第165話 実力

 いつの間にかフォローをしてくださっている方が1,000名を超えていました。驚きと同時に嬉しさもあります。今後も拙作をよろしくお願いいたします。


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 5月16日水曜日は、午前中に新兵訓練を体験し、午後からは教官たちにこの世界にさらに慣れてもらうために冒険者登録をしに冒険者ギルドへと向かった。ギルドに入ると、“地球”という異世界の軍装に身を包んでいるボブ達は好奇の視線にさらされる。それでも、特に気にした感じはない様子で僕の後ろを着いてくる。受付カウンターにて、


「彼ら10名の冒険者登録をお願いしたい。それと、練習場を借りたいのだが今の時間は空いているかな?」


「後ろの方々の冒険者登録ですね。わかりました。書類をご用意します。練習場は使用簿を確認しますので書類のほうの記入をしながらお待ちください。」


 そう言って、受付のお姉さんが席を外すと、ボブ達は書類への記入を始める。僕もテーブルを隅を借りてヘニッヒさん宛の書状を書く。内容は、龍騎士ドラグーンの募集についての注意事項で、“精神的にも肉体的にもるいを見ないほど厳しいモノとなるだろう”という文言を追加するようにというものだ。書き終えたら封筒に入れ封蝋印を押し、手近な衛兵詰所に持っていこう。そんなことをして時間を潰していると、受付のお姉さんが戻って来て、


「閣下、お待たせしました。今日は特に利用している方はいらっしゃらないようです。ご自由にお使い下さって結構ですよ。」


「ならば、念のため今から3時間ほど利用予約をさせてもらおう。皆、登録が済んだら練習場で待っておくこと。ウォーミングアップをしておくように。少し衛兵詰所へ行ってくる。」


「「「「「了解。」」」」」


 そして、衛兵詰所に行き書状をヘニッヒさんに持っていくようにお願いしてギルドに戻ってくると、練習場のほうが騒がしかった。というか、いつもは誰かしら居る併設食堂にも誰もいない。イヤ~な予感がしながらも練習場へ向かうと、歓声が聞こえた。


 観覧ブースに行くと、ボブ率いる教官たちが武器持ち冒険者達を相手に、無手で叩きのめしている。あれが軍隊格闘術マーシャルアーツなんだ。ステータスの差もあるけど、それでも、無手で木製とはいえ数で勝る武器持ちの相手に対して一歩も引かずに戦うのは凄い。あ、最後の1人が肘を顎に喰らって昏倒した。っと、感心して見ている場合じゃなかった。


「海兵隊最上級曹長!!貴官らは一体何をしている!?」


「はっ、閣下。先達の方々にウォーミングアップに付き合ってもらっておりました。」


「それは、本当かね?」


 近くにいる冒険者に尋ねる。彼は深く一礼をし、


「はい、閣下。その通りです。ただ、誘い方が少々まずかったかもしれません。」


 詳しく話を聞くと、昏倒している冒険者たちは受付での僕たちの会話を聞いていたらしく、辺境伯である僕の知人なり部下に冒険者として親切にしておけば後々便宜をはかってもらえるかもと思ってボブ達に近づいた。しかし、リーダー格 (実際には最上級者)であるボブの年齢を聞いた瞬間に、「その年齢で冒険者はやめといた方がいいぞ。爺さん。」と言った人がいるらしく、それにボブが「お前さんのようなヒヨッ子にできるのならば、俺達でも問題ないだろう。」と正に売り言葉に買い言葉。言われた冒険者は気が短いのか頭に血が上り、ボブ達に勝負を持ち込んだ。勿論、周囲は止めたが聞く耳を持たなかったそうだ。


 ちなみに、その発端となった20代の冒険者は開幕数秒でボブに首をめられて昏倒したそうだ。50歳のボブ強い。いや、ドニー達も強いけど20代~30代だからねえ。そんなには驚かないよ。感心はしたけど。ま、とにかく、


身体からだが温まったのなら丁度良い。これから、剣、槍、弓、盾の順で基本的な使い方を教える。良いな。」


「「「「「はっ、閣下!!」」」」」


「よろしい。まずは、練習場を綺麗にせんといかん。昏倒している冒険者たちを医務室に連れていくこと。戻ってくるときに待合室で自分の体格に合う剣、槍、弓、盾を持ってくること。以上だ。行動開始!!」


「「「「「了解!!」」」」」


 流石は正規の軍人、すぐに動き出して昏倒している冒険者たちを担ぎ上げ、医務室へと運んでいく。僕はその間にボブ達の相手となる騎士型ゴーレムを【土魔法】で作成する。強度はそこそこ、なるべく軽くして素早く動けるようにゴーレムを構成する土の成分を変える。確か、鉄よりも軽いアルミ合金というのがあるとジョージが言っていたからそれにしよう。よし、完成。見た目は鉄製みたいな銀に輝いているけど、軽くジャンプをしてもらっても軽い音しか聞こえない。


 僕が完成したゴーレムに1人でウンウンと感動していると、ボブ達が剣、槍、弓矢、盾を持って戻ってきた。


「諸君らにはこの1人で1体のゴーレムを相手に模擬戦をしてもらう。ゴーレムの武器はこれだ。」


 ドスンッ!!と音を立てて球状の木製メイスが【召喚】される。


「見ての通りメイスだ。重さはあるが、強度はそれほどでもない。直撃しても死にはしない。ただ、死にはしないだけだから怪我はするぞ。やれるかね。」


「もちろんです。閣下。海兵隊員の実力をお見せします。」


 ボブが代表してこたえる。


「よし、では、一通りの武器の扱い方を説明していこう。まずは剣からだ。」


 そう言って、僕は【教育者】の能力をフルに使用してボブ達に剣、槍、弓矢、盾の基本的な使い方と応用技を教えていく。大体1時間ほどで全員がそれらの武器を自由に扱えるようになったので、ゴーレムとの模擬戦を開始する。


「それでは、これよりゴーレムとの模擬戦をしてもらう。使う武器は自分が得意と思ったモノを使うといい。準備はいいかね?では、始め!!」


 カシャンカシャンとゴーレム達が動き始める。ボブ達は方陣を組んで前列が盾を並べ待ち構える。ゴーレム達が次々とメイスを振るうが、それを盾で上手く受け流している。盾を避けて横から攻撃しようとするゴーレムには槍と矢が襲う。てっきり個々人の戦闘力でゴーレムと1対1の戦いをすると思っていたから予想外だ。でも、チームでの戦闘は大事だからね。海兵隊の良い面を知れて良かった。


 5分ほどボブ達は方陣で固まっていたが、ボブの「今だ!!」の合図と共にサッと散る。そして、当初予定していた通りの1対1の構図ができたけど、驚いたことにゴーレムが内側になり、ボブ達が外側になっている。さっきとは立ち位置が逆転し、ボブ達がゴーレムを囲むようになっている。


 その後は、一方的な蹂躙じゅうりん劇だった。本気を出したボブ達海兵隊員の前では、ゴーレムといえども太刀打ちできず、1体、また1体と討ち取られていった。最後のゴーレムは10人全員の攻撃を受け地面に倒れ伏した。戦闘開始から終了までわずか10分弱の模擬戦だった。

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