第14話 魔法模擬戦
最近は訓練の後に、エイダと一緒にいる事が多い。ギルドにガードを依頼すると、それなりに費用が発生する。付与魔法の試作中は微調整が多い為、それではコスト高になってしまう。学生であるエイダがそれを捻出するの結構キツイ。
そんな彼女の悩みをリトンから聞いた僕は、付与魔法を教えてもらえる事を条件に、無料でガードを引き受けている。言うなればウィンウィンの関係だ。
基本的にはエイダのガードを優先している。今日はエイダのガードが無いので街のオープンカフェで付与魔法の勉強中だ。
「ハルトくん、本当に覚えるの早い、びっくり」
「基本的に、攻撃魔法と組み立てかたが似ているからですよ。あとエイダの教え方が上手だからです」
「ハルトくんも上手」
攻撃魔法はオブジェクトで魔法を構成し、放つ。付与魔法はオブジェクトで魔法を構成し、付与する。ロジックに大きな違いはない。付与魔法は開始と終了を明示しなければならないルールがあるが、些細なことだ。
それでも、僕はまだまだ学ぶべき事が沢山ある。元の世界の常識が僕の常識だが、この世界にはこの世界の常識がある。付与魔法はこの世界の常識の写し鏡のようなものだ。付与魔法を学ぶことで自然とこの世界の常識も身につく。正に一石二鳥である。
「そう言えば、合体魔法のステッキはどんな感じですか?」
「もう少し、少ない魔力で出力上げたい」
「魔法単体で先に出力上げた方が、早いかもですね」
「それが出来れば苦労しない」
「ふむ」
エイダは実技が苦手なのだった。
「よければ僕が一度レクチャーしましょうか?」
「本当!?嬉しい!」
「ダメだエイダ!」
エイダと同じ制服を着た3人組が話しに割って入ってきた。
「ソラの言う通りよ、こんな何処の馬の骨とも分からない人に教えてもらうなんて」
「レミ失礼、ハルトくんは冒険者で相当な実力者」
「やっぱり彼が最近、エイダに付き纏ってるって噂の冒険者だったのね」
噂……噂になっているのか……
「冒険者って、お前ランク何だ?」
いきなりお前扱いとは、失礼なヤツだが、エイダの事を思ってイキがってると思えば腹も立たない。
「ブロンズです」
「はん、ブロンズで、腕が立つっていわれてもな」
「シド、貴方よりハルトくんの方が数段上」
「何だと!」
「待てよエイダ、学年首席のシドより、こんな得体の知れないヤツの方が上だって言うのか?」
「そう」
「エイダ……シドは冒険者で例えれば、ゴールド以上の実力なのよ?あなたも知ってるでしょ」
「ハルトくんは規格外、そんな基準、当てはまらない」
味方になってくれるのは嬉しいが、そんなに煽ると……
「おい、お前……俺と勝負しろ」
やっぱりきた。
「ハルトくんの実力を思い知るといいよ」
勝手に受けられてしまった。
「エイダ……それは流石マズくないですか?」
「何だ、お前、怖気付いてんのかよ」
「ハルトくんはいいように、言われて悔しくないの?」
「まあ、僕が言われる分には」
「私も同じ、だから悔しい」
「エイダ……」
「尊敬するハルトくんをバカにされて私は悔しい」
「分かりました。そう言うことなら受けます」
「……よし、着いて来い、逃げんなよ」
僕とエイダはソラ、シド、レミに連れられて学園内の闘技場にやって来た。
「エイダ……部外者の僕が学園内で模擬戦は流石に……マズくないですか?」
「問題無い」
何故問題無いのか教えてほしい。
「エイダ約束して、シドが勝ったら、もうその男には近付かないで」
「嫌」
「エイダ!」
「何故?」
「そんなヤツに頼らなくても、俺達が居るじゃないか!」
「私はハルトくんがいい」
「「「……」」」
「まあ、いい俺が勝てばエイダも気が変わるさ」
僕を置いてけぼりにして、更に話は盛り上がっている。今日に至るまで、一悶着あったのかも知れない。
放課後なのに学園には、たくさんの生徒が残っていた。そして学年首席のシドが、模擬戦を行うと言う噂を聞きつけた生徒達が闘技場に集まって来た。
「エイダさん……結構ギャラリー集まってしましたけど……」
「大丈夫、問題無い」
本当に何が問題無いのか教えて欲しい。
「おい、俺は魔法しか使わねーけど、お前は好きに戦っていいぞ、ハンデだ」
「僕も魔法だけでいいです」
「チッ……調子に乗んなよ」
何だろうこの子達、もしかして魔法学園のブランドってやつなのだろうか。
「ソラ、開始の合図頼む」
「分かった」
学生と模擬戦って、少し気が引けるけど、僕も見た目は学生だと納得するしかない。
「はじめ!」
開始の合図と同時にシドは、ファイヤーバレットを連射して来た。僕は水魔法を手に纏い片手で全て防いだ。以前は雷系が好きだったが、ウンディーネと契約してからは水魔法中心に切り替えている。
「な……何だアイツ、シドの魔法を片手で全部防ぎやがった……」
「すげー」
「マグレだ!」
魔法の対戦に置いてマグレなどあるのだろうか。シドは構わずファイヤーバレットを撃ちまくってくる。
「くそっ!」
そんなに悔しがるような攻撃をしているとも思えないが、悔しがっている。もしかしたら連射自体の難易度が高いのかも知れない。
続いてシドはファイヤーストームで仕掛けて来た。僕はミストでファイヤーストームを無効化した。
「何故だ!?何故ファイヤーストームが効かない?!」
かき消しているからだ。
「もういい、お前にはとっておきをプレゼントしてやる」
そう言い放ち、シドは長い詠唱に入った。この隙に攻撃してもいいのだが、僕もとっておきに興味があった。
「シドの野郎エクスプロージョンを撃つつもりだ!」
「アイツ危ないぞ」
「やり過ぎたシド!」
「模擬戦だぞシド!」
周りがざわつき出した。
「ハルトくん、その魔法は危険!逃げて!」
エイダさんが取り乱していると言うことは余程の威力なのだろう。
「後悔しろ!エクスプロージョン!」
僕はシドの魔法を水の壁で包み、その中で彼の魔法を消滅させた。
『『…………』』
闘技場が静まり返った。
「な……何しやがった……」
「なんか危なそうだったので消滅させました」
「まだやりますか?」
「あっ……当たり前だ!」
仕方がないので彼の足元にウォターパレットを撃ち込んだ。100発ほど。
「ひっ……」
「今のは警告です。まだやりますか?」
「まっ…………参りました……」
ギャラリーも何が起こったか分からず闘技場は静まり返ったままだ。
「さすがハルトくん……規格外の凄さ」
「最近とある事情で、水魔法が得意になったんですよ」
『『『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ』』』
遅れて闘技場が大歓声に包まれた。
「何だアイツ凄すぎないか?」
「シドが子ども扱いだったぞ」
「アイツ何者なんだ」
「あんな数のウォーターバレットなんて見たことない!」
「エクスプロージョンを魔法で完全に押さえ込むなんて……化け物だろ」
僕を称賛する声が聞こえる。悪くない気分だが、騒ぎが大きくなるのは好ましくない。
「お前達、何の騒ぎだ何をやっている!」
案の定、騒ぎを聞きつけた教師が駆けつけてきた。
「シドとハルトくんが模擬戦やってた」
エイダが超簡単に状況を説明した。
「なるほどシドか……だからこのギャラリーか、で結果は?」
「シドの完敗」
「そうか……あの様子だと、そうだとは思っていたが、やはりか」
「ん?君は……部外者だな」
「はい……お騒がせして、申し訳ございません。流石に模擬戦は不味かったですよね?」
「模擬戦自体に問題は無い。放課後、ここは生徒が自由に使っていい事になっている。自ら高ランク冒険者を雇って鍛錬している者もいるぐらいだ」
エイダの言う通り本当に問題なかった。
「そうなんですね……」
「私はアレイスター、当校の教師だ。シドは学内序列でも4位、学年首席の実力者だ。そのシドを倒してしまうとは……君は何者だ?」
「申し遅れました。僕はブロンズランク冒険者のハルトと申します」
「ブロンズの冒険者だと?……」
「はい……」
「シドの実力はブロンズでは敵わない筈なのだがな」
「マグレじゃないですかね」
「謙遜だな」
「とんでもないです」
「シドを倒すブロンズか……フフフ、興がそそった。私とも模擬戦をやってみないか?」
「えっ……」
『『ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァ』』
ギャラリーがすごい盛り上がり方だ。
「アレイスター先生が模擬戦だってよ!」
「激アツだな!」
「先生の模擬戦が観れるとか、運、使い果たしたんじゃないか」
当事者を置いてけぼりにして盛り上がるのは止めてほしい。
「あの……盛り上がっているところ、申し訳ございませんが、遠慮させてください」
『『ブー、ブー、ブー』』
激しいブーイングが巻き起こった。
「この状況でもか?」
「ハァ……」
「ハルトくん、私も観たい!アレイスター先生とハルトくんの模擬戦!」
エイダも目を輝かせている。
「わかりました……お受けいたします」
『『ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァ』』
「ハルトくん頑張って!」
「はい……」
カフェで付与魔法を教えてもらっていただけなのに、有耶無耶のうちに大事になってしまった。せめてもの救いは、ウンディーネが寝ていることだ。
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