ダイヤランクはハルトを含めると7人です。そのうちの4人はハルトさんのお仲間の、勇者ルナ、勇者ロラン、賢者レヴィ、ドルイドエイルです」
「皆んなダイヤだったんだ……つかレヴィとエイルは聞いていた肩書と違うな……」
「彼女達も謙虚ですからね」
「後の2人は?」
「帝国と共和国で活動しています」
「そうか……」
「ハルトさんはギルドからの褒賞は出ませんが、皇国からは、何かしらの褒賞が授与されますよ」
「……面倒くさそうだな……」
「何を仰ってるんですか!大変名誉な事ですよ!」
「分かったよ……」
「皆さんと同じ宿舎を用意しておりますので、案内させますね」
「よろしく頼むよ」
今朝、王国で恩賞を賜ったばかりで、この展開は流石に想定外だった。でも、ルナ達を助けられて本当に良かった。ボッチだった僕にも今は大切な人達がいる。その大切な人たちに色々報告する事があって少し気が重い僕だった。
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