第235話 救出

 さて、新たに地球から【召喚】したシモ・ヘイヘ兵長へのみんなの紹介が終わったので僕は気になっていたことを聞く。


「シモ兵長は、その、随分と小柄だがフィンランド人は皆がそうなのかね?」


「はい。いいえ、ガイウス卿。アールネ・ユーティライネン中隊長は190cm近くあります。」


「なるほど。普通の個人差ということで理解するがよろしいかね?」


「はい。」


 別に栄養が取れていなかったとか、病気とかではなかったらしい。失礼なことを聞いちゃったね。


「あー、ガイウス卿、自分は背の低さに引け目を感じていないのでお気になさらず。」


「うん?ああ、すまない。気をつかわせてしまったな。さて、君の実力を見てみたい。此処にいる人間で、ジョージ・マーティン中尉のみが君の事を、主に戦果をだが、知っている。しかし、私を含めた他の者は知らない。」


「了解しました。500mまでなら必中を確約できます。」


「よろしい。では、獲物を探そう。」


 【気配察知】を利用して、魔物を探す。んー・・・。あ、いた。2kmくらい離れているね。【空間転移】するよりも歩いていった方がいいかも。シモ兵長の撃ちたい距離で撃てるからね。「移動を開始する。」という僕の言葉と共にみんなが動き出す。


 森の歩き方には慣れているから、20分経たずに獲物を木々の間の視界に捉えた。合図を出して行軍を停止する。獲物は・・・ゴブリンだ。体格がよいのがいる。鎧も着ている。ゴブリンリーダーかな?でも、率いている数が35体と少ない。それにゴブリン以外の気配も感じ取れる。


 ギャッギャッと雑談しながら何かを運んでいるゴブリン達の会話を聞きとるために、耳に魔力を集め、気づかれないように【風魔法】で僕の耳元までゴブリン達の声を乗せた空気を運ぶ。


「俺達モ鎧ガ欲シイ。」


「仕方ガナイダロウ。人間カラ剥ギ取レタノハ1人分ダッタノダカラ。ソノ代ワリ、オ前タチニハ、ヨイ肉ガイクヨウニ、主ニ進言シテオク。」


「マア、ソウカ。次ノ機会モ有ルカラナ。」いや、無いよ?


「シカシ、男1体ニ女4体トハ、女ノ奪イ合イガ起コルカモナ。」


「男ニ比ベルト柔ラカイカラ美味イ。仕方ガナイ。」


「トコロデ、マダ5体トモ生キテイルカ?」


「息ハシテイル。男ハマダ気ヲ失ッテイル。女共ハ口ヲ封ジテイルガ時々、抵抗スル奴ガイルカラ、殴ッテ黙ラセテイル。」


「ソレデイイ。」


「今日ハ良イ狩リガデキタ。」


 ゴブリン達の会話を聞くことで、人間、恐らくは冒険者が捕らえられているのがわかった。【遠隔監視】を使って、ゴブリンの隊列を視る。空中に映し出された画面には木の板に載せられた男女5名が確認できた。ゴブリンの言っていた通り、内訳は男性が1人、女性が4人のようだ。


 男性も女性も裸で何も身に付けていない。しかし、剥ぎ取った装備品は仮称オークナイトのように活用するためにどこかにあるはず。探し物はすぐに見つかった。最後尾のゴブリンが持っていた。


 後は、捕らえられた人たちの様子だけど、女性陣は手足を拘束されているのは勿論、口をツタを束ねたくつわのようなモノで声を出すのを封じられており、男性は同じく手足を拘束されてはいるが、くつわはされていないが、口と鼻から血液交じりの体液垂れ流し、泡を吹いている。気管に詰まっているのかも。早く助け出さないと。


 すぐにシモ兵長を呼ぶ。


「あの隊列を殲滅できるかね?」


「可能です。優先順位はありますか。」


「あのガタイのよいやつを第1目標。捕虜を運搬している連中を第2目標。逃げる奴を第3目標。」


「こちらに向かってくるやつは?」


「好きなタイミングで殺せ。」


「了解。始めます。」


 言うやいなや射撃を始める。ボルトアクション、手動装填なのに凄い勢いで発砲していく。すぐに弾が切れ装填する。この動作も早い。そして、まさしく必中。7.62mm弾がゴブリンの頭部を脳漿と共に吹き飛ばし、ナイト含めすでに7体を無力化し、今も1体無力化した。M14に比べたら控えめな発砲音が断続的に響く。


 えっと、人間なんだよね?僕みたいに神様から特別な力を貰えたりしてるわけではないんだよね?努力の結果って凄いね。


 そして、1分も経たずに半数のゴブリンが死体となった。他のゴブリンは何が起きたか、まだ、理解できていないようだ。そして、状況を把握して仲間に声をかけようと口を開いたゴブリンから頭を吹き飛ばされる。そのゴブリンが地面に倒れる前には次のゴブリンが頭を吹き飛ばされて、さらに次のゴブリンが・・・。というのが続く。


 さっきも言った通り装填するのも早くて、弾倉ではなくて5発が一纏めになったクリップというモノで銃の上から装填する。M14やM4の弾倉みたいに少し手間のかかる給弾方法だけど、シモ兵長は難なくこなしている。


「いやあ、流石は“白い死神”ですね。」


 ジョージが僕の隣で言う。僕は普段の口調に戻して尋ねる。


「?こっちでは、生も死もフォルトゥナ様がつかさどるけど、地球では死をつかさどる神様が別にいるの?」


「いますよ。色んな神が。今度、フォート・ベニングの図書館で宗教学の本を読むと良いかと。地球は多宗教ですから単一宗教のエシダラとは違う面白さがあると思いますよ。」


「うん、時間がある時に行ってみるよ。あ、あれで、最後だね。」


 僕とジョージが話しているうちに最後のゴブリンが射殺された。これでナイトを含めた36体のゴブリンが射殺されたことになる。時間は・・・2分と40秒。手動装填の小銃としては素晴らしい結果だね。


「ご苦労。シモ兵長。疲れはないかね?」


「はい。大丈夫です。」


「よろしい。では、これより救助活動に入る。呂布隊と島津隊は周辺警戒。警戒域に入った魔物は狩ってよろしい。討伐部位は忘れないように。」


「承知しました。」


「まかせっくいやい。(任せてください。)」


「クリス達は僕と一緒に治療を。シモ兵長、君もだ。」


「了解。」


 さてさて、まずは重傷かつ容態が非常に悪化している男性からだね。女性4人は女性陣に任せよう。


「ガイウス卿、彼は背骨をやられています。体を伸ばしてから【ヒール】をかけないと折れた背骨がいびつな形で固定する可能性が。」


「よし、ジョージ、シモ兵長、彼の体を真っ直ぐに。」


 体を真っ直ぐに伸ばすと呻き声がこぼれ、呼吸が荒くなる。アントンさんとフリードリヒさんは「うわぁ・・・」という顔をしている。いや、必要な処置だからね?


「ガイウス卿、今です。お願いします。」


 ジョージの合図と共に【ヒール】をかける。少し、呼吸が安定したかな。さらにジョージが触診していく。衛生兵の資格も持っている多芸なジョージならではだね。横にしていた身体を仰向けにすると、むせて吐血した。すぐに顔だけを横に向ける。そのままだと喉に詰まってしまうからね。


「ちょっと、胸部にドレーンを入れてみます。肺が損傷しているかもしれませんね。」


「確かに胸に青あざはあるけど、それで肺がどうにかなるの?」


「ああ、言葉足らずでした。折れたりしなった肋骨が肺を傷つけることがあるのです。では、いきます。」


 そう言って、ジョージが小さいグニャグニャ曲がる筒を胸に差し込む。と、同時に筒の先から血が出てくる。


「ガイウス卿、血を出し続けてやらんと、自分の血で肺が押し潰されます。まずは、肺と肋骨を治してください。シモ兵長、肋骨が折れているかどうかの判断は?」


「できます。自分も簡易ながらも衛生兵教育を受けました。・・・ん、これは折れていますね。この部分の3番目の肋骨が折れています。」


「それでは、まずは肋骨を繋げて、肺の傷を塞ぐ。それでいいかな?」


 僕の問いにジョージが頷く。すぐに僕は【ヒール】をかける。単純骨折なら楽なんだけどねぇ。


「ガイウス卿、この人の血液型ってわかります?輸血が必要ですよ。しないと多量出血でショック死します」


「ん、少し待って。O型だね。そして、輸液の瓶を【召喚】っと。このぐらいあればいいかな?」【鑑定】をして、すぐにO型の輸液を【召喚】する。


「充分です。シモ兵長は輸液をしっかり保持しておいてくれ。ドレーンパックも一杯になったらおしえるように。・・・一発で刺さってくれよ。」ジョージが手際よく点滴の準備をしながら言う。


「了解しました、中尉。」


「さて、腹部は・・・問題なし。殴られた跡があるだけですね。防具の上からだったんでしょう。そこまでひどくはありません。下半身は・・・。あー、両足ダメですね。けんを切られています。それ以外は膝の皿が割られていますね。これならガイウス卿の【ヒール】のみでよろしいかと。」


 ジョージの言う通りに処置をする。呼吸はだいぶ安定してきたみたいだね。ドレーンパックも2袋目が満杯になりそうだ。でも、出てくる血の勢いは落ちているから大丈夫だろうね。女性陣の方はもう終わったかな?

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