第29話 ディアナの夢

 王都ソリューションで偶然出会った。ルナにそっくりな美女は、何故か僕の名前を知っていた。しかも、彼女は目が不自由だ。僕の事を以前どこかで見かけたって事も無いだろう。それに僕がこんな美女の事を忘れる筈がない。


「な、何故、僕の名前を?」これは聞くしか無いだろう。


「やっぱりハルトさん……本当に……本当に実在されていたのですね……」


 おや?何か不思議な事を仰っている……もしかして不思議な人なのだろうか。


「僕の事を、知っていたのですか?」


「はい、お会いするのは今日が始めてですが……」

 また不思議な事を仰っている。不思議系の人で確定なのか。


「それは……どう言う意味ですか?」


「あ、ごめんなさい、きちんと話さなければ分からないですよね」


「はい、そうしていただけると、助かります」


 立ち話も、なんなので、バイラル城へ向かう道すがら、彼女の話を聞く事にした。


「実は……私がハルトさんの存在を知ったのは、夢の中なのです」


「え、夢……」これは決定的だ。


「今、変な子に捕まったと思いませんでした?」


「あ、いえ……その、若干……」


「酷いです……」


「ごめんなさい、全然思ってないです!」


「うふ、ハルトさんは、夢の中で見た通りの、やさしい人ですね」


「そうなんですか……」どう言う事だろう……全く分からない。


「ハルトさんは、黒髪で、背が高くてイケメンなんですよね」

 イケメンは置いといて、目が不自由なのに僕の外見を捉えている。本当にどう言うことだろう。


「イケメンかどうかは、分かりませんが、黒髪で、背は高い方だと思います」


「謙虚なところも、夢のままですね。私はハルトさん……タイプですよ」

 うん、ここは正直に、生きてて良かった。


「ありがとうございます!」


「ハルトさん、実は私、ハルトさんを騙していました」


「え」


「今日ここで出会ったのは偶然では、ありません」


「え、え……」


「私は、巫女なのです。神からのお告げで、貴方がここに現れると知り、貴方をお迎えに上がった次第なのです」


 衝撃の事実だが、僕はフレイヤ様と縁(ゆかり)がある。納得のいく話しだ。


「神は私に告げました。私を暗闇から救い出し、王都の闇を振り払うのはハルトさんだと……」


「ま、マジっすかです」


「マジです」


「因みに、お迎えって……王宮へですか?」


「はい、ハルトさんが困ってるだろうから、王宮へ送り届けて欲しいと」


「もしかして、フレイヤ様ですか?」


「はい、愛と豊穣の女神フレイヤ様からです」


「なるほど!助かります!」

 納得いった、色々落ち着いたらフレイヤ様に念話でお礼を言わないと。


「ハルトさんはフレイヤ様の導師なのですか?」


「違いますよ。フレイヤ様は何かとご縁がありますが、導師ではありません」


「ご縁?……ハルトさんはフレイヤ様とお会いしたことがあるのですか?」


「そうですね、助けてもらって、色々良くしていただきました」


「えぇぇぇ……フレイヤ様が現世に顕現されたのですか?……」


「はい、つい最近、精霊を介して顕現されました」

 以前、ルナとエイルとの話でフレイヤ様と前世の話は内緒にしようってなっていたが、フレイヤ様が顕現されたこともあり、フレイヤ様の件は解禁された。


「…………衝撃の事実ですね…………」僕もです。


「ディアナさん、その目はご病気で?」


「はい、5年前に患った病がきっかけで……」

 病なら全回復で治療できる。


「それは……」


「でも、丁度その頃からハルトさんの夢を見るようになりました」


「え……」僕が死ぬ前から僕の夢を……もしかして僕がこの世界に来る事は、確定事項だったのだろうか。


「本当にお会いできて嬉しいです」僕も嬉しいです。


「光栄です」

 暗闇から救い出すと言う事は、全回復で彼女の目を治療してあげて欲しいと言う事か……


「ディアナさん。目を見せてもらってもいいですか?」


「あの……王宮に着いてからでも、いいですか……ちょっとこのような往来では……気恥ずかしいので……」


「あぁぁ、すみません……そうですよね……後にしましょう」


 そうこうしている間に、僕達はバイラル城に着いた。ブロエディ卿は不明だがアンドランスと3人の魔族はまだブロエディ邸に居るようだ。


「姫!!」「ディアナ姫!!!」

 城門に近づくと、衛兵達が慌ててディアナさんの元へ駆け寄ってきた。フレイヤ様の導きの話しを聞いて、何となく予感はあったが……ディアナさんは姫だった。


「貴様!姫に何を!」


「いえ……僕は何も……」


「下がりなさい、その方は街で迷っていた私を、親切にここまで、お連れしてくれたのです」


「こ……これは失礼いたしました!」


「その方は、私の客人であり、マークアップ閣下の使者です。王族用の応接室へ案内してあげて下さい」

 そんなことまで、知っていたのか。


「わ、分かりました!重ね重ねご無礼を、お許しください!!」


「とんでもないです」


「では、ハルトさん後ほど」


「あ、はい、ありがとうございました!」


 僕は衛兵に連れられて応接室に案内された。前世でも王宮のような歴史的名所には行った事なかったが、建物のスケールの大きさに驚かされる。使い勝手とデザイン性を兼ね備えた現代建築物とはコンセプトそのものが違う。空間を贅沢に使った王宮内は独特の趣があり、その壮大な雰囲気に飲み込まれそうだ。


「こちらへどうぞ」


 案内された部屋は、王族御用達の応接室と聞いたので、豪華絢爛な部屋を想像していたが、とてもシンプルな部屋だ……というか、幾重にも結界が張り巡らされている……僕の探知も気を抜くと遮断されてしまいそうだ。しかし、これは好都合かもしれない。ここでの話しが外部に漏れる事は、まずないだろう。


 この部屋周辺には人の気配がない、間者も入り込んでいないようだ。


 程なくして、ディアナ姫と国王らしき人物が訪れた。僕は咄嗟に立ち上がった。偉い人を見かけたら畏る。これが長らく身に付いた習性だ。


「楽にしたまえ」


「はい」と言いつつも楽にした事は一度も無い。


「私がバイラル王国国王、メディアだ。迷子の娘を保護してくれたそうだね。ありがとう、感謝するよ」

 想像していた国王と違った。威圧的な雰囲気は一切無く、当たりの柔らかい、初対面から好感の持てる人物だ。


「まあ、迷子だなんて、私はもうそんな歳では有りませんよ」


「まあ、そう言うな、事実は事実だからな」


「もう」


「あ、申し訳ない、いつもこの様な感じなのだ」


「微笑ましいです」


「そうかい、……君は、マークアップ卿の使いで来たんだってね」


「はい、まずはこれを」

 マークアップ卿の書状を手渡した。メディア王は、書状を受け取ると、すぐに目を通した。


「マークアップ卿の容態はそんなに酷いのかい?」

 書状に何が書いてあったかは分からないが、メディア王は何か、悟ったようだ。


「はい、予断を許しませんので、最大限の警戒体制で望んでおります」


「そうか、流石マークアップ卿だな、病に対する備えも完璧とは……恐れ入る」

 僕としては、この書状と、短いやり取りだけで、あらましを把握したメディア王の慧眼に恐れ入る。


「私への用件はそれだけかね」


「はい、ですがディアナ姫に大切な用事が御座います」


「ほう」


「ディアナ姫、先ほどの続き、宜しいですか?」


「え、あ、はい……」


「では失礼しますね」


 僕は両手で姫の頬に触れた。まるで、これからキスでもするかのように。


「なっ……何をするつもりだ……」

 国王は少し狼狽えているようだ。


「大丈夫です。やましい事はしませんのでご安心ください」

 僕は姫に全回復を掛けた。


 そして、姫に触れていた手を離し、一歩下がった。


「どうです?ディアナ姫、暗闇から解き放たれましたか?」


 しばしの沈黙が流れ、ディアナ姫は、ゆっくりと目を開いた。


「…………」


「やっぱり…………」


「どうしたディアナ?」


「やっぱりハルトさんはイケメンですね……」

 ディアナ姫はその目に大粒の涙を浮かべていた。


「ま……まさか………見えるのかディアナ?」


「はい……」


「……本当なのかディアナ……」国王の目も潤んでいる。


「はい、お父様……お髭を貯えられたのですね、とてもお似合いです」


「ディアナ!」国王は泣崩れディアナ姫と抱き合った。僕もついもらい泣きしてしまった。


「ハルトくん、ありがとう、本当にありがとう」


「とんでもないです」


「ハルトさん、ディアナは暗闇から救い出されました…………ありがとうございます」

 ディアナ姫は大粒の涙を流しながら僕に抱きついてきた。いつも通り緊張で硬直してしまうのだが、それでも何とか彼女の背中をポンと叩いてあげる事ができた。進歩だ。


「良かったです」


「ゔ、うん」メディア王がテンプレ通りの咳払いをした。感謝はしてても娘には手を出すなよと言わんばかりだ。


「お父様みっともないですよ、ハルトさんは私の恩人ですよ」

 すかさずツッコミを入れるディアナ姫。


「あっああ、いや、そう言う訳じゃ……」

 どんな訳だ。


「すまん……」


「分かれば、いいのですよ」


「ハルトくん、私は執務があるので、これで失礼するが、色々話しをさせてもらいたい。今晩、一緒に夕食はどうだい?」

「はっ、はい是非」これは願っても無い。

「では、ゆっくりしていってくれたまえ」


「ディアナ、ここへはバイルスをやる、2人でハルトくんを、持て成して差し上げるんだよ」


「分かりました、お父様」


 フレイヤ様の心遣いのお陰で、全ての歯車が上手く回っている。これで、王族のガードはやりやすくなった。損害を出さないようにブロエディが考えた作戦を利用して、被害を出さない戦いに転じれそうだ。

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