第17話 ウンディーネの疑問

 早朝、皆んなは出発した。僕はボッチ……のはずだったのだが、1階の待合いでウンディーネとくつろいでいる。


「ねーハルト、前から思ってたんだけど」


「なんでしょうか?」


「何でレーヴァテインとクレイヴソリッシュの力を解放しないの?」


「え……何ですかそれ?」


「またまたぁ」


「うん?」


「あれ?本気で知らなかった?」


「知らないも何も、何の事だかさっぱりです」


「んとね、ハルトとルナが模擬戦やってるじゃない?」


「はい」


「あんなの普通、ありえないからね?」


「それって、どう言う意味でしょうか?」


「ルナの剣は聖剣グラム、聖剣なの」


「はい」


「ハルトの2振りは、レーヴァテインとクレイヴソリッシュ、神剣なの」


「はい」


「ここまで言っても、分からないのね……」


「すみません……」


「まあいいわ、教えてあげる」


「ありがとうございます!」


「聖剣が、神剣と打ち合えるなんて、本来あり得ないのよ。普通なら、とっくにグラムは木っ端微塵よ」


「えっ」


「まあ、ベリアルとやった時から感じていたけどね……」


「そうだったんですね」


「ねぇ、ちゃんと契約した?」


「してないです……」


「だからね……」


「契約ってどうするのですか?」


「んー本人に聞けば?」


「本人?」


「2人ともいい加減、出てきてあげたら?」

 ウンディーネがそう言うと、神剣がひとりでに輝き出した。


「仕方ないのじゃ」


「しゃーねーな」


「えっ」


 僕の前に、2人の絶世の美女が現れた。


「ワシはレーヴァテイン、テメーに付き従ってる剣神だ」


 燃えるような赤い髪と瞳、レーヴァレインが醸し出すその雰囲気は、ただ居合わせているだけで、屈してしまいそうな剣神に相応しい力の波動だ。


「妾はクレイヴソリッシュ、汝につき従うておる剣神じゃ」


 クレイヴ・ソリッシュが妖艶な笑みを浮かべる。青い髪に、青い瞳、透き通るような白い肌、そのたたずまいは剣神に相応しい神々しさだ。


「え、……えーと……ハルトです」


「知っておるよ。フレイヤからくれぐれも宜しくと、頼まれておる」


「おい我が主、もっとシャキッとしろよ」


「はい、……すみません……」


「ねえ、何でアンタ達、本気出してないの?契約してないの?」


「久しいの、ウンディーネ」


「あっ、確かにそうね、2人とも久しぶり」


「契約はしておる。でないと刀身が出ぬぞ」


「あ、そうだったわね」


「それにな、ウンディーネ、お主は勘違いしておるぞ」


「何を?」


「本気を出していないのは、妾達ではない、主様じゃ」


「え、何で……」


「こいつはな、生意気にもワシらの力を抑えてんだよ。力を解放しねーのはこいつのせいだよ」


「そんな事ありえるの?」


「それが事実じゃ」


「えーっ……ハルトはこのこと知ってた?」


「知ってたかと言われれば、知ってたのかもしれませんが……なんと言うか、神剣を使う時って、力の波動が凄いんです。それを抑えなきゃって意識はあったかもしれません」


「それだ!」


「無意識にやっておったとは、驚きじゃのう。妾は小娘のグラムを叩き折らぬ為に、やってるものじゃと思っておったわい」


「まあ、結果正解だろ。グラム云々は置いといて、こいつの身体はまだ、ワシらの全力に耐えきれねーよ」


「そんな問題もあるのね……」


「こいつは、まだハーフだしな」


「あっ、そう言う事ね」


「どう言う事ですか??」


「うーん、そうだな……」


「神剣初心者ってことじゃのう」


「そ、そう!そんな感じ!!」

 なんか違う気がする……


「ま、そんなわけで、これからもボチボチよろしくな!」


「よろしくなのじゃ」


「よろしくお願いします」


 イマイチ何のことだかわかっていないが、今のままではダメみたいだ。


「おい、我が主」


「はい……」


「どっちが主かわかんないわね」


「力加減は、ワシらに任せてみるか?」


「えっ、そんな事出来るんですか?」


「主様が抑え込まなければ可能じゃ」


「じゃぁ是非お願いします!」


「ワシらとも念話が出来るから……微調整はそれでやろう」


「じゃぁ、次から是非、お願いします」


「もう、用は済んだか?」


「そうね済んだわ」


「じゃぁ、ワシは戻る、久々の現世でまだ時差ボケがなおんねーんだよ」

 どんな時差があるんだろうか。


「妾もじゃ、またの主様、ウンディーネ」


「はい、ではまた」「まったねー」


 また、美女の知人が出来てしまった。この素晴らしいセカンドライフ、フレイヤ様には感謝しかない。て言うか、神剣が実体化できるとか全然しらなかった。


「実体化出来たんですね……」


「神が宿ってるからこその神剣だからね、聖剣とは明らかに違うわよ」


「なるほど……」


「もうひとつ思ってた事があるんだけど……」


「何でしょうか?」


「何でチマチマ訓練したり、魔法学校に行ったりするの?」


「何でと言われても……僕の実力がまだまだ……だからですかね……」


「いやいやいやいやいやいやいや!それ!おかしいから!」


「えっ何でですか?」


「あのねー……ハルト……アンタは無自覚過ぎるわね!」


「すみません……」


「まず、私と契約してると言う事実。これだけで、どれほどの力が有るのか分かる?」


「知らないです。すみません……」


「はぁ……だと思ったわ……」


「すみません……」


「何回も何回も謝んないでよ!」


「すみません、気を付けます!」


「アンタねぇ……言ってるそばから……」


「すみ……うぅ」


「もういいわよ、好きにして……」


「はい……」


「話しが逸れたわね……簡単に言うわ」


「はい」


「私と契約すると魔法だけで世界を滅ぼせるわ」


「へ……」


「それぐらいの力が宿るのよ……なのに何故、今更魔法学校なんかに……」


「そうですね……力だけで言うと意味のない事かも知れません。でも、僕は世界を征服するつもりもありませんし、力だけでは、世界が良くならないことも、知っています」


「ふむ」


「フレイヤ様に色んな力を与えてもらって、色んな順序をすっ飛ばしたからこそ、順を追ってその価値を知りたいんです」


「何気に考えてるのね」


「もちろん、ルナに精神面の弱さを突かれた事もあります。でも、僕……この世界好きなんで、世界を良くするためにも、力の価値を正しく知る必要があるんです」


「ふーん、分かったわ。やっぱりアンタを選んで、正解だったわ」


「ありがとうウンディーネ、ウンディーネは偉大な精霊なのに、人間味に溢れてますよね、そんな所も含めて、尊敬していますよ」


「な、な、な、イキナリ何よ!」


「語ってたらちょっと熱くなってきちゃったかもです」


「じゃぁ、熱くなったついでにもう一つ語ってちょうだい」


「なんでしょうか」


「アンタは一体、誰が本命なの?」


「な、な、な、何の事でしょうか?!」


「とぼけないでよ、分かってるでしょ」


「は……はぁ……」


「やっぱりルナ?それともエイダ?」


「そんな事イキナリ言われても……」


 ぶっちゃけルナの事は意識しているが、言われてみると、ルナだけを意識しているわけではない。


「ハルトさぁ、その辺ちゃんと意識してないと、今の人間関係無くなっちゃうよ?」


 やっぱりウンディーネは人間味に溢れている。


「僕……こう言う経験とか展開、無かったので、どうすれば良いのか、さっぱりで……」


「モテなかったのね」


「そんな次元じゃありませんよ……孤独が友達ですよ……基本、1人でした」


「それは……」


「親は?」


「僕が幼い頃に他界しています」


「……と……友達も居なかったの?」


「そうですね……友達と遊んだ事もありませんね」


「よくそれで、真面に育ったわね……」


「僕は意気地なしでしたので、危険を犯す勇気も無かっただけですよ……」


「アンタとはじめて出会った時の闇の正体が分かった気がするわ……」


「あはは……」


「うん、ハルトについて掘り下げるのは止めましょ」


「ですね……」


「でもねハルト、そんなのはただの言い訳よ。自分の態度をハッキリさせないと、自分に返ってくるわよ」


「でも、それって相手が僕に好意がある前提ですよね?」


「はぁ……アンタって噂通りヘタレなのね……」


 精霊界でもヘタレの噂が出回っているのだろうか。


「その辺も踏まえてって事よ!」


「が……頑張ってみます」


「この世界が一夫多妻でよかったわね……最悪全員責任取るって選択もありよ」


「友達1人すら居なかった僕からしたら、別次元の話しみたいです」


「よかったわね、現実味が帯びて」


「いや……まあ……はい」


「兎に角、アンタは色々無自覚過ぎるわ。アンタは私と契約もしているんだし、色々自覚もちなさいよね!」


「分かりました」


 ウンディーネの素朴な疑問から剣神とご対面することになったり、朝から色々と濃い時間を過ごしてしまった。でも確かにウンディーネの言うように、無自覚で済まされない問題もある。力の行使には責任が伴う、まさか自分がそんな立場になる日が来るとは……これからは、ちゃんと考えないとダメだ。


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