第18話 編入生
皆んなの勧めと、アレイスター先生の助力で、僕は魔法学園に無事、編入出来る事となった。年齢は自己申告で17歳と言うことにしておいたが、日本で言う所の高校一年生、15歳から16歳のクラスに編入することになった。1学年下の子達と机を並べる事になるが、そんなことは気にならない。何故なら僕は37歳のおじさんだからだ。今更一つや二つの差なんて、なんて事ない。むしろおじさんが今更学校へ通っていいのだろうかと言う、背徳感でいっぱいだ。
編入初日なので、職員室に向かい、アレイスター先生を訪ねた。
「アレイスター先生、おはようございます」
「うむ、おはようハルト、いよいよ今日からだな」
「はい……緊張してます」
「私とあれほどの勝負を演じておきながら緊張か……やはり君は変わり者だな」
「あははは、性分ですかね」
「そやつが、例のレヴィの教え子かえ?」
「これは学園長、仰る通りレヴィの弟子、ハルトです」
「はじめまして、ハルトです」
「うむ、私はこの学園の学園長をやっておるマーリーじゃ」
マーリーさんは、見た目と喋り方のギャップが激しい。古風な喋り方なのに、美しいスポーツ・インストラクターのお姉さんを彷彿させる容姿だ。後ろに束ねられた黒髪、麦色の肌に、青い瞳、体のラインがはっきりとわかる黒のワンピ姿だ。
「学園長、お若いですね」
「おや、レヴィの弟子にしては気の利いたこと言えるじゃないか」
「彼は、なかなかの好青年ですよ」
「気にかけてやる、気張るがよい」
「ありがとうございます」
「しかし、お前さんは……」
「なんでしょうか……」
「イケメンじゃのう!今度ディナーでもするかえ?」
「あは、光栄です。機会があれば是非」
「本当に心得ておるのう、その機会を楽しみにしておるぞ」
ガチで行きたいと思える美貌だ。
「はい」
「お美しい方ですね」
「そうだな、私もあのような歳の取り方をしたいものだ」
アレイスター先生なら間違いありません。
「さて、では君をクラスに案内するとしよう」
「よろしくお願いします」
「因みに担任は私だ、よろしくな」
「よろしくお願いします!」
作為的なものを感じるが、美人担任は超ラッキーだ。
校内は、僕の通っていたキャンパスよりも断然綺麗で、近代と中世が融和されたような造りになっている。
「ここが、今日から君が通うことになる教室だ」
「は……はい」
「何だ、君は本当に緊張しているのか?」
「は、はい」
「かわいいな」
「え」
ヤバい、今心臓が止まるかと思った。
アレイスター先生に先導され、教室に入ると見知った顔があった。
エイダ、シド、レミ、ソラである。皆んな同じクラスだったようだ。
「彼は、今日からこのクラスに編入するハルトだ。ハルト、自己紹介を」
「ハルトです……よ、よろしくお願いします……」
「…………」
「何だもう終わりか?」
「何を話していいのか分からなくて……」
「ふむ」
「まあ、いいだろう、皆んなよろしくしてやってくれ」
『『ハイ』』
「では、君の席は……ルーシーの隣がいいな、彼女はクラス委員だ。分からない事は彼女に聞くといい」
「は、はい」
「ルーシーさんよろしくお願いいたします」
「よろしくぅハルト」
ルーシーは活発な感じの子に見える。
「ああー1つ言い忘れていた、ハルトはダブりだ。皆んなより1つ歳上だが、いじめないようにな」
言い方……
「では、早速授業をはじめる」
1限目は、魔力についてだった。魔力の高めかたや、濃度の調整など、今まで何となくやってきた事の裏付けが取れる内容だった。
曖昧さについての許容範囲がかなり広く、解釈次第では無限の可能性を秘めているように感じた。それと同時に、この曖昧さを潰していけば、魔法習得の個人差はかなり少なくなるのでは?とも思った。
1限目が終わるとエイダが僕の席にやって来た。
「ハルトくん、今日から同級生」
「ですね、改めてよろしくお願いします」
「ハルトさん」
「うん?」
「この間は生意気言ってすみませんでした!」
シドの変わりようがすごい。
「僕の方こそ、大人気ない事してしまって、申し訳なかったです」
「大人気ないって1つしか変わらないのに……」
すかさずレミがツッコミを入れてきた。
「いやぁ、口ぐせみたいなもんで……」
「変わった口ぐせだね」
被せてルーシーさんから、ツッコミが入った。
「いやぁ、ボキャブラリーが足りなくて」
我ながら苦しい言い訳が続く。
「ハルトさん!この間の魔法何ですか?」
ソラもえらい変わりようだ。
「私も聞きたい!」
「俺も聞きたい!」
いつの間にか、僕の席に人だかりが出来ていた。
「この間、使った魔法は3種類ですね、ミストとウォーターバレットと、ウォータープリズンです」
「ウォーターバレットなんて使ってたっけ?」
「100発単位で使ってたので、分かりにくかったと思います」
『『100発単位!?』』
「ウォータバレットは初級魔法だけど……100発なんて撃てねーよな……」
「う……うん」
「ミストって、どこで使ってたんですか?」
「ファイヤーストームとかサンダーボルトの打ち消しに使ってましたよ」
「ミストで魔法を打ち消せるのか……」
「結構濃度は濃くしてましたので」
「ウォータープリズンって何ですか?」
「先生を水に閉じ込めた魔法で僕のオリジナルです」
『『オリジナル!』』
「他にもオリジナル使えるの?」
「むしろ基礎魔法とオリジナルしかまだ使えないです……」
『『え』』
「ハルトくん、何故そうなる」
「レヴィが基礎とそれの応用しか、教えてくれなかったもので……」
『『レビ様が!』』
「やっぱりレヴィ様が師匠って噂は本当だったんだね!」
「まあ、一応」
今日は1日こんな感じで質問攻めが続いた。久しぶりの学校は緊張の連続だった。それと社会人を経験したことで、集中力が高まったのか、授業が終わった後の疲労度が、学生時代とは比較にならなかった。
「あー疲れた……」
思わず声に出てしまった。
「そんなに?」
今日1日ルーシーはずっと僕のことを気にかけていてくれている。
「ああ……こんな本格的な授業は、初めてだったもので……」
「へー、レヴィ様とはどんな感じだったの?」
「レヴィは……とにかく実戦でした……体で覚えろが口癖で」
「なんか意外!もっと、知的な感じと思ってた!」
「レヴィは魔法は感性だと言ってましたよ、彼女は天才肌なんですかね」
「ハルトくん、自主トレ付き合って」
いつもながらエイダは唐突だ。
「いいですよ、この間話してた単体の出力上げるやつやりましょうか」
「うん、お願い」
「ねえ、ハルト、エイダ私もご一緒していい?」
「僕はいいですよ」「問題ない」
「俺も参加したい!」「私も!」「俺も!」「私も!」「私も!」
結局大半のクラスメイトと自主トレすることになった。
___比較的威力を上げやすい、ファイヤーバレットの説明から入った。
「ファイヤーバレットは、大まかに3つの工程があります」
「うんうん」
「1つ目は炎の生成、2つ目は加速、3つ目は爆発、ファイヤーバレットを強化するには、漠然と強い魔力を流し込むのではなくて、この工程一つ一つを強化する必要があります」
「なんだか、よくわからない」
エイダがよくわからない理由は、仕組みを詠唱に頼り、曖昧さを許容している弊害だと感じた。
「じゃぁ、一つ一つ実践しますね」
「お願い」
「まず、炎、これをもっと強く燃焼させます」
「何それ……色が変わった」
「うん、炎は温度が上がると色が変わります。強い燃焼は、より熱くって考えた方が分かりやすいかも知れないですね」
「なるほど……」
「次に、加速、これは単純ですよ。炎を着弾させるまでの速度を速めるだけです。この炎を的にぶつけた時、速く当たった方が衝撃が強いですよね」
「うんうん」
「これだけも、威力が上がります。後、避けにくいですよね」
「なるほど」
「最後に爆発、これはちょっと難しいかもしれませんが、的に当たる瞬間、さらに炎を強くすれば、より強力になります。ここは炎に込める魔力量を増やすのが手っ取り早いかも知れませんね」
「むずかしい」
「じゃぁ、一連の魔法をあの的に向けてやってみますね」
「うん」
僕は的を目掛けて強化したファイヤーバレットを放った。
「ドオゴォォォォォォォォォォォォォォォン」
ちょっと張り切り過ぎた。的周辺で大爆発を引き起こしてしまった。
『『…………』』
「ハルトくん、今の……」
「ちょっ……ちょっと張り切り過ぎちゃいました……」
「ねえ、いまファイヤーバレットの説明だったよね?」
「エクスポロージョン並みの破壊力だったよな……」
「つか……これ、やっぱ怒られます?」
『『多分』』
「ま……まあ、そんなわけで、ファイヤーバレットも強化すると結構使えるんです!!」
「使えるなんてもんじゃないだろ……」
「殺傷度Sだよね、どう考えても……」
「何だ今の爆発は」
爆発音を聞いたアレイスター先生が駆けつけてきたので、事情を説明した。
「あの爆発がファイヤーバレットか……」
「はい……つい張り切ってしまって」
「君の校内での魔法の使用は自粛が必要かも知れないな……」
「はい、以後、気をつけます……」
こんな感じで、僕の学園ライフが始まった。因みにこの事が原因で僕の自主トレは、郊外の演習場、もしくは闘技場で、アレイスター先生立会いのもと、行うことが義務付けられた。
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