第15話 魔法学園への誘い

 ひょんな事から魔法学園の先生と模擬戦を行うことになった。学園内でもかなり人気の先生で、彼女の模擬戦を観れると言うことに、生徒達は嬉々としている。


 対戦相手のアレイスター先生は、僕の魔法の先生であるレヴィとは対照的に、大人の魅力むんむんだ。少し濃い色の茶髪に、ゆるふわロング、整った目鼻立ち。トップモデルもびっくりな容姿だ。ヘタレの僕では真面に目も合わせられない。


「誰か開始の合図を頼む」


「はい!」

 レミが開始の合図をやってくれるそうだ。


「はじめ!」


 開始の合図と同時に魔法を放って来たシドとは対照的に、アレイスター先生はこちらの出方を伺っている。これが大人の余裕と言うやつか!

 

 まあ、実際には僕の方が大人なんだけど……


「何だ来ないのか?」


「レディーファーストです」


「フッ、いいだろう。私から行こう」


 アレイスター先生は小手調べとばかりに、サンダーボルトを放って来た。僕はミストでサンダーボルトを飛散させた。


「ほう、君は水魔法が得意なのか」


「はい」


 アレイスター先生は無数の火の矢を放って来た。僕はそれをウォーターバレットの弾幕で、迎撃した。


 その隙に、アレイスター先生は爆炎魔法の詠唱を完了していた。先生クラスになると抜け目がない。僕は水の壁で、それを防いだ。


 すると今度は、明後日の方向から、無数のファイヤーバレットが放たれた。僕は冷静にウォーターバレットの弾幕で、迎撃した。今の攻撃は一体何だったんだろう。探知がなかったら、真面にくらっていた。


「ほう、これも防ぐのか」


 その後も先生の魔法は、様々な方向から繰り出された。恐らく魔法の発動点をコントロール出来るのだろう。恐ろしい攻撃だが、ルナとの模擬戦で鍛えられている僕からすれば、まだまだ鋭さがたりない。


 とは言え、アレイスター先生が本気ではないのは分かっている。殺傷制を気にしてくれているのが手に取るようにわかるからだ。この気遣いレヴィにも欲しいところだ。


 しかし、そんな手心を加えられた、この全ての攻撃は罠だった。


 気が付けば、僕は全方向、爆炎魔法で囲まれていた。アレイスター先生は本当に抜け目がない。実戦なら少なくとも2回は終わっている。


「さあ、どうする?殺傷度Aの魔法に取り囲まれてしまっては、流石の君もどうする事もできまい?」


 レヴィとの修行で、このケースは想定済みだ。


「問題無いですよ。来てください」


「そうか……安心するが良い、当校のヒーラーは優秀だ、死ぬ事はないだろう」


 全方向から爆炎魔法が放たれた。僕は球状の水の壁と、小さな水球をセットにして幾重にも自分を囲んだ。全方向から来る爆炎魔法は強力だったが、多重構造のこの壁を突破する事は出来ない。


 そして、魔法の着弾と同時にアレイスター先生を水の檻に閉じ込めた。檻の外も水の檻で取り囲んだ、多重構造の檻だ。


「降参するなら右手を上げてもらっても良いですか?」


 呼吸出来なければ、檻を破壊するほどの大きな魔法の詠唱は出来ない。この檻は魔法士泣かせの檻だ。


 仮に破られても、外側の檻がターゲットを逃さない無限監獄。因みに僕のオリジナル魔法だ。


 アレイスター先生はしばらく思案していたが、悟ってくれた様子で右手を上げてくれた。


 シドを打ち破った時と同様に闘技場は静寂に包まれている。


 一呼吸おいて闘技場が騒つきだす。


「お……おい、アイツ……アレイスター先生に勝っちまったぞ……」

「レヴィ様と並び称される、アレイスター先生だぞ」

「嘘だろ……」

「世界の魔法のトップだぞ……」


 意外な結末への歓声はなかった。アレイスター先生がこちらに向かってくる。


「見事にやられてしまったな」


「でも、実戦なら最低2回は終わっていました」


「フッ、これは模擬戦だ、君の勝ちだよ」


 勝負とは関係ないが、アレイスター先生の濡れ髪は破壊力が高すぎる。真面に見れない。


「すみません、濡らしてしまって」

 

「構わないさ、そのおかげで無傷だったのだからな」


 エイルに教えてもらった乾燥の風を先生に掛けた。やっぱりアレイスター先生の濡れ髪は目のやり場に困る。


「ほう、こんなサポート魔法まで使えるのだな」


「まだまだ勉強中ですが……」


「最後の魔法は君のオリジナルか?」


「はい」


「ユニークな魔法だが、魔術師の弱点を的確についた恐ろしい魔法だな」


「アレイスター先生の発動点コントロールの方が、数倍恐ろしいです」


「見事に見切られてしまったがな」


「あれだけ手加減されると流石に……」


「分かっていたのか」


「はい」


「ハルトくん……アレイスター先生に勝つとか、凄すぎ」


「ありがとう、エイダ」


「んハルト?……ハルト……君の名だったな、そう言えば何処かで聞き覚えが……」

 何だろう、先生と接点があったのかと考えるだけで、ドキドキしてきた。


「思い出した!……そうか!君がレヴィの弟子か!」

 レヴィ繋がりだった。レヴィはロリ顔で口は悪いが、高名な魔術師だからあり得る話だ。


「はい、先生はレヴィのお知り合いなのですか?」


「知り合いもなにも、彼女は学生時代の同級生で、数少ない私の親友だ。最近も飲みの席で君の話しで盛り上がっていたのだ」


「そうだったのですね」


「レヴィが君の事を「イケメンで嫌味の無いやつ」と言っていたので、会ってみたいと思っていたが、その通りだな」


「とんでもないです」

 こんな美人に高評価がいただけるとは、光栄の至りだ。


「ハルトくん、レヴィ様の弟子だったなんて……びっくり」


「嘘だろレヴィ様の弟子だって……」

「シドが敵わないわけだ……」

「アレイスター先生に勝つぐらいだもんな……」


 闘技場の騒めきが増す。そう言えば、事の発端を忘れていた。


「君達、もういいかな?」


「「「はい……」」」


「ハルトくんの実力、充分伝わった。満足」


 アレイスター先生の登場で、本来の目的を忘れそうになったが、ソラ、シド、レミも納得しているみたいなので、取り敢えず問題は解決した。


「では、アレイスター先生、僕はそろそろ失礼致します」


「まあ待ちたまえ」


「はい……」


「ハルト、実はレヴィから君の相談を受けていてな」


「え……」


「抜群の才能があるのに、自分だけでは育てきれぬと言うのだ。レヴィ程の魔術師でも教え子可愛さに、評価があまくなってしまうのかと思ってたいたのだが……どうやら本当だったようだな」


「そんな事は……」


「謙遜しなくてもいい、結果が物語っている」


「恐れ入ります」


「でだな、単刀直入に言うと、レヴィは君をこの学園に入学させて欲しいと頼んできたのだ」


「レヴィが?……」


「私はレヴィの申し入れを受けるつもりだ。そのようにレヴィに伝えてくれないか?」


「ハルトくんが学園に!いい!絶対いい!」


「わ……分かりました」

 寝耳に水だった。魔法だけで考えると学園で学べるのは嬉しいが、それだとロランやルナとの訓練が出来ない。それにクエストも……授業料も……。


「もちろん君自身の考えもあるだろう。じっくり相談するといい」


「分かりました。ありがとうございます」


 何だか話が明後日の方向へ進んでいったが、とにかくエイダと共に学園を後にした。



____「魔法のレクチャーのはずが、随分予定が変わっちゃいましたね」


「うん、ハルトくんなんかゴメンね」


「全然大丈夫ですよ。アレイスター先生との模擬戦はすごく刺激になりましたし、僕の方としてもたくさんメリットありました」


「そう、さすがハルトくん」


「でも、やっぱりシドもソラもレミも、エイダのことが凄く好きなんですね」


「なに?!突然」


「あ、ごめんなさい。ずっと考えてたんですよ……僕はなるべくリスクを犯さない生き方をしてきたので、誰かのために、あの3人のみたいにした事は無かったなって」


「ふむ」


「確かにシドは学年首席かもしれませんが、得体の知れない冒険者を挑発して喧嘩をふっかけるなんて……冷静に考えたらハイリスクですよね?……でもシドはそうした」


「あの子達とは幼馴染、心配が過ぎる」


「やっぱりそう言うことなんですね……なんか悪いことしちゃいましたね」


「そんなことない、向こうが一方的にふっかけてきた」


「そうかも知れませんが、エイダを想っての行動なので……なんとか対話で解決する方法を探すべきだったと反省しています」


「ハルトくん不思議な人」


「え……そうですか?」


「はじめて会った時は、あんまり好きじゃなかったけど、今は好き」


「え……」

 どう言う意味だろう……


「ハルトくんの優しは、見せかけじゃない、ハルトくんの優しさは好き」

 そう言う意味か……


「ありがとうエイダ」


「ハルトくんは、学園に入るの?」


「悩んでます。学園には入りたいですが、経済的な問題や他の問題もありますので」


「ハルトくん、自立してる?」


「知り合いの家に居候しています。とは言え、いくらか生活費は支払っていますよ」


「ご両親は?」


「いません。天涯孤独の身ってやつです」


「なんかゴメン」


「全然気にしていないので、エイダも気にしないで下さいね」


「学生だけは出来ないのね」


「そうなんです」


 レヴィが何を考えてアレイスター先生に、僕のことをお願いしたのかも含めて、皆んなと話し合わないといけない。


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