第233話 帰るよ

 昨日、12日の金曜日はドルー上級兵をはじめとした主計科所属の兵士さん達に、報酬計算を頑張ってもらったよ。20時ぐらいまでかかったから残業代をしっかりと上乗せするようにアヌ上級指揮官に指令書を出しておいたから大丈夫だよね。


 13日の土曜日になった。ドルー上級兵達が頑張って作成した依頼達成報告書を持って彼らと一緒に、捕虜収容所の近くに天幕を使用した作業員宿泊所に向かう。すぐに取り纏め役の人が出てきてくれたので皆を集めるようにお願いする。全員が集まったのを確認して、【風魔法】で皆に僕の声が聞こえるようにする。


「皆、収容所建設、ご苦労。今日は依頼達成報告書を持ってきたので、持ち帰り各ギルドに提出してほしい。ああ、勿論、報酬は上乗せしてあるから安心してほしい。」


 そう言うと、皆、ワッと歓声をあげた。さらに、達成報告書を確認すると上乗せ額に驚きの声を上げる人も多い。うんうん。喜んでくれたようで何よりだね。皆がホクホク顔でそれぞれの町へと帰ると、空いた天幕をドルー上級兵達が片づけ始める。僕は、先にツルフナルフ砦に戻ることを伝えてその場を後にする。


 さて、砦の割り振られた部屋で僕は悩んでいた。プローホル・アイソル改めホルヘ・アコスタ騎士の仮面の事だ。義弘達が使っている防具の面頬めんぼおというモノの中で、顔全体を覆う総面そうめんというモノを作っていこうと思う。でも、僕にはそういう技能が無いので、職人さんに頼むことになるんだけどね。


 どんなデザインがいいかなぁ?まあ、とりあえず呼吸しやすいように鼻の部分は大きくしたほうがいいよね。横だとカッコワルイから縦に少し長くしよう。そして少し傾斜をつける。口周りは、食事がしやすいように顎下は取り外しが可能なようにしよう。顎下をつけると口が開いている感じになるけど、そこはシワとかで表現してキツめな印象を与えるようにしてみようかな。あ、あとひげも必要だよね。


 うん、いらない紙の裏に描いてみたけど、圧が凄い、というか近寄りがたい感じだね。まあ、正体を隠すという意味ではそのほうがいいのかもしれないね。クリスに総面の清書をしてもらう。小さいときから芸術のたぐいを学んでいるから、ササっと完成した。あとは、これをニルレブの防具職人に作ってもらえばいいね。


 さて、日が進んで8月15日月曜日。今日はツルフナルフ砦からニルレブへと戻る。呂布隊と島津隊、ジョージも一緒だ。アヌ上級指揮官が率いてきた部隊はそのまま収容所の警備へとあたらせている。戦闘工兵が基幹の部隊だからなんでもできちゃうんだよね。それこそ、野戦築城からの防衛戦とか資材運搬用の馬を使用した騎馬突撃までこなしちゃうんだよ。まあ、名前が地味だから新兵からの志願者は少ないらしいね。まあ、そのおかげで練度は高いんだけど。


 まあ、そういうわけで国境に展開していた最大戦力である僕達が拠点に戻ることによって、これ以上の戦闘は起きないことを行動で帝国に示してみる。いつ頃、正式な交渉使節がくるかな?書簡を僕に送って“ハイ、終わり”とはオレーク帝も考えていないだろうしね。


 ニルレブへは【空間転移】を使って、黒魔の森を経由して戻ることにした。どうも島津隊と呂布隊は戦い足りなかったらしい。それと、フリードリヒさんとアンネリーゼさん、レナータさんの3にんも。


 ツルフナルフ砦を出て、黒魔の森沿いの街道を通る。周囲に人がいないのを確認して、森のまぁまぁ深い所へと【空間転移】する。初めて経験した人は一瞬で景色が変わって驚いていたけどね。


 さてと、それじゃあ、魔物を狩りながら南下しようかな。


「それでは、全員、見敵必殺サーチ アンド デストロイで。一体も逃さないように。」


「「「「おう!!」」」」


 というわけで“魔物の鏖殺おうさつのはじまりはじまり”ってね。早速、コボルトの50ほどの群れを確認する。順番は島津隊、呂布隊、シュタールヴィレだ。なので、コボルトは豊久率いる島津隊の銃剣突撃により戦闘開始数分後には骸をさらした。いや、M14なんだから撃とうよ。楽しそうだったから何も言わなかったけどさ。


 そして、次は呂布隊。出会ったのはオークの小集落。数は100いないぐらい。木製の防柵で囲まれていたけど、呂布隊の騎射によって瞬く間に数を減らして、集落の長のオークリーダーは呂布の戟とハルバードによって3つに寸断されて絶命した。一合も打ち合わなかったから、やっぱり呂布って強いねぇ。


 そんで、僕達、シュタールヴィレの番だけど、ジョージが、


「AWACSからルーデル大佐率いるSG2が接近中とのことです。誤爆を避けるために発煙筒を焚きます。」


 そう報告してくれたので、僕は首肯する。すぐにジョージは発煙筒を取り出して緑色の煙が空に広がる。それを斬り裂くように60機の爆装したF-15Eが轟音を残し東に向かって飛び去る。


「ガイウス卿、ルーデル大佐より“武運を。”とのことです。」


「“やりすぎないように”と。」


「了解。」


 苦笑いしながらジョージが無線機に話しかける。その間にシュタールヴィレのみんなは戦闘準備が出来たみたいだね。ジョージも大丈夫みたい。それじゃあ、こっちに近づいてきているホーンベアの大群を倒してしまおうか。数は250ぐらいかな。【気配察知】で感知できたのは。


 恐らくは、コボルトとオークの血の臭いと死体を焼却処分したときの臭いを嗅ぎつけたんだろうなぁ。んで、そこに行く途中に新鮮な獲物がいるから、そっちを優先してみたって感じかな。ああ、黒魔の森に入った時から3にんの“圧”は抑えてもらっているよ。だから、見境なく魔物が来るんだけどね。


 さてさて、陸戦での魔物狩りは久しぶりのような気がするね。まだ8月なのにね。冒険者になって4カ月しか経ってないのに不思議だね。


 前衛は僕、アントンさん、ローザさん、レナータさん、フリードリヒさん。後衛はクリス、エミーリアさん、ジョージ、アンネリーゼさん。まあ、クリスとアンネリーゼさんは前衛でもいけるけどね。ジョージ?彼の接近戦って基本ナイフを使ったものだから見ていてヒヤヒヤするんだよね。負けるとは微塵も思ってないけどさ。


 ホーンベアを僕の視界に捉えた。3にんもだろう。他の人にはまだ、森の木々と見分けがつかないかもね。でも、僕達が武器を構えるとすぐに交戦態勢にはいる。うん、よく連携できている。


 そして、ようやくみんなの視界にホーンベアが入ると後衛から【魔法】と銃弾が勢いよく飛んでいく。涎を垂らしながら襲ってこようとするホーンベアの先頭集団にそれが命中し、命を刈り取る。それでも怯まずに前進を続ける。


「それでは、前衛、迎撃を開始。後衛も攻撃を続行。」


 僕の指示をだすと真っ先にアントンさんが躍り出る。100m近い距離を一気に詰めてホーンベア3体を大剣の横薙ぎで真っ二つにする。エミーリアさんは基本に忠実な戦い方、つまりは1対1に持ち込んでは仕留めていっている。


レナータさんとフリードリヒさんは、流石はドラゴンといった感じで長剣を片手で巧みに操りながら、空いた手では素手でホーンベアの頭部を握りつぶし、胸部に貫手を放っている。もちろん、魔法も織り交ぜながらね。


そして、僕はいつも通り、短槍と魔法を使いながら狩っていく。前衛で一番小さい僕が殺しやすいとでも思ったのかな?結構な数が向かってくる。でも、残念。2柱の神様から授かった力があるから、並みの冒険者よりも強いんだよねぇ。すぐに、ストーンバレットを展開し、【風魔法】で加速をつけて射出する。ドンッと音が響くと同時に比較的近くにいたホーンベアの上半身が血煙と共に吹き飛ぶ。


 いやぁ、よい気分転換になるね。でも、素材や討伐証明部位はあきらめよう。冒険者の級を上げるために来たわけでもないしね。ニルレブに帰る途中で寄ったまでのことだから。

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