第30話 バイルスの夢

 国王がディアナ姫と僕を2人きりにさせたくない為か分からないが、バイルス王子も合流することとなった。対象となる人物の元へ瞬間移動ができる僕からすれば、保護対象と会えるのは非常に好都合だ。もしブロエディ卿が、予想外の行動をとっても守りきれる確率が高まった。


 コンコン、「ディアナいるかい?」バイルス王子が来たようだ。


「どうぞバイルス兄様」ディアナ姫が出迎えた。


「……ディアナ……お前……」国王はディアナ姫の件は内緒にしていたようだ。


「はい、バイルス兄様、見えます!」


「ほ……本当なのか……ディアナ……」


「はい」


「ディアナ!!」先程と同じく、王子が感動のあまり、ディアナ姫を抱きしめた。

 僕は空気になっていた。


 でも、このような光景は何度見てもいいもんだ。


「……しかし、何故?一体どうやって?、どんな名医でも、高名なヒーラーでも治せなかったのに……」


「そこに、いらっしゃるハルトさんです。ハルトさんが私を暗闇から救い出してくれました」


「うん?」王子は僕の方に目を向けたかと思うと、スタスタとこちらにやって来て、僕の両手をとった。


「凄いね!ハルトさん!!どうやってディアナを治したんだい?君は医師なのかい?それともヒーラーなのかい?」

 ブンブン手を振り上げられた。


「バイルス兄様!!」


「あ……すまない、つい、興奮してしまった……」


「いえ、大丈夫です」


「ハルトさん……本当にありがとう……ディアナに光が戻る日が来るなんて……信じられない……本当にありあとう」

 今度はボロボロ泣きだした。感情の起伏が激しい人なのだろうか。


「とんでもないです」


「ハルトさん、色々話しを聞かせて欲しい、一体どうやってディアナの目を治したんだい?魔法かい?それとも何か特別な薬でもつかったのかい?」


「どちらも違います」


「え、じゃぁどうやって?」


「僕の固有スキルです」


「「固有スキル!」」


「治癒の固有スキルか……聞いたことないね……」

「戦闘系の固有スキルならよく耳にしますのにね」

「そうですね」

 後で聞いて分かったのだが、ルナとロナが戦闘中に光る現象も固有スキルの身体強化らしい。因みに聖属性になり魔に対する耐性が強くなるとのことだ。


「ところで、ハルトさんは教会の人なのかい?」

 この世界のヒーラーは普段は教会で働いている方が多い。


「いえ、違います、僕は魔法学園の学生です。たまに冒険者もやっていますが、本業は学生です」


「えーっ……治癒の固有スキルなんて持っているから教会で働いているのかと思っていたよ………ハルトさんなら何処でも即戦力だと思うのだけど、何でまた学生を?」


「単純に知らない事が沢山あるのと、付与魔法を研究しているからです」


「付与魔法!!……そうかそうか、ハルトさんとはウマが合いそうだね」


「バイルス兄様も付与魔法の研究にご熱心なんですよ」


「おーそうなんですね!」


「まぁ僕の場合は、実技が苦手だからなんだけどね……そんな僕でも魔道具を使えば、それなりに役立つんだよ、魔力量だけは多いんでね」

 エイダと動機が同じだ。


「なるほど、僕の同級生にも同じようながいます」


「そうなんだね!魔法学園に入れるほどの実力者でも、同じような悩みを抱えている人が居るんだね」


「自分で作った魔道具で、ゴブリン数匹程度なら一撃で倒せるようになっていましたよ」


「何だそれ……凄すぎるね、僕もその娘と是非とも会ってみたいな!」


「伝えておきます、きっと喜びますよ」


「うんうん、よろしく頼むよ……ところで、ハルトさんは付与魔法でどんな魔道具を作りたいんだい?」


「僕が作りたいのは、移動手段、情報伝達手段、土木工事の効率化ができる魔道具ですね」


「また随分斜め上の答えが返ってきたね……理由も聞かせて欲しいな」


「究極的には、皆んなが安心して暮らせる世界を作るためでしょうか……」


「それは本当に究極的だね……それを付与魔法で実現すると言うのかい?」


「もちろん付与魔法だけでは無理です。国を挙げて施策として取り組んでいただく必要はあります。なので僕が作ろうと思っているのは、そのための下地です」


「ふむ、詳しく聞かせてもらってもいいかな?」


「はい、僕たちの生活は、魔族などの外敵、魔物、盗賊、天災、危険と常に隣り合わせです。一切の危険を排除することは出来なくても、起こってしまった災害に適切に対処出来れば、もっと色々変わってくると思うのです」


「うんうん」


「例えば、マイオピイアで災害が起こり、王都に支援を求めるとしても情報伝達手段が早馬しかありませんので、情報が伝わるまでに被害が拡大してしまう可能性が高いです。その早馬も盗賊に襲われでもしたら、支援を受けるまでに掛かる時間は相当なものになります」


「そうだね」


「だから、もっと速い移動手段や、書状や口伝に変わる情報伝達手段が必要だと考えています。例えば土木工事で街道を整備し、その街道の地下に魔力を伝達できる設備を作れば遠く離れた場所にも、メッセージを伝えることができるのでは?と考えています」


「それは凄いね……」


「土木工事には莫大な費用が掛かりますが、雇用が促進され民が潤います。民が潤うと税収が増えますので、長期的に見れば損のない出費です。街道が整備されれば、警備隊を巡回させ、治安向上に努めます。そうなると今まで以上の人が行き交うようになり、今まで以上に経済が動きます。そして更に人が集まり税収が増えます。安易な考えではありますが、そんなループを考えています」


「…………」


「どうされました?」


「……いい……」


「いいねハルトさん!僕も大賛成だよ!」


「陛下も僕も、そんな皆んなで安心して暮らせる世界を作りたいんだよ…………でも中々いい方法が思い浮かばなくてね……是非参考にさせて頂くよ!」


「ありがとうございます」


「て言うか、ハルトさん……君は一体幾つなんだい?」


「ハルトさんは17歳ですよ」僕のプロフィールも知っているのようだ。つか、夢の中で何処までの個人情報が伝わっているのか気になってきた。


「17歳……10も年下か……僕は27歳で政治に携わる人間なのに、そんな付与魔法の使い方……考えもしなかったよ……これは反省すべき事案だ……」

 ごめんなさい37歳で前世の知識の受け売りです。


「もう、何か具体的に取り組んでいるのかい?」


「今のところは2つ移動手段を考えていまして、一つは試作段階に進んでいますが、もう一つは設計段階ですね……」


「ハルトさんはオモチャ箱のようだね、君の話はワクワクするよ」


「あはは、嬉しい例えですね」


「僕も何か協力したい!僕に出来ることはないかい!」


「本当ですか!?なら是非!」


 僕はエアフライボードとは別に、自動車を設計していた。しかし、それを形にするには様々な加工技術が必要だ。とても僕1人で出来るものではない。バイルス王子の申し出は非常にありがたい。僕はバイルス王子に自動車の設計図を渡し、各部の素材や仕組み、形状などを入念に説明した。国家で取り組んでくれるのなら、いずれ自動車も日の目を浴びるやもしれない。


「ハルトくん、今日僕は二つの夢が叶ったよ、一つはもちろんディアナのことだ。そしてもう一つは、融和での世界平和の第一歩だ」


「お役にたてて幸いです」


 融和での世界平和は口で言うほど簡単ではない、多く問題と向き合っていく覚悟が必要だからだ。実力行使なら解決できる問題であってもそれではダメなのだ。文明を受け入れる人もいれば、受け入れない人もいる。便利だから正義というわけでもない、違いを尊重し落とし所を探していかなければならない。僕の知識が、その第一歩として役に立てるならこれ程嬉しいことはない。


「ディアナ姫すみません、僕らだけで盛り上がってしまって」


「いいのですよ、でも……ディアナ姫って呼び方は寂しい感じがしますね、夢の中のようにディアナとお呼び下さい」

 夢の中の僕はディアナ姫とどんな関係を築いているのか気になってきた。


「わかりました、ディアナ、僕のこともハルトって呼んでください」


「おーなんかいいね、僕のこともバイルスと呼んでくれよ、ハルト」


「わかりました、バイルス」


 流石に公的な場で呼び捨てする訳にはいかないが、僕たちは名前で呼び合う仲になった。王族と友達になることは想像していなかったが、これはこれで全然OKだ。こんな素晴らしい考えを持った、トップを弑逆させてはならない。僕の好きなこの世界をよくしていくために、バイルス王子の力は必ず必要だ。守る理由がより明確になった。

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