第199話 遭遇戦・その2

「イリダル卿、あれが先程まで君たちを攻撃していた艦だ。そして、今から君たちを救助する艦でもある。」


「あれが・・・。何と、巨大な・・・。まるで城が浮いているようですな。しかも、我らの射程外からの攻撃、あれは何を使用したらできるのでしょうか?」


「ふむ、まあ情報はいつでも漏れるものだ。教えてしんぜよう。艦の前面に巨大な筒が4本ある。そこから高速で鉛玉を撃ち出すのだ。」


「炎と煙も見えておりましたが、【火魔法】と【風魔法】の併用でしょうか?」


「それに近いモノだと思ってくれていい。」


 息を吐くように嘘をついたけど仕方ないよね。火薬なんて開発されてないし、蒸気タービンはいわずもがな。多分、説明しても理解ができないよ。


「では、イリダル卿、私は艦に戻って指示を出さねばならないのでな。もう少し待っていてくれ。」


「はい、閣下。」


「ヘラクレイトス、頼む。」


 ヘラクレイトスの背に飛び乗り、“霧島”へと向かう。


 “霧島”の戦闘艦橋に降ろしてもらう。そうすると岩淵大佐達が上がってきた。


「ガイウス閣下、完勝です。“青葉”、“夕立”、“綾波”は敵艦の拿捕に成功しました。抵抗も無く、現海域に向かい曳航中とのことです。」


「それはなによりだ。被害は?」


「敵艦にそれぞれ命中弾がありましたので、負傷者が出ていますが【ヒール】とやらを使える者がいるそうなので、問題は無いとのことです。」


「そうか、そうか。さて、そろそろ救助の態勢に入らないといけないが、航走波を打ち消さないと救助に支障が出るな。【水魔法】で打ち消そう。」


 “霧島”が発生させる航走波を“霧島”の周囲の海水で押さえつけることによって打ち消す。そして、岩淵大佐が「両舷停止。」の命令を出すと同時に艦の進行方向とは逆向きの海流を“霧島”の艦体を覆うように【水魔法】で作り出す。“霧島”はゆっくりと、だが、完璧に救助海域で停船した。


 すぐに内火艇が海面に降ろされ、舷側タラップも降ろされて、100人ちょっとの“ファイーナ”の乗組員の救助が始まる。1,000名以上の“霧島”乗員が救助をするから早い早い。事前の救助があったとはいえ、30分ほどで終わってしまった。勿論、遺体も収容したよ。ちなみに最後に“霧島”に乗艦したのは、イリダルさんだ。指揮官としてのしっかりとした心構えを持っていることを再確認できた。


「イリダル卿、早い再会だったな。」


「全くです。閣下。」


「しかし、卿の血まみれの姿はいかんな。岩淵大佐、風呂の用意は?」


「できております。」


「ということだ。まずは風呂に入りたまえ。ああ、心配しなくても卿の部下たちも風呂に入れる。安心してほしい。」


「お心遣い感謝します。」


「ああ、それと、これを持っていきたまえ。また血まみれの服ではだめだろう?」


 そう言って、【召喚】で出して準備していたイリダルさんの服を案内役の水兵さんに渡す。そのまま、イリダルさんは案内の水兵さんと共にお風呂へと向かう。その姿を見届けてから岩淵大佐に向き直る。


「大佐、“青葉”、“夕立”、“綾波”との合流はいつ頃になりそうか?」


「はい、閣下。もう間もなくかと。双眼鏡ではそれぞれのマストを確認できています。合流までに観測機の収容作業に移りたいと思います。」


「許可する。・・・いや、待て。何かが近づいてくる?これは・・・。海中だ、大きいぞ!!左舷から来る。戦闘用意だ、大佐。」


【気配察知】に海中を高速で接近する気配を感知したので、すぐに岩淵大佐に命令する。


「了解しました。全艦戦闘用意!!両舷原速!!主砲は左舷に指向!!三式弾、装填!!」


 岩淵大佐が艦橋へ上がりながら命令を下していく。ヘラクレイトスやレナータさんも感じ取ったようで、


「我と同等の存在やもしれん。」


「いや、ヘラクレイトス、亜龍のあんたよりも弱いさ。リヴァイアサンだね。この気配は。ただの魔物だ。血の臭いに惹きつけられたんだね、心配いらないよ。」


 と、レナータさんが接近してきているモノについて断定してくれた。赤龍の彼女がいうのならそうなんだろうね。


「ヘラクレイトスは上空で待機。援護が必要な時は呼ぶから。みんなは一緒に艦橋に上がろう。」


 ヘラクレイトスが羽ばたいて空へと舞い上がる。そして、僕達は艦橋へと上がる。

 艦橋に着くとジョージが聞いてくる。


「ガイウス卿、何かあったのですか?」


「リヴァイアサンだ。こっちにやって来ている。」


「リヴァイアサン!?なんてこった・・・。旧約聖書に出てくる怪物じゃないか・・・。」


「地球では怪物だが、こちらではただの大きい水棲魔物だ。大佐は?」


「岩淵大佐なら戦闘艦橋へ上がりましたよ。」


「それでは、僕も上がる。みんなはここにいるように。」


 水兵さんの案内で戦闘艦橋へと上がる。その前に水兵さんが、伝声管で報告をする。


「ガイウス閣下、戦闘艦橋で指揮をとられます。」


 戦闘艦橋ではいくつもの双眼鏡が左舷側の海面を睨んでいる。岩淵大佐も指示を出しながら確認している。


「ガイウス閣下、戦闘艦橋に上がられました。」


 案内してくれた水兵さんが、岩淵大佐に報告する。戦闘艦橋にいた双眼鏡をのぞいている人以外が敬礼してくるので答礼する。


「大佐。敵はリヴァイアサンだ。血の臭いにおびき寄せられたようだ。“ファイーナ”の沈没地点に浮上する可能性が高い。」


「了解しました。沈没地点を中心に円運動をします。『取り舵。』『両舷第1戦速。』」


『とーりかーじ。』


『第1戦速、よーそろー。』


 ググっと“霧島”が増速しながら艦首を左に向けるのがわかる。“霧島”の動きかヘラクレイトスやレナータさん、僕の気配に刺激されたのか、海中のリヴァイアサンの速度が上がるのが察知できる。


「大佐!!来るぞ!!」


「了解!!」


「“ファイーナ”の沈没地点、水中に巨大な影を確認!!」


 その時、見張り員さんの報告と共に“ファイーナ”のいた海面が持ち上がり、大口を開けてリヴァイアサンが浮上してきた。


「1番から4番、撃ち方始め!!次弾も三式弾!!各副砲、銃座は自由に攻撃!!」


『撃ちー方、始め!!』


 8門の主砲の一斉射撃の轟音で空気が震える。左舷に備わっている副砲からも発砲炎が上がり、銃座からは絶え間なく、25mmの銃弾が放たれ、空中で炸裂さくれつした三式弾が弾子をばら撒き、リヴァイアサンの巨体にダメージを与える。痛みにもがく咆哮ほうこうが聞こえる。


「大佐、アイツは人間の血の味を知ってしまったから、絶対にここで殺す。」


「了解。」


 また、主砲が火を噴き、三式弾の弾子がリヴァイアサンを傷つける。それでも、なお倒れずに、逆に“霧島”に向かって突っ込んできた。


「『取り舵一杯!!』『最大戦速!!』このまま砲撃しながら押し潰します。」


『とーりかーじ、いっぱーい。』


『最大戦速、よーそろー。』


「任せたよ。大佐。」


「はい、閣下。『舵、もどせ。』」


『戻ーせー。』


 1番砲塔、2番砲塔が火を噴きながら三式弾を放つ。正面を向ける副砲、銃座も攻撃を継続する。リヴァイアサンは血だらけになりながらも大口を開けて突っ込んでくる。


 そして、“霧島”とリヴァイアサンがぶつかる。約37,000tの巨体を、136,000馬力の力が約30ノット(約55,5km/h)の速力を発揮しながら、リヴァイアサンに乗り上げ、押し潰し、海面に大きな波飛沫なみしぶきを上げる。


ったか!?」


 思わずといった様子で岩淵大佐が声を上げる。【気配察知】でリヴァイアサンの気配を探る。弱まっているけど、死んでない。“霧島”の後方に回りこもうとしている。


「大佐、奴は水中を移動して後方に回りこもうしている。3番、4番をすぐ撃てるように。」


「了解。3番、4番は6時方向へ指向。目標が浮上次第、砲撃開始。」


 はたして、リヴァイアサンは思惑通りに“霧島”の後方、6時方向ピッタリに浮上し、雄叫おたけびを上げる。すぐに岩淵大佐が命令を下す。


「『3番、4番、撃て!!』」


『3番、4番、ってぇー!!』


 煙突に遮られてはいるけどハッキリと三式弾がリヴァイアサンの周囲に炎の花を咲かせるのが見えた。


 リヴァイアサンは雄叫おたけびを断末魔に変え、その力を失った巨体を海面に打ち付け、大きな水柱を上げる。


「大佐、遺骸の回収に向かう。」


「お気をつけて。」


「ありがとう。ヘラクレイトス!!」


 空に向かって【風魔法】にのせて声を放つ。すぐにヘラクレイトスが下りてくる。

「どうした?ガイウスよ。」


 ヘラクレイトスの背に飛び乗り、伝える。


「リヴァイアサンの遺骸を回収しよう。ボロボロだけど多分、良い素材が取れるよ。」


「うむ、わかった。」


 サッとリヴァイアサンの遺骸を回収して“霧島”に戻る。艦隊司令長官室を借りてピーテルさんとマヤさんに今回の戦いの感想を聞いてみる。


「どうでしたか?今回の戦いは?」


「いやはや、何と言えばいいのか・・・。圧倒的でしたな。しかし、緒戦から徹甲弾というものではなく、リヴァイアサンに使用した三式弾というのを使用していれば、もっと早く決着がついたのでは?」


「流石ですね。ピーテル卿。まあ、今回は極力、死者を出さないように戦いたかったので、あのような戦闘の仕方となりました。捕虜という情報源は必要でしょう?」


「確かに。閣下の仰る通りです。今回のように指揮官級の捕虜なら尚更ですな。」


 ウンウンと頷いてピーテルさんは納得したようだ。マヤさんは興奮気味に、


「閣下!!素晴らしい海戦を見せて頂き、感謝します。これなら、帝国艦隊も一網打尽でしょう!!」


 と、言ってくれた。


「ありがとうございます。マヤ殿。」


 美人な女性ひとに褒められるのは悪い気がしないね。おっと、クリス達から無言の圧を感じる。褒められているだけだからいいじゃない。それとも、こういうのも普通はダメなのかな?恋愛って難しいね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る