第26話 夜の会談

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」僕とドリーは王都ソリューションを目指している。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」エアフライボードに乗って……


「ハル!もっとゆっくり!!!」


「それだと怖い時間が長くなりますよ?」


「うぅ……いい……じゃぁこのままでいい……」


「行きます!「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」


 ドリーの叫び声が他の人に聞こえないように、僕はかなり高度を上げて高速飛行した。その甲斐あって、2時間程度で王都近郊に到着することが出来た。


「空の旅はどうでしたか?」涙目のドリーには意地の悪い質問かも知れない。


「しばらくは……遠慮したいかも……」

 いきなり空を高速移動したのだから、仕方ない。


「ドリー、普通に考えて王都って、城門で検問ありますよね?」


「うん……そうね……」


「あの……ドリー……言いにくいんだけど……」


「……分かってる……私は捕まってる事になってるもんね……」


「ゆっくり飛びますので……」


「本当にゆっくりね!……」


 僕達は上空から王都内へ入る事にした。


「着地点はどうしましょうか、人のいない場所を探しますか?それともマークアップ卿の屋敷にしますか?」


「そうね、屋敷に降りて、警備の者に騒がれたら、ハルがわざわざキマリスを泳がせた意味がなくなるものね……」


「では人の居ないところですね」


「それもダメよ、秘密裏にお父様に会わないと意味がないでしょ?」


「そうでしたね……」


「お父様の部屋はバルコニーがあるわ。お父様の部屋に直接行きましょう……」


「分かりました。案内よろしくです」


 僕は自分達に隠密性の高い結界を施し、ドリーの案内でマークアップ卿の屋敷を目指した。いくら隠密性が高い結界でも、直視されるとバレてしまう。気休め程度の物だが、何もしないよりはましだろう。


 僕達は、マークアップ卿の部屋のバルコニー直上まで、無事に辿り着けた。しかしバルコニーには人影があった。服装からして恐らくマークアップ卿だろう。


「ドリー、怖いかも知れませんが、下を見てください。バルコニーに誰かいます」


「わ、わ、わ、分かったわ、ちょ……ちょっと待ってね」

 僕はヘタレと呼ばれていたが、不思議と高いところは平気だった。


「大丈夫、お父様よ、そのまま行きましょう」


「分かりました」ドリーに言われるがまま、バルコニーまで下降した。


 エアフライボードで現れた僕達に、マークアップ卿は、かなり狼狽していたが、ドリーが口元に人差し指を当て「シーッ」とすれば、黙って僕達を部屋に招き入れてくれた。


「お父様!」「ドリー!」


「何故、空から来たのだ?……何故、今ここにいるのだ?護衛達はどうしたのだ?」


「お……お父様、そんな一度に聞かれても困ります」その気持ちは良くわかる。


「そ……そうだったな」マークアップ卿が焦った気持ちもよくわかる。


「順を追ってお話しいたします。まず、私のお話しから聞いて頂けますか?」


「うむ、分かった」僕は結界を人払いに切り替え、屋敷周辺に探知を張り巡らせた。


 マークアップ卿はしきりに僕のことを気にしている。ひとり娘をこんな時間に、しかも空から連れてきたのだから当然の反応だ。ドリーはそんなマークアップ卿の様子を見て察したのだろう。まず僕の紹介から始めた。

「彼はハルト、私の危ないところを3度も助けてくれた恩人です」


 僕は軽く会釈をした。


「……3度もだと………ブロエディ卿にこちらの思惑が筒抜けだったのか……」

 親としては、3度助けられたことより、3度危険な目にあった事の方が気になるようだ。


「はい、お父様の仰っていた通り、ブロエディ卿の目的は、私の誘拐でした」


「そうか……ハルト君、娘が危ないところをありがとう。感謝する」


「とんでもないです」


「お父様、私は今、ブロエディ卿の手の者に、誘拐された事になっています」


「それは、どうしてだ?」


「1度は拉致されたのですが、そこをハルトに助けらたからです」


「そうだったのか……」


「助けられたタイミングは、ブロエディ卿に早馬が送られた後でしたので、ブロエディ卿には誘拐成功の誤報が伝わります」


「うむ……この状況を上手く利用すれば、奴らの横行を暴けるかもしれんな……」


「はい、ですが、問題もあります……ブロエディ卿は魔族と通じております……」


「な……魔族だと……それは真なのか?」


「はい、ハルトが上手く聞き出してくれました」


「ブロエディ卿は何を考えておるのだ……王国を……いや世界を滅ぼすつもりなのか……」


「やはりステル王子の存在が大きいのでは?」


「確かにステル王子は単身で、魔族に太刀打ちできる数少ない人物だが……それは短慮だ、あまりにも思慮が足りん……ステル王子は今、マイオピアの援軍で王都に戻っておられるが、任地に戻ればそれすら叶わないというのに……」

 ルナ、ロラン以外にも、魔族に太刀打ち出来る人物が存在するようだ。それよりも気になるワードが……。


「お父様、マイオピアの援軍とは?」マイオピア出身の僕がここいる事で、ドリーもいぶかしげに思っているようだ。


「魔族がマイオピアに進軍しているとの報を受け、ステル王子の軍が馳せ参じてくれたのだ。補給を済ませれば出陣する手筈になっている」

 おかしい……マイオピアから、魔族出現の報は出したが、2日前の話だ。早馬でも王都まで3日は掛かる。日数的に早馬はまだ王都に到着していないはずだ。


「ハル……」黙っているつもりだったが、ドリーに請われ、しゃしゃり出た。


「僕はマイオピアから参りました。その、魔族進軍の情報源はどこですか?」


「……私の派閥の諜報に長けた貴族からだ……まさか誤報なのか?」


「マイオピアは確かに魔族に襲撃されましたが、昨日の話です。マイオピアへの進軍が確認できたのも2日前の夜です。その方の話が本当だと、マイオピアへ何の知らせもないのは不自然ではないでしょうか?」


「何故そんなことを知っている?」


「僕が、マイオピア防衛戦に参加していたからです」


「……では何故、昨日マイオピアに居た君が、何故今、此処に居るのだ?」


「それは僕の開発した、エアフライボードを使ったからです。エアフライボードなら聖皇国でも20時間程度で移動可能です」


「……あの、空を飛んでいた板か?……」


「はい、ドリーも同乗しましたので、嘘か真かはドリーが証言してくれます」


「分かった、それは信じよう」


「ありがとうございます」


「しかし……マイオピアはたった1日で、魔族を退けたと言うのか?」


「はい、夕刻前には決着しました」


「ふむ……」


「マークアップ卿、ブロエディ卿とステル王子の狙いはクーデターではないでしょうか?」

「……クーデターか……いくらブロエディ卿とステル王子でもそんな短絡的なことは……」


「そうですね。そんな事をすれば、いくら要職にあるブロエディ卿でも、反発を抑えきれないかも知れません。だからブロエディ卿は、マークアップ卿に動いて欲しくないのだと思います」


「動いて欲しくない?」


「マークアップ卿が動かなければ、マークアップ卿もクーデターを認めた事と同義です。ブロエディ派はその事実だけで多くの反発を抑える事が出来ます。ドリーの誘拐はあくまでもマークアップ卿を交渉の席に着かせる為のお膳立てだと思います」


「他にも交渉材料があると?」


 やはり娘の命だけでは交渉材料としてのパンチが弱すぎる。


「ブロエディ卿の真の人質は王都の国民全てです」


「……だから魔族とステル王子なのか……」


「恐らくは……」


「なるほどな……」


「あと、色々タイミングが良すぎます。聖皇国で新しい遺跡が発見されたとの報を受け、勇者ルナ、ロランを始め、マイオピアの実力者は殆どは聖皇国に向かいました。その2週間後に魔族の襲撃。そして王都に駆け付けた王子。ドリーの誘拐。歯車が噛み合い過ぎです」


「全て、ブロエディ卿の謀だと?」


「そう考える方が自然です」


 ブロエディ卿と王子の狙いはクーデターで間違いないだろう。しかし、アンドランスの狙い、魔族サイドの思惑が見えてこない。


 それとルナ達が心配だ。どう考えてもただの偶然とは思えない。遺跡ではなく、もしかしたら魔族が隠匿していたアジトではないのだろうか。


 この問題が解決したら直ぐに聖皇国に出立し、ルナ達と合流するべきだと考えが変わった夜だった。

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