第186話 引っ越し・その2

今年最後の更新になるかもしれません。厳しい時世ではありますが、皆さまよいお年を。

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「みんな、こちらがクレムリンの執事を束ねる家令のレーヴィさん。そしてメイドを束ねるメイド長のマイユさん。そして、奴隷を束ねているダグだよ。」


「お初にお目にかかります。ご紹介にあずかりましたレーヴィと申します。屋敷の事でしたら何なりとお申し付けください。」


「同じくお初にお目にかかります。メイド長のマイユでございます。皆さまの身の回りのお世話をさせていただきます。」


「お初にお目にかかります。奴隷たちの代表をしておりますダグと申します。雑用などはお申し付けください。」


 とりあえずこの3人を紹介しておけば屋敷での生活は困らないはず。


「あら~、みなさんご丁寧にどうも。ガイウスの母のヘルタと申します。息子がお世話になっています。でも、ガイウス。なんでダグさんだけ呼び捨てなのかしら?私は常々、他人ひとには敬意を払いなさいと教えていたはずよ?」


「お待ちください、ヘルタ様。それは我々、奴隷達でガイウス様に敬称を略していただくようお願い申し上げたのです。お叱りは私が受けますので。それと、ご家族の皆様も我々奴隷に対しては敬称は不要でございます。」


 そう言って、ダグが母さんの前に跪く。母さんはどうすればいいのかわかっていないようでオロオロしている。


「お義母かあ様、そのような時は一言“許す。励め。”と仰ればよろしいのですよ。」


 その言葉と共にクリス達がやって来た。応接間で改めて紹介するつもりで待っていてもらっていたんだけどなぁ。そんな僕の気持ちも感じ取ったのかクリスは、


「ガイウス殿が遅いので様子を見に来たのです。それにわたくし1人だけよりも婚約者全員とアントン殿もご一緒のほうが色々と手間が省けてよろしいでしょう?貴族的にはあまり褒められた行動ではありませんが。」


 そう言いながらドレス姿の女性陣は一斉にカーテシーを行い、軍装に身を包んだアントンさんは敬礼をする。父さん達はそれにお辞儀で返礼する。


「皆さまはこれからガイウス殿のお身内としてお過ごしになります。まずは貴族の礼儀作法に慣れることから始めた方がよろしいでしょう。レーヴィ、マイユ、頼みましたよ。まずは25日の式典までには最低限のことをお教えしておいてくださいな。」


「「はい、クリスティアーネ様。」」


 アントンさんが進み出てダグに指示を出す。


「ダグ。爺様と親父さんはそこそこの実力があるがここは北の最前線の地だ。奴隷の中から腕利きをトマスとヘレナには3人ずつ。大人には2人ずつ護衛に付けられるか?」


「はい、可能ですが呂布将軍や義弘殿の部下の方々の方がよろしいのでは?」


「お前さんの意見も実力だけで考えればもっともだ。ただ、やっこさんらは力があり過ぎる。やり過ぎてしまう場合があるからな。お前さん達ぐらいの力加減が市街地での護衛には丁度いいんだよ。」


「それならば承知しました。すぐに用意いたします。それでは失礼いたします。」


 そう言って、ダグは奴隷達を集めに行った。


「みんな、僕はこれから仕事に行くよ。後の事はクリス達が案内してくれるから。それじゃあね。」


 僕もすぐにクレムリンから行政庁舎に向かう。父さん達はポカンとしていたけどクリス達がうまくしてくれるはず。トマスとヘレナは我関せずといった感じだったし大丈夫だろう。


「ガイウス様、大変です!!」


 執務室に入るとクスタ君が駆け寄ってきた。


「まあ、落ち着いてください。何が大変なんですか?」


「商業ギルドより緊急の連絡がありまして、龍騎士ドラグーン志願者が集中してニルレブの宿では収まりきらないそうです。」


「ふむ、ならば溢れた志願者はエドワーズ空軍基地の兵舎に泊めましょう。勿論、錬成開始前なので宿泊費は取ります。そうですね。一番安い宿と同じにしましょう。貧民街出身の志願者もいるので。それではシンフィールド中将へ書簡を用意しますので誰かをエドワーズ空軍基地まで行かせてください。」


「わかりました。溢れた志願者の誘導には衛兵隊を使用してもよろしいですか?」


「それが最善でしょうね。暴れた場合にはすぐに取り押さえられますし。」


「衛兵隊司令のウルリク殿にはすぐに使いを出します。」


 そう言ってクスタ君は執務室を出て行った。招集の期限、20日火曜まであと3日あるのにみんな行動が早いね。まぁどこの軍でも精強と云われる龍騎士ドラグーンになるチャンスが出身、身分、性別を問わずにあるのだから、こうなるのも仕方ないか。ただ、志願者同士でいさかいや争いが起きないように注意しておかないとね。ウルリクさんには苦労をかけるだろうけど。


 誰もいなくなった執務室で【異空間収納】から無線機を取り出してシンフィールド中将を呼び出す。書簡を出す前に事前に知らせておこう。


『ガイウス卿、どうかなされましたか?』


「『実は・・・。』」


 志願者達を兵舎に宿泊させることについて伝える。


『ふむ、問題は無いかと。出す料理もこちらの世界風にして出しましょう。』


「『よろしくお願いする。』」


『了解しました。』


 通信を終えて業務をしていると扉がノックされて、


「閣下、ウルリク衛兵隊司令をお連れしました。」


 クスタ君の声だ。「どうぞ。」とこたえるとクスタ君が扉を開きウルリクさんが入ってきて敬礼をする。座るように促し、自分も着席する。すぐにクスタ君がお茶を出してくれる。


「秘書官殿からお話しを聞きました。ニルレブ衛兵隊は海兵隊により鍛えられておりますので充分に対処可能です。」


「それなら、よいのです。よろしくお願いします。」


「はい閣下、お任せください。」


 その後はお茶を楽しみながら少し雑談をしてウルリクさんは衛兵隊司令部へと戻っていった。その後はシンフィールド中将への書簡を用意して職員さんにエドワーズ空軍基地まで持って行ってもらう。


 終業時刻までは特に何も起こらずに今日も無事に終わった。あ、いや1つだけ問題というか何とも解決しがたいことがあったかな。エドワーズ空軍基地に行ってもらった職員さんがシンフィールド中将の返書を預かってきてくれたんだけど、2通あったんだよね。


 それで1通は通信機で連絡した通りのことが書いてあって、もう1通にはルーデル大佐がいつの間にか単独出撃して6個の魔物の群れを殲滅ないしは壊滅状態にしたみたい。まあ無傷で帰還したみたいだからそんなに気にしなくてもいいような気がするんだけどね。


 さて、早くクレムリンに帰ってクスタ君を父さん達に紹介しないと。

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