第150話 帰還

 気が付くと朝日が窓から差し込んでいた。いつの間にかしっかり着替えさせられベッドにキチンと横になっていた。これはメイドさん達に手間をかけさせちゃったかな。そう思いながら着替えていると、ノックの音が響く。「どうぞ。」と声をかけるとメイドさんが「朝食のご用意ができました。」と知らせてくれた。「すぐに向かいます。」と返事をして、食堂へ向かう。


 朝食の後はゲーニウス領に戻る前の準備として軍務省に寄る。軍務大臣のゲラルトさんから人事に関する書類を貰うためだ。これでゲーニウス領に駐屯している国軍から必要な人員を引き抜くことができる。まあ、現地徴用やゲーニウス領に愛着でもない限りは無理に引き留めたりはしないけどね。


 軍務省に着くと入口の前で誰何すいかをされる。貴族証を取り出し名乗る。すぐに案内の人が来て、ゲラルトさんの執務室へと通される。


「おはよう。よくお越しになられた、ガイウス殿。」


「おはようございます。自分の領の事ですから。」


「うむ、そうですな。自領のことはご自分でなさるがよろしいでしょう。内政面、軍事面での介入も防げますし。」


「あー、やはり、ありますか。そういうことが。」


「ありますなあ。例えば、嫁の実家から兵を借りて損耗した分の補填で赤字に陥り領の運営を乗っ取られるなどの話しは他国の貴族でも聞きますな。ま、借りを作らないように気を付ければよいのですよ。」


「そうですね。気を付けます。」


 少し雑談をして執務室を出る。軍務省を出た後は、内務省と王城にそれぞれゲーニウス領に戻ることを伝えた。陛下とアルノルトさんマテウスさんは全ての裁判が終わるまで居て欲しかったみたいだけど、クリス達のこともあるからねえ。仕方ないね。みんな頑張って。アルムガルト王都邸の使用人のみんなにもお世話になったお礼と挨拶をして王都を出る。


 そして、模造アルムガルト王都邸に向かいグイードさん達と合流する。模造アルムガルト王都邸を【送還】し、馬車を数台【召喚】する。まとまったお金と食料を持たせてゲーニウス領まで来るように命じる。ああ、もちろん強行軍ではないよ。みんなの負担にならないペースで来てくれたらと伝えたからね。それに、護衛として騎士型ゴーレムを3個分隊【土魔法】で作成する。鉄分の多い土だからかなり頑丈なゴーレムができた。グイードさん達にそれぞれ1個分隊ずつ指揮権を譲渡する。


 そして、僕は【空間転移】で一足早くゲーニウス領に戻る。すぐに領都ニルレブまで飛んでいく。門の手前で滑空し着地する。僕の姿を確認した衛兵さん達が駆け寄って来て跪く。


「ガイウス閣下。ご無事のご帰還、何よりでございます。」


「うむ、色々とあったが取り敢えずは、ニルレブに入れてもらえるかな。」


「はっ、しかし、閣下といえども確認検査のみはさせていただきます。」


「無論だ。そうでないと、偽る者が出てくるからな。」


 そう言って、貴族証を見せる。すぐに確認して返してくれる。


「ありがとうございました。それでは、どうぞお入りください。」


 そして、ニルレブに入る。すぐに行政庁舎に向かう。通りを歩いていると、「ガイウス様だ。」「使徒様だ。」と言った声が聞こえてくる。しまった、衛兵詰所で馬を借りるべきだった。僕が歩みを進めると、サァーっと人波が左右に分かれ、拝んだり平伏したりしてくる。


 参ったなあと思っていると、前方から衛兵隊の騎馬が駆けてくる。よく見ると、先頭はヘニッヒさんの秘書のラウニさんだ。ラウニさん達は僕の前まで来ると下馬し、


「ガイウス閣下。お迎えにあがりました。遅くなってしまい申し訳ありません。馬をご用意したので、そちらにお乗りください。」


「うむ、ご苦労。・・・。ありがとうございます。」


 最後のお礼の言葉は耳元で小声にて伝えた。騎乗すると、ラウニさん達も騎乗し、僕を囲むように円陣を組む。


「では、行政庁舎に参りましょう。」


 ラウニさんの掛け声で行政庁舎に向かう。やっぱり馬だと早くていいね。10分もたずに着いちゃったよ。


 行政庁舎の前ではわざわざヘニッヒさんが迎えてくれた。


「閣下、ご無事のご帰還なによりです。」


「うむ、色々とあったが何とか解決した。ユリア卿たちは黒魔の森かね。」


「はい、閣下の率いる“シュタールヴィレ”がお越しになられてからは、森の浅い所での被害がかなり減りました。また、森に住まわれる閣下のご友人が率いておられる群れも貢献してくれております。」


「そうか、それはよかった。しかし、ここでは堅苦しいな。何処か個室を用意してもらえないだろうか。」


「それでしたら、既にご準備しております。こちらへ。」


 ヘニッヒさんの執務室の隣にある応接室に案内された。そして、人払いもしてくれた。今、部屋にいるのは、僕、代官のヘニッヒさんと秘書のラウニさん、駐留国軍総司令官のベレンガーさんの4人だ。


 僕は深―く息を吐き、体の力を抜く。


「あー、疲れましたよ。王都は。あんなことに巻き込まれるとは。」


「あんなこととは?」


「こちらにはまだ伝わっていないんですね。説明します。」


 そして3人にこの2日間で王都で起きた事件の事について話しをした。


「何と言えばよろしいのか・・・。ピーテル閣下は長年をかけて準備を行った策が上手くいき満足なのでしょうが・・・。」


「軍に身を置く者としては、ガイウス閣下よくぞやってくださいました。と言うべきですな。」


「まあ、そんなこんなで、いきなり複数の爵位持ちになりました。ベレンガー卿、軍を抜けて此処で領軍を指揮しながら暮らします?侯爵位を差し上げましょうか?」


「恐れ多い。自分は今の地位で十分に満足しております。」


「そうですか。ヘニッヒ卿は如何ですか?」


「自分も今の地位に満足しておりますので、辞退させて戴きます。」


「ですよねぇ。僕もそう答えますもん。」


 そう言うと、3人が声を出して笑った。笑い事ではないんだけどなぁ。

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