第151話 新しい住処

 談笑していると扉がノックされる。すぐにラウニさんが扉へと向かう。そして、笑顔で僕に言う。


「“シュタールヴィレ”の皆さまがお戻りになられたそうです。」


「ラウニ、皆さまをこちらまでご案内しなさい。」


「はっ、ヘニッヒ様。」


 ラウニさんが出て行って、数分すると扉の外が騒がしくなってきた。1人1人の声も聞きとれる。1週間も経っていないけど、懐かしく感じる。扉が開かれると同時に、


「ガイウス殿―――!!!!」


笑顔でクリスが僕に飛びついてきた。僕はすぐに立ち上がりクリスを受け止める。クリスは頬ずりをしながら、


「何度、王都に行こうと思ったことか。ご無事のご帰還、何よりですわ。」


「ありがとう、クリス。皆さんもお元気そうで何よりです。」


「まあな、準3級の俺に、3級のレナータ嬢、そして準1級のユリアさんがいたから、依頼クエストとかで困るようなことはほとんどなかったぞ。それにルプス達も助けてくれたからな。」


「そうですか、それなら良かったです。しかし、アントンさん見ていないで助けてください。」


 右手にクリス、左手にエミーリアさん、正面がローザさんで背中にはレナータさん。ユリアさんは頭を撫でてくる。


「いいじゃないか。“両手に華”ならぬ“全身に華”だな。羨ましい限りだ。ヘニッヒ様たちもそう思うでしょう?」


「そうですな。私が若ければまったくもって同意していたでしょうな。家庭を持つ身となった現在では、若さを感じますなあ。ベレンガー閣下はどうです。」


「私もヘニッヒ卿と同感ですな。ま、幸いにも重婚は禁止されておりませんので、問題は無いのでは?それに、我々、武官としてはしっかりとした指揮能力とそれなりの実力があれば、上に立つ方がどれだけ女性に手を出そうが構いませんな。ああ、もちろん、合法で、ですよ。」


「お二方ともつれないことを仰いますな。平民出身のラウニ殿はどうかな?」


「私はただの秘書ですので、ノーコメントでお願いします。ちなみにアントン殿は?」


「自分は今の家庭環境に不満はありません。美人な嫁さんに可愛い子供達がいてくれればそれで。皆さんもそうでしょう?」


 そうアントンさんが言って、ハハハと笑う3人。いや、笑ってないで助けて。エミーリアさんなんか「ガイウス成分を補給。」と言って、顔をうずめてスーハースーハーと深呼吸しているし、クリスはずっと「ガイウス殿、ガイウス殿、ガイウス殿、・・・。」と呟いているし。


はあ、まあいいや。好きにさせとこ。あ、そうだ。ヘニッヒさんに聞かないといけないことがあるんだった。


「ヘニッヒ卿、どこか郊外に空き地はあるかな?私もこうして戻ってきたところだから住居を用意しようと思っているのですが。」


「ふむ、私の屋敷ではご不満でしょうか?」


「ああ、いえ、平民としての感覚が抜けていなだけですよ。厄介になるとご迷惑ではないかと思ってしまうんです。」


「なるほど、ふむ、閣下も上空からご覧になってお分かりでしょうが、帝国方面でしたら比較的空き地が広がっております。理由は言わずとも・・・。」


「ええ、わかります。ふむ、でしたらそちら方面にそれなりの屋敷を配置しましょう。防衛拠点にもなるようなものを。さあ、クリス達、離れて。屋敷を配置しに行くよ。」


 そう言うと、僕の拘束を大人しく解いてくれた。


「というわけで、ヘニッヒ卿。少し出てきます。終わったらまたこちらに来ますので。あ、出迎えは不要です。」


「わかりました。閣下。お気を付けて。」


 そして、騎乗してやってきました。ニルレブ北東部の平原地帯。東に黒魔の森、北は帝国。屋敷と言うよりも城がいいかもしれないね。というわけで、人が住めてそれなりに大きいお城を取り敢えず【召喚】。


 赤い城壁に周囲を囲まれた、お城?お屋敷?宮殿?が出てきた。【鑑定】すると“モスクワのクレムリン”と出た。ふむ、マルボルク城よりも手が加えられている感じかなあ。綺麗に感じる。へえ、城壁は2km以上あるのかあ。門もたくさんあるみたいだね。宮殿も複数あるみたいだし、大統領?官邸とかもある。聖堂もあるし、塔もたくさんあるねえ。うん、これでいいんじゃないかな。


 後ろを振り返ると、苦笑いをしているみんながいた。


「あれ、お気に召しませんでした?」


「ガイウスよ。お前さん、ついこの間、マルボルク城でもやらかしたばかりだろうに。早くヘニッヒ様に報告に行った方がいいと思うぞ。」


「そうですよ。ガイウス君。早く行った方がいいですよ。」


 アントンさんとユリアさんに言われ、他の4人を見るとみんな頷いていた。


「わかりました。それでは、ちょっと、報告をしに行ってきます。あっ、皆さんは中を見ていてくださいね。あっ、部屋割りとかでめないでくださいね。」


 そう言って、僕は馬に乗りニルレブに戻る。門では衛兵隊が急に現れた“モスクワのクレムリン”に驚いて、対処のために出動準備をしていた。僕が出したモノだと説明をし、各所に伝えるように命令もした。


 行政庁舎に着くと、黒い笑顔をしたヘニッヒさんとベレンガーさんに執務室へ連れていかれた。


「ガイウス閣下。閣下が規格外の方だということは、理解していたつもりでしたが、覚悟が足りなかったようです。あれが、先ほど仰っていたモノですか!?」


「ええ、そうですよ。騒ぎになる前にお知らせに来ました。」


 僕も含めて4人しかいないからいつも通りの口調で答える。


「はぁ、もう少しで軍に出動待機命令を出すところでした。」


「それは、申し訳ありませんでした。でも、私もあれほどのモノができるとは思っていなかったので。」


「ま、いいでしょう。あの場所は丁度良い所ですよ。帝国からも魔物からもニルレブを守備できます。」


「それでは、認めてもらえますか?」


「認めるも何も、ここは閣下の領地です。そして、私はただの代官です。意見は言わせていただきますが、決定権は閣下にあります。それを努々ゆめゆめ忘れませぬよう。」

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