第200話 お客さん
「“青葉”より緊急電です!!」
艦橋にみんなで戻ると通信兵さんが電文をもって入ってきた。
「読み上げろ。」岩淵大佐が言う。
「はっ。“ワレ、魔族ト名ノル者ト接触セリ。ガイウス閣下ヘノ謁見ヲ希望ス。”とのことです。」
「ふむ、閣下、どういたしましょう?」
「会おうじゃないか。わざわざ、出向いてくれたんだ。」
「了解しました。“青葉”に返電。“謁見ヲ許可スル。客人トシテ扱ウコト。”」
魔族の人と会うのは初めてかな。アドロナ王国のあるアイサール大陸には、魔族の人が中心となって
とりあえず、“青葉”、“夕立”、“綾波”の3隻が戻ってくる間に“霧島”は搭載機の回収を行う。【水魔法】で海面を穏やかにして、【風魔法】で横風を防ぐ。後から、パイロットさんに魔法での補助はどうだったかを聞いたら、とても楽に着水できたと感謝された。
“青葉”が近づいてくるにつれ、【気配察知】に膨大な魔力量が引っかかってくる。さらに他にも魔力を感じたので詳しく探ると、お客さんは5人いるみたいだ。【遠隔監視】で覗いてみよう。“青葉”のどこにいるかを【気配察知】を鋭くして、あたりをつける。士官室の中だね。そして、【遠隔監視】を発動する。士官室を映した画面が現れる。ふむ、上座にいるのが魔族の人かな。額からは角が、背中からは翼が生えている。そして、左右に2人ずつ
“青葉”がダーニャ級を曳航しながら“霧島”の右舷につく。“青葉”からタラップが降ろされ内火艇が用意される。魔族の人達はそれに乗って来るようだ。艦隊司令室で待っとこう。
程なくして扉がノックされる。
「閣下、お客様をお連れしました。」
速水少尉の声だ。彼って何でもこなすね。すごいや。
「はい、どうぞ。」
「失礼いたします。」
そう言って、速水少尉が扉を開けると、魔族の人を先頭に入ってくる。部屋に全員が入ると頭を垂れて、挨拶をしてくる。
「お初にお目にかかります。
「うむ、そちらの国の事は知識では知っている。私はアドロナ王国ゲーニウス領領主ガイウス・ゲーニウス辺境伯である。爵位の説明は不要であろう?」
「はい、アドロナ王国では辺境伯位は侯爵位と同等であると学んでおります。」
「左様か。して、此度は何用かね?ああ、そのままだと話し
「ありがとうございます。閣下。」
ハリソンさん達が椅子に座り、給仕の兵卒さん達が紅茶を淹れて置いてくれる。
「さて、先程と同じ質問だが、此度は何用か?」
「はい、閣下。領海線のギリギリを哨戒飛行していた
なるほどね。好奇心に負けちゃったかー。領主がそれだと配下の人達も大変だね。ん?クリス達がなんか言いたげな目で僕を見ている・・・。いや、僕は、そんなに迷惑は・・・。うん、かけているね。しかも、インパクトが強いのをいくつも。取り敢えず、紅茶でのどを潤し、
「では、ハリソン領主の願いは私に会うことで叶ったわけだ。」
「まぁ、そうではありますが、領海侵犯をしていないとはいえ、我が国に向けて2隻の船が戦闘をしながら接近したことについても説明をして戴けると
「ふむ、確かに。もっともだ。貴方の護衛の4名は口が堅いかね?」
「信のおける部下たちであります。」
それじゃあ、アドロナ王国とアイソル帝国との海戦が近日中に起こることを話してみようかな。ピーテルさんとマヤさんに視線で確認したら頷いてくれたし。
「さて、ことの起こりは我が領とアイソル帝国ナボコフ辺境伯領の境に在った砦からの話しとなる。まず・・・。」
そこから10分ほど状況の説明を行ったけど、理解してくれたようだ。
「なるほど。・・・閣下、それがこちらに飛び火することはございませんな?」
「無い。とは言い切れんな。帝国の船が逃げ先にするやもしれん。」
「王国の船は来ないと?」
「王国領海で行うのだ。逃げる先は自領だろうさ。」
「確かに。そうですね。」
「他に何か聞きたいことはあるか?この艦隊以外についてだ。」
「あー、そうですなぁ・・・。その、閣下が“フォルトゥナ様の使徒”というのは本当のことなのでしょうか?」
「ああ、本当だ。証明はこの翼ではどうかな?」
そう言って、純白の翼を背中から生やす。
「おお、まことに。我ら魔族のモノとも
「納得してくれたようならよかった。他は?」
「いえ、特にございません。
「帰りの船は必要かね?」
「いえ、充分に飛行可能な距離ですので。ご厚意は有り難く。」
そうして、彼らは魔王国に帰っていった。予想できなかったけど繋がりを作れて良かった。ハリソンさんも伯爵位に相当する家柄の人らしいし、魔力の量が具現化していると云われている立派な角に翼を持っていたしね。
さてさて、まだやらないといけないことがある。
「速水少尉、イリダル卿を連れてきてくれないかね。ああ、彼は既にこちらに
「はい、閣下。少々お待ちを。」
そう言って、給仕の兵卒さん達と共に出ていく。
「あー、疲れた。魔族の人ってあんな感じなんだねぇ。」
「ええ、
「クリスも?
「ええ、
クリスに聞いたらそう言われる。
「私も魔族の方々は、アイサール大陸ではあまり見かけたことがありませんね。」
とユリアさん。
「魔族は基本的に干渉するのもされるのも嫌っているからな。」
流石はレナータさん、
「速水少尉であります。イリダル卿をお連れしました。」
「はい、どうぞ。」返事をする。
「失礼します。」
速水少尉が扉を開け、特に拘束されていない様子のイリダルさんが入ってくる。まぁ、僕も特に指示は出さなかったからね。
「キレイになったようだな、イリダル卿。」
「はい、閣下。ところで、ご用意されていたこの着替えですが、私の持っているモノとうり二つなのですが・・・。」
「そこは、機密事項だよ。さあ、席に着きたまえ。情報を貰おうじゃないか。」
「はい、閣下。では、失礼して。」
そう言って、イリダルさんが椅子に座る。すぐに給仕の兵卒さんが紅茶を出してくれる。各自、のどを潤してから話しを始める。
「では、わがレオンチェフ艦隊の役目ですが、強行偵察でした。」
「だろうな。偵察巡洋艦のダーニャ級を使用していたんだ、そのあたりのことは私でも推測できる。」
「そうでしょうな。ちなみに、今回、出撃したのは我が艦隊のみです。」
「本当に3隻だけだったとは・・・。帝国の司令官は何を考えているのかね?」
「何も考えてはいないのでしょう。話しは少し変わりますが、私のレオンチェフ領は港町を領都とし、小さな村が数個ほど点在する地でありますが、まぁまぁの大きさの川が流れておりまして、そのおかげか漁獲量は領の規模に比べるとかなりのモノになります。そうなると、近隣の貴族からは・・・。」
「妬まれると?」
「まあ、はい。その通りです。それで、話しを今回の強行偵察に戻しますと、その貴族の中には海軍閥でも発言力を持っている
その言葉を聞いて、僕たちはため息をついてしまった。今から、海戦で殴り合いをしようとしているのに、貴重なダーニャ級3隻を私欲のために使い潰すなんて考えられない。それだけ、こっちをなめているのかな?
「ふむ、卿の境遇には同情する。まあ、こうして命があるのだ。帝国艦隊が全滅すれば、オーシプ司令官とその取り巻きが責を問われるのだ。卿の領地が奪われることもあるまい。」
「全滅させることを前提に話しをされるのですね。まぁ、そうでしょうな。何処の国にも無い鋼鉄艦を持ち、魔法や弓、弩の射程外から攻撃ができ、あまつさえ
「あの時とは、私がヘラクレイトスに乗り“ファイーナ”に接近した時のことかね?」
「ええ、そうですとも。船長と2人で大笑いしましたよ。迎撃しようにもここまで歯が立たない相手がいるのかと。」
へえ、あの時の笑みはそう云うことだったのかぁ。なるほどね。あっ、そうだ、一番聞きたいことを早く聞こう。
「ところで、卿は帝国艦隊の進発日時はご存知か?」
「ええ、男爵といえども指揮官の1人でしたから。7月10日月曜日、陽が沈んでからの進発となります。規模も一応、お教えしておきましょう。大小合わせて1,327隻となります。帝国の西部方面の海軍力の9割と北部方面から4割を引き抜いての数です。」
ピーテルさんとマヤさんが息を呑むのが聞こえた。僕はそれを無視してなるべく不敵に笑って、言う。
「つまり、私が武勲を上げるためのそれだけの獲物がいるということだ。素晴らしいな。実に素晴らしい。」
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