第12話 水の精霊ウンディーネ

 夜中に突然、念話でアブハム湖に呼びつけられ、急いで駆けつけると、見たことのない魔物とボスキャラ的な魔物、シーサーペントがいた。かなり危なかったが、僕は魔物とシーサーペントの撃退に成功した。そして念話で僕を呼びつけた、謎の女性の正体はなんと、水の精霊様だと分かった。


「水の精霊様?」


「そうよ、四大精霊の1人ウンディーネよ!」


「四大精霊!!!そ……そんな凄い精霊様が何故僕に?」


「そ……その……念話よ……念話が他に……」


「ん?」


「念話がハルトにしか通じなかったの!」


「……そうだったんですね……で、さっきの魔物は何だったんですか?」


「あれはベリアルの腹癒はらいせよ!」


「腹癒せ?」


「ハルトはこの間ここで戦ったから、ベリアルがここに来ていたのは、知ってるよね?」


「はい……て言うかご存知だったのですね」


「そりゃあんな馬鹿デカい魔力で戦われたら、誰でも気付くわよ……あの時、私がベリアルの誘いを断ったから、その腹癒せにあんな魔物を置いて行ったのよ!」


「あれ、でも調査団の報告では、何も見つからなかったのですが……」


「魔族が使う特殊な魔石をバラ撒いて行ったのよ」

 また新しい特殊アイテムの存在だ。


「ところで断るって?」


「勿論、私との契約よ」


 僕の知っている物語では、四大精霊と契約するとチート級の絶大な力を手に入れることができる。それこそ世界を手中に収める事が出来るほどの……恐らく目的はそうなのだろうが、魔王が精霊と契約なんて聞いたことがない。


「魔王が精霊と契約なんて……聞いたことがありません……」


「私とベリアルは昔契約していたのよ、ベリアルが魔王になる前にね」


「え……」


「まあ、復縁を迫られたって感じね」


「なんでまたそんな……」


「ベリアルは他の3大魔王と比べて、実力で見劣りするわ、だから私と契約してアドバンテージを得たかったんじゃないの?」


 ベリアルは3大魔王の中では最弱のようだ。


「ベリアルって、もしかしたら他の精霊のところにも行くんじゃないですか?」


「行けないわよ、居場所が絶対分かんないから」


「えっ……どうしてすか?」


「だって皆んな精霊界にいるもの」


「精霊界って何ですか?」


「精霊と神々だけが立ち入れる聖域よ」


「なるほど……」


「しばらくこっちに来ないように言っておくわ」


「それが安心ですね」


 ひょんな事でベリアル邂逅の謎が全て解けた。これは皆んなにも報告だ。


「ところでハルト」


「はい」


「あなたは合格よ!私が契約してあげる」


「え……」


「何よ!嬉しくないの!四大精霊と契約出来るなんて滅多にない事なのよ!」


「違いますよ……あまりにも唐突で、まだ理解できていないんですよ」

 前にも同じようなやりとりがあった気がする。


「するの!しないの!」


 精霊様ってもっと穏やかなイメージだったけど、かなりセッカチさんだ。考える隙もない。しかし迷う必要は無さそうだ。


「します!」


「良い返事よ」


「んッッッッッ!!!」


 突然ウンディーネに唇を奪われた。しかも、かなり濃厚に……もしかしてこれが契約の儀式なのだろうか……だとしたらベリアルとは…………。


 流石に不謹慎なので自粛した。


 そして僕は青い光に包まれ、大きな力が流れ込んできた。深海、激流、濁流、波紋、滴、様々な水のイメージが入り込んでくる。そして水が優しく僕を包む。これは胎児の時のイメージなのだろうか。すごく落ち着く。


『ハルト……あなた心に闇を抱えているわね……安心なさい、私が癒してあげるわ』


 心の闇……誰の心にも、多少の闇は存在するのだろうが、彼女はそんな事を言ってるのでは無い。


 彼女の言葉通り、僕の心の闇、憤怒や嫉妬や憎悪が晴れていくような気がした。


「ハルト、契約完了よ」


「あ、ありがとうございます」


「今から私はあなたの女よ、浮気は許さないわ」


「えっ……」


「冗談よ!」


「人が悪いですね……」


「ハルト……そ、その」


「ん?」


「助けてくれてありがと!」


「今度は私がハルトを守ってあげるわ」


「僕の方こそありがとうございます」


 空も白み始めた。瞬間移動で帰る事も考えたが、例の魔物の残党調査を兼ねて歩いて帰る事にした。


 アブハム湖を出て直ぐの所で、例の魔物を3体発見したが、それ以降、魔物が姿を見せる事は無かった。


 ウンディーネは眠くなってきたとの事で精霊界で眠っている。精霊界と現世を繋ぐパスが契約者であり、自身が住処と決めた場所だ。


 住処も契約者と同じで、しっかりとパスを繋ぐ必要があるらしく、おいそれと引っ越しは出来ないそうだ。だから僕が呼ばれたのだろう。


 マズロー平原もついでに調査したが、怪しい魔物の存在は確認できなかった。こんな事ならエイルに探知系の魔法を先に教えてもらえば良かったと後悔している。


 朝の空気があまりにも気持ち良かったので、そのまま歩いて帰る事にした。いつもは賑わっている街もまだ、静寂の中だ。この時間に出歩く事が無かったので、結構新鮮な気分になれた。早起きは三文の徳なのだ。


 当然まだ皆んな寝ているだろうと思っていたのだが、皆んな起きていた。それどころか皆んな待ち合いで、フル装備で待機していた。


「皆さん、おはようございます……」


「お帰りハルト!」


「た……ただいま帰りました」


「おい、お前、朝帰りって良い身分だな?」


「いやぁ……ちょっと野暮用が……」


「野暮用って何かな?」


「アブハム湖に呼び出されまして……」


「その後ろの可愛い彼女にか」


「えっ!」


 振り向くとウンディーネが立っていた。


「面白そうだから起きてきちゃった」


「えぇぇぇぇ」


「ハルト、聞きたい事が山ほどあるわ」


「はい……」


「まず、そのお姉ちゃんの事からだな」


「彼女は誰なの?朝まで一緒に居たの?何処で知り合ったの?どう言う関係なの?」


「いや……彼女はそんなんじゃなくて」


「では、どんなのだ?」


「酷いわハルト!あんなに激しいキスまで交わしたと言うのに!」


 この精霊、演技いれて爆弾投下してきやがった。助ける気は微塵も無いようだ。


『『キ、キス』』


「皆さん誤解ですよ……」


「えーでも、あんなに強く抱きしめてくれたじゃない」


「いや、あれは抱きかかえただけで……」


「ハルト、往生際が悪いわよ」


「ハルト適当な事、言ってたらぶっ飛ばすぞ!」


「へー、キスしたんだキス……」

 珍しくエイルがぶっちぎりで怖い。


「ん、彼女……ハルト、いや、その方はまさか……ウンディーネ様か?」


「あら、もうバレちゃった、つまんなーい、人間にも博識な者がいるのね」


「「「ウンディーネ様!!!」」」


「ウンディーネ様って四大精霊の……」


「はい……」


「おま、おま、お前!なんて方と知り合ってんだ!」


「なんと言いましょうか……」


「へー精霊のウンディーネ様とキスしたの……へー」

 エイルが壊れている。


「だからそれは……」


「御身がここに居られると言う事は、ハルトと契約を?」


「そうよハルトと契約したわ」


『『!!!』』

 みんな一様に驚いている。でも1番驚いているのは僕だ。


「御身は歴代勇者が乞うても、契約しなかったと聞き及んでいます。それなのになぜハルトと契約を?」


「私を助けてくれたってのもあるけど……フレイヤの導師であり、剣神を2人も従えているんだしね、私と契約するのにふさわしいからよ」


『『…………』』


 皆んなが、絶句している。僕も事態を飲み込めて居ない。


「……ウンディーネ様……ハルトは導師なのですか?」


「これだけフレイヤの加護を受けていて導師じゃない方がおかしいわ」


「ウンディーネ、僕そんなこと一切聞いてないんだけど……」


「あの子は昔から舌足らずだからね、言ってなかっただけじゃない?」


「そんなことってあり得るのですか?」


「ん、なんなら本人に聞いてみる?」


「どうやって?……まさか」


「そう、そのまさか、ちょっと聞いてくるわ」

 ウンディーネは一旦精霊界にもどったようだ。


「ハルト……一体どういうことなの……」


「僕にも何がなんだか……」


「ねえ、ハルト、フレイヤ様ともキスしたの?」

 エイルが壊れっぱなしだ。


「してないです!」


「お前、エイルがおかしくなったじゃないか!責任取れよ!」


「みんな、とりあえず落ち着くんだ!」

 流石ロランと思ったら、人体模型に話しかけていた。


「ただいま!」


「おかえ……」


「連れてきたわよ」


「フレイヤ様……」


「お久しぶりねハルト」


『『…………』』


 女神様が僕たちの家に降臨した。

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