第134話 救出

 アルトさんとロルフさんに【ヒール】をかけ、正気に戻って目覚めてもらう。その後は、グイードさんからの説得だ。僕はその様子をお腹を空かせながら見ていた。話しが纏まったのか3人がこちらに歩いてくる。いや、まあ、強化されている聴力で聞きとっているんですけどね。さも、今から話しを聞きますよという姿勢をとる。


 3人同時に跪き、僕に対して忠誠を誓ってくれた。よし、ならばまずは腹ごしらえだ。


「腹が減った。まずは食事からだ。その後卿らの、いやここは貴族街ではないから言葉遣いを変えんとな。お兄さんらの家族を助けに行くよ。いいかい?」


 3人とも少し驚いた顔をしたがすぐに頷く。【召喚】で普通の庶民の服を出す。血まみれになった服から着替えるためだ。4人して物陰でせっせと着替える。数分後には先程まで死闘をしていたとは思えない格好の僕たちがいた。そのまま、庶民街へと行き食堂に入った。


「さあ、お兄さんたち、今日は僕の奢りだから、沢山注文してよ。ねえ、店員さん、このお店持ち帰りもできる?あ、できるんだ。それなら、お兄さんたちの家族へもお土産ができるね。」


 僕の意図を汲んだグイードさん達は、捕らえられている家族の分の持ち帰りを注文した。僕が「それで足りるの?」と念を押すと、さらに注文数を増やした。うんうん、こういう時に遠慮はいけないよ。そんで、持ち帰り品は偽装魔法袋に【収納】した。


 自分たちの腹を満たし、グイードさん達の家族の腹を満たすための料理を手に入れた僕たちは、正門へと向かう。大門は門限でしまっているので、衛兵さんに僕の貴族証のみを見せて通用門から出る。お忍びということにしてもらって、門の出入者名簿には書いてもらわないようにする。もちろん、“心づけ”も忘れない。一夜限りは思う存分呑むことのできる額を渡す。まあ、辺境伯という地位を使ってごり押しでも良かったけど、ここは穏便に行きたかったからね。ラウレンツ卿に感づかれると厄介だ。


 門から離れ、30分ほど歩いたところで森に入る。そしてそこからさらに10分歩く。


「よし、ここでいいかな。【召喚】。」


 光と共に王都アルムガルト邸の模造品が出てきた。ちなみに立っていた木は折られることなく、隅に追いやられていて、密集率が凄いことになっている。まあ、気にしない。ポカーンとして大口を開けているグイードさん達を屋敷の中の応接室に入れる。


「さて、ここからが、私の力の見せどころだ。けいらの家族は、コルターマン領の領都ムルウにあるラウレンツ卿の屋敷に幽閉されているのだな。」


「はい、閣下。」


 グイードさんが代表して答える。他の2人も首肯する。


「よろしい。では、私は今から、フォルトゥナ様より授かった力により卿らの家族を助ける。その間、卿らはこの部屋で待っておくこと。良いな。着いて行きたいなど言うなよ。面倒だ。」


「「「はっ、閣下。」」」


「では、しばらく待っておれ。」


 僕はそう言って応接室から出てエントランスに向かう。誰も見ていないのを確認し、【空間転移】でグイードさん達の家族が幽閉されているラウレンツ卿の屋敷の地下牢へと転移した。まさか、地下牢とはね。僕はただ“幽閉されている家族のもとへ”と思っただけなのにまさかまさかだ。


 さて、見張りはいないようだ。地下牢への入口にいるようだけど。僕はそれぞれの牢を覗き、グイードさん達の家族のみを牢から出す。勿論、声を上げないように注意してからだ。その後は、全員を1ヶ所に集めて目をつぶってもらい、【空間転移】で模造アルムガルト邸のエントランスへと戻る。


「皆さん、目を開けなさい。声を出してもよろしい。」


 みんな、恐る恐るといった感じで目を開けて、キョロキョロし出す。そして、ラウレンツ邸でないことが理解できるとワッと歓声が沸いた。僕は、その声に負けないように、


「グイード卿、アルト卿、ロルフ卿、出てきてもよろしい!!」


 と声を張り上げ3人を呼ぶ。すぐに応接室の扉が開き、それぞれの家族を見つけ、抱き合っていた。よかった。でも、一応確認はしないとね。


「グイード卿、アルト卿、ロルフ卿、欠けている者はいないか?」


「はい、閣下。欠けている者はおりません。」グイードさんが代表して答える。


「よろしい。では、皆で食事を摂ってから次の作戦に移ろう。食堂に移動したまえ。こっちだ。」


 食堂に皆を案内する。席数が足りないので【召喚】しておぎなう。その後は【収納】してあった食事と飲み物を配膳する。辺境伯の僕にそのような事をさせて申し訳ないと言う人もいたけど、今は緊急時だからね。臨機応変にいこう。それにグイードさん達も手伝ってくれたからすぐに配膳は終わった。


 食事を摂ったら、満腹感と安心感からか皆、眠たそうにしていたので、空いている部屋を好きなように使うように伝える。“次の作戦”という言葉に気が付いた人たちは手伝うと言ってきたが、弱っている今の状態だと足手まといとなることを説明した。こういうのうはストレートに言っておかないとね。だから「みんなには眠っていてもらった方が助かる。」と最後に付け加え、それぞれの部屋に押し込んだ。

 

 さて、これから僕とグイードさん達はこれからラウレンツ邸に潜入して、血判状とかの証拠を押さえないといけないから、 屋敷を出た後は魔物や野盗が近づかないように、高さ20mの防壁で屋敷を囲む。


「これで卿らの家族は安全だ。」


 そう言って、振り向くとグイードさん達が跪いていた。


「改めて我ら3人、ガイウス・ゲーニウス辺境伯閣下に忠誠を誓います。」


「うむ、ありがとう。それでは、ラウレンツ卿の悪事を暴きに行こうではないか。そして、背後にいる輩も一気に釣り上げようぞ!!」


「「「おうっ!!」」」


 ふん、僕たちの力を甘く見た罰だよ。ラウレンツ卿、そして・・・。

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