第20話 良いお知らせと、悪いお知らせ
応援部隊が到着するまで、クラスメイトとジンさん達に説明を受けた。結論から言うと、魔族との邂逅は、彼らに不手際があったわけではない。マイオピア周辺を調査中だった魔族と、たまたま遭遇してしまっただけの不幸な出来事だった。そうこうしている間に、アレイスター先生率いる応援部隊が到着した。
「みんな無事か!」
『『アレイスター先生』』
応援部隊が到着して、クラスメイト達はようやく安堵したみたいだ。女生徒達は泣きじゃくっていた。
「これは……どう言う事だ?魔族はいなかったのか?」
「魔族ならそこに転がってるぜ」
ジンさんが魔族の亡骸に目配せした。
「魔族を倒した……?」
「ああ、ハルトが1人でやっちまったよ」
「1人でだと……」
「ああ、俺たちは何が起こったのか分からなかったよ」
「こ……これを君が?」
「はい……」
「そうか……」
「パチィィィィィィィィン」
アレイスター先生におもいっきり頬をぶたれた。
「ハルト、君の働きが無ければ、皆んな助からなかったのかも知れない。しかし、実習での命令違反は大きなペナルティだ」
「はい、すみません……」
「ハルト、校則に照らし合わせ、君は停学だ」
「え」
「しばらく君の顔は見たくない、行きたまえ」
「はい……本当にすみませんでした」
「レヴィ達から君を預かっている、私の気持ちも察してくれ」
アレイスター先生が小さな声で、そう呟いているのが聞こえた。
「勇者並みの働きをしても、校則のある学生は大変だな」
「あは……まあ仕方ないですよ……先生の気持ちも痛いほどわかりますし」
「前から思っていたが、お前は年齢の割に大人だな」
37歳です。
「気のせいですよ……」
「まあいいさ、事情は俺の方から説明しておいてやるよ」
「ジンさんにも気を使わせてしまって、申し訳ないです」
「馬鹿言うな、お前は命の恩人だ、お前が来てくれなかったら、全滅だったかも知れない、本当にありがとうな」
「いえ、では僕はこれで」
「おう」
僕は早々にこの場から立ち去った。たとえ冒険者ランクが上がったとしても、停学は気が重い。編入2週間で停学とか、そんな勲章僕には要らない。そんなことを考えながら家路に着いた。
「アレイスター先生、停学は厳し過ぎじゃないですか?ハルトさんが来てくれなかったら、俺達は皆んな、やられていたと思います」
「それは分かっている」
「先生何とかなりませんか?私達のせいで、ハルトくんが停学だなんて……」
「それは違う、君たちのせいじゃない」
「同じ事です……ハルトくん、可哀想です」
「……」
「魔族を倒せるヤツなんて、援軍を待ってても来なかったかも知れない……でもハルトは……」
「君の言う通り、確かに援軍の中に魔族を倒せる者はいないかも知れない。私もハルトには感謝している。彼の行動は人として正しかったのだろう」
「だったら!」
「私も教師である前に、ひとりの人間だ。グレンデル3頭に加え魔族がいるのだぞ?普通に考えれば、死体が一つ増えるだけだ。そんな死地に自ら飛び込む行為を、肯定出来るはずがなかろう」
「先生……」
「とても複雑な心境だよ……私も本当は、よくやったと褒めてやりたい。しかし、これを見過ごす事は出来ないのだよ」
「アレイスター先生……」
「彼を想う気持ちがあるのなら、処分中は君たちが支えてやってくれ」
『『はい』』
こうして僕達の初実習は、波乱のうちに幕をおろした。
___翌日、僕はギルドマスターから呼び出された。
「はじめましてハルト君、私がマイオピアギルドマスターのレビットだよ」
驚く事にマイオピアのギルドマスターは魔術師風の女性だった。例に漏れず彼女もなかなかの美人だ。
「どうかしたかな?」
「いえ、その……ギルドマスターって男性だとばかり、思っていたもので……つい……見惚れてしました……」
「フフ、嬉しい事言うね。この街はね、魔法学園があるから、他の街より要職に就く女性が多いのだよ」
「魔法学園が理由ですか……」
「魔法は感受性の強い、女性の方が向いてるからね」
「なるほど」
「君も昨日はご活躍だったみたいだね」
「とんでもないです」
「謙遜しなくてもいいよ。魔族を単騎で打ち破れる者なんて、君とルナぐらいしかいないからね」
「恐れ入ります」
「今日来てもらったのは、君の冒険者ランクについてだよ」
「はい」
「今日から君はプラチナランク冒険者だ」
「え!プラチナですか?」
「おや?不満かい?」
「とんでもないです……ジンさんにゴールドぐらいと聞いていたもので」
「そうだね、魔族だけだったらゴールド止まりかな?でも君はベリアルも撃退してるよね。それに魔族の襲撃計画も事前に突き止めただろ。本当ならダイヤクラスでもおかしくないよ」
「ベリアルの件も知っておられたのですね」
「まあね、ロランから話を聞いた時は、信じてなかったんだけどね。昨日の件でロランの話も納得したよ」
「なるほど……」
「ちなみにダイヤになりたかったら、聖皇国のギルドに行って、この紹介状を渡すといいよ。それに見合う成果を上げたらダイヤになれるからね」
紹介状を受け取った。
聖皇国……ルナ達に会える……しかし……
「聖皇国に行くのは、直ぐじゃなくても問題無いですか?」
「ああ、もちろんだよ」
「ありがとうございます」
「襲撃計画が気になるのかな?」
「はい、この町は僕のセカンドライフの故郷なので」
「セカンドライフ?」
「いえ、気にしないで下さい」
「魔族を簡単に倒しちゃう君が防衛戦に参加してくれるのは、とても嬉しいよ」
「その魔族ですが、クローズの森を抜けたところに集結していますよ」
「おや」
「魔族の数は30人……恐らくグレンデルと思われる魔物は……最低でも500頭はいますね」
「そんなにいるのかい!?でも、何故そんなことがわかるんだい?」
「探知魔法をずっと向けていますので」
「ふむ、私も探知魔法を使ってるんだけどね……そんなに遠くまで探れないよ」
「あ、方角を絞っているからです。昨日の時点で目星はつけていましたので……」
「若いのに、抜け目がないね……」
「魔族の襲来は、クローズの森方向、魔族は僕達のことを歯牙にも掛けていませんでしたので、正面からくると思います」
「そうだろうね、魔族にとって人間は虫ケラ程度の存在だろうからね」
「魔族ってそんなに凄いのですか?」
「魔王と戦える君には分からないだろうね、魔族一人当たり兵500に相当すると言われているよ。だからその計算だと今回の襲撃は15000の兵を相手にするようなものだよ」
「それは、かなりヤバいですね……」
「マイオピアの警備兵は1000程度だからね、数で勝ってても、どうしようもない戦力差だよ」
「冒険者が主力になるのでしょうか?」
「まあ、そうだね。ルナ達が居ない嫌なタイミングでの襲撃だよ」
「30やそこらの魔族なんか物の数じゃないわ」
久々にウンディーネの登場だ。
「ウンディーネ、起きてたんだ」
「う……ウンディーネだって?」
「そうよ、私が四大精霊の1人、水のウンディーネよ」
「こ、これはたまげたね……ウンディーネ様と会えるだなんて夢にも思ってなかったよ」
ギルドマスターでもこの驚きよう。やっぱりウンディーネは凄い精霊なのだと再認識だ。
「何か考えでもあるのですか?」
「ちょ……ちょと待って……君はウンディーネ様と普通に会話しているけど、もしかして、契約してるのかな?」
「ええ、まあ一応」
「……そ……そうなんだ……」
「ウンディーネ、さっきの続きだけど」
「タイダルウェーブを使えばいいわ」
「タイダルウェーブ……津波……それって街は大丈夫なの?」
「辺り一帯水没するわね」
「ダメです!却下です」
「何でよ!あっという間に魔族を一網打尽にできるわよ」
「いや、でもそれじゃ、戦う意味が……目的は魔族討伐じゃないですよ。街とそこで暮らす人を守ることです」
「うぅーまどろっこしいわね」
「もう少し規模を抑えた魔法はないのですか?」
「そうね……ウォーターバレットを100万発ぐらい撃ち込んじゃう?」
「それって僕の魔力で足りますか……」
「あ……」
「うーーん、私の魔法はどれも規模が大きいわ」
「そんな気がしていました。防衛戦には向かない系ですよね」
「何よー!そんな言い方しなくてもイイじゃない!ハルトのバーカ」
「あのぉ……私の部屋で私を置いて話を進めないで、欲しいのだけど……」
「すみませんレビットさん」
「昨日ぐらいの強さの魔族なら、30人いても問題無いのですが、1人凄いのがいるんですよ、魔力だけならベリアル以上じゃないですか?」
「うーん……本当ね、化け物が紛れ込んでるわね」
「さすがに、コイツが居ると選択肢が限られてしまって」
「雑魚の始末はレーヴァテインとクレイヴソリッシュに任せたら?あの子達は神だし、きっと瞬殺してくれるわよ?」
「ダメじゃ、実体化して戦えるほどの神力が無い」
「主、テメーがいつまでもグズグスしてるのが悪いんだからな」
「お二人とも久しぶりです」
「あのぉ……」
「あっ、はい!」
「そちらの方々は……」
「ワシはレーヴァテインだ」
「妾はクレイヴソリッシュだ」
「この2人は剣神、つまり神よ」
「へ……」
その後しばらくレビットさんは固まってしまった。ギルドマスターと言う要職についている方でも、この自体はなかなか飲み込めないようだった。
精霊と剣神の登場で、収集がつかなくなりそうな空気になって来たので、探知を向ける方角だけレクチャーして、僕達はギルドを後にした。
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