第234話 白い死神

 ホーンベアとの戦闘を続けていると、【気配察知】に引っかかるモノがあった。魔物じゃないけど、何かの群れだ。1体はさらに気配が大きい。ドラゴン組も気づいたみたいで、僕を見てくる。僕は頷き、一旦、みんなにホーンベアと距離をとるように伝える。


 僕達が後退したのを逃げに転じたと誤認したホーンベアの群れが前進を始める。と同時に横合いからホーンベアに襲い掛かる影が見えた。太陽光に反射する体毛をホーンベアの返り血で染めたのはシルバーベアだった。


 最初の1体を皮切りに次々にシルバーベアがホーンベアに襲い掛かる。ざっと80ぐらいかな?さっきの気配はシルバーベアの群れだったようだね。小さな気配と大きな気配が茂みの中にあるから子供と護衛だろうね。


 シルバーベアはグレイウルフと一緒で魔物では無く、体毛が銀色の熊だよ。その美しい体毛は稀に市場にでることがあるみたいなんだけど、結構な高値がつくらしい。シルバーベア自体がホーンベアと渡り合えるほどの戦闘力を持っているし、基本は群れで生活しているからね。狩るのが難しいと本には書いてあった気がする。


 最初に襲い掛かったシルバーベアは群れのリーダーだったみたいで、他の個体よりも2周りは大きい。立ち上がると5m近くになる。そのリーダーが何かを言いたそうにこちらを向く。視線が合ったので、僕が話かける。


「あー、ホーンベアを狩りに来たから邪魔をしないでほしいのかな?」


 すると、リーダーは驚いたように一瞬だけ動きを止めた。その瞬間にホーンベアが襲いかかろうとしたけど、リーダーの右手の一薙ぎで頭と胴体が泣き別れになった。強いねぇ。


「うむ。そちらが先に見つけた獲物だとは重々承知している。だが、我らも生きていくためにかてが必要なのだ。ああ、私はドゥクスと呼ばれている。」


「僕はガイウス。ここにいる人間たちの統率者だよ。フォルトゥナ様の使徒でもあるね。だから、ドゥクスとも会話ができるってわけ。それで、ホーンベアのお肉とかはあげるから、僕達も戦っていいかな?」


「おお!!我らが女神フォルトゥナ様の使徒殿だったとは!!重ね重ね申し訳ない。それと、ガイウス殿らが先に見つけた獲物なのだ。それを横取りした我らに肉までくれるとは・・・。ありがたい。」


 ドゥクスは謝り、お礼を言いながらもホーンベアの首を飛ばしている。器用だね。


「それじゃ、チャチャっといこうか。シュタールヴィレの皆さん、攻撃再開!!」


 ということで僕達も攻撃を再開する。ドゥクス達にあげる可食部分を多く獲れるように、首を刎ねたり、頭を吹き飛ばしたりする攻撃になるので、威力は別として、傍から見たら地味な戦闘だろうねぇ。ああ、ちなみに、ホーンベアの退路を塞ぐために、呂布隊と島津隊に半包囲網を作ってもらったから取りこぼしは無いよ。


 結局、247体のホーンベアとの戦闘は思わぬ援軍の出現もあり開始から20分と経たずに終了したよ。毛皮と角は僕達が貰って、解体した残りの肉や内臓はドゥクス達へと渡した。


「そういえば、グレイウルフのルプスって知っているかな?」


「うむ。彼らとは不戦の誓いを立てておるゆえ。ルプス殿が率いる群れは我らと互角と考えておる。」


「へー、他のグレイウルフの群れも同じ感じなのかな?」


「いや、この森ではルプス殿がとりわけ優れている。」


「なるほどね。僕はルプスとは仲良くさせてもらっているんだけど、ドゥクスとも今後も仲良くさせてもらっていいかな?」


「よろしいが、我らは基本的に狩り場を変えながら移動するゆえ、そうそう会えないのでは?」


「そこは、フォルトゥナ様から貰った能力でなんとでもなるから。」


「ならば、よろしくお願いいたす。他の人間にも配慮した方がよろしいか?」


「う~ん、君たちの毛皮って人間にとっては価値のあるモノなんだよね。だから、攻撃してきた人間には容赦しなくていいよ。逃げる人間は適当に追い回してテリトリーから出す程度にしておいてくれると嬉しいかな。」


「承知した。しかし、毛皮か・・・。毛のみならばすぐに生えてくるゆえ、分け与えても良いのだがな。」


「君たちの毛は、他の熊と違って、サラサラでモフモフだよねぇ。」


「毛刈りをするかね?」


「いや、いいよ。」


 そんな感じで話していると、「じいちゃん、じいちゃん。」とまだ幼いシルバーベアがやってきた。小さくてモコモコのモフモフだ。クリッとした目が可愛らしい。


「ん?どうしたかね。」


「みんなが、じいちゃんもご飯を食べないの?って。」


「ああ、すぐ向かうと伝えておくれ。」


 「わかった。」と言って子熊はかけていく。


「申し訳ない。私の孫です。」


「可愛らしいじゃない。ま、あの子の言った通り、君達との共闘についてはここまでかな。それじゃあ、またどこかでね。」


「うむ。それでは、汝の進む道に幸、多からんことを。」


 ドゥクス達とはそれでわかれて、僕達は次なる獲物を探すために黒魔の森を南下する。その道中は勿論、おしゃべりをしながらになるんだけど、ジョージが面白いことを教えてくれた。ジョージが生まれるより前に地球には凄腕の狙撃手がいたという。

なんでもM14のような自動小銃とは違い、手動装填のボルトアクションという仕組みの小銃と拳銃弾を連続発射するサブマシンガンを得物としていて約100日間で殺害した人数は公式記録で540人ほど。こっちでいう弓の名手みたいな感じなんだろうね。為朝や呂布と気が合いそうな人だね。


 丁度、小休憩の時間だし、折角だから【召喚】してみよう。みんなが見ているなか教えてもらった名前を思い浮かべて【召喚】する。すぐに魔法陣に光が溢れだし、収束する。そこには僕より小柄な男性がいた。でも、眼を見るとわかる。人を殺せる人の眼だ。


 彼はすぐに僕に向かって敬礼する。


「フィンランド国防陸軍歩兵第12師団第34連隊第6中隊所属、シモ・ヘイヘ兵長であります。人であろうが獣であろうが魔物であろうが、全てを撃ち抜いてみせます。」


 僕はシモ兵長の言葉に期待を覚えながら答礼をして、歓迎の言葉を述べた。

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