第32話 王都で決闘

 ことの外上手く、ブロエディ卿と魔族を退ける事が出来た。フレイヤ様が僕とディアナを引き合わせてくれた影響は大きい。


「ウンディーネ、もう大丈夫です」


「了解よ」


 安全が確認出来たので、皆んなの守りを解いた。


「もう……終わったのか……」


「はい、ブロエディ卿は拘束しておりますので、逮捕お願いします」


 メディア王は伏せていた近衛兵に指示し、ブロエディ卿を逮捕した。


「見事な手並みだったね……ハルトは魔術師だとばかり思っていたんだけど……剣士だったんだね」


「違いますよ、バイルスお兄様、ハルトは剣聖ですよ。神剣を2振りもお持ちですもの」


『『レーヴァテイン!クレイヴソリッシュ!』』


「ハルトくん……その剣は?……」


「仰る通り、レーヴァテインとクレイヴソリッシュですよ」


「て言うか、そちらの彼女は?……」


「私は水のウンディーネ、ハルトと契約している四大精霊よ」


『『!!!』』

 ディアナ以外の全員が声にならない声をあげて驚いている。この事もディアナは知っていたようだ。


「ウンディーネ様……あなたは数多あまたの勇者の誘いを断ったと、聞き及んでおります……そのあなたが彼をと契約を交わしたと言うことは……」


「そうよ、ハルトは私と契約するに相応しい力を持っているのよ。まあ、神剣を2振りも携えている時点で分かるでしょ」


「何と言うか、何処から驚いたらいいのか、分からないね……やっぱりハルトはオモチャ箱だね」


「あの……僕はこのまま、マークアップ卿と合流しようと思います」


「君の働きはもう充分だ。後は我々に任せたまえ」


「でも、それは政治的に美しくありません」

 王都の軍とステル王子の軍が衝突すると、ステル王子は完全に謀反人になる。派閥の頭を失ったとは言え、結果如何では、国が真っ二つに割れてしまうかも知れない。


 しかし、僕なら止められる。マイオピアから来た僕だけが、ステル王子を謀反人にせず、争いを治める事ができる。


「しかし……」


「僕はマイオピアから来ました。マイオピアは魔族の襲撃を受けましたが、撃滅に成功しています。僕はこの事実をステル王子に知らせる必要があります」


「なるほど!その手があったか!」


「はい」


「それにしても……君の口からは衝撃の事実ばかり告げられるな……」


「だから言ったではありませんか、運命の人だと」

 そう言う意味なら、そう言う意味と最初に言って欲しかった。


「そう言えば、ハルト……ドリーとも仲がよろしいのですのね」


「あーあの娘ね……アレは完全にハルトに惚れてるわよ」

 おいおいウンディーネさん。余計な火種を……


「ふーん、流石フラグメーカーですね……」

 誰が言ったんだろう……ってフレイヤ様か……


「と、とにかく、マークアップ卿と合流しますね!」


「あ、逃げる気よ」


「ぜ、ぜ、全然そんな気は無いですよ!」


「ふーん」


「ウンディーネ!念のために皆んなの守りをお願いします!」


「分かったわ、ガールズトークに花を咲かせておけばいいのね」


「えっ……」


「剣聖殿の弱点だな」


「ッッッッッッッッ!」


「とっ……とにかく行ってきます!」


 僕は逃げるようにして、ドリーの元へ瞬間移動した。


「ドリーどうなっていますか?」


「ひゃっ!」


「あっ……ごめんなさい、脅かしてしまって」


「ハル!……王宮は?」


「大丈夫です、魔族は討ち取って、ブロエディ卿は逮捕されました」


「さっ……さすがね……」


「こちらは?」


「今、お父様とステル王子が押し問答してるところよ」


「では、早速仲裁してきます」


「大丈夫?疲れてない?」


「大丈夫ですよ、ここを間違えると、王国が割れてしまいますからね」


 僕は、2人の元へ急いだ。


「マークアップ卿」


「ハルトくん!」


「王宮は大丈夫です。ご安心ください」


「そうか……」


「何だテメェ?何イキナリしゃしゃり出てきてんだよ」


「これは失礼いたしました。ステル王子にもご報告があります」


「何だ、言ってみろ」


「はい、マイオピアに攻め込んだ魔族軍は全滅、今しがた王宮に乱入した魔族も全て討ち果たしてございます」


「な……なんだと……」


「ステル王子には、折角援軍を送って頂いたのですが、申し上げた通り、決着いたしましたので、軍をお引き下さい」


「ちょ、ちょっと待て……そんな話し、信じられる訳ないだろ……」


「ごもっともです。ですがこれが事実なんです」


「誰だ……」


「はい?」


「誰が魔族をやったんだ、勇者ルナか?」


「いえ、違います」


「じゃあ、誰が!」


「僕ですよ」


「はあ?テメェふざけてた事ぬかしてんじゃねーぞ?」


「ふざけるも何も、事実ですよ」


「魔族だぞ?テメェが魔族をやったって言うのか?」


「信じられないようですね、もしよろしければ、模擬戦で証明しましょうか?」


「フッ、イイぜ、テメェの度胸だけは認めてやるよ」

 よし、かかった。


「ハルトくん!」


「大丈夫です、マークアップ卿、ちゃんと手加減しますので」


「テメェ!!」


「僕に弱い者いじめの趣味はありませんよ?安心して下さい」


「その大口、すぐに後悔させてやる!」


「期待してますよ」


「ハル……煽り過ぎだよ……」

 いつの間にかドリーが来ていた。


「これも作戦です。煽った方が剣技が鈍るので……」


「なんかセコい……」


「作戦ですよ!作戦!、僕も修行はしましたが王子相手に剣技で勝てる保証は無いですからね」


「マークアップ卿、立ち合い人お願いしてもよろしいですか?」


「あっ、ああ引き受けた」


 マークアップ卿率いる国防軍と、ステル王子率いる精鋭部隊の見守る中、僕とステル王子の模擬戦が始まろうとしていた。


「双方準備は良いか?」


「ああ、いいぜ」


「問題ないです」


「はじめ!」


「テメェ……抜かねえのかよ」


「ええ、手加減すると言いましたよね?」


「とことんナメてやがるな!」


 僕とステル王子の模擬戦が開始された。ステル王子は両手剣、いかにも正統派の剣士スタイルだ。僕は敢えてレーヴァテインとクレイヴソリッシュをつかわず、手に魔力をまとい、素手でステル王子の相手をすることにした。これも勿論作戦だ。


 ステル王子がディアナとバイルスに教えてもらった性格通りだとしたら、この戦法が1番効果的だからだ。敗北を知らない圧倒的な力を誇る、ステル王子。単身で魔族に勝利したこともある程の力の持ち主。


 その絶対的な強者を、圧倒的な力でねじ伏せる。これがこの模擬戦の目的だ。


 ステル王子の剣技も中々のものだが、ルナの言うところのシャープさが足りない、潜在能力の高さに頼っているところが見え隠れする。


「くそっ!、何故だ、何故あたらねぇ」

 僕はステル王子の斬撃を全てかわしている。


「そりゃ、それだけ見え見えの攻撃だと、当たりたくても当たりませんよ」

 さらに煽ることにより、ステル王子の切っ先を乱れさせる。


「くそっ!くそっ!くそっ!」


「当ててみますか?」


「な……なんだと……」


「次の一撃は避けずに受け止めてあげますよ。もっとマシな攻撃をしてくださいね」


「なめるな!!!!」


 ステル王子が渾身の力を込めて上段斬りで仕掛けて来た。僕はそれを素手で片手で、さらに言うなら人差し指と中指に挟んで受け止めた。勿論手に魔力を纏ってなければこんな芸当は不可能だ。


「な……何?!……」


「あれ?こんなもんですか?もっと真剣にやってくださいよ」

 僕はステル王子の腹に中段蹴りを食らわせた。ステル王子は豪快に地面とキスをした。


「攻撃だけでなく防御もまともに出来ないのですか?なんか手加減してるのに僕がいじめてるみたいじゃないですか……」


「くそぉぉ!」

 まだ折れていない。流石、武勇の誉れ高き人物だ。


 1発もらって冷静になったのか、ステル王子の攻撃はだんだんと鋭くなって来た。


「ようやく、まともに攻撃ができるようになりましたね」


「ぬかせ!」


「でも、まだまだ、あまいです」

 僕は真剣白刃取りでステル王子の両手剣を奪い取り、魔力を込め、粉々に破壊した。


「王子ともあろう者が、なまくらを使ってますね……剣はちゃんと選んでくださいね」

 殴りかかって来たステル王子にカウンターを入れた。


 ステル王子は尻餅をついて後ずさる。


「ば……化け物め……」


「自分の弱さを棚に上げて失礼なことを言わないで下さいよ、僕が化け物なら、僕より強い、ルナやロランはどうなるのですか」


「くっ……」


 ここでレーヴァテインとクレイヴソリッシュを抜いた。


「そ……その剣は……」

 

 僕はレーヴァテインを首元に突きつけた。

「ステル王子、これが魔族を倒せる戦士の戦いなのですよ?力の差、分かってもらえましたか?」


「わ……分かった」


「軍を引いてもらえますか?それとも血の雨を降らせますか?」


「分かった……軍を引く……」


「ありがとうございます。これで骨肉の争いは回避出来ましたね」


「な……なに……」


「僕はディアナとバイルスと友達になりました。2人を悲しませたくないですからね」

 僕はマークアップ卿とドリーの元へ戻った。


「ハル……あんたエゲツないわね……」


「え」


「私も君の実力があれ程とは思っていなかった……魔族を倒せるわけだな……」


「師匠!!!!!」


「「「え」」」


「師匠!決めました!」


「ステル王子……如何されましたか……」


「俺、決めました!師匠に一生ついていきます!弟子にしてください!!!」


「「「ええええええええええええ」」」


 想定外の出来事も起こったが、取り敢えず丸く収まるならこれでよしとしよう。取り敢えずステル王子には軍を治めてもらい、ステル王子、マークアップ卿、ドリーと共に王宮に参内することにした。

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