第9話 ルナ対ハルト
皆んなとの訓練4日目、今日はルナとの模擬戦だ。本来この模擬戦のコンセプトは、皆んなとの訓練の成果をチェックするものだが、まだ1週目と言うこともあり、成果らしい成果は何もない。ルナ先生は、どのような課題を持ってくるのであろうか。
「ルナ、お願いします」
「ハルト、今日はまず、アンタの実力を全部見せて、全部よ!」
「はい……」
「じゃ、かかってきなさい」
「え……」
「何グズグズしてんのよ!」
「実戦って事ですか?……」
「そうよ」
「えぇぇぇぇぇぇ……」
「アンタが来ないのなら、こっちからいくわ」
そう言い放つと、ルナは聖剣グラムを抜き、一気に間合いを詰めてきた。
(速い!速すぎる!)
咄嗟にレーヴァテインとクレイヴソリッシュで受け止めた。凄まじい衝撃だ。受け止められていなかったら……と思うとぞっとする。そんな僕に構うことなくルナはガンガン打ち込んでくる。僕は防戦一方だ。とにかく動きを止めないと、このまま終わってしまう。僕はレーヴァテインで切り上げるようにグラムを狙った。打ち込みを止めるためだ。
狙い通り、ほんの少しだけ打ち込みを跳ねげることができた。僕は反対の手に拳銃を取り、弾丸を放った。ルナはそれを剣で防いでいたが、徐々に後方へ回避して行った。やっと距離を取ることができた。
しかし、ここは攻めるしかない。ルナの猛攻を守りきるのは困難だ。僕はレーヴァテインと拳銃、クレイヴソリッシュと拳銃、矛先を変えつつルナを攻めた。しかし、有効打を与えることは出来なかった。
強い……さすが勇者だ。ベリアルよりパーワーもスピードも上だ。
「ハルト、アンタ思ったより弱いわね」
あれだけ動いても息ひとつ切れていない。
「ルナが強すぎるんですよ……」
スピード、パワー、技術、経験……何ひとつ勝るところがない……これだけチートで強化されててもだ。それでも、唯一勝てるとしたら……魔力だ。僕は双剣にサンダーボルトを合わせて勝負を挑んだ。まずは普通に双剣で切り込んだ。普通に受け止められたが、ここからだ。そのまま強引に押し込み、剣からサンダーボルトを放った。雷撃がルナを襲う。
直撃かと思われた一撃は、ルナのシールドによって阻まれていた。
「今のは少し驚いたわ、その調子でどんどん来なさい!」
「どんどんって言われても……」
「なら諦めるの?」
「……諦めません!!」
近接では分が悪い。僕は両手に拳銃を取り出し、距離をとって戦うことにした。銃撃で距離を取りつつ、サンダーボルトを放つ。ルナは剣と回避で僕の攻撃をさばいているが、嫌がっている感じがする。それにしても魔力弾とは言え、銃弾を剣で防ぐってどんな反射神経なのだろうか。本当に化け物だ。
銃撃に業を煮やしたルナは、シールドを展開し、強引に正面から突破して来た。僕は咄嗟に双剣で受け止めた。また、開戦時の嫌な流れになった。て言うか開戦時よりも、威力もスピードも増している。段々と腕が痺れてきた。ここを凌ぎきらなければ、完全にアウトだ。
瞬間移動、インヴィンシブルを使えば、なんとかなるかも知れない。しかしこの模擬戦の趣旨と反している、目的は勝つことではなく、強くなることだ。
根性とか気合いとか、あまり好きな言葉じゃないが、ここは気合いしかない。僕はルナと打ち合う力を強めた。神剣をグラムに向けて思いっきりぶん回した。すると、ルナが打ち合いを嫌がり、距離をとった。
「ハルト……前言撤回よ、アンタ思ったより強いわね」
「でも……もう手の感覚がありません……」
「怪我してもつまらないし、ここまでにする?」
正直ありがたい申し出だ……でも
「それは嫌です……」
「アンタを少しだけ見直したわ……いい覚悟よ」
ルナが白い光に包まれた。魔王戦でロランがなっていた状態だ。遂にルナが本気……と思った次の瞬間、目の前にルナがいた。ルナはすでに鞘にグラムを収めており、僕のボディーに強烈な一発をくらわせていた。
「ぐふっ……」
僕はくの字になって地面に崩れ落ちた。はじめての模擬戦は完敗だった。
「はじめてにしては上出来よ」
もう少し、勝負になると思っていたが、あまかった。戦う前は、もしかしたら勝てるかもとすら思っていたが、散々な結果だった。チートだけの限界が見えた気がした。
「ルナー!ハルトー!」
いつの間にかエイルが来ていた。
「2人とも凄かったね!今の模擬戦!私全然見えなかったよ!」
「はは……凄いのはルナですよ……見てくださいこの手」
「うわー真っ赤!」
「もう手の感覚ないです」
「そんだけ赤くなってたらそうだろうね」
「エイルは万が一に備えてですか?」
「そうそう、ルナに頼まれたの」
「なるほど」
ルナはいつも、何やかんや考えてくれている。
「ハルト、全体的に狙いは良かったわ。でも、もっとシャープじゃなかったら通用しないわよ」
「……それは、遅いって事ですか?」
「遅いとは少し違うわね……例えばアンタの魔力弾、あんな大きさで飛んで来たら、当たる方が難しいわ」
それは僕も感じていた、魔力弾には改良が必要だ。
「攻撃が目立つ……ですか?」
「そっちの方が近いわね、兎に角大雑把で分かりやすいのよ」
「なるほど」
「剣から雷撃を繰り出した時ぐらい、したたかに攻撃しないとダメよ」
「分かりました」
「兎に角シャープによ!」
「はい、お手合わせありがとうございました!」
「何言ってるの?まだ始まったばかりよ!さっさと用意なさい!」
ルナは冗談で言っているのではなかった。
第2ラウンド開始だ。第2ラウンドはのっけからルナは白い光に包まれていた。僕はいいようにあしらわれた。剣技に格闘を織り交ぜ、いいようにやられている。でも、このまま終われば第2ラウンドはボコられただけで収穫ゼロだ。
「なかなか耐えてるじゃない?……もしかしてハルトって……Mなの?」
「えっハルトそうなの?」
エイルも食いついてきた。
「ち……違いますよ!なんて事言うんですか!」
でも完全には否定できない。いいように女の子にあしらわれる……嫌じゃない。自分の中でM疑惑が生まれた瞬間だった。
それはさておき、ルナが何の意味もなく、実力差を誇示しているとは思えない。恐らく意味がある……ロランもレヴィもエイルもそうだが、短期間で僕を使い物になるように指導してくれている。その想いに応える為にも、このまま一方的に敗北するなんて許されない。
ルナの猛攻が始まった。なるべく最小限の動きで、受け止めるようにした。すると、今までと少し様子が変わってきた。今までは受けるだけが精一杯だったのに、少し防御に余裕が出てきた。
僕は受け止めるだけでなく、受け流すを取り入れた。受け流すとルナの連続攻撃の速度が少し弱まり、その隙に距離をとることができた。
何となく見えてきた。確かにルナの言う通り僕は大雑把だった。ルナは「兎に角シャープに」とアドバイスしてくれた。もっと鋭く……最小限且つ力強さだ。
しかしルナは僕の変化に警戒しているのか、今までのように一気に距離を詰めてこない。膠着状態が続いた。精神力的に膠着状態が続くと僕の方が不利だ、僕は双剣からサンダーボルトを打ち込んだ。今までだとルナは回避と攻撃を同時に行っていたが、回避だけだ。恐らく僕の狙いに気付いているのだろう。
ならばと銃弾を打ち込みながら距離を詰めた。ルナはバックステップで、一定距離を保ちながら回避し、なかなか距離を詰められない。
「やっと分かってきたようね、それでいいのよ」
「ど……どうも……」
狙いとしては合っているみたいだ。だが距離を詰め切れない。恐らく銃を使ってる限りはこのせめぎ合いになってしまうだろう。僕としては消耗戦は避けたい。
(双剣で一気に行くか……)
僕は双剣で一気に距離を詰めた、今までのように牽制を入れず、純粋に剣技で挑んだ。最小限且つ力強くを意識した。すると今までの打ち合いとは少し様子が変わり、一方的なルナのターンが無くなった。
(ここが、勝負のポイントだな……)
僕は打ち込みの回転を上げた、すると、この模擬戦ではじめて、攻撃の主導権を握った。とは言え、決定打に欠ける。模擬戦である以上殺傷性の高い攻撃はご法度だ。そんなことを考えていると、ルナが距離をとった。
「ハルト、第2ラウンドはここまでよ」
「え……」
「これ以上は続けられないでしょ?私も同じよ」
「ルナも……」
「模擬戦用の木剣か何か用意しないとね」
「そっ……そうですね!」
「第3ラウンドは武器無し魔法無しの組手よ」
「え……」
まだまだ、続くようだ。
「頑張れハルト!組手なら大丈夫そうだから私は先に帰ってるね」
「ははは……」
そんなわけで休むまもなく、第3ラウンドが開始された。第3ラウンドが開始されて僕はすぐある事実に気付く。
(つか……女の子は殴れないよね……)
剣や銃や魔法で散々攻撃しておいて今更感は否めないが、剣は寸止め出来るし、拳銃や魔法は出力を抑えていた。やっぱり殴るのは抵抗がある。
となると、僕の選択肢は防御のみ、ただひたすら防御した。しかし何の収穫も無しってわけにはいかない。さっき掴んだシャープさの感覚を確かめつつ、それを体に馴染ませた。
すると、今度はルナの動きを少し先読みできるようになった。これには自分でも驚いた。僕に格闘技の経験は一切ない。ペンは剣より強しを実践していた人なのだ。そんな僕が、格闘技の達人のようなことが出来るなんて……これも身体強化か新薬の影響かも知れない。
開始してしばらくは殴られることもあったが、その攻撃の殆どを、無力化出来るようになってきた。何故全てではなく殆どなのかというと、ルナの鋭さが予測を上回るからだ。
「ハルト……アンタなんで攻撃してこないのよ!」
「あの……いくら模擬戦でも、女の子を殴るのは抵抗が……」
「はぁ?何寝ぼけたこと言ってるのよ!やる気あるの!」
「やる気はあるのですが……僕のいた元の世界では女性に手を上げることは、ご法度とされていてなかなかすぐには……」
「それじゃ敵が女だと手も足も出ないってこと?」
「それは大丈夫です!ベリアルも女性でしたが、しっかり戦えました」
「でも、ルナは……僕が守りたい
「ななななな……何言ってのよアンタは!」
照れ隠しなのか会心の右ストレートをもらってしまい、僕は完全にノックアウトした。第3ラウンドはKOで決着した。
目を覚ますと、夕日に照らされるルナを見上げていた。
(これは……もしかして膝枕……)
僕はもう一度目を閉じて頭の感覚を確かめた。
(……柔らかい)
これは膝枕で間違いないだろう。このまま目覚めてしまうと、この至福の時が終わってしまう。しかし、もういい時間だ……僕は激しく葛藤していた。
「気付いてるんでしょ」
「え……」
「起きるの?それとももう一度眠りたい?永眠かもしれないけど」
至福の時は終わった。
「ごめんなさい、起きます」
「もう少しだけならいいわよ」
「え……」
「なに?嫌ならすぐやめるけど?」
「ぜ……是非お願いします!」
至福の時は続いた。
「ハルトが、前向きに私達の力になりたいって言ってくれたのは、すごく嬉しいわ。私もそれを望んでいたし」
「ルナ……」
「でも、エイルの言うように、ハルトの人生はハルトの物だから、無理はしないで欲しいの」
「む……無理なんてしてませんよ、僕は僕の大切な物を守りたいだけです」
「そう……ならいいわ」
「……ありがとう」
ルナは小さく呟いた
「え……今なにか?」
「な、何でもないわよ!さぁ帰るわよ!」
「はい!」
本当はもう少し、このままで居たかったのだが、僕はガラにもなく難聴系主人公を演じてみた。この雰囲気に便乗出来ない自分を改めてヘタレだと思った。
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