第16話 勇者パーティーの旅立ち
エイダを送り届け、レヴィに事情を確認するため、急ぎ足で帰宅した。レヴィは何故、魔法学園入学をお願いしたのだろうか。まさかとは思うが、お酒に酔った勢いではないだろうか。まず、本人に確認してみる事にした。
「魔法学園入学だぁ?……うん……覚えてないな!酔ってたからじゃね?」
僕の推理は正しかった。
「なるほど……納得しました」
「いやーしかし模擬戦でアレイスターを負かしちまったのか……さすがウチの弟子だな!」
「いやでも、実戦なら負けてましたよ。発動点のコントロール恐ろしいですね」
「アレな……全くだ」
レヴィも苦労させられたのだろうか。
「では、魔法学園の件はお断りしておきますね」
「ちょい待てぇー!」
「うん?」
「実は……ウチらな、ギルドの依頼でしばらく聖皇国に行くことになったんだ」
「おーっ!それなら僕も着いて行きますよ」
「ダメよ、ランクが足りないもの」
「ルナ……」
「ハルト、今回の依頼は各地のギルドから、複数のチームが参加するの、プラチナ以上のね」
「…………」
「言いたい事は分かるわね?」
「はい……」
「ハルト、アンタは強くなったわ……実力的には充分戦力よ……でも、ギルドのルールは無視出来ないの」
「まあ、そう言う事だ!」
「うぅーなんか悔しいです」
「なら、私たちが留守の間に、しっかりランクアップしなさい」
「分かりました……」
「マイオピアでも、プラチナまではランクアップ出来るからな!サボるなよ!」
「はい!」
「で、だな、遠征中ウチらが修行してやれねーから、魔法学園に入れ」
「え」
「そうね、それがいいわ」
「冒険者と両立ですか?」
「当たり前だろ?」
「えーっ」
「何よ、出来ないの?私たちの力になるんじゃないの?」
「うぅっ……やります……」
「何だ?その覇気のない返事は!」
「出来ます!魔法学園とランクアップ両立します!」
「いい返事よ」
「因みに学費は心配ないからな」
「えっ……何故です?」
「アレイスターに頼んだのは特待生扱いだからな!学費も免除だ!」
「頼んだ?」
「あ……」
レヴィは超気まずそうな表情を浮かべる。
酒の勢いでは無く、しっかり僕の事を考えてくれていたようだ。
「で、いつ出発ですか?」
「明後日よ」
「分かりました。因みにどんな依頼なのですか?」
「聖皇国で新しく見つかった遺跡の調査よ」
「聖剣、あるかも知れねーしな」
「なるほど……」
「まあ、学業もクエストもしっかり頑張れ!」
「はい!」
僕もこの世界に来てしばらく経つ。僕の常識の中の勇者は、世界中の期待を一身に背負い、敬われ、目的の為ならば、ある程度の融通が効く人物だ。しかし、現実はそれとは違った。
概ねは、僕の常識と変わり無いのだが、妬みが酷いのだ。特別扱いされる勇者に対する妬みは、クエストの妨害工作にまで発展する事がある。
それだけにルナは慎重なのだ。
___翌日、出発前日だと言うのに、ルナは模擬戦を行なってくれると言う。
「ハルト、今日は久しぶりに実剣でやるわよ」
最初の模擬戦以降は、ずっと木剣だった。
「え、危なくないですか?」
「それぐらいコントロール出来るでしょ?」
「確かに……」
「アンタの成長を確かめたいの、私達で鍛えたアンタの成長を」
「分かりました」
「じゃあ、最初から全力で行くわ」
「望むところです」
ルナは宣言通り、白い光につつまれ、もの凄いスピードで斬り込んで来た。僕はそれに応じ、剣で迎撃した。あの頃とは違う、互角の打合いだ。打ち合いの最中、ルナはわざと隙を作った。何か誘っている様子だ。僕はその誘いにあえて乗った。想定通り軽くいなされ、大きな隙を作らされてしまった。
ルナは距離をとり、出会った時に僕を助けた技。遠距離の斬撃を放ってきた。シールド魔法でこれを防ぐも、その隙に懐まで一気に迫られ、ファイヤーバレットをゼロ距離で打ち込まれた。
初級魔法とは言え、ゼロ距離で食らうと結構効く。その後はルナの技のオンパレードだった。僕はその一つ一つを目に焼き付けた。流石に遠距離の斬撃などは無理だが、純粋な剣技であればイメージ動作補正で吸収できるからだ。
「ハルト……アンタどんだけ頑丈なのよ!いい加減倒れなさいよ!」
「え……」
「え、じゃないわよ!……ホントに……」
「僕、何かしました?」
ルナが無造作に僕に近付いて来て、綺麗に顎先に右フックを炸裂させた。
僕がKOされたのは言うまでもない。
目を覚ますと、ルナを見上げていた。
(これは……もしかして膝枕……)
僕はもう一度目を閉じて頭の感覚を確かめた。
(……柔らかい)
もしかしてルナはこの件(くだり)を再現したかったのか……
「気付いてるんでしょ」
「え……」
どっちの意味だろう……
「起きるの?それとももう一度眠りたい?永眠かもしれないけど」
「ごめんなさい、起きます」
「もう少しだけならいいわよ」
「え……」
「なに?嫌ならすぐやめるけど?」
「ぜ……是非お願いします!」
やっぱりこの件(くだり)を再現したかったようだ。ちょっと強引過ぎる……素直じゃないにもほどがある。
「ハルト、ゴメンね」
「え……」
「仲間なのに、アンタを連れて行けなくて」
「大丈夫ですよ!しっかり留守を守りますので!」
「ハッキリ言ってプラチナランクの冒険者より、アンタの方がよっぽど頼りになるんだけどね」
「そう言ってもらえて、嬉しいです。僕も、クエストはサボってましたし……ちゃんとランクアップしときます」
「期待してるわ」
期待に応えれるように頑張るしかない。
「……ね、ねえハルト」
珍しくルナの歯切れが悪くなった。
「はい」
「あの、魔法学園のあの子」
「ん?……エイダの事ですか?」
「そ、そう……メガネのエイダさん」
「エイダがどうかしたのですか?」
「あ……あの子……可愛いわね!」
「た……確かに可愛いですね……」
何が言いたいのだろう。
「ハルト……あの子、……エイダさん」
「はい」
「付与魔法が得意なんですってね」
「そうなんです。でも、実技は苦手だと言ってました」
「そ……そうなんだ」
本当にどうしたんだろう。
「は……ハルト……」
「はい」
「あのね、あの……」
あ……これは……
「ハルトはエイダさんと……その……」
これはもしかして……
「つっ……つつつ、付き合ってるの!?」
やっぱりだった。しかし、こんなにヘタレなルナ、はじめて見た。
「付き合ってませんよ」
「そう」
ルナはホットした表情だ。
ん?ルナはもしかして僕のことを……
「いつもカフェで楽しそうに、話してるから付き合ってるのかと、思ってたわ」
「え……知ってたんですか?」
「そりゃ、オープンカフェでイチャつかれると、嫌でも目に入ってるくるわよ」
「声、掛けてくれたら良かったのに……」
「嫌よ!もし、付き合ってたら気不味いじゃない」
「そんなもんなんですかね」
「だって私達、同じ家に住んでるのよ?そんなもんよ」
「なるほど……」
「いくら私達が、姉弟みたいな関係でも、向こうは気にするでしょ」
やっぱり思い過ごしのようだ。弟からのランクアップはまだ遠い。
「どっちにしても杞憂(きゆう)でしたね」
「そうね、じゃあ今日はここまでにして、帰るわよ」
僕が殴られた理由は、たったそれだけだったみたいだ……
「はい」
家に帰ると皆んな揃っていた。しばらく会えなくなるので、飲みに行く話にもなったが、出発が明朝なので、家飲みになった。
「ハルトぉ、私達が居ない間に、学校の子連れ込んだらダメだよ?」
「しないですよ!そんな事」
「どうだかな!お前もしっかり男だからな!色々事情もあるだろ?」
レヴィは悪意に満ちた表情だった。
「ん?色々って何だ?何か困りごとか?」
また答えにくい質問だ。
「ハルトはナニに困ってるんだよねーぇ」
これこれ、エイル、そんな事言わない!
「な、な、な、何の事でしょうか?」
「辛そうだし、この辺にしといてやるよ!」
非常に助かります。
「まあ、良識の範囲ならいいわよ」
自分では良識の塊と思っているのですが……
「しかし学生か……懐かしいな」
「ねー」
「もしかして、皆さん同級生ですか?」
「察しがいいな!その通りだ!」
「ロランは違うと思ってました」
「まあ、今の私を見ればそう思うだろうな」
「でも、ロランは、レヴィに次ぐ学年次席の序列2位だったのよ」
「へ……」
「天は二物を与えちゃったんだよね」
「ちなみに1位はウチで、エイルは4位、ルナは5位、アレイスターが3位だ」
「皆んなすごいですね……」
「でしょ」
「でも、ロランの衝撃が強過ぎて……」
「だろうな!剣だけ極めてますってキャラしてるしな」
「ルナと張り合っていた結果だ。私もこうなるとは予測していなかった」
「えっえっえっ!」
「私とロランは幼馴染でずっとライバルだったのよ、私が剣をはじめたのはロランの影響よ」
「私が魔法をはじめたのは、ルナの影響だ」
「な……なんか人に歴史ありですね……」
「ハルト、お前、時々おっさんくさいこと言うよな」
実際おっさんだ。
「いいじゃないですか、お互い高め合えるなんて……僕はずっとボッチでしたよ」
『『ボッチ?!』』
「なんだ、負に満ちたその響きは……」
「えっ、そんなこともないですよ」
「ねえ、ボッチってどう言う意味なの?」
「独りぼっちのことですよ」
『『!!!!』』
「ハルトって可哀想な人だったのね……」
「いえ、別に可哀想じゃないですよ」
「え、お前の感性どうなってんだよ!」
「えっ……そんなに可哀想です?」
『『うん……』』
「ひ……人に黒歴史ありね……」
ボッチ知らなくて、なんでそんな言葉知ってるんだろう。
その後も、ひとしきり僕の黒歴史が掘りあさられ、出発前の貴重なひと時が終わった。言葉を重ねれば重ねるほど、皆んなが優しくなっていくのが、逆に辛かった。
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