第36話 聖剣デュランダルと邪神
クレイヴソリッシュから、この迷宮の攻略は奥の部屋の階段を下りだけで終わると聞いた。最深部には聖剣デュランダルがあるとのことだ。皆んな撤退ムードだが、流石に黙っているわけにはいかないので、この事実を告げる事にした。
「なあ、この迷宮な、奥の部屋から一層だけ下りたら終わりなんだそうだけど、どうする?」
「え?なんでアンタがそんなこと知ってるの?」
「クレイヴソリッシュが教えてくれた、聖剣デュランダルがあるそうだ」
『『『デュランダル』』』
これには聞き耳を立てていた他の冒険者も食いついて来た。
「みんなでゾロゾロ行くのもあれだし、誰か取りに行くか?」
「私は、ハルトに任せるのがいいと思う、何かあっても1人で対処できるし、戦力を分散したくない」
ロランらしい意見だ。
「僕は構わないけど……」
特に異論がなかったようなので僕が行くことになった。
「じゃぁ、行ってくるよ。問題が起こったら念話してくれ」
「分かったわ」
隣の部屋に行くと魔王の首が転がっていた。もう魔力は感じないし、危険はない。何かの役にたつかも知れないので、封印して空間収納に入れておいた。
最下層は、上の層とは随分雰囲気が違い、きっちりと内装が施され、玉座の間の様になっていた。聖剣デュランダルは、玉座の間の玉座に当たる所に奉納されていた。
デュランダルは片手で扱える大きさだ。藍色地の鞘に金の装飾が映え、所持欲を駆り立てる。柄の部分は金をベースに黒があしらわれ重厚な雰囲気を醸し出している。
デュランダルが手に取って抜いてみろと言っている気がした。念の為、探知で探ってみたが何も引っかからなかったので、感じるままにデュランダルを抜いてみた。
驚かされたのはその刀身の美しさだ、刃先は透明なのではと錯覚してしまう程、洗練されている。
見惚れてばかりはいれないので、デュランダルを鞘に収め、皆んなのいる大空洞に戻った。
「ただいま!何か罠でも有るのかと思ったけど、何もなかったよ、肩透かしだな」
しばらく沈黙が続いた。
「ん、どうしの?」
『『ええええええええええええええええええ』』
かと思ったら皆んな一斉に驚きだした。まるで示し合わせていたかのようだ。
「ねえ、ハルト……聖剣に選ばれたの?」
「あっ」失念していた聖剣は勇者以外が持つと撃重になるのだった。みんな僕が普通に聖剣を携えていたから驚いたのだ。確かに抜いてみろと言われた気はしたが……。
「どうなんだろう……とりあえず、この場は僕が預かっておこうか?」
「そうね、お願いするわ」
「ところで、このまま、また来た道を引き返すのか?」
「まさか、帰還アイテムを使うわよ」
「だよな……」
ここまで辿り着くのに3日掛かったと言っていた。この疲弊しきった状況で流石にそれはキツすぎる。
「ん…………殿は僕がする。皆んなは先に戻っててくれ」
「いいのか?」
「ああ、万が一に備えてな」
冒険者は次々と帰還アイテムで戻って行った。最後に残ったのはルナだった。
「ねえ、ハルト……私あの時……」
「あ、愛の告白の件か!?」
「ち、ち、ち、違うわよ!!!!……そ、……その件は忘れなさい……」
「えーーーじゃぁ何なんだよ」
「……もう、いい!」ルナはへそを曲げて帰還アイテムで帰って行った。
____この空間に僕以外の誰かがいる。探知に掛からない程度のエナジーだが、存在感が大き過ぎる。
「さてと……出てきたらどうだ……いるんだろ」
「まさかな……気付いていたとは……」
「いや、アンタ凄い存在感だからさぁ……皆んなは気付いてなかったみたいだけど」
「そうか、そんな事も感じ取れるのか……」
「アンタ、誰?」
「私は、サマエル、邪神だよ……」
「どおりでぶっ飛んだ、存在感のはずだ、その邪神がなんの用だ?」
「ボウラークにアバドン……彼らがこんなにあっさりやられるとは、流石にビックリしたよ……」
「あーっ、やっぱ一連の件は繋がっていたのか……んで、アンタが黒幕か?」
「フフフ、まあ、そんなところだ」
「なあ、アンタ何がやりたいの?」
「特に目的はないんだが……つまらないだろ?今の世界は」
「いや、僕的には楽しいけどな」
「それは、君が特別な存在だからだよ……君のエゴだ」
「よく分かんねーな」
「いずれ君にも分かる時が来るよ……」
「それは嫌だなぁ……」
「とりあえず、掛かってきたまえ、君を見極めてやろう」
「なあ、今日は色々あって疲れてるから別の日にしてくれよ」
「…………いや、せっかく盛り上がってきたんだし……少しぐらい相手してくれてもいいだろ?」
「んー、仕方ねえな……分かったよ……ここでアンタを倒せば全て終わるのか?」
「それはないな、何故私のような存在が生み出されたのか、よく考えてみるといいよ」
「僕も難しい話しばっかりって、よく言われたけど、アンタの比じゃないな、アンタと比べれば僕はお子ちゃまだな」
「減らず口はいい勝負だよ」
「確かにな」
僕は拳銃を取り出し、サマエルに連射した。
「変わった武器だ」全て片手で止められた。
「この世界って銃ないのか?」
「この世界だと?」
「変なところ突っ込むなよ、冒険者カードにはちゃんとガンナー適正出てたぜ」
次はウォーターバレットを10000発程打ち込んだ。
「なっ!」サマエルは驚いた様子でバリアーを展開し、これを防ぎきった。
「い……今のは驚いた……ウンディーネの力か……」
「そう言う事だ!」
僕は2振りの神剣で斬り込んだ。サマエルは盾で防御した。
「な……何だよそれ!?」
サマエルは両腕に盾を装備していた。
「私は、攻撃があまり得意では無いのでな」
「いや、でもそれじゃあ」
「しかし、私はこんな事が出来る」
「な!」サマエルの背後に無数の光の剣が、顕現していた。
「行け!」サマエルの号令で一斉に僕に襲い掛かる。
「ファ……ファン○ルかよ!」
最初のうちは双剣で打ち砕いていたが、余りの数の多さに堪らずサマエルの背後に瞬間移動した。
「待ってたよ」
サマエルは特大の魔力球を用意して待ち構えていた。
やられる、と思った瞬間『ウォータープリズン』ウンディーネが僕にウォータープリズンを掛け、事なきをえた。
すかさず双剣で攻撃を仕掛けるも、両盾に防がれる。
「くそ!レーヴァテイン、クレイヴソリッシュ!あの盾を砕いてみろ!」
レーヴァテインとクレイヴソリッシュの輝きが更に増し、僕も自身も青白い光に包まれた。
「ぐおぉぉぉぉっ!」
渾身の力を込め盾を斬りつけた。そしてようやく、サマエルの盾を砕く事に成功した。
「はぁ、はぁ」だが僕も相当の体力を消耗した。
「……凄い!凄いよハルト!この盾はね、空間収納と同じ原理で出来ていて絶対に破壊出来ないはずだったんだ!」
「そうなのか……」
「でも、砕けてしまった……ハルト……私は震えが止まらないよ!」
「どう言う意味だよ……」
「もちろん嬉しくてさ!」
「そりゃどうも……」
「私は決めたよ!」
「何をだよ……」
「私は、君の成長を待つ事にするよ……早く次のステージに来たまえ」
「次のステージだと……」
「それについては、君の眷属達に聞くといいよ」
「眷属?」
「では、私はそろそろ行くよ。とても有意義な時間だった」
「おい、行くのは良いけど、もう悪さするなよ!」
「フッ、善処しよう」
サマエルは闇に消えた。
「な、何なんだよあいつは……」
僕は尻餅をついて倒れた。しかし、あまり待たせると皆んなが心配するので、ルナの元へ瞬間移動した。
「こ……ここは……」
「聖都、ホルダーよ」
みんな待っていてくれた。
「あ……聖皇国だったな……」
「随分遅かったわね」
「魔力切れだったんだよ、少し回復したから戻ってきたんだよ」
「ふーん……まあいいわ、ギルド本部に向かうわよ」
「あっ……ああ……」
魔王を倒し、聖剣も手に入れた。戦果的には申し分ないが、犠牲が大き過ぎる。プラチナランクの冒険者が、72名も命を落としたのだから。
しかし、やるべき事が一気に増えた。先ずは剣神達と話すべきだろうか、それとも停学になった事を報告するべきだろうか、ここ数日時間に追われまくりだ。
聖皇国のギルド本部は、教会と間違えてしまう程立派な建物だった。
「はぁー」思わず上を見上げてため息が出た。
「ちょっとやめてよ田舎者みたいじゃない」
「いや、だって、すげー立派じゃん」
「いいじゃない、それぐらい」
「だよな!」
「ルナは少し機嫌が悪いみたいだぞ」
「また、ハルト何かやらかしたんだろ」
「やってねーって!」
「て言うか、入るわよ」
「「「「はい」」」」
「僕も一緒でいいのか?僕は今回のクエストは部外者だけど」
「この際、どちらでも良いと思うぞ」
「じゃぁ、僕もここに用事あるから、用事が終わったら待合いで待ってるよ」
「何の用事?」
「そうだ、見てくれよ」プラチナランクカードを見せた。
『『プラチナ!』』
「いつの間に……」
「何か成り行きでな……話す事いっぱい有るから、落ち着いたら皆んなの時間が欲しい」
「分かったわ」「はーい」「承知した」「オッケー」
取り敢えずの目的地である、聖皇国のギルド本部に無事到着出来た。想定外の事ばかりだったけど、結果オーライだ……。
ただし、個人的にはだ。犠牲者があまりにも多過ぎて素直には喜べない。ただただ犠牲者のご冥福を祈るばかりだ。
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