第232話 プローホルの今後

 12日金曜日の朝食が終わって少しして、アイソル帝国のイオアン・ナボコフ辺境伯の所まで書簡を届けてきたユリアさん達が返事を貰って戻ってきた。6日土曜日に出発したから1週間近くかかったね。


 ねぎらいの言葉をかけて、早速、返事の書簡の封を開ける。・・・ふむ、なるほどね。ナボコフ辺境伯家はグチンメレ砦に展開している後方支援部隊を順次撤収させて、砦の防衛部隊と駐留部隊のみを通常通りに残す、と。プローホルが率いてきた部隊にも同様に撤収の指示を出してみて、1週間以内には通常兵力以外は砦から撤収させるかぁ。


 うん、いいんじゃないかな。さて、実は書簡はイオアンさんの分だけではなく、帝国皇室の分もあるんだよね。イオアンさんが龍騎士ドラグーンを帝都まで飛ばしたみたいだね。どうしようかなぁ。絶対に面倒なことになるよねぇ。でも、宛名がエーベルト国王陛下では無く僕だからね。読むしかないね。


 えーっと、ふむふむ、なるほど。“プローホルを焚きつけて帝国内に留まっていた貴族は全て捕縛してあると、こちらで捕虜にした貴族に関しても賠償金を1人当たり増額するので早く返還してほしいと。兵に関しては賠償金の用意のため少し時間が欲しい。それで、肝心のプローホルは、病死するようならそのまま死なせてほしい。”こんなことが書いてあったよ。


 まあ、こちらの戦費は捕虜収容所建設費ぐらいだからね。折角だからこれを上乗せして請求しよう。プローホルは、病気を治しちゃったからねぇ。どうしよ。というか、病気って知っていたんだね。【ヒール】では治らないやまいだったけど、もう少し何かしてあげればよかったのに。まあ、後でプローホルに会いに行って、これを見せようっと。


 というわけで、エドワーズ空軍基地に隣接しているフォート・ベニングの軍病院にやってきたよ。帝国の要人ということでプローホルは特別室にいるみたいだね。ドアをノックして入室する。


「ご機嫌いかがでしょう?」


「これは、ガイウス卿。お忙しいところ、足を運んでくださり感謝いたします。今までの痛みと吐き気、めまいなどの各症状が嘘のように取れました。ただ、連中から渡されていた麻薬についてはまだ残っているのが現状ですね。」


 プローホルはだいぶ表情が柔らかくなった顔でそう話す。


「そちらが“素”の状態ですか?」


「ええ、まあ、そうなりますね。やまいのせいで、どうも人格にも影響があったようなのです。麻薬のせいでもありますが。中毒になりかけているようで、点滴にて薄めた麻薬と同じ成分の薬をとり続けさせるのだと、治癒師は言っておりましたよ。」


 そう言って、苦笑いしながら点滴のチューブが繋がっている左手を上げる。


「治癒師ではなく、ここでは医師と呼びます。彼らは投薬や切開、切除などによりやまいを治します。」


「ふむ、それは説明されました。ました。麻酔とかいうモノで私の意識を落として、頭に穴を開け、病巣を取り除いたと。しかし、意識が戻った途端に【ヒール】を衛生兵からかけられましたが?」


「ああ、それは頭蓋骨の修復をしたのでしょう。自然治癒だと時間がかかりますから。あれです。やじりを抜いて、裂傷部に【ヒール】をするのと同じです。」


「なるほど。不思議な感じです。ところで、何かあったのでは無いですか?」


「ええ、あなたのお父上、アイソル帝国皇帝オレーク帝よりの書簡です。私は先に読ませていただきました。」


 僕はそう言いながら書簡をプローホルに渡す。数分かけて読み終わり、長く息を吐いた。


「甘いですな、父上は。私の首と引き換えに和平交渉に臨むべきでしょう。」


「オレーク帝も人の親と云うことでしょう。それで、プローホル殿はどのような処遇をお望みか?」


「私は人を死なせすぎました。帝国には帰れません。どうか亡命をさせてもらえないでしょうか?それか、一思いに首を刎ねていただけると幸いです。」


「助けた人間の首を刎ねる趣味はありませんので、亡命を受け入れましょう。対外的にはやまいの悪化で死亡したことにします。これからは・・・、ホルヘ・アコスタと名乗ってもらいます。取り敢えずは私から騎士爵位を授けましょう。事務仕事と戦働きのどちらが得意ですか?」


「兄上の補佐をするつもりでしたので、どちらもおさめていますが、事務仕事のほうが得意であると思っています。」


「では、そのように取り計らいましょう。あとは、顔をどうするかですね。」


 ウーンと悩んでいると、呂布隊と島津隊と一緒に行動しているジョージから通信が入った。折角だから相談しよう。プローホル改めホルヘ騎士に断わりを入れて病室から一旦出て、通話可能エリアに向かう。


 内容は全ての捕虜の移送が完了したという報告だった。手短にそれを終わらせて、ホルヘの顔をどうするかアドバイスを求める。すると、


「日本のアニメーションでは、必ずと言っていいほど仮面をつけた謎の人物が現れます。仮面で無くてもサングラスといった場合もありますね。なので、顔の上半分を隠せる仮面をつけたらいかがでしょう?理由は戦傷を隠すためとでもしとけばよいでしょう。」


「ありがとう、ジョージ。」


 あにめーしょん?っていうのはよくわからなかったけど、まあ、物語みたいなモノなんだろう。お礼を伝えてから通信を終える。早速、顔の上半分を覆う仮面を【召喚】する。それを持って病室に戻り、ホルヘに説明をする。


「しかし、バレないでしょうか?」


「バレても誰も何も言えないよ。このゲーニウス領にいる限りはね。」


「ああ、確かに。では、ホルヘ・アコスタ、有り難く仮面を頂戴いたします。」


「それでは、病室を出るときはそれを付けてくださいね。病院の職員には話しをしておきますから。あと、しっかりと食事をとってください。今の貴方には仕事は任せられない。」


「承知しました。」


 予想もしないかたちで高等教育を受けた人材を手に入れてしまった。これで、もっと色々とできるね。


 ツルフナルフ砦に戻ると本当に捕虜の移送が終わっていた。ただし、捕虜収容所は鉄杭の突き出ている空堀に見張り塔といった逃走を防ぐモノはできていたけど、捕虜を収容する建物はあと2棟が内装作業中なので、それが完了するまでは天幕で過ごしてもらう。まあ、今日中には完成しそうだから、夜はベッドで眠れるだろうね。


 さてさて、だいぶ早く終わったから、依頼書を見てきた皆には報酬を上乗せしないとね。1週間かからなかったからね。あとでドルー上級兵に計算させよう。主計科だから数字には強いからねぇ。

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