第8話  ハルトの処遇

 食事をご馳走になった後、僕達は勇者パーティーの拠点に戻った。2階のリビングで、これから僕の処遇を決める事になっている。


「ハルトの力は強大だ、単身で3大魔王を撃退するなど、誰も成し遂げたことの無い快挙だ。私は決着まで見ていた。戦いは終始ハルトが押していた。恐らく再戦になっても、その優位性は変わらないと考えている。私はハルトの力が欲しい。これが率直な意見だ」


「ウチも同じだ。ベリアルの奴には魔法がまったく効かなかった。でも、そのベリアルを魔力でやっつけたハルトをウチは研究したい」


「私は最初と変わらず、ハルトのやりたい事を応援するよ。ハルトが戦いたくないならその道を手伝ってあげるし、戦うならパーティーメンバーとして迎えたいよ」


「私は、今のハルトなら要らないわ」


「「「ルナ」」」


「ハルトは確かに強いわ、今日の件は予測の範囲内よ。まさか、魔力で倒すとは思ってなかったけどね」


「だったら何故だ?」


「ハルトは戦うには心が弱過ぎるわ。強さと心のバランスが一致してないのよ」


「それは私も思うけど」


「心の弱さは怖いわよ?戦場でパニックを起こして、味方を傷付ける事もあるのよ?アンタ達なら分かるでしょ?」


「「「確かに」」」


「しかもハルトの力は強大だわ、魔王以上にね。もし、そうなった時、そんなハルトを誰が止めるの?」


「「「…………」」」


「私には無理よ、力だけなら止められるかも知れない。でも手加減出来ないわ」


「そう言うことか……」


「そう、まだ出会ってそんなに経っていないけど、ハルトとは上手くやって行きたいと思ってるわ。だから今のハルトをパーティーに加える事は出来ないのよ」


「ルナ……ハルトの事をそこまで考えて……」


「ルナのくせに、真面まともじゃねーか……」


「どう言う意味よ!」


「前言撤回する。私もルナに賛成だ」


「ルナ、エイル、ロラン、レヴィ、出会って間もない僕の事を、そこまで考えてくれて本当にありがとう。めちゃめちゃ嬉しいです」


 見事なリスク管理だ。正直、僕もここまでは考えていなかった。ルナの思慮深さなのか、経験からくるものなのかは分からないが。完全に盲点だった。


 力と気持ちさえ有れば、何とかなると考えていた自分が恥ずかしい。パニックに打ち勝つ強い心と経験が必要だ。それに新薬の件もある……答えを、急いでは行けない。


「あの……提案があります」


「なに?」


「僕は皆んなの力になりたい、でもルナの話しを聞いて、今は無理だと分かりました……だから、本当に厚かましいお願いなのですが、僕を鍛えて頂けないでしょうか?」


「お、ウチはいいぜ!魔法を鍛えてやる」


「なら、私は剣技とそれを扱う者の心構えを、教えてやろう」


「私はサポート系魔法全般を、手取り足取り教えてあげるよ」


 手取り足取り……


「なにエロい顔してるのよ!」


「え、してました?」


「「「うん」」」


「以後、気をつけます……」


「まあ、仕方ないから、私はみんなの訓練をサボってないか、模擬戦でチェックしてあげるわ」


「皆んな……ありがとうございます」


「では、早速明日からだな」


「ローテーションどうする?」


「そうね、ロラン、レヴィ、私、ルナでいいんじゃない?」


「それでいいわよ、週の内4日間、みっちり訓練して、残りの3日はハルトの自由時間、自己練でもクエストでも休暇でもいいわよ」


「話しも纏まったし、寝よっか」


「いやー今日は、めちゃくちゃ疲れたぞ」


「そうだな、色々あったしな」


「あ……あの……僕は」


「自分の部屋があるでしょ!」


 有耶無耶のうちに、ここで暮らす事になっているみたいだ。


 しかし、まさかの週休3日制。みっちり訓練と言っても、3日も休みが有れば、楽勝だろうと思っていた僕はあまかった。


____初日、ロランとのトレーニング。


「ロラン、よろしくお願いします」


「うむ」


「何からすればいいですか?」


「まあ焦るな」


 僕は武術を習った事がない。期待と不安で胸が膨らむ。


「ハルト、君には期待している。だから厳しくする、いいな?」


「はい!」


「では、はじめる」


「はい!」


「今日、君は、そこから一歩も動いてはダメだ」


「え?」


「話すのも禁止だ、ただし、目は閉じるな」


「わ……わかりました」


「今から、私が良いと言うまでだ」


「はい!」


 とは言ったものの……これは相当キツイ……早朝からはじめて、もう昼過ぎだ。元の世界でもじっとしているのは苦手だった。身体よりも精神的にかなりくる。


 このままずっと放置なんだろうかと思っていた、僕の予想は半分正しかった。ロランが次に現れたのは、夕暮れ時だった。飲まず食わずとは言え、ただ立っているだで疲労困憊だ。人生の中で1番キツかった日かもしれない。


 ロランは無言で、素振りや型などの鍛錬をはじめた。僕はそのロランの姿に見惚れてしまった。彼女の太刀筋、彼女のたたずまいは、美しすぎる。


 そしてロランは切っ先を僕に向けた。溢れ出てくる殺気。彼女は一切動いていない、ただ構えているだけだ。しかし、その濃密な殺気に気圧され、僕は一歩、後ずさってしまった。ロランの言いつけを守れなかった。


「まあ、初日だしこんなものだろう」


 悔しかった。これが今の僕の心の弱さだ。ロランに剣を教えてもらう日はまだ先になりそうだ。


____2日目、レヴィと魔法トレーニング。


「レヴィ、よろしくお願いします」


「おう、任せとけ、て言うかハルトなんか使える魔法あるのか?」


「今のところはゼロです……」


「マジかよ……じゃぁまず、基本から行っとこう」


「じゃ、炎いくぞ。魔法ってのはイメージに魔力を込める事で発動するんだ。呪文を唱えるのはイメージしやすくするためだから、しっかりイメージできるんならやらなくてもいい。こんな感じだ」


 レヴィの手のひらに炎が発生した。魔法ってそんな単純なのか。とりあえず僕もやってみることにした。


「できました!」


「おおおおおお!すげーなハルト!まだ呪文も教えて無いのに!どんだけ想像力豊なんだ!やっぱエロいな!やっぱお前魔法の才能あるな!」


 変なセリフも混ざってたが、自分でもびっくりだ。結構簡単にできた。


「案外簡単に出来るものなのですね」


「いやいや、普通はそんな直ぐにはできねーんだよ、ハルトお前が特殊なんだ。魔力量もおかしいしな」


「そうなんですね」


「よし、じゃそれをあの的に当ててみろ」


「わかりました」


 言われた通り、的に当てたら的が燃えただけだった。


「まあ、最初はこうじゃないと、流石に教えがいないもんな、ただ当てるだけじゃダメなんだ!当たった時のイメージも込めないとダメだぞ!」


 レヴィが手本を見せてくれた。的は見事に爆裂した。


「なるほど!」


 魔法って、もしかすると元の世界のオブジェクト指向みたいな物ではないだろうか。例えば今のレヴィの魔法だと、炎生成、加速、爆発ってオブジェクトを一つの魔法として走らせる感じなのではないだろうか。


「もう一度やってみます」


 僕は、オブジェクト指向を念頭に、それぞれのオブジェクトをイメージし、先ほどと同じように的を狙った。


「バァァァァァァァァァン」


「おー!やるじゃん!」


 ビンゴだった。レヴィの魔法と同じように的は爆裂した。


「ハルト、お前やっぱ魔術師に向いているのかも知れないな」


「ありがとうございます」


「今のは、ファイヤーバレットって言うんだ。初級魔法だけど、これが基本だ」


「はい」


「よし!じゃぁ今日は基本魔法を一通り教えてやる!」


「はい!」


 そんなわけで、レヴィに一通りの基本魔法を教えてもらった。基本魔法は難なく習得できた。


「いや、マジすげーな……あっさり覚えちまったな」


「レヴィの言う通り、魔術師に向いているのかもしれませんね」


「そうでないと世の中の魔術師の立つ瀬がないぜ……まぁ今日はこれで終わりだ、結構魔法使ったし、かなり消費してるハズだから、ぶっ倒れないように気をつけろよって……おい……」


 言ってるそばから、倒れ込んでしまった。


「悪りーなハルト、お前がポンポン覚えるもんで……つい、加減忘れちまったよ……」


「一朝一夕には行かないものですね……」


「そうだな、絶対的魔力量があっても、精神の消耗が魔術は半端ないんだよ、こればっかは慣れないと、どうしようもないな」


 チートで強化されていても僕は僕でしかないと改めて認識出来た。力に振り回されないように気をつけなくてはいけない。


____3日目、エイルと補助系魔法トレーニング。


「エイル、よろしくお願いします」


「よろしくねハルト」


 補助系魔法と言えば、シールドや、強化や、各種回復系が思い浮かぶ。レヴィに教えてもらった攻撃系魔法に関しては、容易にイメージする事が出来た。代替する物が、僕の世界にもあったからだ。しかし、補助系魔法に付いては、今のところイメージがない。


「今日は、実技よりもお勉強だよ。まず、どんな魔法があるかを覚えてね」


「はい!」


 手取り足取り個人授業……妄想が止まらない。


 そんな事を思っていたが、授業は至って普通だった。あたりまえだが……


 補助系魔法は、シールド、強化、回復、探知、結界が大きな役割だ。勇者パーティーではシールドと回復を担っているそうだ。探知と結界はルナが凄いらしい。因みに強化は各々でかける為、強化をメンバーに掛けるのは御法度との事だ。


「難しいですね……」


「そうね、私も取っ掛かりは結構てこずったよ」


「エイルでもてこずったんですね……」


「そうだよ、だから私のおすすめは、まず呪文を丸暗記して、使っていく中で、コツを掴んでいく事かな」


「なるほど」


「補助系は攻撃系よりも無詠唱で出来る人も少ないの、だから暗記魔法とか呼ばれたりしてるよ」


「そうなんですね……」


 37歳のおっさんの脳みそで大丈夫なのか不安はあるがやるしかない。


「分かりました僕も暗記します!」


「じゃこの本を来週までに覚えておいてね」


 目の前に積み上げられた分厚い本……絶望しか無い。


「え……冗談ですよね?」


「どうして?本気だよ?ちゃんと来週までに覚えてね」


 本気だった。


「覚えて無かったら……お仕置きだからね!」


 どんなお仕置きなんだろうか……これは、覚えるよりもお仕置きの方が、良いのでは?と思わせる、エイル先生の可愛さだった。


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