第185話 引っ越し

 昨夜のオーガとの戦闘で駄弁だべりながらクスタ君と仕事をこなしていく。昼休みになるとオーガの素材と討伐証明部位、死体の提出を兼ねて冒険者ギルドに行き併設食堂でクスタ君と一緒に昼食を摂る。


「さて、僕は今からギルドの受付に行ってきます。クスタさんはこちらで待っていてください。」


「わかりました。お手伝いしましょうか?」


「大丈夫ですよ。」


 僕が席を立ち受付へ向かうとすれ違う冒険者達が軽く頭を下げてくる。僕はそれに手を挙げ応える。受付カウンターに着くと用件を伝える。


「昼食時間に申し訳ないが、ギルドマスターのレンニ殿をお願いしたい。恐らく彼でなければ処理ができないであろう案件だ。」


「かしこまりました、ガイウス閣下。少々お待ちください。」


 すぐにレンニさんはやってきた。


「閣下、お待たせして申し訳ありません。何でも私でなければ処理できない案件ということでしたが。」


「うむ、まずはこれを見てほしい。」


「これは・・・。オーガの討伐証明部位の角ですね。オーガを狩られたのですか?」


「集落を殲滅した。約5,000はいた。しかし、まあ私の私兵は強力なのでな、頭ごと吹き飛ばしたりしたせいで死体はあるのだが角が無い。どう処理してくれるか尋ねたくてな。」


「死体があるのでしたら“処理・解体室”のほうで対応しましょう。オーガの場合は骨も素材になりますから。どうぞこちらへ。」


「ありがとう。」


 というわけで、【異空間収納】していたオーガの死体を偽魔法袋から出しているように見えるようにドサドサと出していく。処理・解体室が天井までオーガの死体で埋まり、レンニさんをはじめとしたギルド職員さんの顔が引きっているけど気にしない。最後の1体を出して振り向いて言う。


「炭化していたり欠損していたりするので時間が掛かると思う。急いでいないので正確に処理してほしい。可能かね?」


「あ・・・ハイ。お時間を戴けるのであれば可能です。」


 レンニさんがポカーンとしながら答えてくれた。


「それでは、私は仕事があるので庁舎に戻る。何かあれば日中は庁舎のほうへ。それ以外はクレムリンへお願いする。」


 そう言って処理・解体室を出る。その後は食後のお茶をクスタ君と楽しみ庁舎へと戻って午後の業務を開始した。甘い物を食べている時のクスタ君って尻尾をブンブン振って耳がピンと立って可愛いんだよねえ。


 それはさておき、領軍の階級制度の改変案についてジギスムントさんと領軍の上級幹部数名と会議を行なっている。国軍もだけど領軍は大まかな階級しか存在しない。分隊長、小隊長、中隊長、・・・、師団長、軍団長、総司令官と云った感じで役職において分けているわけだ。後は方面軍(隊)司令官とかが随時追加される感じかな。そこに地球の軍隊と同じような階級を取り入れようと思っている。


「新たな階級制度は爵位と連動するものなのでしょうか?」


 簡単な説明をすると早速ジギスムントさんが質問をしてくれる。あ、もちろん地球の事ははぶいているよ。


「いや、今のところは爵位と分けて考えてほしい。軍の中では爵位よりも階級が優先する。」


「承知しました。」


 現在、領軍に所属している兵の扱いや上級指揮官に与える階級とかを話し合って今日の会議は終わった。領軍の中でさらに検討をしてみるということだから任せておこう。そうしよう。実際に運用するのはジギスムントさん達だしね。今回の案は受け入れなくても大丈夫と伝えていたから圧力にはなっていないはず。


 その後は前年度の税金の徴収率の会議に出席した。本当は5月にやるはずなんだけど王領からゲーニウス領へと変わったから遅れての開催になっちゃった。担当の人の話だと滞納者もいたけど特に問題も無く徴収できたみたい。


 ただし、税の延納が多い貧民街の家庭をどうにかして下流層の家庭並みの収入に持っていけないかと云うことでほとんどの時間を使っちゃった。解決案として特に深く考えずに僕が、


「黒魔の森を開拓して農地を増やそうか?」


 と言ったら、“何言ってんだコイツ”みたいな空気になっちゃって、


「全ての領民が閣下のようなお力を持っていないのです。ましてや貧民街の者達となると無理でしょう。魔物からの農地の防衛問題が増えるだけです。」


 ヘニッヒさんがみんなの気持ちを代弁してくれた。“領軍の訓練として魔物を定期的に間引けばいい。”とかは簡単なものではないかぁ・・・。


「しかし、農地を増やすというのは良い案かと。比較的、各町に近く安全な箇所を探してみましょう。王領のころは土地に手を付けるのも中央の許可が必要でしたが今ならばスムーズに進むでしょう。まあ、今回は徴税に関する会議ですので、また改めて担当部署の者と会議を開くべきかと。」


「ああ、そうだな。皆も話しをらせてしまってすまなかった。」


 というわけで、僕の今日の主な仕事はおしまい。執務室でクスタ君と駄弁りながら仕事をこなして家路に着く。明日はみんなを迎えにナトス村に行くからゆっくりと休もう。


 6月17日土曜日は朝から曇りだ。雨季に入っているから仕方ないね。朝食を済ませてすぐに【空間転移】でナトス村近くの黒魔の森に移動する。そこからは翼を出して空を飛んで村の入口まで向かう。


 村の入口には猟師のイルガおじさんがいた。今日の当番みたいだ。空中で静止して挨拶をする。


「おはようございます。イルガおじさん。」


「ん?おお、ガイウスか。お前さんが来たということはエトムント達の迎えだな。」


「はい。村に入ってもいいですか?」


「いいも悪いもあるかね。さあ、入りな。」


「ありがとうございます。」


 そのまま5mほどの高さを飛びながら家に向かった。すぐに着いて着地をして翼を消す。そして、ノックする。


「父さん、母さん、みんな、迎えに来たよー。」


 すぐに玄関が開いて父さんが中に招き入れてくれる。


「早かったな。まあ、準備はできているからいいがね。で、移動手段は馬車か?」


「違うよ、父さん。フォルトゥナ様から授かった力でこの家と家畜達ごと移動するって言ったでしょう。」


「あれは本当のことだったのか。てっきり冗談だと思っていたよ。」


「もう。まあ、いいや。今から移動するね。」


「ああ、頼んだ。」


「それじゃあ、フォルトゥナ様のお力をお借りして【空間転移】。」


 こうしてクレムリンの横に僕の実家と畑に家畜小屋が移動した。家族のみんなは外の景色を見てポカンとしている。いや、弟のトマスと妹のヘレナは家の隣にそびえ立つクレムリンを見て「すごーい!!」とはしゃいでいる。取り敢えず固まっている大人組を現実に戻すために揺する。


「父さん、母さん。じいちゃんもばあちゃんもしっかりしてよ。この前説明していたでしょ?」


「あ、ああ。わかってはいたがこれほどとは・・・。」


「もう。父さんはこれからは辺境伯の父として暮らすんだからね。堂々としていてよ。」


「いや、農民の父さんにはなかなか難しいよ・・・。」


 とにかく、父さん達には辺境伯の家族ということを意識して生活してもらわないといけない。農民の時の方が気楽で自由だったろうけどね。そんなこんなでクレムリンの正門に家族みんなで向かいながら改めて僕の地位と役割を説明する。


 門に着くと呂布と義弘がいてすぐに拝礼をしてくる。


「ガイウス殿のご家族の皆様方。お初にお目にかかる呂布奉先と申しまする。」


「同じくお初にお目にかかります。島津兵庫頭義弘しまづひょうごのかみよしひろと申しまする。呂布将軍とは別の隊を率いておりもす。」


 すぐにトマスとヘレナが反応した。


「すごーい。呂布?さんって大きいね。強そう!!」


「島津?さんの鎧?いろんな色が使われていてキレイ・・・。」


 僕たちをそっちのけではしゃいでいる。呂布も義弘も嫌がる様子も無くちゃんと相手をしてくれている。


「今日からみんなが外出する時は、呂布か義弘の部下が必ず2人護衛として付くからね。それと、部屋はこの屋敷の中に用意してあるから・・・。」


「のう、ガイウスよ。」


「ん?どうかした?じいちゃん。」


「じいちゃんとばあちゃんは元の家で暮らしたいんだがの。」


「う~ん、少しだけ待っていて。」


 僕は呂布と義弘のもとに行き尋ねる。


「今の僕とじいちゃんのやり取りは聞こえていたと思うけど、警備の方はどうかならないかな?」


「歩哨が移動できる防壁で防衛範囲を囲って戴ければ高順か張遼に専任の者を選出させます。」


「おい(私)のほうでも、必要な人数を出すようにしもす。」


「ん、ありがとう。トマス、ヘレナの相手をもう少ししていてね。」


「「御意。」」


 じいちゃんの元に戻り、


「大丈夫みたい。ただ、今ある木の柵じゃなくてもっと頑丈な防壁で囲むからね。」


「ああ、そこはガイウスに任せようかの。」


「父さんと母さんは屋敷の方で大丈夫?」


「トマスとヘレナが喜ぶのはそっちの方だろうからな。問題ないぞ。それに歩いてすぐじゃないか。」


「そうね。父さんの言う通りだわ。母さんも大丈夫よ。」


「ん、わかった。あとで屋敷の人達を紹介するからね。」


 これで、引っ越し完了っと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る