魔族の暗躍

第23話 目指すは聖皇国

 僕は空の旅で、聖皇国を目指している。エイダに付与魔法を教えてもらってから、すぐに開発に取り掛かった、エアフライボードに乗ってだ。


 エアフライボードは空気抵抗を考えて作られたボードに、風魔法を付与したものだ。ボードに乗り、魔力を込めれば飛行することができる。


 高度や速度も魔力で自在に調整できる。僕の場合、魔力の自動回復装備があるので、かなりの高度で、かなりの速度を出しても、魔力が尽きることはない。


 エアフライボードなら、馬車では10日も掛かる聖皇国への道のりも、20時間程度に短縮出来る。流石に、20時間飛びっぱなしはキツイので、夕方には宿を取る予定だ。


 エアフライボードは我ながら傑作だ。高度を上げれば絶景を楽しめ、高度を下げればゲーム感覚でスリリングなフライトが楽しめる。これを商品化すればかなり儲かるかもしれない。

 

 とは言え、商品化には課題が山積みだ。僕が乗る分にはイメージ動作補正と、無限に近い魔力があるので問題ないが、商品化には、操作性の簡便化と、魔力消費を抑える必要がある。ボード自体の生産も問題だ。そもそも市場に類似商品が無いかもチェックする必要もある。


 そんな事を考えていると、護衛付きの馬車が、盗賊団に襲われているところを目撃してしまった。


 見過ごすことは出来ないので当然助ける。盗賊団に襲われている人を、躊躇なく助けに行けるところに、この世界での成長を感じた。


エアフライボードを駆り、マッハで近付く。


「助太刀します」負傷者もいるようだ。盗賊団20人に対し護衛は5人、多勢に無勢だが、よく頑張っている。


「かたじけない!」


 僕は早速拳銃を取り出し、盗賊団の装備を破壊し、足を狙って片っ端から盗賊を動けなくした。ついでに土魔法で体を固定しておいた。


「ええええええええ!?」


 一瞬のうちに無力化された盗賊団に、護衛の者も驚きを隠せない。


「災難でしたね。大丈夫ですか?」


「は、はい……私は、なんとか……「ディブ!ディブ!しっかりしろ!」」

 ディブと呼ばれる青年が重症だ。放っておくと失血死してしまう。


「ちょっと診せてください」

 勿論、放っておけないので、ディブを全回復で治療した。


「はっ……き……傷が……」


「大丈夫そうですね、他に怪我人はいらっしゃいませんか?」


「他は、かすり傷程度です!問題ありません!」


「わかりました。大事に至らなくて、よかったです」

 ディブは大事に至っていたが、治ったので、良しとしよう。


『『姫!』』どうやらと言うか、やっぱりと言うか馬車には、お姫様が乗っていいらっしゃったようだ。大好きなテンプレイベントの1つだ。


 サラサラロングのブロンドの髪に、エメラルドグリーンの瞳。レヴィほどロリ顔では無いが、可愛らしい感じのお姫様だ。


「何方かは存じ上げませんが、危ないところを助けていただき、有難うございます」

 声も超可愛い。


「とんでもないです」


 姫を制し、無骨なおじさんが割って入ってきた。

「私は、この部隊の隊長を務めさせて頂いている、マークアップ侯爵が家臣、ヘッダーです」


「僕は、ハルトです。マイオピア魔法学園の学生です」


「おお、魔法学園の方でしたか、素晴らしいお手並みですな」


「とんでもないです」


「こちらにおわす方は、マークアップ侯爵令嬢、ドリー姫です」


「これは失礼いたしました。マークアップ侯爵令嬢」

 爵位制に詳しくないので、侯爵がどのぐらい偉いのかわからないが、とりあえず敬意を表した。


「ハルト様、そんなに畏まらないでください。私どもは助けていただいた身ですので」


「は……はい」

 

 ヘッダー隊長が、また、僕たちの会話に割って入ってきた。

「本当に、貴殿のような方が、通りかかってくれて助かりました」


「恐れ入ります、この盗賊たちはどうされるのですか?」


「本当はこの場で逮捕したいところなのですが、手勢が足りませんので、キャズム守備隊に通報しようかと思っています」


「なるほど、僕は聖皇国を目指しています。キャズムは通り道なので、一足先に、お知らせしましょうか?」


「……有難い申出ですが、ハルト殿は見た所、我等より速い移動手段を持ち合わせていないようですが?」

 ヘッダー隊長の疑問は当然だ。


「僕はこれです」空間収納からエアフライボードを取り出した。


「な……なんですか?それは?」なかなかいい反応だ。


「これは、空を自在に飛べる魔道具です」軽くデモフライトを行った。


『『…………』』


「すっ……凄いですね!……空を飛べるなんて!」

 ドリー姫も驚いている。姫レベルでも驚くのだから、類似品は存在しないと考えてもいいだろう。


「ヘッダー隊長、キャズム守備隊に、一筆したためてもらえますか?」


「あ、ああ、そうだな……」


 僕は信書を受け取り、一足先にキャズムに飛んだ。エアフライボードだとキャズムは目と鼻の先で、事情を説明する時間を含めても、往復1時間は掛からなかった。


 聖皇国を目指している僕が、何故往復する必要があるのか?


 それはドリー姫一行が、心配だったからだ。あんなに目立つ馬車なのに、極々少数の警備。襲ってくれと言わんばかりである。


 僕の予感は的中し、戻ってくると、また別の盗賊団に襲われていた。この世界の治安はどうなってるんだと思いつつ、先程と同じように、盗賊団を無力化した。


「ハルト様……度々有り難うございます」


「どういたしまして」


「誠にかたじけない」


「あの……宜しければ、キャズムまで、護衛しましょうか?」


「本当ですか!」


「ええ、宜しければ」


「是非お願いします!」


「ヘッダーも宜しいですね?」


「ハッ、我々としては非常に助かります!」


「ハルト様、お隣り、如何ですか?」


「え」


 そんなわけで、僕は姫の馬車に同乗して、キャズムを目指すこととなった。姫の隣りに座った僕は、安定の緊張で、手汗バッチリだ。


「ハルト様は何年生なのですか?」


「1年です」


「と言うことは、私達の1つ歳下の16歳ですね」


「いえ、僕はダブりですので、17歳です。同い年ですね」


「あら……聞かない方がよかったですか?」


「いえ、全く気にしていませんので」

 実年齢は37歳なので、ダブりだとかそんなことは小さな問題なのだ。


「ところで、学生のハルト様が、何故、聖皇国を目指しておられるのですか?」


「お恥ずかしい話しですが、僕は今、停学中でして……その間に冒険者ランクを上げてしまおうって算段です」


「へ?……学生で、冒険者ですか?」


「はい、何とか両立してます」


「今の話しだけでも、色々突っ込みどころが満載ですね……」


「ですかね……」


「そうですよ、ハルト様は話題に、事欠きませんね」


「あはは……」


「でも、ランクを上げるだけならマイオピアでも出来るのでは?」


「それが、マイオピアではプラチナが限界で、ダイヤランクになる為には聖皇国に行く必要があると、ギルドマスターに言われまして」


「え……と言うことは、ハルト様はプラチナランクなのですか?」


「はい」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


「姫様!如何されましたか?」


「い、いえ何でもありません」

 かなり驚かれたようだ。


「17歳でプラチナランクの冒険者で、魔法学園の学生って……無茶苦茶なプロフィールですね……」


「あははは、よければどうぞ」

 学生証と冒険者登録証をドリーに手渡した。


「……世の中は広いですね……」

 ドリーが遠い目をしている。


「ハルト様……失礼ですが、プラチナランクの冒険者で、あれ程の使い手なのに、なぜ魔法学園に通われているのですか?士官先も選び放題だと思うのですが……」


「師匠の言付けってのもありますが、付与魔法を学びたいからです」


「付与魔法?」


「はい、さっきの魔道具もそうですが、もっと生活を便利にする魔道具を作りたいのです」


「なるほど!」


「さっきのエアフライボードを使えば、マイオピアから聖皇国の移動も、20時間程度です」


「え……たった20時間ですか?」


「はい、そうすれば情報の伝達も早くなりますし、流通も盛んになって、結果、治安も良くなると思うんです」


「……私と同じ年齢ですのに……色々考えておられるのですね」

 本当は37歳です。


「なんだか、僕の話ばかりになってしまいましたね、ドリー姫は何処に向かわれているのですか」


「私達は王都ソリューションです」


「王都ですか……行った事がないなあ……」


「賑やかで中々良いところですよ、ハルト様さえ宜しければご一緒しますか?」


 何と言う誘惑。是非ともご一緒したいところだが……


「嬉しいお誘いなのですが、今回はご遠慮致します」


「そうですか……残念です」


「ランクアップの件が無かったら、こっちらからお願いしたいぐらい、なのですが……」


「大丈夫ですよ、お気遣いなく……でも、ハルト様」


「はい」


「今晩の夕食ぐらいは御馳走させて下さいね!」


「あ、……嬉しいです!是非!」


「ところで、ソリューションにはどうして?」


「お引越しです。お父様にソリューションに移り住むよう、仰せつかりましたので」


「なるほど」


 ドリー姫と話していて分かったのだが、最初の盗賊団は、護衛の冒険者を装っていたらしい。もしかすると、政治的に狙われているのかも知れない。


 取り敢えず、キャズムで護衛団と合流するとの事なので、安心しても良さそうだが、考えさせられる出来事である。


 ルナ達が魔族関連の調査を行なっている最中、人類同士で争っているのだ。人類の本当の敵は、魔族では無く人類なのかも知れない。

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