第7話 再会
僕は魔王の撃退に成功した。神剣は使ったが、直接ダメージを与えたのは魔力だった。これは新しい事例じゃないだろうか。討ち取る事は出来なかったが、取り敢えずの脅威は去った。
「大丈夫でしたか?」
美人騎士に声を掛けた。
「だ……大丈夫だ…い…今のは何だ?……ま、魔王は……?」
「あ、今のは魔王がこの周辺を吹き飛ばす程の魔力球で、攻撃してきたので、同質の物で跳ね返しました」
「……すまない……説明してもらったのに理解が及ばない……」
結果だけを言う事にした。
「魔王は魔力弾で撃退しました」
「そっ……そうか、我らは助かったのだな……」
「はい」
「はは……私は歴史的な出来事の立会人になってしまったな……単身で、しかも聖剣以外で、魔王を撃退したなど、聞いた事がない……」
「そ、そうなんですね……」
「ベリアルが君の事を導師だと言っていた……それは本当なのか?」
「僕には何のことだか、分かりません」
「そうか……なら、まさかとは思うが、君は勇者なのか?」
「僕は聖剣に選ばれていませんので、恐らく違います」
「そうか……導師でも勇者でも無いのに、魔王を退けたのか……恐るべき事実だな」
「それよりも、お身体と、お連れの方は?」
「あ、ありがとう大丈夫だ。彼女も多分問題ないだろう、君の回復魔法も効いている、気を失っているだけだ」
「そうですか……一安心ですね」
「しかし、君は驚愕に値するな、魔王の中でも特に強力と言われる3大魔王の1人、ベリアルを撃退してしまうとは……」
あの時の話題に上がってなかったが、ベリアルは3大魔王だったのか……
「あ……あれは、きっとベリアルが油断していただけですよ、もう一度戦って勝てるかどうかは……」
「謙虚だな君は……それでも充分、驚愕に値する事だ」
「ありがとうございます」
「あの……お2人は街に行かれる予定なのですか?」
「ああ、そのつもりだが……」
旅の荷物と装備とロリ顔魔術師を背負うのは流石にキツそうだ。
「僕も街に戻るので、荷物手伝いましょうか?」
「すまないな、助かる」
荷物を手伝うと言ったのに、彼女は迷う事なく、ロリ顔魔術師を背負わせた。もしかしてお荷物?!
「本当にすまないな」
「いえ、いえ大丈夫です」
「あ、気が動転していたとは言え、恩人に名乗るのが遅れてしまったな、私はロランだ。これでも一応、パラディンだ」
パラディンと言えば異世界での上級職、凄い方なんだな。
「そいつはレヴィ、魔術師だ」
「僕はハルトです。恥ずかしながらまだ無職です」
「なに!?魔王を退けるほどの力と有しておきながら、どこにも所属していないのか?」
「はい……近日中には決めようと思っています」
「ハルトなら望めば何にだってなれそうだな、なんなら私が口添えしてやろうか?」
「大丈夫ですお気遣いありがとうございます……ところで、何故、魔王と戦っていたのですか?」
「クエストの帰り道で、森の中央にあるアブハム湖でばったり会ってな、もしかしたらアブハム湖に何かあるのかもな」
「それは気になりますね」
「ギルドに調査団派遣を進言してみるよ」
中立機関と言っていたが、魔王関連の調査団をギルドが派遣できると言う事は、情報力だけでなくギルドにはそれなりの力があるのだろう。
____街に差し掛かった辺りで、レヴィが目覚めた。
「ん……ッッッッッッッッ!!」
「何!人さらい!」
「痛てっ痛っ!」
コレでもかと言わんばかりの勢いで叩かれた。
「こらレヴィ、大人しくするのだ」
「えっ、えっ、どう言う事だ!?」
「下ろしますね」
「あっ!お前はさっきのヘタレ!」
「こら、ハルトは恩人だぞ!」
「ハルト?恩人?」
「確かウチらは、ベリアルに……」
「そうだ!ベリアルは!」
「ハルトが撃退してくれたよ」
「ハルトって誰だ……このヘタレのことか?」
「ん……!?」
彼女は戦闘中に意識を失ったので、まだ混乱していた。そんな彼女にロランが事情を説明してくれた。
「マジかよ……」
「本当だ」
「ハルトお前、すげーやつだったんだな」
「まぐれですよ……」
「バカヤロウ、まぐれで魔王が倒せるかよ」
やはり本当の自分の実力じゃ無いので心が痛む。
「ところで、ハルトはこの後予定あんのかよ?」
「いえ、特には」
「じゃあ、お礼にご馳走させてくれよ、美味い店があるんだ」
「お、それは良い考えだ」
「そこまで気を遣って頂かなくても大丈夫ですよ」
「いいから気にするなって」
「そうだ、是非お礼をさせてくれ」
これ以上は特に断わる理由もないので、お言葉に甘える事にした。
道中レヴィが店の事を楽しそうに話してくれた。食事を楽しむのは異世界含め万国共通だ。
「この店だよこの店!最高だぜ」
レヴィのおすすめの店は街の中央、ギルドと目と鼻の先に位置していた。
「私は、ギルドにクエスト完了と、魔王の件を報告してくる。2人は先に行っててくれ」
「おう」「はい」
看板にはカウンセルと書いてある。店内は暖色系の薄暗い照明で、いかにも女子が好みそうな雰囲気だ。カウンセルはお酒も本格的な料理も楽しめるのがウリとの事だ。僕は実年齢37歳だが見た目17歳だ。飲酒は大丈夫なんだろうか。
「いやっしゃいませ」
「やっほー」
「レヴィさん、久しぶりですね!」
「クエストに行ってたからな!」
「そうなんですね、それより……そちらのイケメンは彼氏ですか?」
「おう!そんなところだ!」
レヴィが腕を組んできた。いつも通り緊張で硬直する。
「羨ましいです!イケメンの彼氏」
「だろ!」
スキャンダルの
「じゃあ2人席の方が良いですか?」
「本当はそうしたいところだが、後でロランも来るし、いつもの席でいいよ」
「分かりました、こちらへどうぞ」
店の奥の間仕切りされた個室のような席に案内された、そこには見知った顔があった。
「あれ、ルナ、エイル」
「え、レヴィ……それにハルト」
「ん?お前らハルトと知り合いなのか?」
「あれれ?不味かったです?」
僕は気不味い。
____直ぐにロランも合流し、僕達は5人で食事する事になった。
「何だ、お前ら知り合いだったのか」
「そうだよ!って言っても昨日知り合ったばかりだけどね」
「ウチらもさっき知り合ったばっかだ」
「その割には、いやに親密ね」
「まあな!死戦をくぐり抜けた仲だからな!」
「何よそれ」
「いや、実は我らは、危ないところをハルトに助けられたのだ」
「ロランとレヴィが危ないって……よっぽどじゃない?……何があったの?」
「大きな声では言えないが、魔王ベリアルと戦いになったのだ」
「な、何ですって!」
ルナがすごい剣幕で立ち上がった。
「まあ、落ち着けルナ」
ルナはとりあえず着席した。
「我らは敵わなかった、ベリアルの力はあまりにも強大で、私は死を覚悟した。もしハルトが現れなかったら、私とレヴィはここには居なかっただろうな」
「まあ、ウチなんかは途中から気を失って、なんも見てないんだけどな」
「ハルトは我らの危機に現れベリアルの撃退に成功したのだ、しかも魔法でな」
「魔法ですって!」
「本当なのハルト?」
「正確には魔法では有りませんが、魔力弾で撃退しました」
「これは新しい事例ね……」
「そうよね……」
「魔法にも可能性があるって分かって、ウチは嬉しいぜ!」
「それにしても……ハルト……この短時間で……随分変わったのね」
ルナの目つきで相当怒っている事がわかる。
「ルナ落ち着こうよ」
「どうした?ルナとハルトは何かあったのか?」
「何もないわよ!」
「何もないのが気に入らないんだよね」
「違うわよ!」
「何だ何だ、ルナはハルト狙いなのか?」
「有り得ないわよ!こんなヘタレ!」
「確かにヘタレだが…………ウチは結構好きだぜ」
レヴィが抱きついてきた。またドキドキと硬直が…………
「な!」
「レヴィ……君は殆ど接点が無かったではないか」
「接点というか、ずっと密着してたぞ、ハルトの背中は心地良かったなあ」
「わ……私はハルトに抱きしめられたぞ」
抱きかかえたの間違いです。
「うわぁ……ハルト、モテモテね!」
「嬉しそうねハルト!」
「その、成り行きと言いますか……」
「て言うかあの後、何があったの?」
「実はあの後も、予定通りオークを狩って、森に向かったんです……そしたらロランさんが飛ばされて来て、レヴィさんが現れて、魔王が現れて」
「なによ、その幼稚な説明は!」
「まあまあ、ルナ、ハルトはあの後も戦ったんだね」
「はい……」
「フン、よく魔王相手に逃げ出さなかったわね」
「その……魔王がルナさんを狙っていると聞いて……その後は無我夢中で」
「つまりハルトはルナを守る為に戦ったんだね!」
「マジか、相思相愛かよ」
「だから違うわよ!」
「実際にはそんな事、言って無かったがな」
「え、本当ですか?」
「ああ、街に勇者がいるのなら、ついでに消してやるって意味合いだったな」
「まあいいじゃねーか、もしあの場にハルトが居なかったら色々大変な事になっていたのは間違い無いんだし」
「そうだな」
緊張と気まずさで料理の味はほとんどわからなかった。皆んなにすすめられるままに、エールや果実酒をいただいたが、一向に酔えなかった。やっぱりわだかまりを残しているのは良くない。
「あの……ルナさん!エイルさん!」
「なによ」「はーい」
「その……昼間は投げやりな言い方になって、ごめんなさい」
「ハルト……」
「許さないわ」
「ルナ!」
「エイルもロランもレヴィも私も、親しみを込めてハルトって呼んでるのに、何でアンタはエイルさんロランさんレヴィさんルナさんなのよ!」
「上っ面だけで謝られたって絶対許さない」
「おールナにしては良いこと言うじゃねーか!」
「ルナの言う通りね!」
「それは私も感じていた」
「皆んな……」
「ちげーだろ!」
「そうだったね、ルナ、エイル、ロラン、レヴィありがとう」
「何だよ泣かなくてもいいじゃねーか!」
「ハルトは泣き虫なんだよ、昼間も私の胸で泣いてたもん」
「それが、あったわね……」
「節操を持たないとダメだぞハルト」
僕は泣いた。何故だか涙が止まらなかった。見た目は17歳だが中身は37歳のおっさんだ。そんなおっさんが、ひと回り以上歳下の女の子達相手に泣きじゃくってしまった。
でも、スッキリとした気分だった。
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