第192話 ソロモンの戦鬼たち
26日月曜日にピーテルさんと話し合った内容、
“オリフィエル領からは海上戦力、ゲーニウス領からは航空戦力を増援として派遣準備にはいる。また、ガイウス本人の【能力】による援軍も派遣する。”
これはすぐに書簡としてツァハリアスさんの元へと早馬で届けることにした。
そして、29日木曜日にツァハリアスさんからの返信が届いた。
“支援に感謝する。帝国側への警戒を強めているが、大規模な海上戦力の移動がみられた。侵攻の日は近し。”
というような内容のものだった。ふ~む、これが届くまでに時間差があるからすぐに動いた方がいいかも。
すぐにクスタ君と共にヘニッヒさんの執務室に向かう。ノックをして返事が返ってきたので扉を開けると、ヘニッヒさんは僕の顔を見るなり、
「閣下がお急ぎと云うことは厄介事ですね。領内ですか?領外ですか?それとも黒魔の森ですか?期間は?」
「領外だ。シントラー伯爵領。今日中に出発し相手の出方次第では1カ月ほど政務が取れなくなる。ただ、領の行き来はあるだろうが。」
「承知しました。皆、聞いていたな。ガイウス閣下が出征なさる。その間は私が辺境伯代理として動く。これでよろしいですかな閣下。」
さすがヘニッヒさん。よくわかってらっしゃる。全部を言わなくても理解して行動に移してくれる。ありがたいね。あ、シュタールヴィレの面々は連れて行くけどクスタ君は留守番だからそれも伝えておかないと。
「うむ、頼んだ。ああ、クスタ秘書官は残留だ。」
「承知しました。クスタ秘書官。君は閣下が不在の間はこちらの執務室で仕事をしたまえ。」
クスタ君はすぐに頭を下げ、「承知しました。準備をします。」と答えてヘニッヒさんの執務室を出て行く。「手伝いを。」とヘニッヒさんがラウニさんと他の文官さん達に声をかけ、ラウニさん達は一礼してからクスタ君の後を追う。残ったのは僕とヘニッヒさんのみだ。
ヘニッヒさんが風魔法で防音壁を作り出す。
「さて、閣下。何が起きているのか詳しく説明して戴いてよろしいでしょうか?」
「ええ、ヘニッヒ殿。実は・・・。」
ヘニッヒさんの質問に僕は話せるところのみを話す。全てを話し終わるとヘニッヒさんが聞いてくる。
「イオアン・ナボコフ辺境伯のお言葉の通りならば帝国陸軍は大丈夫なのですね?」
「はい、大丈夫なはずです。それに私の私兵の2部隊も置いていきますので。」
「島津隊と呂布隊ですね。彼らは“黒魔の森”の深い層で随分と結果を出しているようですから確かに戦力としては問題ないですね。では、無事のご帰還をお待ちしております」
「ありがとうございます。っと、2人が戻ってきたみたいです。」
「流石の気配察知能力ですね。壁を消しましょう。」
ヘニッヒさんが展開していた防音壁が消えてしばらくしてからクスタ君とラウニさん達が書類などを台車に乗せて戻って来た。それを確認した僕は、
「それでは、行ってくる。後は頼んだ。」
そう言って行政庁舎を後にしてクレムリンに戻る。途中エドワーズ空軍基地でジョージを捕まえてくるのも忘れない。クレムリンに着くとすぐにシュタールヴィレの面々を招集する。クリス達には事前に説明していたのですぐに出発できる準備ができていた。勿論、ジョージも。
【空間転移】でオリフィエル領内の森に出た。領都“ナドレン”が近いこともあってか野生生物の気配はあるけど魔物の気配は無い。それじゃあピーテルさんの所に行こうか。
森から出て街道を騎乗して進めばすぐにナドレンの門に着いた。貴族証を見せて衛兵さんにピーテルさんの所にまで案内してもらう。ピーテルさんはナドレンの行政庁舎にいるらしい。
衛兵さんの先導で行政庁舎内を進んでいく。誰何(すいか)されないのは衛兵さんが小隊長さんだからかも。鎧の二の腕部分に赤い2本線が入っているからね。すぐに代官執務室と書かれたプレートが掲げられている場所へとつく。衛兵さんが扉をノックすると「誰かな?」とピーテルさんの声が聞こえた。
「ピーテル閣下。領都衛兵隊第3中隊第2小隊長のダミアンです。ガイウス・ゲーニウス辺境伯閣下御一行をお連れしました。」
そう言うとおそらく秘書官さんであろう男性が扉を開けてピーテルさんが起立していた。
「ダミアン小隊長ご苦労だった。ガイウス様御一行を心より歓迎します。どうぞ、お入りください。」
ダミアンさんにお礼を言い室内に入る。
「ガイウス様、彼は私の秘書官兼護衛でルカと申します。ルカ挨拶を。」
「はい、ピーテル様。ガイウス・ゲーニウス辺境伯閣下、私はピーテル・オリフィエル準男爵閣下の秘書官兼護衛を務めておりますルカと申します。」
「うむ。ピーテル卿、彼は信がおけるかね?」
「はい、閣下。閣下に関する秘密は絶対に漏らしません。それと、妻の紹介をしたいのですがよろしいでしょうか?彼女も大丈夫です。」
「うむ、卿(けい)の奥方ならば一度、挨拶をしておきたいと思っていたところだ。構わんよ。」
「ありがとうございます。ルカ、マヤを呼んできてくれないか?」
「承知しました。」
それほど時間もかからずにルカさんが女性を伴って戻って来た。
「ピーテル様、マヤ様をお連れしました。」
「ご苦労。閣下、私の妻のマヤ・オリフィエルです。行政庁舎にて私の補佐役兼代理をしております。」
ピーテルさんがそう紹介すると綺麗なカーテシーをしながらマヤさんが挨拶してくれる。
「ご紹介にあずかりました。マヤ・オリフィエルです。先日は主人の件でご迷惑をおかけしました。」
「いや、大丈夫だ。問題は無かった。ピーテル卿の愛国心ゆえの行動であったと理解している。」
「お許しくださり、まことにありがとうございます。今後は主人ともども閣下の下(もと)でこのオリフィエル領を盛り立て、お力になります。」
「うむ。頼んだ。」
形式ばった挨拶が終わったところでピーテルさんに目配せする。ピーテルさんが頷き、部屋の鍵をかける。そして、防諜のために風魔法で防音壁を室内に作り出す。僕はパンッと手を叩き言う。
「では、場も整ったのでいつも通りの口調でいきましょう。あ、これが素の僕です。公の場以外ではこんな感じです。改めてよろしくお願いします。マヤさん、ルカさん。」
「は?はあ、よろしくお願いいたします。ガイウス様。」
ちょっと戸惑っているみたいだね。
「ルカ、飲み物の用意を。閣下お座りになってください。皆さんも。お飲み物はお茶と果実水どちらにしましょう。」
「果実水でお願いします。みんなもそれでいいよね?」
シュタールヴィレの面々とジョージが首肯する。それを確認したルカさんが一旦部屋から出て行く。
果実水がみんなにいきわたったのを確認してから口を開く。
「帝国海軍に大規模な動きがみられたとツァハリアス殿から連絡がありまして、こちらにおもむきました。先日お見せしたあれの海軍版をここでするつもりです。」
「シントラー領でなくてよろしかったのですか?」
「帝国海軍を一気に叩くなら引き込んで殲滅するしかないでしょう?そのために目立たないようにオリフィエル領で海上戦力を整え、帝国海軍が侵攻したらシントラー海軍と共同して迎撃します。ツァハリアス殿には伝えてありますので。」
「それでは早速軍港に案内しましょう。ルカ、君も着いて来てくれ。マヤは、他の職員にはガイウス様と共に軍港にいると伝えておいてくれ。」
「承知しました。」
「わかりました。業務の方も代行しておきましょう。」
準備ができたみたい。
「では、行きましょう。」
「お願いします。ピーテル卿。」
ピーテルさんとルカさんの案内で軍港に着く。ここにも王国海軍の司令部と軍船があったけどシントラー領に比べると規模が小さかった。まあ、国軍としては領海が接していないからこんなものなのかもね。オリフィエル領海軍はシントラー領と同等と言えるものだったけど。さて、領軍の岸壁に不自然に開けられた空間があるからそこに【召喚】すればいいのかな?貴族モードに切り替えて聞いてみよう。
「ピーテル卿。あの場所へ配置すればよいのかな?」
「はい、閣下。お願いいたします。既に国軍、領軍の指揮官や兵には閣下のお力を使用することについて詳細を省いて通達済みです。騒がれることは無いかと。」
「承知した。では始めよう。【召喚】」
想像するのは不撓不屈の精神を持つ乗員に操られる軍艦。以前【召喚】した戦艦“大和”よりも素早く動けて大軍を相手に出来る者たち。そう想いながら【召喚】を進める。光と魔法陣が収まると4隻の船が岸壁に係留状態で現れた。4人の乗員が降りてくる。“大和”の艦長と同じ服だから大日本帝国海軍所属なんだろうね。彼らは僕の目の前で敬礼をしながら、自己紹介をしてくれた。
「大日本帝国海軍金剛型戦艦4番艦“霧島”艦長、岩淵三次大佐であります。」
「同じく大日本帝国海軍青葉型一等巡洋艦1番艦“青葉”艦長、久宗米次郎大佐であります。」
「同じく大日本帝国海軍綾波型駆逐艦1番艦“綾波”駆逐艦長、作間英邇中佐であります。」
「同じく大日本帝国海軍白露型駆逐艦4番艦“夕立”駆逐艦長、吉川潔中佐であります。」
4人に答礼をしながら自己紹介と命令を下す。
「貴官達を此処に【召喚】したガイウス・ゲーニウス辺境伯だ。これより私の指揮下に入り、作戦行動をとってもらいたい。」
「「「「了解しました。」」」」
「では、貴官らの部下にも今の命令を伝えたまえ。一旦解散だ。」
そう言うと敬礼をしてそれぞれの乗艦に戻っていく。ところで【鑑定】で軍艦を見てみたら霧島には“羅刹”、青葉には“ソロモンの狼”、綾波には“ソロモンの鬼神”、夕立には“ソロモンの悪夢”が異名として表示されているんだけど、これは何だろう?日本通のジョージに聞いてみよう。凄くはしゃいでいるから声をかけづらいけど。
「ああ、その異名ですけど霧島以外は地球のソロモン諸島という所で起きた海戦からきている異名ですね。まぁ、それだけ活躍した艦ということです。霧島の“羅刹”について自分は聞いたことが無いですね。勉強不足で申し訳ないです。」
「いや、大丈夫だよ。ありがとう。と云うことは戦力としては十分と云うことかな?」
「ん~、こちらの本を読みましたけどこの世界の海戦って一部鋼板の木造船の帆船や櫂船(かいせん)での魔法と弓矢の撃ち合い、接舷しての斬り込みに機動力のある船でのラムアタックでしょう?十分どころじゃないですよ。過剰戦力です。戦艦は主砲射程が3万メートル越え、一番小さい駆逐艦の主砲でも射程が1万8千メートルはありますから、魔法や弓矢の射程外から撃ち放題ですよ。それに基本的に船体全て鋼鉄製なので、帆船や櫂船(かいせん)のラムアタックでは破孔は開きません。もし接近して魔法で攻撃しようとしても副砲や機銃ですぐに穴だらけになりますよ。まあ、船速が違い過ぎて接近もできないでしょうけど。ワンサイドゲームですよ。」
「ほう、凄いね。」
「ええ、全く。ああ、でも、船速の方は【水魔法】や【風魔法】を使って艦隊運動をしてきたらわかりませんけどね。あ、後で艦内の見学をしたいんですがよろしいですか?」
「ああ、各艦長の許可をとれば大丈夫だよ。というか、僕たちも中を見たいしね。早速、許可を取りに行こう。」
「ヤッター!!ありがとうございます!!」
そんなやり取りをジョージとしていると、案内してくれたピーテルさんにルカさん、クリス達シュタールヴィレの面々は口をポカンと開けていた。あー、もしかすると情報量が多すぎちゃった?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます