第193話 血と矜持

 ジョージの希望もありピーテルさんとルカさん、クリス達を連れて霧島、青葉、綾波、夕立の艦内を見ていく。案内は各艦の副長さんがしてくれる。霧島は大和よりも古くて小さい戦艦だけど戦争の時はかなり働きまわった戦艦の1つらしい。戦没してしまったけど。ジョージが言っていた。まあ、乗組員の人達は【召喚】された存在だから戦争で自分たちが最後まで生き残っていたかどうかなんて知らないからね。


 それで、各艦の基本的な性能を知ったんだけど、この4隻とルーデル大佐達がいれば勝てるんじゃないかな。帝国海軍に。そのことをポツリと言うと。ジョージが、


「確かに現状ではそうでしょう。しかし、ガイウス卿がいつもいるわけではありません。こちらの海軍にも戦闘に参加してもらうべきです。」


「でも、味方の血が流れないならそれにこしたことはないんじゃないかな?」


「いいえ、ガイウス卿。血が流れてこその戦争です。同胞の血が流れるから人は戦争を忌み嫌うのです。中央にいる政治家や政治屋にはわからない感覚かもしれませんが、冒険者としても働いているガイウス卿なら味方の血の尊さはわかるでしょう?」


「うん、そうだね。魔物の血を見ても何とも思わないけど、クリス達が傷つくのは嫌だね。できるなら、みんなの血が流れないように最速で討伐は終わらせたいよね。・・・ああ、なるほど。ジョージが気にしているのは、味方の血が流れないことで勢いづいたこちら側からの侵攻が行なわれないかってことか。」


「ま、簡単に言うとそうです。誰だって死にたくないですから。それに兵站も整っていない状態での侵攻は敵地での略奪行為へと繋がります。そうなれば、いくら帝国から攻めてきてあちらに非があるとしても、帝国の民衆は王国に臣従しないでしょう。」


 ジョージの意見にうんうんと頷いていると、ピーテルさんが、


「ジョージ殿の言う通りです。我らも参加してこその防衛戦となります。閣下のお力、別の世界の戦力のみを頼りにはしたくはございません。武人としての血が許しません。これは我らの“矜持”であります。おそらく、ツァハリアス伯にご意見を伺っても同じように反応されるかと。」


 と意見を言ってくれたので、それを確認したうえで案を提示してみた。


「はい、わかりました。それでは、敵を二つに分けてして戦闘を行いましょう。先程見学した4隻とエドワーズ空軍基地の全航空戦力のゲーニウス辺境伯軍の単独軍とシントラー海軍、オリフィエル海軍、王国海軍の連合艦隊でそれぞれ相手を殲滅しましょう。ああ、飛龍王ワイバーンロードのヘラクレイトス率いる飛龍ワイバーン達600体は連合艦隊の方へまわしましょうか。」


飛龍ワイバーンをまわしていただけるのはとても有り難いことです。」


「では、そのようにしましょう。ただし、飛龍ワイバーンのみで龍騎士ドラグーンは騎乗していないので間違えて攻撃をしないように気を付けてください。」


「はい、周知しておきましょう。」


 どうやらこの案で大丈夫みたいだね。ツァハリアスさんにも伝えておかないと。書簡を机と椅子を【召喚】してスラスラと書く。書き終わったら僕とピーテルさんの署名と家紋印を押して、最後に僕の封蝋印で封印する。ピーテルさんが早馬を準備してくれると言ったけれど、僕が飛んだ方が速いのでそうすることにした。


 机と椅子を【送還】し、久しぶりに翼を背中に生やす。クリス達のことを任せて僕はシントラー領へと向かう。転移は使用せずに【風魔法】で追い風を吹かせて加速しながらだ。勿論、向かい風と空気の抵抗で苦しくならないように風の障壁を全身に纏っているよ。


 亜音速ぐらいの速度で飛行していると陽が沈む前にシントラー領の領都ネヅロンに着いた。門の近くで着地して貴族証を見せると、すぐに衛兵隊の小隊長さんが馬を用意してツァハリアスさんの所まで案内してくれる。あ、翼は勿論、消したよ。ただの翼なら鳥獣人や魔族の人と思われるだろうけど、純白の翼だとフォルトゥナ様の使徒の証として騒ぎになるからね。


 ツァハリアスさんは行政庁舎にいた。案内してくれた小隊長さんにお礼を言い、ツァハリアスさんに書簡を手渡す。


「これは・・・、ふむ、我が領を囮とし、帝国海軍を引きずり込むのですね?」


「はい、領海内に侵入される可能性があるので北部海域での活動は控えるように各ギルドへ通達をお願いします。」


「わかりました。緒戦はせいぜい上手く負けてみせましょう。腕が鳴りますな。」


「難しい役目ではありますが、よろしくお願いします。」


「お任せください。」


 よし、伝令の役目終了っと。あとは少し雑談をしてオリフィエル領都ナドレンの軍港へ向かってネヅロンを飛び立った。


 ナドレンの軍港に着いたのは水平線に太陽の3分の2が沈んでいる19時前だった。着地するとすぐに霧島から副長さんが降りてきた。


「閣下。ご無事のお戻り何よりです。夕食の時間となりましたのでお連れの皆さまを招待いたしました。どうぞ、閣下も霧島の料理をご堪能下さい。」


 僕は、その言葉に頷いて副長さんの後をついて行く。案内された部屋は、限られたスペースの中で出来るだけ空間を広く見せて威厳を持たせているように思えた。僕が部屋に入ると着席していた全員が起立して迎えてくれた。


「戦艦“霧島”の誇る士官食堂へようこそ。今宵は存分にお楽しみください。」


「ありがとう、岩淵大佐。皆も待たせてすまなかったね。折角の料理が冷めてしまう前に戴くとしよう。」


 僕がそう言って着席すると一拍遅れてみんなも着席する。う~む、このお堅い感じは好きじゃないけど仕方がないかな。ま、クリス達も喜んでいるしいいか。ジョージなんか色々と質問している。マナー違反じゃないかな。日本軍の軍人さん達は笑顔で対応しているけど。


 そんなこんなで楽しい夕食も終わり、日本帝国海軍の4隻のことをピーテルさんに任せて帰路につくことになった。ピーテルさんからは屋敷に泊まっていかないかと丁寧に誘われたけど、ゲーニウス領にもどって、ヘラクレイトス達やシンフィールド中将達にも話しを早めにしておきたいから丁重に断ったよ。


 ナドレンからクレムリンへと戻り今日の仕事はこれで終了。エドワーズ空軍基地には明日、説明に行くつもりだ。クリスとローザさん、エミーリアさん、ユリアさん、レナータさんとは「お休みなさい」の意を込めてハグをして就寝する。あっ、お風呂に入るのは忘れていた。ま、いいか。明日の朝、行水しようっと。おやすみ~。


 おはよう。6月30日金曜日が始まる。行水をすませて体をサッパリとさせ、脳を起こす。朝食を終えたらすぐにエドワーズ空軍基地に向かう。滑走路では偵察機RF-4Cと戦闘爆撃機F-15Eがそれぞれ増槽を付けて1機ずつ離陸準備を行なっている。その後ろには空中給油機KC-46が待機している。


 F-15Eのヘルメットバイザーを上げているパイロットと目が合う。顔の半分がマスクに覆われて分かり難いけど、あの目はルーデル大佐だ。彼は、すぐに敬礼をしてきたので僕も答礼する。その後は親指をグッと立てサムズアップをすると離陸準備を再開する。


 僕は急いで戦闘指揮室にいるシンフィールド中将の所へと向かう。


「おはよう、中将。ルーデル大佐はRF-4CとKC-46を引き連れて何をしようとしているのかね。」


「おはようございます。ガイウス卿。いえ、慣熟飛行を行いたいとの事でしたので黒魔の森の未探索の部分への飛行許可と魔物と遭遇した際の最低限の攻撃を許可したまでです。」


「ああ、だから、爆装を減らし増槽を付けていたのか。ところで、今から飛行計画を変えられないだろうか?」


「ふむ、どちらへ?」


「オリフィエル領の北。ネリー山脈を越えてアイソル帝国の最南西の領地“ウブヌビ”まで戦略偵察を行なってほしい。敵の艦隊の集結状況を知りたい。」


「了解しました。オペレーター、フライトプラン変更。演習では無く実戦だ。目標は・・・。」


「では、お願いする。」


 シンフィールド中将はオペレーターに指示を出しながら敬礼をしてくれたので答礼をして部屋を出る。そのまま、基地施設をでてヘラクレイトス達の所へ向かう。途中で甲高い音が響き始めたと思ったら、雷が落ちたときのような轟音を立て、アフターバーナーを焚いたRF-4CとF-15Eが飛び立っていく。さて、有益な情報が得られるといいね。

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