第6話 魔王ベリアルの脅威

 マズローの森には、オークの他にもオーガが生息していた。集団で行動しているオークに対し、オーガは単体で行動していた。僕は剣技の修練を兼ねてオーガにはレーヴァテインとクレイヴソリッシュで当たっていたが、2振りの神剣が強すぎて一合も交えることなく一刀両断してしまう。なので残念ながら修練としては成り立っていなかった。

 

 その他にもトレントやゴブリンにも遭遇した。ゴブリンもオーガと同じく集団で行動している。ゴブリンはオークよりも警戒心が強く、動きも素早いので、僕的には厄介だった。トレントは遭遇しただけで特に襲いかかってくる様子もなかったので、放置している。


 更に森の奥深くに進むと、空気が淀んできた。なんとなく嫌な予感がしたので、引き返そうと思ったが、時既に遅し、1人の女騎士が僕の方へ吹っ飛ばされてきた。僕は訳の分からないまま、彼女を受け止めた。


「だ、大丈夫ですか?」

 相当な衝撃だ、大丈夫なわけない。


「ああ、大丈夫だ……それよりも君は早く逃げたまえ」

 大丈夫とか言っているが絶対嘘だ、傷だらけだ。金髪に青い瞳、完全に美人系に振り切った美人さんだ。


「ロラン無事か!」

 彼女を追ってもう1人、ロリ顔の魔術師風の女の子が現れた。美人騎士程ではないが彼女も結構負傷している。


「なんとかな……レヴィ、君は彼を連れて逃げてくれ」


「誰コイツ?」

 初対面でコイツ呼ばわり……。


「通りすがりの冒険者ではないのか?……さあ早く!奴が来る前に!」


「ダメだ!お前を置いていけない!」


「バカ者、皆んな死ぬぞ!…………君は早く逃げてくれ」


 2人の様子で察するに、穏やかならない状況である事に、間違いなさそうだ。


「あら、1人増えてるじゃない」

 赤い髪に赤い瞳、赤と黒のボンテージ風の衣装と妖艶な雰囲気をまとったセクシーなお姉さんが現れた。


「くそっ……」


 美人騎士が白いオーラのようなものに包まれ、セクシーなお姉さんに斬りかかる。だが、セクシーなお姉さんは、こともなげにあしらっている。美人騎士の動きは、目を凝らして何とか見えるレベルの速さだ。それを、こともなげにあしらえる、このセクシーなお姉さんは相当な実力者だ。


 美人騎士が、セクシーなお姉さんから距離を取ると、ロリ顔魔術師が、大きな火の玉をセクシーなお姉さんに撃ち込んだ。


 しかし、セクシーなお姉さんはそれを片手で受け止め、効いている様子もない。何なんだこの戦いは……もしかして相当な修羅場に巻き込まれたんじゃなかろうか。


「お兄さんはかかってこないの?」


「彼は無関係だ!」


「あら……残念、イイ男なのに、可愛がってあげるから待ってなさい」


 可愛がるって何してくれるのだろうか……なんて考えている場合じゃないのは分かっていてるが、セクシーなお姉さんにそんな事を言われると、ついつい考えてしまうのが男のさがだ。


「お前邪魔なんだよ!下がるか逃げるか、どっちかにしろ!ぼーっと突っ立ってんじゃねーよ!このヘタレ!」

 このロリ顔魔術師本当に口が悪い。ロリ顔でちょっと可愛いからって調子乗るなよ!なんて言えるはずもなく。


「はい!ごめんなさい!」

 従順な僕だった。


 美人女剣士が果敢に立ち向かうも、まるで歯が立たない。美人女剣士と連携をしている、ロリ顔魔術師の魔法も相当なはずなのに、まるで歯が立たない。このセクシーなお姉さんは何者なのだろうか。

 

 2人に対しセクシーなお姉さんが軽く反撃すると、揃って吹き飛ばされてしまった。


「ぐあぁ」「きゃっ」


 このままだと美人女剣士とロリ顔魔術師のダメージが増すばかりだ。この状況どうするべきなんだろうか?セクシーなお姉さんは、見た目的に恐らく敵っぽいのだけれど、本当にそうなのだろうか。聞いたら答えてくれるのだろうか。


「まだいたのか……君は、早く逃げて街に知らせてくれ!魔王ベリアルが現れたと!」

 満身創痍の美人騎士が僕に告げた驚愕の事実。


「魔王!」

 まさかの魔王だった……やばい、また緊張してきた。


「心配しなくてもいいわ、街には興味はないもの……勇者がいるのなら消しちゃうけどね」


(は?……勇者……勇者だと……魔王はルナを狙っているのか?……)


 ルナを狙っているのかもしれないと思うと、一瞬でボルテージが上った。


「僕は……逃げませんよ……」


「君は何を?!」

 美人騎士のダメージが深刻だ。こんな時、エイルがいてくれれば……。

(ん……まてよ、確か全回復も使えるって……フレイヤ様が……)


 僕は美人騎士に向かって全回復を念じてみた。

「な……これは?」


 美人騎士の体が癒しの光に包まれ、見る見るうちに回復した。さっきの攻撃で気絶してしまったロリ顔魔術師にも同じように全回復を使った。


「君はヒーラーだったのか……ありがたい、これでまた戦える」


「いえ、下がっていてください」


「何?」


「魔王の相手は僕が……」


「あら、お兄さん私が誰だか分かっても相手してくれるの?」


「ええ」


「嬉しいわ……でも、すぐに逝っちゃわないでね」


 魔王が無造作に火の玉を放ってきた。射線上に美人騎士がいたので、彼女を抱きかかえ回避した。


「おま!私にそのような……」


 美人騎士を下ろし、僕は魔王と対峙した。


「なかなか、いやらしい攻撃ですね。さすが魔王です」


「あら、お兄さんも少しは楽しめるようね。既に聞いたでしょうけど私はベリアル。お兄さんお名前は?」


「僕はハルトです」


「そう、ハルト覚えておいてあげるわ……光栄に思いなさい」


 ベリアルは手にしていたレイピアで攻撃を仕掛けてきた。僕は咄嗟に後ろに飛んで避けた。美人女剣士、ロリ顔魔術師を巻き込まないよう距離を取るためだ。


 後ろに飛んだと同時に取り出していた、拳銃でベリアルを撃った。しかし僕の魔力弾はベリアルに全て撃ち落とされた。魔王の癖にレイピア捌きが神業だ。

 

 僕は更に後ろに飛び、2丁の拳銃で連射した。それでもベリアルはレイピア一本で捌ききった。拳銃では分が悪いと悟った僕は、レーヴァテインとクレイヴソリッシュを手に取り、剣での勝負に切り替えた。


「それは!レーヴァテインとクレイヴソリッシュ」


 ベリアルの顔が歪む。


「神剣を従えてるって事は……ハルト……あなたは導師なのね」


「導師ってなんだ?」


「トボけちゃって」


 ベリアルと僕が剣を一合一合打ち合うたびに大気が震える、剣戟の風圧で森の木々もなぎ倒される。ベリアルは剣戟に加え魔法も交えてきた。


 威力はそれほどなさそうだが、連射性が高い、恐らく牽制目的だ。僕はその無詠唱で打ち込まれる魔法を二刀流と回避でなんとか凌ぐ。今の所、ベリアルと僕は全くの互角、一進一退の攻防が続いていた。


「ハルト……あなた強いわね。人間がここまで戦えるとは思っていなかったわ……もしかして勇者以上じゃないかしら?」


「それは、どうも」

 僕は自分の強さなんてどうでもいい、ただルナを守りたいだけだ。


「でも流石に飽きてきたわ……そろそろ終わりにさせてもらうわね」


 ベリアルが上空に移動し、魔力を指先一点に集中させ魔力球を作り出している。お前はフリー◯様かと叫びたくなる様なシチュエーションと物凄いエナジーだ。


 もし、あれをぶっ放されると、辺り一面が吹き飛ぶのは確実だろう。美人騎士とロリ顔魔術師を抱きかかえて逃げることは可能かもしれないが、その隙に3人ともやられてしまうかもしれない。


(何か……何か手は……そうだ!)


 僕も持てる魔力を一点集中させ、魔力で押し返すことにした。失敗したらインヴィンシブルで逃げるところまで想定済みだ。


 僕は拳銃を取り出し魔力を溜めた。銃を媒介にしているせいか魔力の集まりが早い。僕の方が魔力を集めはじめるのは遅かったが、いい勝負になりそうだ。


「さよならハルト」


 ベリアルが極大魔力球を放つと同時に、僕も極大魔力弾を放った。僕の極大魔力弾はベリアルの極大魔力球を押し返し、ベリアルを巻き込み、空の彼方他へと消えた。


 しかしベリアルは、まだ生きていた。


 相当なダメージであることには変わりないだろうが、極大魔力弾をもってしても、ベリアルを倒すことはできなかった。


「あはは……まさかこの私が、こんなにダメージをもらうとはね……ハルト、あなたはやっぱりイイ男ね、また会える日を楽しみにしているわ……」


 ベリアルはそう言い残して消えた。とりあえずの脅威は去った。


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