第204話 後退戦へ

 昨日のPV数が4,000超えていて素でビックリしました。読者の皆様、ありがとうございます。

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 ネリー山脈の西端、エルカン岬沖ではアイソル帝国艦隊の迎撃のために【魔法】に矢、火矢、弩が飛び交っている状態だ。帝国艦隊は僕達の衝角攻撃ラムアタックが上手く決まり、中央の分艦隊から混乱が広がりつつある。


 そんな中でも一際目立った活躍をしているのが、教会が運用する救助艦隊だ。乱戦模様になりつつある海上を短艇と小型船を使用して、負傷者や落水者を救助して回っている。


 ちなみに、衝角攻撃ラムアタックの時に沈めたアーラ級の乗員たちは上級指揮官と貴族だけをこちらで救助、捕縛して残りはすぐ近くにいた救助艦隊に任せたよ。僕達の前進に合わせて着いて来ていたみたいだね。


 でも、救助方法は結構荒っぽくて、暴れる溺者がいると殴って気絶させて動かなくしてから救助したり、【魔法】が使える人間は口を塞ぎ、手を拘束してからしたりしていたよ。まぁ、どちらも理由はわかるけどね。暴れる溺者は救助側を道連れにする可能性があるし、【魔法】を使える人間は救助艦隊の船を乗っ取る可能性があるからね。


 さて、戦闘の方に意識を戻そう。敵の先鋒はこちらの衝角攻撃ラムアタックの混乱から立ち直りつつあるけど、1,300隻以上の船の全てが立ち直るにはまだ時間が必要そうだ。ふむ、後退するなら今のうちかな?【風魔法】を上手く操り、伝達する。


「『総旗艦“ヴァルター”より全船に下命する。各分艦隊は秩序を保ちつつ、ラルン岬沖まで後退。殿は我々、“ヴァルター”を含めた司令部艦隊が務める。』」


 すぐに各分艦隊の旗艦から了解の返答が来る。まずは、両端の国軍艦隊から順に退いていく。退く際には慌てて退却しているように見せるために、がむしゃらに攻撃をしながら後退するように事前の打ち合わせで指示を出している。


 【遠隔監視】で様子を見てみると、退却を始めた国軍艦隊を攻撃しようとして、手ひどい反撃を受け沈む敵船もいるようだ。国軍艦隊を構成している戦船はほとんどが艦齢10年未満のものが多く、性能もいい。この1、2年で就役した船には喫水線下の内側に薄い鋼板を張って、衝角攻撃ラムアタックの被害を小さくしようと試行錯誤しているモノもあるみたいだね。


 国軍艦隊が十分に敵艦隊との距離をとると、段々と陣形が“三日月陣”から“弓形陣”へと変化し、必然的に弓形の頂点に位置する“ヴァルター”含む司令部艦隊が敵の圧をかなり受けることになる。それでなくとも、“ヴァルター”にはこの海戦に参加している3家の家紋旗と国軍旗が掲げられているから目立つんだよね。“司令部此処に有り!!”って感じで。まぁ、でも、“ヴァルター”に攻撃が集中するのは願ってもないこと。僕の有り余る魔力で風の障壁を作り出し弩や火矢を防いで、海流を操作して敵の衝角攻撃ラムアタックを防いだりできるからね。


 勿論、防御面だけが優れているのではなく、攻撃力もある。アントンさん、レナータさん、ユリアさんの3人の高位冒険者の移乗攻撃による活躍で、敵先鋒の上級指揮官と貴族をドンドン捕縛していっている。捕虜は“ヴァルター”だけには乗りきらないので、僚艦にも収容しているぐらいだからね。


 ちなみに、指揮官の居なくなった船の乗員達は攻撃を段々とやめて、白旗を上げるばかりか、しまいには下級指揮官の命令を無視、短艇を降ろし、船を放棄して救助艦隊に保護を求めたりしているよ。まぁ、誰だって死にたくないもんね。それに救助艦隊という目に見える救いの形があるのも理由だろうね。


 ちなみに白旗を上げた船は鹵獲して、こちらの指揮官さんや水兵さんを派遣して戦域から離脱させているよ。攻撃に巻き込まれて沈んでしまったら可哀想だからね。シントラー領軍が展開しているラルン岬まで行って、そこで正式に捕虜となってもらう。船は海戦後に国軍とオリフィエル領軍とシントラー領軍で話し合って分け合う予定だったけど、思いの外、数が多くなりそうだね。


 さて、戦闘の方に思考を戻そう。国軍艦隊は敵を振り切り後退を完了している。オリフィエル領海軍、シントラー領海軍も8割が後退を完了。残るは“ヴァルター”を中心とする司令部艦隊とそれに随伴していた2割の領海軍。うん、まずは数の少ないオリフィエル、シントラーの領海軍を逃がそう。敵艦隊が後退した艦隊を諦めて、僕達のほうへと狙いを変えて包囲網を閉じつつあるからね。


 そうと決まれば指示を出さないとね。風魔法を上手く操作して、敵艦隊に聞こえないようにしながら指示を出す。


「『総司令官のガイウスより命令する。オリフィエル、シントラーの領海軍は、後退し友軍と合流せよ。』マウリッツ船長、我々司令部艦隊は最後まで残るぞ。ただし、一隻たりとも沈めはせん。」


「了解です。閣下。敵を怯ませる!!火矢での攻撃を増やせ!!出し惜しみするな!!」


 “ヴァルター”を中心に攻撃の勢いが増す。それでも、少し心許こころもとない。アントンさん達はよく戦ってくれているけど、敵の心を折る手が足りない。どうしようかな。


「『ジョージ、今、大丈夫かな。』」


『はい、ガイウス卿。大丈夫ですよ。』


「『こう、船に対する攻撃が強い人って知らないかな?』」


『ふむ、船ですよね・・・。あ、1人、思い当たります。義弘達と同じ侍、武士ですが時代が結構さかのぼりますね。源為朝みなもとのためとも、鎮西八郎とも言いまして、弓の使い手で軍船を沈めたという嘘か真か逸話があります。ただ、気性が荒いのが難点ですね。』


「『ありがとう、早速、【召喚】してみるよ。』」


『ご健闘を。』


 さて、【召喚】しているところをあまり見られたくないから少しだけ船室に戻ろう。


「マウリッツ船長、私は少し船室に戻る。すぐに戻るが何かあったら知らせて欲しい。」


「了解しました。」


 船室に戻ったらすぐに【召喚】をする。魔法陣と光が部屋を埋め尽くす。魔力が思いのほか持っていかれる感じがする。光が収まると1人の完全武装の侍が立っていた。2mを超すであろう身長に、弓も刀も大きく、矢なんて槍に矢軸を付けたような太い矢になっている。


「小童、お主が俺を呼んだのか?」


「そうだよ。僕はガイウス・ゲーニウス。12歳で辺境伯の地位を賜わっている。君の名を教えてくれるかな?」


「ふむ、ならば、俺のこの弓を引いてみろ。引けたら教えてやる。」


 そう言って、弓を差し出してくる。僕は両手でそれを受け取り、普通の弓のように引こうとするとビクともしない。なので、少し力を加える。そうすると徐々に引けたので、さらに力を加えたら、キチンとれるところまでつるを引く。


「これで、どうかな?」


 と聞くと、両膝を突いて頭を垂れた。


「先程は申し訳なく。ガイウス殿の実力見せて頂きました。その御歳で素晴らしい闘気にお力を備えていらっしゃる。懸命に仕えさせていただきたい。」


「ありがとう。で、名を教えてよ。」


「はい、源為朝と申します。鎮西八郎とも自称しております。」


「それじゃあ、為朝、これからよろしく。さて、【召喚】したばかりだけど、今は海戦の最中でね。君の剛弓の力を是非とも披露してほしいんだ。」


 そう言うと、為朝は立ち上がり、胸にドンと手を当て、


「お任せください。敵船などこの弓で沈めてみせましょう。さあ、行きましょうぞ。」


 と頼もしい言葉を言ってくれた。


 艦橋に戻ると、すでにこの海域に残るのは僕ら司令部艦隊のみとなっていた。


「領軍艦隊は後退に成功しました。」


 マウリッツ船長が報告してくれる。


「待たせて悪かった。助っ人だ。源為朝という。弓の使い手だ。為朝、早速だがあの船を攻撃してほしい。」


「承知。」


 そう言うと矢をつがえて、弓を引き絞る。そして、矢を放つ。ビュン!!という音と共に矢が真っ直ぐに左前に位置していたダーニャ級の船首喫水線付近に向かい、ドンッ!!という轟音と共に大穴が開く。喫水線近くに大穴が開いたので、そこから海水がなだれ込む。ダーニャ級はゆっくりと、だが確実に船の船首部分から沈み始める。


「次はあの船かな。」


 そう言って、右前にいるマクシマ級中型帆船を指差す。今度は3本の矢が放たれた。2本は喫水線付近に大穴を開け、1本はマストをへし折った。へし折れたマストでバランスが崩れ、穴から流入する海水でマクシマ級は5分も持たずに横転した。その間にも矢と為朝の体力が続く限り、包囲しようとする敵艦隊を攻撃し続けた。その甲斐あってか包囲しようとしていた敵艦隊からの攻撃が弱まった。僕はすぐに、命令を出す。


「『司令部艦隊、全船、後退!!【風魔法】と【水魔法】を使う。注意しろ!!』」


 そして、司令部艦隊は敵に船首を向けたまま、攻撃をしながら高速で後退する。2kmほど離れたら反転してさらに増速する。追撃は無かった。帝国艦隊は追撃よりも立て直しを優先しているみたいだね。これで前哨戦はおしまいかな。


「『ジョージ、艦隊の突入準備は大丈夫かな?』」


『はい、問題ありません。両艦隊よりマストの見えない6km地点で待機していますので、すぐに突入できます。』


「『うん。エドワーズ空軍基地にはルーデル大佐達を出撃させるように連絡しといてね。ルーデル大佐が交戦空域に入ったら僕と直接、通信するということも厳命しておいて。』」


『了解しました。』

 

 さてさて、今度はラルン岬沖で帝国艦隊には悪夢を見てもらおうかな。

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