第230話 捕虜収容所建設

まだ、未完成ですが、登場人物一覧も更新しました。

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「おーい、そこの建材はこっちだー!!」


「違う、違う。そこにはこれを・・・。」


「逃亡防止用の空堀はどこまで掘れた?仕上げはガイウス様がされるから取り敢えずは【土魔法】で掘りまくれよー。」


「戸板、できましたよー。」


「伐り出し班、只今帰還しました。」


 捕虜収容所の建築はお昼も過ぎると分業が自発的に進んで、騒がしくも効率よく進められていっているね。すでに2棟が屋根まで作り上げられて、ベッドや棚などの家具が各部屋に運びこまれている。それと並行して8棟が主要な柱を立て終わっている。今日中に12棟ぐらいはできそうかな?


 大体の目標が130棟だからね。最短でも10日はかかるだろうね。でも、人員募集は今も継続しているから、もっと作業をする人が増えるかも。様子見で参加している貧民街の人とか冒険者とか職人見習いが多いんだよね。昼食もしっかりとしたモノを出しているから、明日からは増えて欲しいなあ。


 夜はツルフナルフ砦の一室を借りているのでそこで過ごしているよ。寝る準備をしていると、扉がノックされたので、


「はい、どうぞ。鍵はかけていない。」


 と声をかける。


「夜分遅くに失礼します。ガイウス閣下。あっ、ご就寝前でしたか。申し訳ありません。」


 敬礼してディルク義兄にいさんが書簡らしきモノを持って入室してきた。僕は身振りで扉を閉めるように指示する。義兄にいさんは頷き、僕の意図を察してくれる。


「すまんな。ガイウス。ジギスムント領軍総司令閣下からの返事をもらうのに時間がかかった。ああ、もちろん、嫌みで時間がかかったわけではないよ。領のあちこちから色んな案件が来るようだ。それで、今回は領軍の再編中とのことで第1諸兵科連合コンバインドアームズ旅団から2個中隊が精一杯だそうだよ。これが編成の内容ね。」


 そう言って、書簡を渡してくれる。僕はクンツ子爵家の封蝋印を確認してから中身を読む。義兄にいさんの言う通り、諸兵科連合コンバインドアームズ旅団から戦闘工兵を中心に2個中隊、500名を派遣してくれるとの内容だったよ。到着は明日、8月8日月曜日の昼過ぎ。


 この内容通りだと、夜通しの強行軍になっているだろうなぁ。ニナレの町でお酒を大量に発注したけど追加で頼んでおこう。それと甘味とかの嗜好品もね。明日の朝一番にツルフナルフ砦の主計科に指示を出しておかないとね。


「ありがとうございます。ディルク義兄にいさん。夜間飛行は疲れたでしょう?」


「んにゃ、よい訓練になった。君に以前教えてもらった、魔力を眼に集めることで暗闇などでの視力を高める方法を使ったからね。それを使えば夜間飛行も面白いモノだったよ。さて、それじゃあ、俺も行水してから寝るよ。この時期は地上に降りると汗が噴き出る。」


「お疲れ様でした。」


「おう、お休み。」


 そう言って、扉を開けて、改まった口調で敬礼をしながら言う。


「それでは、ガイウス閣下、失礼しました。」


 公私の区別を使い分けるのが上手だよねぇ。ホントに。僕も見習わないとなぁ。僕は寝間着姿のまま、机に向かいジギスムントさんにお礼を書く代わりにねぎらう言葉を書き連ねて封蝋印で封をして就寝する。明日はベルント義兄にいさんに飛んでもらおう。


 明けて8日月曜日。朝食後にベルント義兄にいさんを見送り、13時過ぎには増援の2個中隊が到着した。


「この度、部隊長を拝命いたしました上級指揮官のアヌと申します。」


「よろしく。ガイウス・ゲーニウスだ。」


 アヌさんの敬礼に答礼をして、腕を下ろして差し出す。すぐに意図を理解してくれたアヌさんは握手をしてくれる。しかし、驚いたね。女性の上級指揮官なんて。女性軍人は基本的に下級指揮官止まりが多いんだよね。結婚して子供が生まれるとそっちにかかりきりになるから、休みの取りやすい部署に異動願いを出すらしいんだ。それで、まあ、基本的に武勲を上げられないから昇進もないってわけ。


 でも、アヌさんは見た目が凄く若い。女性に年齢を聞くのは失礼なことだけど、凄く気になるなぁ。


「ところで、貴官はだいぶ若く見えるが・・・。」


「はい、今年で22歳になります。こちらをお読みくださればガイウス閣下の助けになると、ジギスムント総司令閣下よりお預かりしました。」


 そう言って、1通の書簡を差し出してくれる。すぐに僕は中身を確認する。ジギスムントさんの直筆だ。


“ガイウス閣下におかれましては長い装飾文の挨拶は不要と思いまして、お伝えしたいことを書かせていただきます。アヌ上級指揮官は裕福な商家の三女として生まれまして、学力に恵まれ、王都の学園アカデミーに入学しました。しかし、本人は騎士科を専攻し、卒業まで首席を維持し続けました。学力、実技の両方にてです。そして、軍の指揮官養成学校に入学。ここでも主席を維持し、恩賜の軍刀組となりました。通常であれば中央に配属されるのですが、武勲を求め、各地を異動という名の転戦で魔物狩り、野盗狩りで実戦経験を積みました。その際の所属は国軍から領軍への出向、あるいは特別臨編任務部隊でした。その後、中央に戻りましたが、彼女の立てた功績に報いる席が空いておりませんでした。ですが、下級指揮官のままでもいかんということで、率いる兵のいない上級指揮官となりました。しかし、丁度、その頃、閣下がゲーニウス領を得て領軍を再編することとなり、彼女は国軍を辞して、活躍の場を求めてこちらへやってきました。最後に、派遣を決定した小官が言うのもおかしいのですが、彼女は生粋の軍人で、戦闘狂です。お気をつけを。”


 なるほどね。ジギスムントさんの忠告は有り難く胸に刻んでおこう。さて、アヌさんにはまだ聞かないといけないことがある。


「戦闘工兵の指揮経験は?」


「はい、閣下。あります。魔物討伐を終えた際には被害を受けた村々を周り、防護柵の補修、堀の設置などを指揮するとともに、小官も部下と共に作業を行いました。」


「では、今、この現場は見てわかる通り、依頼を受けてやってきた者の中で、腕が立つ者や年長者が指示を出している状態だ。貴官の管理下において、さらに効率を高めることは可能かね?」


「はい、閣下。ご命令とあらば。」


「暴力はいかんぞ。」


「大丈夫です。しかし、金銭の援助を戴きたいのですが、よろしいでしょうか。」


「いくらだね。ああ、口に出すとよろしくないな。これに書きたまえ。」


「ありがとうございます。・・・このくらいがあればよろしいかと。」


「ふむ、よいだろう。準備させる。嗜好品と酒、食事はこちらで準備するから安心してほしい。」


「それでは、主計科の兵を連れてきていますので、半数の指揮権を閣下にお渡しします。お使いください。」


「わかった。それでは、捕虜収容所の建設並びに逃走防止の施設設営の任務についてくれ。」


「了解しました。」


 アヌさんの敬礼に答礼して別れる。僕はそのままツルフナルフ砦に戻って、主計科の兵士さんと、嗜好品、酒、食料の調達状況と今後の量の推移について話し合う。それを行っている時に扉がノックされる。


「アヌ上級指揮官より命じられ参りました、ドルー上級兵であります。」


 男の人の野太い声が室内に響く。僕は頷き、入室許可を出す。


「入りたまえ。」


「失礼いたします。ドルー上級兵以下主計科兵1個分隊。これよりガイウス閣下の直接指揮下に入ります。」


「よろしく頼むよ。早速だが貴官にはこの話し合いに参加してもらう。分隊員達は砦の見学でもしてるといいだろう。どこに何があるのかを知っておくのは重要だ。そうだろう?」


「はい、閣下。それでは、分隊に指示を出してきますので、一旦離席させていただきます。」


 キビキビとした動作で動く。でも、右足を少し引きずっているし、頭部にも大きな傷痕があったから、元から主計畑の兵じゃないのかもね。でも、ドルーさんも有能そうだ。予定よりも早く、捕虜収容所が建てられるかもね。

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