第21話 マイオピア防衛戦

 魔族の侵攻は僕の予測よりも速く、翌朝にはクローズの森からの行軍が確認できた。やはり魔族は僕達を軽視しているようで、正面きって攻めてくるようだ。


 ギルドから召集が掛かり、防衛部隊が編成された。僕は魔法が使える事もあり、城壁からの遠距離攻撃部隊に編成されそうになったが、レビットさんにお願いして、前線に配備してもらった。


 魔族軍はあれからも数を増やし、魔族33人、グレンデル500頭、ゴブリン600匹となり、数の上でもマイオピア守備隊を上回った。


 この報を受け、多くの住人が避難を始め、多くの逃亡兵を出す結果となってしまった。33人の魔族に襲撃を受けるなど、未曾有の出来事だ。当然の判断である。それでもマイオピアに残った守備隊は、ギルド、学園を合わせて約800名、絶望的な戦力差になってしまったが、皆んな絶対にマイオピアを守る気概に溢れている。


 僕は、探知で敵の布陣を探った。ゴブリン部隊はゴブリンのみで編成され、グレンデルは、15頭を1部隊とし、魔族が指揮官として配備されていた。そして、総大将の元には、魔族2人とグレンデル50頭。本陣の守備もガッツリ考えられた布陣だった。


 恐らくゴブリンを捨て駒として、守備隊を疲弊させ、本隊で一気に叩くつもりだろう。


 だが、そうはさせない。


「魔族軍が現れたぞ!」


 斥候からの知らせが、こだまする。


 僕の予測通り、ゴブリン軍のみが、突撃を掛けてきた。僕は部隊中央に配置してもらった。この位置なら敵本陣まで、一直線だからだ。


 僕は両手に拳銃を取り、2丁の拳銃から極大魔力弾を魔族軍中央に放った。


 極大魔力弾は射線上のゴブリンと敵本隊を駆逐し、本陣まで迫った。


 だが、強力な魔力シールドにより防がれてしまった。


 僕は探知で、魔族の残存兵力を確認した。ゴブリン400匹、グレンデル75頭、魔族8人。ゴブリンは散開していたので、思ったよりも削れなかったが、馬鹿みたいに中央に集まっていた、魔族とグレンデルはかなりの数を削ることができた。これも魔族が僕たちを警戒していなかったからこその戦果であり、普通に対峙していたらここまで上手くいかなかっただろう。


 しかし気になるのは、極大魔力弾を防いだ魔族のシールドだ。敵本陣には相当な使い手がいるに違いない。


「な……何が起こった……」

「あいつだ、あいつがやりやがった」

「ハルトだ!」


 まだ開戦したばかりだが、ここが勝負どころだ。


「我が名はハルト、勇者パーティーに所属する、プラチナランク冒険者だ!今の一撃で、魔族は大半の兵力を失った!今が好機だ!一気に行くぞ!」


『『オォォォォォォォォォォォォォォォ!!!』』

 僕は柄にもなく、芝居掛かったセリフで味方を鼓舞した。皆んなの力が必要だからだ。


 僕は、瞬間移動を駆使し、敵軍深くに切り込んでいった。この戦いはスピード勝負だ。開戦初手で僕が放った、極大魔力弾への報復も考慮に入れると、速攻で本陣に切り込む必要がある。


 一気にゴブリンの軍勢を抜け、魔族率いる敵本隊に迫る。グレンデルには目もくれず、残った魔族のうちの5人を切り捨てた。そして指揮官を失ったグレンデルには、エクスプロージョンを放ち一気に殲滅させた。範囲から外れた、グレンデルが数頭残っているが、後続部隊に任せることにした。


 そして僕は、本陣に居た3人の魔族と対峙した。大将と思しき魔族には及ばないが、お付きの2人の魔力もなかなかの物だ。


「あの魔術を放ったのは貴様か」


「ええ、そうです」


「凄いものだな、人間よ」


「どうもです」


「我が名は、ボウラーク、悪魔公爵だ。貴様は殺すには惜しい、我の配下にならんか?」


「それは無理ですよ」


「そうか、ここで散らせるには惜しい才能だが、仕方あるまい」


 ボウラークは、ノーモーションで巨大な魔力球を放ってきた。これを避けるのは容易いが、この位置では味方に被害が及ぶ。


『レーヴァテイン、クレイヴソリッシュ、あの魔力球切れるか?』


『ったりめーだろ!』『問題ないのじゃ』


 僕は魔力球を双剣で切り、側近の2人をウォータープリズンに閉じ込めた。

「キョーウ!!アウトバウ!!」


 そしてそのまま、ボウラークに切り込んだが、幾重にもシールドを展開され、距離をとられてしまった。


 ボウラークは、凄まじい数のダークバレットを放ってきた。僕はそれを拳銃で、撃ち落とす。ボウラークは強力な魔法を放ちたいのか、ダークバレットで弾幕を張り、しきりに距離をとる。


 しかし、その予測は外れていた。ボウラークの魔力が徐々に膨れ上がる。


『我が主よ、あやつは変身するぞ』


『変身?』


『魔族の中には変身してパワーアップする奴がいるんだよ』


『なるほど……』


『油断するでないぞ』


 2人の剣神が言うように、弾幕が晴れると、ボウラークは、グレンデルを更に凶悪にした姿に変身していた。


 変身したのだから当たり前かもしれないが、魔力量も纏う雰囲気もまるで別人だ。


「人間相手に、この姿になるとはな……」


 ボウラークは猛烈なスピードで距離を詰め、僕のボディーに強烈な一発をくらわせた。


「うぐっ!」


 今までに味わったことのない強烈な痛みが、身体中を走る。いったい何メートル飛ばされたのだろう……トラックにでも跳ね飛ばされたら、こんな感じになるのだろうか。


 ボウラークの攻撃はこれで終わらなかった。追撃のジャンピングニーバットを、腹部にもろに食らってしまった。


「ッッッッッッッッッッゥ」


 僕は声にならない叫びをあげ、のたうち回った。そんな僕をボウラークはサッカーボールでも蹴り飛ばすかのように蹴り飛ばした。僕は受け身すらとることができず、なす術もなく地面を転がった。


 あまりの負傷にオート回復も間に合わない。僕の脳裏に「死」と言う言葉が浮かんだ。


 僕が死んだら……


 元の世界では考えた事がなかった、身寄りのいない僕が死んでも、僕の周りは何も変わらない。研究が打ち切られ、マネージャーがスポンサーに頭を下げて回るぐらいのものだ。


 でも、この世界では……


 皆んなの顔が浮かぶ、ルナ、エイル、ロラン、レヴィ、ウンディーネ、レーヴァテイン、クレイヴソリッシュ、学園の仲間、ギルドの連中に、街の人達、守りたい人、会いたい人が沢山いる。


 でも、このままでは守れない……


 このままでは……


 ボウラークが、僕の胸ぐらを掴み、吊り上げ、反対の手に魔力を集め魔力球を作り出している。


「残念だったな人間、これで終わりだ」


「……なよ」


「あ?」


「ざけん……なよ」


「虫の息で何を言ってるんだ?」


「ふざけんなよ!!!」


 僕は足に魔力を纏い、ボウラークを蹴り上げた。


「ぐっっっ!まだ、そんな力が残っていたか」


「あん?寝ぼけた事言ってんじゃねーぞ、これからだ!これから」


 僕は両手に拳銃を構え、ボウラークに乱射しながら距離を詰めた。


「ぐぉぉぉぉ」


 ガード越しだが、僕の弾丸は効いているようだ。僕は膝に魔力を纏い、ボウラークのみぞおちに、膝蹴りくらわせた。


「ッッッッッッッッッッゥ!」


 今度は、ボウラークがのたうち回った。僕はボウラークに容赦なく弾丸を浴びせた。


「貴様!ボウラーク様によくも!」


 僕がやられていたせいなのか、ウォータープリズンから側近の2人が抜け出し、襲いかかってきた。


 僕はレーヴァテインとクレイヴソリッシュで2人の首をはねた。


「邪魔すんなよ、三下が」


「キョーウ!!!!!アウトバウ!!!!!」

 ボウラークが叫ぶ。


「貴様……貴様だけは許さんぞ……」


「ほう、どう許さないんだ?」


 僕は、ボウラークの四肢を切り飛ばした。


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!」


「何だテメー、叫ぶしか脳がないのか?テメーが弱えーから、こんな結果になったんだろうが!」

 四肢を切り飛ばされた、ボウラークを見下ろし、そう告げた。ボウラークは、その鋭い眼に涙を浮かべていた。


「あん?テメー、何泣いてやがんだ?魔族のくせに一丁前に悲しいとかぬかすんじゃねーぞ」


「貴様!貴様!」


「テメー誰を睨みつけてんだ?テメーの弱さを、俺のせいにしようとしてるのか?」

 僕はボウラークの目を切り裂いた。


「うぎゃっっっ」


「笑わせんな、てめーに涙なんて必要ねーよ……てめーに必要なのは」


「絶望だ」


 ボウラークの口に拳銃を、突っ込み魔力を込め撃ち抜いた。ボウラークは絶命した。


 僕は周りを見渡した。ゴブリンと防衛隊の戦闘がまだ続いていた。


「なんだ、なんだ!まだ雑魚どもが、いっぱい残ってるじゃねーか!!」

 僕は拳銃を取り出し、魔力を集中させた。


「ダメ、ハルト!」

 ウンディーネが立ちはだかった。


「ウンディーネか……どけよ」


「どかないわよ!そんなもの撃ったらマイオピアまでなくなるわ!」


「そっか、じゃテメーもろともだな」


「いいわ!私を撃ちなさい!」

 僕は引き金に指をかけた。


(ダメだ!)


「ん……」


(ダメだ!何のための力なんだ!)


「くっ……」


「ハルト!」


(守るんじゃなかったのか?!)


「ぐっっっ!」

 僕は頭を抱え膝から崩れ落ちた。


「ウンディーネ……ありがとう、戻ってこれたよ……」


「ハルト!!」


 ウンディーネに抱きしめられた。


「ゴメンねハルト……私アンタの闇をまだ払えてなかった……」


「違うよ、ウンディーネ……僕が弱いからだよ……」


「ゴメンね……」


「まさか、主まで変身してしまうとはのう……」

「しかも、ワシらの力を封じやがった……」


「2人とも……すまなかった……」


 間違いない、これは新薬の影響だ。負の心が芽生えると新薬の影響が出るようだ。


「ウンディーネ、僕を戻してくれてありがとう。君のおかげで、僕は僕のままでいられるよ」


「ハルト……」


「レーヴァテインとクレイヴソリッシュも、僕を見捨てないでいてくれて、ありがとう」


「礼には及ばんよ」「ったりめーだろ」


「でも、まぁ……魔族も倒せたし……結果オーライだよね?」


『『…………』』


「あれ?ダメ?」


「ワシは構わんが……」「妾も構わんが……」


「私はアンタに殺されかけたんだからね!そこに正座!」


「は……はい」


 まだ戦いは終わっていないが、僕は30分ほど、ウンディーネに説教を受けた。そもそも1人で決着をつけようとする作戦自体に問題があると、コンコンと説かれた。今後このような無茶をしないことを条件に、ようやく許してくれた。


 負の心が芽生えないようにする、これが僕の急務だ。要はブッチギリで強くなるか、心を強くするかの2択だ。心を強くするのは難しい、ブッチギリで強くなる方が、今の僕には確実かもしれない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る