第28話 ブロエディ卿の謀略
僕達はこっそりと、会談の行われているであろう応接室の隣りの部屋に移動した。強い魔力の反応がある。アンドランスのものだ。アンドランスを伴っていると言うことは、ブロエディ卿が強硬手段に出る可能性もゼロではない。アンドランスの動向をこれまで以上に注視した。
___「ブロエディ卿がここに、来るとは珍しいな、王宮ではダメだったのか?」
「火急の用件でしたので、こちらに馳せ参じた次第ですぞ」
「ふむ、火急の用件とは何だ?」
「まずは、こちらを」
ブロエディ卿に指示された、お付きの者がドリーのネックレスと折れたレイピアをテーブルに置いた。
「こっ……これは」
マークアップ卿の表情が一気に厳しくなった。
「……ブロエディ卿……貴様、ドリーに何を……」
「まだ、何もしておりませぬ……まあ、閣下の態度次第ですぞ」
「き……貴様……私を脅すつもりか……」
「ほほほ、閣下がどう捉えるか次第ですぞ」
「な……何が望みだ……」
「簡単な事ですぞ、閣下には、暫くご病気になっていただき、王宮への参内を控えて頂きたいのですぞ」
「…………」
「……もし、私が参内すれば……」
「2度と姫と会う事は無いですぞ」
「……ブロエディ卿、貴様の狙いは何なのだ?」
「狙いも何も、私はバイラル王国の発展しか望んでおらぬですぞ」
「発展だと……まっ……まさか?!」
「さて、閣下……返事は如何に?」
「
「フフフ、マークアップ卿、君は立場をわきまえて無いねぇ」
「なんだと?!誰だお前は!」
「挨拶が遅れちゃったねぇ、私は魔族侯爵アンドランスだよ」
「なっ……まっ……魔族だと……」
「君の可愛い娘は、僕の配下が大切に保護してあげてるよねぇ……なのに君は、その恩を仇で返すつもりなのかい?」
「何を馬鹿な!」
「あんまり君が理不尽だと、寛大な僕もついつい王都で暴れちゃうかもしれないねぇ」
「ぐっ……」
「さあ、決断するのですぞ」
「……わっ……分かった……陛下には使いの者を出す……」
「分かったのですぞ」
「娘は……ドリーは返してくれるのだろうな?」
「もちろんですぞ、新王国で感動の再会を果たすと良いですぞ」
「くっ……」
「では、閣下、お大事にですぞ」
ブロエディ侯爵は満足そうな笑みを浮かべ、屋敷を後にした。
___頃合を見計らって僕達は応接室に行った。もちろん人払いの結界を張って。
「お父様……」
「お前達の言っていた通りになったな……」
「はい」
「しかし、どうすると言うのだ……アンドランスから溢れる魔力は想像を絶する物だった……我々でどうこう出来る相手では無い……我らが立ち向かったところで、どうする事も出来ぬのではないか……」
「マークアップ卿、あなたの力で僕を、陛下とバイルス王子に会わせていただけませんか?」
「……会って、何とするのだね?」
「もちろんお守りします」
「守る……守るだと?!、君はアンドランスの魔力を感じなかったのかね?」
「あれ程威圧されると、嫌でも感じてしまいますよね……」
「それでも守ると言うのかね?」
「もちろんです。ドリーに協力する約束をしたのです。これしきのことで引き下がれません」
「馬鹿な……そんなレベルの相手ではないぞ!」
「マークアップ卿は本当にこの謀略を見過ごすつもりなのですか?」
「な……なんだと?!」
「このまま手を拱いているだけでは、見過ごしているのと同義です。困難な時だからこそ、もっと能動的に動かなければなりません」
「そんなことは分かっている!……分かっているが……」
「お父様、落ち着いて、まずはハルの話しを聞いて」
「……すまない……取り乱したな……話しを聞かせてもらおう……」
「ブロエディ卿は、今晩から未明にかけて行動に移す可能性が非常に高いと思われます。ブロエディ卿のシナリオは……」僕は今ある情報から想定できるブロエディ卿のシナリオを話した。ちなみに今晩から未明にかけての根拠は、アジトにいた魔族たちがブロエディ邸に移動しているからだ。
ブロエディ卿はまず、アンドランスと魔族の力でステル王子以外の王族を弑逆し、城外にいるステル王子に魔族を退けさせ、内外に正当な後継者として認めさせるつもりなのだろう。アンドランスと言う名の通った魔族を退けるのだ。誰もがステル王子を受け入れるはずだ。
ブロエディ卿がマークアップ卿を抑えたい理由は保険プラス戦後の失脚を狙ってのことだ。恐らくマークアップ卿が参内しようがしまいが、作戦に影響はない。しかし、マークアップ卿を抑えなければ無用な争が起こり、戦後の旨味が減るばかりか、ステル王子の英雄的な活躍に影を落とす事になるかも知れない。総合的に見るとマークアップ卿を抑えておくメリットは大きいのだ。
「なるほどな……」
「あくまでも推測ですが……」
「いや、奴の性格からすれば私も君の言う通りだと思う。しかし、君を陛下と王子に面会させるのは難しい。君の推測通りだとしたら、王宮にはブロエディの手の者と間者で溢れているだろうからな」
「ですよね……では、王宮に忍び込みますので事情を説明する書状をしたためていただけますか?」
「忍び込むだと?」
「はい、探知魔法と隠密結界が使えますので何とかなると思います」
「……にわかには信じ難いな……だが、いいだろう……君に任せるしか無さそうだ」
「あ、ちなみに1日の中で、王族の皆さんが一堂に会する事ってあるのでしょうか?」
「うーむ、そうだな……あるな……夕食だ……夕食がそうだ。執務に追われておられても、陛下達はいつも一族揃って夕食を取られる。ブロエディもその事を知っている。奴はそのタイミングを見計らって仕掛けるつもりかも知れん」
「分かりました、そこに侵入します。詳しい場所など、教えて頂けませんか?」
マークアップ卿は大まかな見取り図を作り、王宮内のことを教えてくれた。
「ん、そうだ……使いの者から私の病状を知らせに行く事になっておる。私の名代として謁見する事が可能かも知れんな」
「それは好都合ですね。是非僕にその役目を」
「うむ、すぐに書状をしたためよう」
「ハル、約束は守ってよ」
「大丈夫ですよ、ドリー、僕はこれでも勇者パーティーの一員なのですから」
「「えっ」」
「それはまことか!」「本当なの?」
「はい、僕の体術や魔法は、彼女達に教えて頂いたものなんです」
「そ、そうだったのね……」
「少しは安心して頂けましたか?」
「そ……そうね……でも……」
「僕には魔族への対抗手段もありますよ」
レーヴァテインとクレイヴソリッシュを抜いた。
「そ……それは……」
「もしかして……レーヴァテイン?」
「クレイヴソリッシュ?」
「はい」
「!!!!!!!」2人は相当驚いているようだ。
「その剣って……確かフレイヤ様が昔に降臨された時に持っていた剣よね……」
「らしいですね、当時のことは分かりませんが、この剣はフレイヤ様に頂いたものです」
「「へ」」
「「フレイヤ様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
「き……君は、もしかしてフレイヤ様の導師なのか?……」
「いいえ、違います」
「フレイヤ様とお会い出来たなんて信じられない……」
「フレイヤ様は命の恩人なのです」
「命の恩人って?」
「とある陰謀に巻き込まれて、死にかけていたところを助けていただいたんです」
「それはまた……」
「まあ、そんなわけで、相手がアンドランスでも、何とかなると思います」
「神剣の使い手だったのね……」
「はい」
「はじめて本物をみた……」
「ドリーの約束は、必ず守りますよ」
「ハル……」
この後、マークアップ卿と、事が起こった場合の打ち合わせを入念に行った。屋敷周辺に配備されたブロエディ卿の密偵は、僕が睡眠魔法で一時的に無力化し、その間にマークアップ卿に密偵を放ってもらった。ブロエディ卿と城外に陣取っているステル王子に向けてである。
王宮のことは僕に一任してもらい、マークアップ卿にはステル王子への対応と街の警備をお願いし、僕は屋敷を後にした。
マークアップ卿の名代をすると言ったものの、この世界の礼節を弁えていない僕で大丈夫なのだろうか、物凄く不安になってきた。そもそも王宮ってどうやって入るのだろうか……門番的な人が案内してくれるのだろうか……
考え事をしながら歩いていると、前から歩いてきた人とぶつかってしまった。
「すみません、大丈夫ですか?」
ぶつかった相手を見て驚いた。髪の色は違うが、ルナにそっくりな女の子だったからだ。しかし……
「私の方こそすみません……目が不自由なもので」
「いえ、僕が考え事をしながら歩いていたのがいけないんです」
彼女の手を取り抱え起こした。
「ありがとうございます」
「とんでもないです、悪いのは僕なので」
目の色は分からないが、本当にルナに似ている。髪をブロンドにしたルナって感じだ。
「あの……もしかして、お1人ですか?」
「はい、恥ずかしながら共の者とはぐれてしまいまして……」
「どちらに向かわれているのですか?」
「バイラル城に向かっておりました」
「なら、逆方向ですね、もし宜しければ、お送りしましょうか?」
「よろしいのですか?」
「もちろんです。僕も丁度王宮に用事がありましたので」
「まあ、それは助かります」
「とんでもないです、僕は「ハルトさんですよね?」」
「えっ」
「私はディアナと申します。以後、お見知り置きを」
初対面だと言うのに、ルナにそっくりな美女は僕の名前を知っていた。
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