第31話 王宮の乱
何やかんや夜までディアナ姫、バイルス王子と談笑していた僕は、約束通りメディア王に招かれ、ディナーを楽しんでいる。このケースを想定した訳ではないが、前世でテーブルマナーを身に付けていて本当に良かった。政治家の先生方と会食する機会も、多々あったので、政治関係の小難しい話しへの対処も完璧だ。と言うかむしろ好きな方だ。
「ハルトこんなに楽しいお食事は久しぶりです。家族の顔を見ながら食べる食事は格別ですね」
「僕も、ディアナ姫のお役に立てて光栄です」
公的な場ではないが、家臣たちもいるので流石に呼び捨ては遠慮した。
「ところでハルトくんは、マークアップ卿に仕官しているのかね?」
「お父様、ハルトは魔王学園の学生ですよ」
「なんと……学生だったのか……と言うことはディアナの治療は魔法で行ったのかな?」
「父上、ハルトは固有スキルでディアナの目を治療したそうですよ」
「治癒の固有スキルか……珍しいな……しかし、お前達、この短い時間で随分ハルトくんと親しくなったものだな」
「はい、ハルトは私の運命の人ですから」
すごく誤解を招く発言だ。
「何ぃぃぃぃぃぃ!」
メディア王と同じく僕も驚いています。
「あなた、良いではありませんか、ディアナも年頃なのですから」
王妃はディアナとよく似ている。と言うよりディアナが王妃とよく似ているのだ。でも、本当に良いのでしょうか、夢の中はともかく、2人は今日出会ったばかりですよ。
「ま、まあ、そうなのだが……」
メディア王も納得早すぎます。
「中々やるねハルト、もうそこまで進んでいたんだね」
君、今日はずっと一緒に居たはずだよね。
「え」「はい」
「…………」
気まずい空気が流れた。
「ハルトは私の事がお嫌いですか?」
「と、と、と、とんでもないです!」
「では好きですか?」なぜ二択になるのだろう。
そりゃぁディアナは可愛いし、好きか嫌いかと問われれば「好きです」と答える他ない。
「私もです」
「こらこら、2人共、父上の御前だぞ、少しは遠慮しろよ」
何故、半笑い。つか、若干煽ったよね。
「「あ、すみません」」
「か……構わぬ……ディアナに笑顔が戻ったのだからな」
心中お察しします。
「そうですね、ディアナの笑顔を取り戻してくれたハルトさんは、充分に資格がありますね」
僕の意思を無視して話があらぬ方向へ進んでいる。
「ところで、ハルトくん。何故、君がマークアップ卿の書状を携えて来たのかね?」
やっと本題に戻ったところで、改めて探知で周囲を調べた。王城にアンドランスと魔族が迫っているが、この部屋に間者の気配はない。そろそろ話してもいい頃合いだ。
「マークアップ卿のご息女、ドリーと共に何者かの陰謀に巻き込まれた事が、切っ掛けになります」
「穏やかならない話しっぽいね……」
「はい……その関係で、マークアップ卿も陰謀に巻き込まれてしましたので、事情に明るい僕が、名代としてマークアップ卿の書状を持って参上した次第です」
「そうか、だから今日は閣下の姿を見掛けなかったのか……」
「陛下はもう、察して頂けていますよね?」
念の為の確認だ。
「そうだな、信じたくは無い事実だがな……」
「父上それは……もしかして」
バイルス王子も何となく察しているようだ。
その時は刻一刻と近づいていた。アンドランスの反応が王宮内に迫っている。ここまでに争った形跡はない。恐らくブロエディ卿も一緒だ。
「皆さん、賊がこちらに向かっています。僕に対策があるので、皆さんは慌てず、そのままでいて下さい」
「ついに来たか……」
「父上はご存知なのですか?」
「お前ももう察しはついているのだろう?」
「は……はい」
「ハルトくん君は客人だ、この部屋には近衛を伏せておる。ここは我々に任せたまえ」
近衛が伏せているのは把握していた。しかしブロエディ卿が引き連れて居るのは魔族のみ。ここは僕が適任だ。
「ダメです、例え陛下のご命令でも、それは聞き入れられません。魔族が4人程います。ここは僕に任せてください……」
「……なに……魔族だって……」
「……何故、魔族が王都に……」
「その答えが向こうからやって来ますよ……」
程なくして、僕達のいる大広間に、プロエディ卿とアンドランスと3人の魔族が現れた。
「これは、これは、皆さんお揃いですぞ」
「ハルト、賊って……まさか……ブロエディ卿?」
「はい……」
「くっ、ブロエディ卿、陛下の御前だ、無礼であるぞ!」
バイルス王子が怒りをあらわにしている。
「最後の晩餐ですかな?旧王族の皆さん」
「ブロエディ卿……ついに反旗を翻したか……」
「おやおや前陛下、違いますぞ、我等は新しい陛下に楯突く逆賊を打ち滅ぼしにきたのですぞ」
「ステルか……愚かな……」
「どちらが愚かなのでしょうな……貴方達は軟弱過ぎるのですよ」
「言葉は通じぬか……」
「ふん……言葉が通じないのはどっちでしょうね……そうだ、ご紹介がまだでしたね……改めてご紹介しますぞ、我が新陛下の盟友、悪魔侯爵アンドランス閣下と、その御家来衆ですぞ」
「……まさか、本当に魔族とはな……」
「おやおや、魔族の方々の存在をご存知でしたか……もしかしてマークアップ卿の裏切りですかね……貴方達の始末が済んだらドリーも処刑しましょうかね」
「あは、それは出来ませんよ」
「おや、見かけない顔ですね?貴方は誰ですか?」
「貴方の敵ですよ」
「ほう」
「ドリーは、既に助け出してますよ。そして、陛下達にも手出しはさせませんよ」
「はぁ?生意気な若僧ですね……状況を理解していますか?」
「ええ、正確に理解していますよ。たった4人の魔族を頼りに、無謀にも王位簒奪を企んだ愚か者が、イキがっているだけですよね?」
「言いますね……調子に乗った事を後悔させてあげますぞ」
「御託はいいので、掛かって来たらどうですか?」
「どこまでも生意気な……アンドランス閣下、お願いしましたぞ」
「何だ、偉そうに言ってても結局、自分ではなにも出来ないのですね」
煽った甲斐が有り、ブロエディ卿は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「お願いされたよねぇ」
僕はウォータープリズン改を陛下達に掛けた。ウォータープリズン改はウォータープリズンの内側を風魔法でコーティングした鉄壁のバリヤーだ。
「皆さんは、絶対その中から出ないで下さい!」
「ほっほう、君は変わった魔法をつかうよね」
「僕のオリジナルですよ」
「ふーん、まぁ……ちょっと予定が変わったけど問題無いよね……」
「大きく予定は変わりますよ」
「君は大口を叩くよねえ……まぁ、たった4人の魔族と侮った事を、後悔するといいよねえ」
「ウンディーネ、ウォータープリズンの維持をお願いします!」
「分かったわ、安心して戦いなさい」
前回、戦闘中にウォータープリズンが維持できなかったので、ウンディーネにサポートをお願いした。
「レーヴァテイン、クレヴソリッシュ!今日はいつもより強めでお願いします」
「任せろ」「任されたのじゃ」
この戦いは僕から仕掛けた、身構えたアンドランスをスルーして、その後ろに居た3人の魔族に斬りかかった。
「くそっ人間め!不意打ちか!」
「馬鹿なことを言っちゃダメです。仕掛けて来たのは貴方達ですよ」
1人、そしてまた1人、僕は、瞬く間に3人の魔族を斬り伏せた。
「くっ……」
「アンドランス、貴方のお仲間は雑魚いですね」
取り敢えず煽る。心の動きは隙に繋がるからだ。
「だ、だ、だ、だ、だ、大丈夫なんでしょうね!閣下!」
ブロエディ卿はかなり狼狽している。
「あははは……レーヴァテインに、クレヴソリッシュ……それに四大精霊ウンディーネ……君は人間じゃないよねえ」
「いえ、人間ですよ」
「まさかなのねえ……こんな所に化け物がいるとはねえ……まさかなのね……」
アンドランスは剣を抜き、正面から斬り込んで来た。僕はそれを受け止めた。
「アンドランス、何故魔族が、人間の後継者問題に介入しているのですか?」
「ふん、僕達が望むのは混乱なのよねえ……馬鹿に加担した方が、世界は乱れるよねえ」
「なるほど……」実に的を得た答えだった。
「君は強いよね……恐らく僕じゃ勝てないよねえ……でも、でも、でも……今頃マイオピアを征圧したボウラーク様がきっと仇を討ってくれるよねえ」
アンドランスはボウラークの家臣だったようだ。やはりマイオピア襲撃と、この件は繋がっていたようだ。
「あ、……ボウラークならもう倒しちゃいましたよ。その家来達も全滅ですよ」
「へ・・・・・・」
「言い残すことはないですか?」
「ふふふ、やっぱり化け物であっていたのねえ……」
アンドランスは捨て身で斬りかかって来た。僕はアンドランスと数合打ち合い、レーヴァテインで、アンドランスの剣をへし折り、クレヴソリッシュでアンドランスを一刀両断した。
「ば、ば、ば、ば、……馬鹿な……相手は、ま、ま、ま、魔族だそ?!」
腰を抜かすブロエディ卿。
「まあ、その辺は、取り調べでじっくり話して下さい」
ブロエディ卿の手足を土魔法で拘束し、催眠魔法で眠らせた。
念のため探知で周囲を確認したが、特に敵意は感じられなかった。ブロエディ卿は兵を引き連れて来なかったようだ。戦後の旨味を考えたのか、魔族の力を過信したのか、事態は僕の動きやすい方に転がっている。
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