第177話 ジギスムント・クンツ男爵→ジギスムント・クンツ子爵

 昨夜のパーティーは簡易ながらも結構盛り上がった。グイードさん達3人も喜んでくれたようで良かった良かった。さて、明けて6月10日の土曜日、王都では済ませることはこれ以上ないから今日は少し観光してお土産でも買ってから帰ろう。


 王都には各地より人が集まるから色んな土地の工芸品が混ざって王都オリジナルとも呼ぶことのできる作品があったりする。そういうのは見ていても飽きない。とりあえずは気になったお店を片っ端から見てまわろう。豊久たちには14時ごろに王都の正門前に集合することのみを条件に自由行動を許可した。まあ、たぶん大丈夫だろう。うん。


 僕とクリス、護衛のグイードさん達3人と店を見てまわる。護衛がいるけど久しぶりにクリスと2人でデートみたいなことができて嬉しいなあ。クリスもそう思ってくれているといいんだけどね。


 っと、気になるモノを発見。細工のお店にある鋼を黒染めした髪飾りでブルーガーネット?という宝石が散りばめられているのがあった。僕とクリスの瞳の色が混じっているのはなかなかいいんじゃないかな。お値段も僕の所持金で十分に足りる良心的なものだ。クリスが他のお店を見ているうちにサッと細工のお店に入り購入をする。よし、クリスには気づかれていない。昼食の時に渡そう。


 そんで、昼食の時間になった。良さそうなお店を見つけて入店。グイードさん達3人は気を利かせてくれたのか別々の席にしてくれた。食後のお茶を楽しんでいるところにさっき購入した髪飾りをクリスにプレゼントする。


「まあ、ガイウス殿。これは鋼細工の黒染めですか?それに青い宝石、ブルーガーネットですね。これが散りばめられて夜空をいろどる星のようで綺麗ですね。それに黒と青は私たち2人の瞳の色と同じですね。ああ、それでこれをお選びになったのですか?」


「うん、そうだよ。折角だから婚約者らしいこともしないといけないなあと思ったからね。それに髪飾りなら成長しても指輪や腕輪みたいにサイズが合わないってことも無いし、戦闘中でも邪魔になりにくいかなと思ってね。あっ、ちなみにローザさん達にはまだ何も買ってないから黙っておいてね。」


「あら、ガイウス殿のことでしたから皆さんの分もご準備されているのもだと思っておりました。」


「いやあ、クリスを驚かせようと思ってね。急いで買ったからその髪飾りしか目に入らなかったんだよ。」


「でしたら今からでもローザ殿たちの分も探して買いましょう。一応、わたくしも女ですのでご助言できるかと思いますよ?」


「それじゃあ、お願いしようかな。」


「はい、喜んで。」


 というわけで、さっきの細工を売っているお店に戻った。じっくりと見てみると金細工や銀細工などもあり色とりどりの素敵な空間だ。さて、ローザさん達の分を選ぼう。と言っても時間が掛かるだけなので店員さんに色の組み合わせと細工の種類だけ伝えてカウンターの上に商品を並べてもらう。


 ローザさんとエミーリアさんはクリスと同じ髪留めに。ユリアさんとレナータさんは指輪にすることにした。それぞれの瞳の色と黒が配色されているモノがカウンターに並べられていく。お店の奥の方からもいくつも商品が出てきた。黒は地味だからあまり人気が無いので奥にしまってあるのが多いらしい。黒髪黒目の僕の容姿は地味ってことだよね。ちょっとだけ傷ついたかも。あっ、でも目立つよりかは全然マシかな。真っ赤な長髪のレナータさんとか街を歩いていると結構な視線を集めているもんね。


 そんなことを考えているとクリスが候補を絞ってくれたので、最後は僕の意思で決めて購入をする。うん。良い買い物ができた。僕につられてグイードさん達も奥さんにプレゼントを買ったみたいだ。


 さて、14時になったので王都の正門まで来ると衛兵さんと豊久達が一緒にいた。何か問題があったのかと思って聞いてみると、窃盗をした悪漢を捕まえたそうでそのままその人が所属していた窃盗グループまで狩ったらしい。その報奨金の計算が終わるのを衛兵さんと共に待っているそうだ。


「良い働きをしたね。昼食とかは摂れたかい?」


「はい、うんまかもんをずんばい食べもした。(美味しい物をたくさん食べました。)ただ、ちぃとばかり戴いた銭を使いすぎもした。申し訳なかこつです。(申し訳ないことです。)」


「お金のことは気にしなくていいよ。王都を楽しんでもらえたようでなによりさ。あ、報奨金は豊久達の働きで得たものだから僕に渡さなくてもいいよ。それと、今日余ったお金もそのまま持っておいてニルレブの街で使ってよ。」


「あいがとさげもす。(ありがとうございます。)」


 そんな雑談をしているうちに報奨金の計算が終わったらしく、豊久達の人数分の革袋を持って衛兵さんがやって来て1人1人に配っていく。途中で僕とクリスが貴族であることに気づいた衛兵さんが隊長さんを呼んで来ようとしたけど、急ぎの旅だからと丁重に断った。そして、すぐに正門を出て王都に別れを告げた。


 往路と同じで復路も野営をする強行軍を行い3日間でニルレブに着いた。今日は6月13日の火曜日だからクリス達と別れて僕はそのまま行政庁舎に向かう。

15時をちょっと過ぎた庁舎は窓口の人も少なくのんびりとした空気が漂っていた。まあ僕が入った瞬間に一気にピリッとなったけどね。申し訳ないことをしちゃった。通用口から入ればよかったかも。


 僕の執務室では特に変わりなくクスタ君が書類の仕分けと整理を行なってくれていた。


「閣下。お帰りなさいませ。」


「はい、ただいまです。どうぞ、クスタさん王都のお土産です。」


 そう言って、偽装魔法袋からお土産のお菓子を手渡す。


「わあ、ありがとうございます。大事に食べさせていただきますね。」


 尻尾がブンブンしている。


「喜んでもらえたようで何よりです。ヘニッヒさんにもお土産があるのでそちらを渡してから、残りの時間で執務をしましょう。それと、ジギスムントさんを呼んでください。もうこちらに引っ越されていましたよね?」


「はい、つい先日ですがこちらに仮の住まいに居を構えられました。お屋敷のほうは現在、建築中ではありますが。すぐにこちらにお越しいただくよう手配いたします。」


「では、お願いします。」


 僕はそう言って、執務室を出てヘニッヒさんの執務室に向かい、お土産を渡して少し雑談をしてから執務室に戻った。


 執務室には既にジギスムントさんが来ていた。クスタ君がお茶とお茶請けでもてなしていたみたいだ。


「お待たせしてしまいましたか?」


「いえ、閣下。大丈夫です。」


「そうですか、それはよかったです。クスタさんすみませんが少しの間だけお茶とお茶請けをさげてもらっていいですか?・・・。ありがとうございます。さて、ではジギスムント卿、けいの昇爵が決まった。けいのみを対象とした昇爵の式を望むかね?」


「はい。いいえ、閣下。そのようなことは必要ございません。しかし、そのような仰りようですと他にも爵位を下賜された方がいらっしゃるのでしょうか。」


「うむ、私の護衛騎士の3名が男爵へと昇爵した。この3名と同時に爵位授与式とパーティーを行わせてもらうが了承してもらえるかな?」


「はい、閣下。有り難く。」


「では、本日は子爵位の略綬のみを渡しておこう。ああ、護衛の3人も略綬のみを渡してある。どれ陛下の代わりに私が付けよう。・・・うぅむ。少しかがんでもらってもよいかな?ありがとう。・・・よし、これでけいも本日から堂々と子爵を名乗れる。それと、男爵位は召し上げられずにそのままとなった。直臣や嫡子以外の子に授けてもいいだろう。まあ、好きに使うがよい。」


「有難うございます。」


「ふう、堅苦しいのはこれでおしまいです。それと、ジギスムントさんには子爵位で終わってもらうつもりはないので悪しからず。」


「どういう意味ですか!?閣下!?」


 ジギスムントさんが聞いてくるけど右から左に流して、


「さて、なんのことやら?あ、式典とパーティーの日取りは追って連絡しますので。本日はご足労いただきありがとうございました。クスタさんお送りをお願いします。それではお気をつけて。」


 僕は笑顔でそう言いながら、執務室を出る2人を見送った。

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