第143話 打ち合わせ

「まずは、いつ、どこでやるかが問題ですな。」


「アルノルト殿、この件は一刻も早い方が良い。既に内務省の役人は4月入省の新人まで知っている。昨夜から今朝方のことを、だ。」


「うむ、では、まずはピーテル殿の捕縛に至った経緯を詳細に説明する必要があろうな。そして、ピーテル殿の自己犠牲の精神を尊いモノとして述べなければならぬ。そうしなければオリフィエル侯爵家やそれに連なる者達にいらぬ心労や最悪の場合は実害が出てしまうやもしれぬ。取り敢えず、治安部より王都内の各衛兵隊詰所や集会所、あらゆる掲示板に今回の事件についての掲示を早急にしなければならないぞマテウス殿。」


「あっ、紅茶のおかわりを。」「はい、辺境伯閣下。お茶菓子もどうぞ。」「ありがとう。」


 あー、紅茶美味しい。


「承知しました。となれば、今日中に作業が終了したとして、王都に話しが広がるのは昼前には可能でしょう。国民は貴族の醜聞しゅうぶんを好みますからな。いや、これは、平民、貴族を問いませんな。告知は何時ごろがよろしいでしょうか?アルノルト殿。」


「明日の昼頃がよろしいでしょう。正確に言えば12時ですな。この時間ならば大抵の職業が昼休憩に入っておりますから周知には効果的でしょう。」


「ふむ、そうですな。それで行きましょう。戒厳令も敷かない方がよろしいでしょうな。変な噂が立ってしまっては意味が無い。内務省はお願いしましたぞ。」


「任せてください。既に王都衛兵隊司令のアルフォンス・リシャルト侯爵が“戒厳令を敷くな!!民が混乱する”と今朝方、ここに乗り込んできましたから。」


「ああ、アルフォンス殿ですか・・・。彼は何というか正義感の塊のようなおとこですからなあ。」


「レモンティーにしたいからレモンを貰ってよいかな?」「はい、辺境伯閣下。」「・・・うん、さっぱりしていいな。ありがとう。」


 レモンティー美味しい。


「国王陛下にはなんと?」


「なに、ここは宰相である私にお任せを。陛下は今回の件にだいぶ心を痛めております。何しろ、ピーテル殿は肉親である姉ベアトリースをも国家に巣くう害虫だと言いきりましたからな。陛下も少なからずこの件に関わってしまいましたから。」


「ああ、あのガイウス殿を呼び出すための書状の件ですな。しかし、側室とはいえ自分の妻を疑うという行為はなかなか難しいものでありますな。私も妻から簡単な願い事をされたら、すぐに叶えるでしょうし。」


「うーむ、しかし、国王陛下が関わっていることも白日の下にさらすとなると、宰相としてはなるべく穏便に済ませて欲しいですなあ。」


「ああ、茶菓子も上手い。なかなかいいモノだな。」「ありがとうございます。王都でも人気店のモノなんです。」「それは、手に入れるのに苦労しただろうに。」「マテウス様がお好きですので買いだめしてあるのです。1週間分のストックがあります。」「それは、凄いな。」


 マテウスさんは甘党なのか。意外だ。


「でしたら、ベアトリースにはとことん悪役になってもらいましょう。そうですな。このような筋書きはいかがでしょう。“連日の公務によってお疲れの陛下に対して、緊張がほぐれる夕食後に、飲酒を促し、酔いが回り思考能力が低下したところで、ベアトリース・オリフィエルが偽の書状を用意するために、白紙に署名と捺印をさせ、祐筆ゆうひつに圧力をかけ、領にて帝国と黒魔の森に対応していたガイウス・ゲーニウス辺境伯を呼び出した。”というのは。」


「うむ。よろしいですな。では、文書をまとめましょう。」


「あー、ジュースをもらえるかな。種類は何でもいいのだが。」「どうぞ。辺境伯閣下。マンゴーのジュースです。」「・・・うむ。美味い。そうだ、私の護衛はまだ廊下にいるのだろうか?もし、いるのならばジュースを差し入れしてほしい。」「ご安心を閣下。護衛の方々には応接室にて待機してもらっております。廊下には通常通りの近衛兵しかおりません。」「それは、気づかい感謝する。」


 仕事ができるメイドさんだね。マンゴージュースも美味しいし。


「「ガイウス殿!!」」


「お、おう!?どうなされたアルノルト殿、マテウス殿。」


 ビックリした。急に大声を出さないでほしいな。


「貴殿に演説の際に読んでいただく文書を作成しました。たたき台なので、修正があれば遠慮なく言っていただきたい。」


「うむ、わかった。マテウス殿。」


 さてさて、どんな内容かなあっと、


“フォルトゥナ様の使徒であるガイウス・ゲーニウス辺境伯が王都に住まう者達に告げる。既に耳にしている者も多いことではあろうが、今回、国王陛下のお名前を使用し私の殺害を企てた者たちがいた。だが、安心してほしい。その者らはすでに私と衛兵隊の手によって捕縛されている。


 また、国王陛下の側室であるベアトリース・オリフィエル他数名がその名を罪人の中につらねていることに驚いた者も多いであろう。ベアトリース達は偽の書状を用意するために、連日の公務によってお疲れの陛下に対して、緊張がほぐれる夕食後に、飲酒を促し、酔いが回り思考能力が低下したところで、白紙に署名と捺印をさせ、祐筆ゆうひつに圧力をかけ、領にて帝国と黒魔の森に対応していた私を呼び出し、亡き者としようとした。


 今回の騒動は、国に巣くう害虫どもを一掃するためにピーテル・オリフィエル侯爵が命を懸けて行った義挙である。国の中枢からそれらを排除できた今、法に定められているモノよりも重い刑罰を課してしまうと司法権の暴走に繋がりかねない。私もそのようなことは望んでいない。我が国が法によって統治されている国であることをしっかりと証明するのだ。


 このことにより、アドロナ王国はより栄えるであろう。”


 なんか僕の言ったことがそのまま使われているような気がするけど、まあいいか。


「よいのではないでしょうか。私がしないといけないという1点を除いて。」


 ねえ、いい歳したおじさん2人が12歳の子供から目を逸らさないでくださいよ。僕はため息をつきながら、


「わかりました。私がやりましょう。取り敢えずは国王陛下に許可を取り付けてください。偽造しないでくださいよ。すぐにわかりますから。それと、もしかすると王都の民が・・・。いや、予測で言うのはよしましょうか。」


「いや、宰相としては凄く気になるのですが?暴動でも起こると?」


「それは、内務大臣としての私も気になりますね。ガイウス殿、民がどのようなことをすると予測されているのですか?」


「ふむ、お2人ともわかりませんか?ある意味、ピーテル殿は自分を犠牲にして、獅子身中の虫から国を救った英雄になるのです。助命嘆願が山のように来る可能性があるでしょう。」


 そう言うと、おじさん2人は頭を抱えだした。ま、ここから先は辺境伯の僕の領分じゃないからね。ゆっくりさせてもらおう。とりあえず、


「ジュースと茶菓子のおかわりを。」

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