第218話 王城へ

 軍務省からオリフィエル邸へと戻ると王城から登城要請の使者が来て、日時を伝えていった。明日の9時からなんて急すぎるよ。やっぱり婚約関係の話しかなぁ。


 明けて7月19日の水曜日、ゲーニウス家の家紋が入った馬車で鬱々とした気分のなか王城へと向かう。ああ、昨日のゲラルトさんの言葉が頭によみがえるよ。エーヴァルト王太子殿下は今年36歳で、まだ20代後半の父さん達よりも年上で40代半ばのじいちゃんたちに近いからどう接したらいいんだろう?


 そんなことを考えているといつの間にか謁見の間についていた。うわー、途中で変な事をしていないよね!?案内の近衛兵さんたちの表情を見る限り大丈夫みたいだけど。


「ガイウス・ゲーニウス辺境伯閣下のご到着!!」


 近衛兵さんが扉の向こうに告げて扉が開かれる。今日は国王陛下と王妃様だけではなく、立派な体格をした男性も座っている。あの人がエーヴァルト王太子殿下かな?とりあえず、玉座から少し離れた場所で跪く。


おもてをあげよ。」


「はっ。」


「なに、そう緊張しなくともよい。今回は“ラルン岬沖海戦”勝利の褒美をと思うてな。それと、一つ願い事を聞いて欲しい。」


「私にできることであれば。」


「まずは褒美からだが、伯爵位を2つ、子爵位を6つ、男爵位を10、騎士爵位を同じく10与えよう。侯爵位も与えたかったのだが、他の貴族の目もあるのでな。このくらいで我慢してほしい。それと白金貨600枚を与える。アルノルト。」


 そう陛下が言うと宰相閣下とその部下の人達が盆に載せた目録と白金貨の入った袋を持ってきた。僕は、それを一つ一つ両手で丁寧に受け取り、この前に買ったばかりの本物のポーチ型の魔法袋に収納していく。それが終わりお礼を述べると、


「では、願い事をよいかね?」


「はい。」


「すでに気付いているであろうが、この者は私の息子で今は王太子のエーヴァルトという。」


 僕はエーヴァルト王太子殿下に向かってこうべを垂れて挨拶をする。


「お初にお目にかかります。ガイウス・ゲーニウスと申します。若輩の身ながら陛下より辺境伯の地位を賜わっております。」


「うむ、その勇名は知っておる。エーヴァルト・アドロナ。一応は王太子である。」


 一応は?変な自己紹介だなぁ。


「エーヴァルトは近衛第1軍で龍騎士隊隊長ドラグーンリーダーの任についておる。こやつめ、王太子よりも近衛兵として生きるほうが楽しくて良いと言うのだ。」


「父上、今はその話しではないでしょう?ガイウス卿、申し訳ないな。実は願い事とは我が娘、ヒルトルートのことなのだ。」


 やっぱりきた。緊張しているのを隠しながら尋ねる。


「ヒルトルート様がいかがなされました?」


「うむ、卿のもとで兵として働きたいと言うておる。」


「・・・え?申し訳ありません。私の聞き間違いで無ければヒルトルート様が兵として私の下でお働きになりたいと・・・。」


「そうだ。聞き間違いではないぞ。本人の口から聞いた方が早いだろう。ヒルトルート入りなさい。ああ、父上と母上は退席されても結構ですがどうします?」


「うむ、親子水入らずで語ればよかろう。それではのガイウス卿、孫娘を頼んだ。」


 陛下と王妃様はそう言って謁見の間を後にした。入れ替わるようにドレスに身を包んだ女性が入ってきた。ヒルトルート様だ。陛下や殿下と同じような輝く金髪に青い瞳、スタイルも良い。なんでこの方が兵として働きたいのかわからない。降嫁するなら色んな家が手を挙げるだろうに。ま、僕を婚約者にという話しじゃなくてよかったと思わないとね。


 ヒルトルート様が席に着くのを待って挨拶をする。


「ヒルトルート様、お初にお目にかかります。ガイウス・ゲーニウスと申します。辺境伯位を賜わっております。」


「ご丁寧な挨拶をありがとうございます。ガイウス卿。ヒルトルート・アドロナです。」


「さて、エーヴァルト王太子殿下よりお聞きしましたが、私のもとにて兵として働きたいとは何故なにゆえでありましょうか?」


「・・・実は過日行われましたゲーニウス領の龍騎士ドラグーン募集に応募しようとしましたの。ですが、お爺様をはじめ父上、母上にも反対されまして、ガイウス卿へじかにお願いしようかと思いまして・・・。」


「・・・生き物をあやめたことはございますか?」


学園アカデミーでは騎士科も修了しました。その在学中にスライムやゴブリンなどを倒しました。」


「お1人で?」


「護衛はおりましたが、わたくしの力のみで倒しました。」


 さて、どうしようかな。ここは断るのが一番なんだろうけど、もしヒルトルート様が政治的にも力を付けたら嫌がらせをされるかもなぁ。取り敢えず王太子殿下に確認をしないとね。


「殿下。殿下はヒルトルート様が領軍に属することについてどのように思われているのでしょうか?」


「私は・・・、ヒルトルートの思うように生きて欲しいと思う。かせをはめたくはない。しかし、王族だ。王族には責任と義務がついてくるものだ。」


「ふむ、ではお試しをしてみてはいかがでしょうか?」


「「お試し?」」


 殿下とヒルトルート様が揃えて聞き返してくる。


「はい、お試しです。今、龍騎士ドラグーン候補達は厳しい修練をしております。その修練に参加をしてみて、修練後に私が実力を確認します。私の求める基準に達していなければ、諦めていただきます。基準に達していれば兵として雇いましょう。」


「ふむ、卿の求める基準とはどのようなモノかね?」


「はい。まずは、基礎体力や武器の扱いを見ます。それに合格しましたら、次に模擬戦をしていただき、指揮官としての能力を計ります。学園アカデミーを卒業されたので、他の兵より一段上の基準点で採点いたします。無論、私だけではなく他にも数名おりますので、意図的に減点や加点がされることはありません。」


「それが、卿の考える最善かね?」


「はい。」


 返事をすると、殿下は大きくため息をついて、目をつむり椅子にもたれかかる。数秒後、ゆっくりと目を開け、


「訓練中に怪我をしたらどうするかね?」


「軍の訓練です。怪我をすることもございましょう。幸い、私は【ヒール】が使用できますし、聖騎士団の医療団にて団長を務めていた人物もおりますのでご安心ください。また、実戦ともなれば生き死には分からなくなるものです。そこまでの責任を持つことは私にはできません。」


「なるほど、ハッキリと言うものだ。送り出す我らにも相応の覚悟を。ということかね?」


「はい。この話しを聞いてもヒルトルート様が希望をされ、殿下が送り出されるのであればですが。」


「あくまでも、我ら親子の問題か・・・。」


 沈黙が室内を支配する。言い過ぎたかな?でも、このくらいは言っとかないとね。軍は綺麗事だけじゃ済まないからね。この前の海戦で身に染みたよ。特に医務室でのあの光景はね。


 数分後、エーヴァルト王太子殿下が口を開く。


「・・・ガイウス卿、今回の話しは無かっ「わたくし、是非とも参加したいと思います!!」・・・っ!?ヒルトルート!?話しに割って入るとは無礼ではないか!!」


「申し訳ありません、父上。ですが、後継ぎには兄上がいます。わたくしは、自分の道を自分で切りひらきたいのです。」


 あー、もう、滅茶苦茶だよ。

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