第205話 反撃開始

 ラルン岬沖で先に後退していた艦隊と合流する。すぐに司令部艦隊を先頭に右下に斜め線を引くように梯形ていけい陣を組む。前哨戦では被害が少なかったけど、それでも、国軍艦隊が失った船の数は35隻。艦体すべてで52隻。623隻のうち1割近くも失ってしまった。


 もっとも、沈んだのは衝角攻撃ラムアタック隊の中核をなす、小型の快速櫂かい船が45隻。残りの7隻は船齢20年を超す老朽船で、撃ちたいだけ撃って、最後は敵の大型船に2度目の衝角攻撃ラムアタックを仕掛けて、敵船もろとも沈んでいった功労船だ。戦死者は57名。沈んだ船の数の割には、まぁ、マシだけども、それでも僕達の立てた作戦で亡くなった人達だ。僕はひっそりと黙祷もくとうを捧げる。そして、彼らを動かす。


「『マーティン中尉、“霧島”ら私兵艦隊はどうかね。』」


『はい、ガイウス卿率いる司令部艦隊より5kmの地点であります。』


「『よろしい。別名あるまで待機だ。』」


『了解しました。』


 艦橋でこれらのやり取りをしていると、通信機とヘッドセットのことを知らないマウリッツ船長たちは不思議そうな目で見てくる。僕は彼らに視線を向け、笑顔を作ると、


「心強い味方に応援を頼んだ。私兵艦隊だが期待してくれ。」


 と言う。そうするとみんなの眼に力が灯る。よし、まだまだこれからだ。


「『ヘラクレイトス、飛龍ワイバーンの皆は艦隊上空で待機。』」


『承知した。』


 ヘラクレイトス達が上空を遊弋し、艦隊が梯形ていけい陣で待ち構えている所に、1時間後、帝国艦隊のマストがポツポツと見え始めた。僕は、ヘラクレイトスの背に乗り、敵の陣形を確認する。魚鱗の陣形だ。総旗艦のレオニード級超大型帆船“ピョートル”は三角形の底辺の真ん中に確認できる。つまり最後方ということだね。セオリー通りだ。


 ヘラクレイトスの背から降り“ヴァルター”の艦橋に着地する。ふと微かにプロペラ機の飛行音がしたので空を見上げてみると零式水上観測機が飛行していた。多分、“霧島”の搭載機だろう。高度は・・・6,000mほどかな。


『ルーデルよりガイウス卿へ。F-15E全機、交戦空域上空11,000mに到達しました。これより我々は事前の計画通りライトニング隊として行動します。』


「『了解した。合図を待つように。』」


『ライトニング1、了解。』


 準備は整った。帝国艦隊の船の形までわかるようになってきた。3kmほどってところだね。強化されている視力だから見えるけど、高位冒険者のユリアさん、アントンさん、レナータさん、高ステータスの源為朝以外の普通の人だとまだよく見えないかもね。


「それでは、行こうか。『全艦隊、全速前進!!帝国艦隊に逆撃を喰らわせる!!』」


 【風魔法】で命令をいき届かせる。各船からは雄叫びが聞こえてくる。闘志は衰えていないね。つられて上空の飛龍ワイバーン達も雄叫びを上げる。“ヴァルター”を先頭に司令部艦隊が動き出すと、各分艦隊も陣形を保ちながら追従する。


「『マーティン中尉、岩淵大佐へ“私兵艦隊、突入開始”以上だ。』」


『了解。岩淵大佐、ガイウス卿より突入許可です。』


『ありがとう、マーティン中尉。僚艦に発光信号!!“突入ス。我ニ続ケ。”機関、最大船速!!3番、4番は左舷に指向!!全砲門、三式弾及び榴弾を装填!!』


 よし、これで“霧島”率いる艦隊は大丈夫。次はルーデル大佐が率いるドイツ空軍第2地上攻撃航空団(SG2)が駆るF-15Eに突入のタイミングを伝える。


『オールライトニング、こちらガイウス。我が艦隊の最後尾を構成する分艦隊が帝国艦隊と接触したら、ナパームによる炎の壁を帝国艦隊の後方に造りだせ。その後は、攻撃自由だ。』


『ライトニング1より、了解。』


 通信が終わり、ヘッドセットの上から兜を被る。フェイスガードは上げたままだ。そのまま腕を組んで艦橋に立つ。徐々に帝国艦隊が近づいてくる。2km・・・、1.5km・・・、1km・・・、そして、500mを切る。


「『全艦隊、攻撃開始!!』」


 【風魔法】に乗せて攻撃命令を出す。交戦範囲に入った船から弩砲や各【魔法】による攻撃が始まる。為朝も弓を射る。それは帝国側も同じだけど、帝国側の攻撃を全て僕の【風魔法】による障壁で防ぎ、被害を限りなくゼロに近くしている。また、【水魔法】で海流を操り、帝国艦隊の衝角攻撃ラムアタックを防ぐ。逆にこちらの衝角攻撃ラムアタックは海流のおかげで次々と成功する。


 帝国艦隊も防御のために、【風魔法】や【水魔法】を展開しているけど、各船単位で行っているから、強弱の差が激しい。艦隊を集結させていた時にそういう段取りはしていなかったのかな?イリダルさんの話しでは派閥や領地での対立がかなりあるってことだったけど、この様子を見るに本当の事みたいだね。


 そして、遂にその時が来る。左舷側の水平線で光ったと思った次の瞬間、帝国艦隊の中段の上空で爆発が起きる。“霧島”の三式弾による攻撃だ。弾子が着弾した船は帆から燃え上がり、それが全体へと広がっていく。帝国はこの不意打ちにかなり驚いたようで、攻撃の勢いが弱まったぐらいだ。


 でも、それだけでは終わらない。爆音と共に雲を切り裂きF-15Eが舞い降りてくる。そして、帝国艦隊の後段のさらに後衛の船を目標として、ナパーム弾を一発ずつ投下していく。直撃を受けた船はすぐに火達磨となり、人の形をした炎が海へと飛び込んでいく。そして、敵の後方には1,000℃を超す炎の壁が造られた。


 ちなみに教会率いる救助艦隊には「帝国艦隊の後方は激しい攻撃に見舞われるから近づかないように。」と警告を出していたから無傷だよ。ただ、炎の海への救助活動に難儀しているようだね。【水魔法】で障壁を作りながら、熱傷者を救助している。


 そして、こちらでは、攻撃の様子に呆気に取らている敵指揮官をアントンさん達が前哨戦と同じように捕縛していく。そして、白旗を上げた敵船はすぐに戦場から離脱させる。うん、此処までは上手くいっている。


 でも、今回は前哨戦と違って僕達には後が無い。ここで帝国艦隊を全滅させないといけない。


 全体の指揮をしながらそんなことを考えていると、強い衝撃が“ヴァルター”を襲う。敵のマクシマ級中型帆船2隻が“ヴァルター”に強制接舷してきたからだ。すぐに渡り板が架けられ敵の水兵が“ヴァルター”に乗り込んでくる。僕が対応しようとすると、為朝ためともが、1mを超える太刀を抜きながら、


「ここは俺に任せていただきたい。」


 と許可を求めてきた。


「わかった。頼んだ。」


「承知。」


 言うやいなや、左手に槍のような矢を持ち、乗船してきた敵兵に投げる。見事に軽鎧を貫き、その後ろにいた敵兵にまで傷を負わせる。


「さぁ、命の惜しくない奴はこの源為朝が相手をしてやろう!!」


 雷のような大声で威嚇をしてから斬りかかりに入る。一振りするごとに、軽鎧ごと帝国兵の身体が真っ二つになる。それでも帝国兵の数が多く、為朝だけでは止められそうにない。


「マウリッツ船長、私も出るぞ。」


「お待ちください、閣下。フランク副長!!兵を率いて為朝殿と共に敵を抑えろ!!」


 マウリッツさんが僕の提案を却下し、甲板で指揮を執っている副長のフランクさんに命令を下す。


「了解!!総員、俺に続け!!為朝殿の援護に入る!!」


「「「オオ!!」」」


 船上での戦闘は激しさを増す。ふむ、とりあえずは僕の出番は無さそうかな。その間に【遠隔監視】でルーデル大佐の様子を見る。


『ガーデルマン、ミサイル・・・じゃなくてマーヴェリックの残弾は?』


『今、発射したので最後です。誘導中・・・命中しました。他の機もマーヴェリックを撃ち尽くしたようですよ。あとは、燃料気化爆弾と通常爆弾のみですので、大佐の腕に任せます。』


 そうガーデルマン少佐に言われると、ルーデル大佐はF-15Eを上昇させながら、ため息交じりに言う。


『Ja、Ja(はい、はい)。しかし、こいつはあまり好かん。』


『燃料気化爆弾ですか?』


『ピンポイントで狙わんでも、敵兵を殺せるからな。』


『楽でいいじゃないですか?』


『だったら全部、機械に任せりゃいい。シンフィールド中将は無人攻撃機というのがあると言っていたからな。ま、愚痴は此処までだ。全機、着いてきているな。これより、燃料気化爆弾の投下を開始する。敵船の集中している所を狙え。』


 そう言うと、ルーデル大佐は急降下し燃料気化爆弾を投下する。主翼のパイロンから燃料気化爆弾が投下され帝国艦隊の頭上で爆発する。木造船だからマストはへし折られ、甲板にいた乗員は死に絶えた。そして、船は炎に包まれる。


『後は、Mk.82(通常爆弾)を投下して帰投しましょう。』


『ハハハ、残念だが、ガーデルマン。バルカンがまだ残っている。20mmだ。木造船程度なら粉微塵だな!!』


『ああ、もうわかりました。お好きにどうぞ、機長。』


 一旦、【遠隔監視】を閉じる。うん、ルーデル大佐の好きなようにしているけど、ガーデルマン少佐が上手く手綱を握っているね。


 “ヴァルター”船上での戦闘はこちらが押し始めている。為朝は左舷に着いたマクシマ級に乗り移って暴れている。そちらから移乗してきた帝国兵が慌てて戻っている。フランクさん達もあと少しで逆撃できそうだね。


 さて、今度は“霧島”を見てみよう。


『青葉も発砲を始めたな。“夕立”、“綾波”に魚雷の発射の用意をさせろ。距離10,000で撃たせる。』


『了解。』


 青葉が砲撃を開始したと言うことは、3kmを切ったということだね。【遠隔監視】の画面から目を離して西を見ると、“霧島”の巨体がハッキリと見える。西側に展開している帝国艦隊にも動揺が広がっているのかな?届かないのに弩砲を撃っているよ。


 そして、ヘラクレイトス達は得意の【風魔法】を使い、帝国艦隊を上空から攻撃している。ヘラクレイトスを中心としたある年齢以上(人間でいえば20歳以上)の飛龍ワイバーン達なんかは巨体を活かして、マストをへし折ったりしている。飛龍ワイバーンには生半可な攻撃は効かないからね。


 さて、反撃は今のところは特に問題なく進んでいる。だけど、何が起こるかわからないのが戦場だって本に書いてあったからね。気を引き締めていこう。

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