第133話 襲撃者
人目が無くなったのを確認し僕は走り出す。後ろから着いて来ている男たちも走り始める。靴音だけが響く。150mほど走って勢いが乗ったところで【風魔法】を自分の前に展開し、自身の体を後方へと跳ね飛ばす。跳びながら体勢を男たちと相対するように180度回転し、右手に【火魔法】の準備をする。男たちはすぐに反応できずに走る速度を緩めただけだ。
まずは、真ん中の男からだ。その1としよう。男その1の顔を右手で掴み、頭蓋骨が割れないように力加減をし地面に叩きつける。それと同時に準備していた【火魔法】で顔を
しかし、くぐもった音が
僕の手?もちろん、僕の右手も手首から先がドロドロに溶けて
「さて、雇い主たちを教えるなら、この男のようにはならないが、どうする?」
「ふむ、どうやら、そこらのゴロツキとは違うようだ。貴族家の使用人かそれとも寄子の騎士か?」
僕がそう言うと、少しの動揺が走ったのがわかる。チートで強化された五感だから感じ取れるものだね。心臓が早く脈打っているのが聞こえる。荒い息遣いも。視線をせわしなく相方に送り、襲い掛かるタイミングを伺っている。重心が軸足に乗るのがわかる。次の瞬間には、僕のいた場所に2本のナイフが突き出されていた。僕はそれをしゃがむことで回避した。ふむ、どうやら、子供を相手に襲撃するのは慣れていないようだ。僕ならそのままナイフを逆手に持ち替えて振り下ろすのに。
男その2とその3の獲物を持った右手をそれぞれ掴み、握力にモノを言わせへし折り、潰す。呻き声と共に2本のナイフがそれぞれの右手からこぼれ落ちる。すかさず、それを掴み、下方からそれぞれの左肩、肩甲骨を目掛け突き刺す。筋肉と肉を切り裂き、骨を粉砕し、また筋肉と肉を切り裂き反対側から刃が飛び出る。2人ともくぐもった呻き声を上げながら
そう思っていると、詠唱を始めた。ほう、【魔法】を使うんだね。でも、僕の方が早いし、威力もあるよ。すぐに【土魔法】で2人を分かつように、1人用の岩の牢獄を造り上げる。厚さ1m、高さ10m、内壁と外壁には鉄を貼り付けた岩の壁だ。そう簡単には破ることはできない。牢獄の中から一瞬だけ炎がチラつくのがてっぺんに見えた。【火魔法】をつかったようだ。
さて、では1人ずつ処理していこう。まずは、その2のほうからだ。岩の牢獄に穴を開け、中に入る。熱気が凄い。その2は僕が入ってきた穴から出ようと僕に体当たりしてくるが、すぐに穴を塞ぎ、
「な・・ぜ・・だ・・・?」
「死体は話しができないからな。その3も解毒してやらんと死んでしまうな。このナイフは没収だ。自死されても困るからな。それと、舌を噛み切って死のうとしても無駄だと先に言っておこう。奥の手はまだあるのだよ。」
「やあ、元気かね。グイード・シャルエルテ卿。」
そう言いながらその2ことグイード卿の牢獄に入る。自分の名前を知られていたとは思わなかったようで、かなり動揺している。
「はな・・し・・たのか?」
「その3ことアルト卿のことかね?彼は解毒したら意識を手放したよ。今は呻きながら気を失っている。話すことすらできなかった。」
「それで・・・は・・・」
「それでは、なぜ?と聞きたいのかね。忘れているようだが、私はフォルトゥナ様の使徒なのだよ。君たちが口を割らないから勝手に調べさせてもらった。指示を出したのはラウレンツ・コルターマン子爵と彼のお仲間だ。ま、家族を人質に捕られれば仕方があるまい。しかし、拉致ができなければ殺せとは、なんともまあ短絡的な指令だ。しかもラウレンツ卿はお仲間同士で血判状まで作っている!!わざわざ証拠を残してくれるとはな。全くお笑い草だ。」
そこまで言うと、グイード卿は顔色をどんどん白くさせる。
「さて、グイード卿、君には2つの選択肢がある。1つは君の家族や仲間たちと共にゲーニウス領に移り住み、私の部下となること。もう1つは、このまま衛兵に突き出されて本当の牢獄に入ること。この2つだ。早く選びたまえ。ああ、それと、最初に私の【火魔法】を受けたロルフ卿だが、治療を早くしないと死ぬぞ。」
僕が
「わかった・・・。」
と呟いた。僕はその言葉に頷き、
「それでは、治療をしなければな【ヒール】。どうだ?どこか不具合はあるか?」
「・・・いえ、ありません。ありがとうございます。閣下。」
「うむ、では、他の2人も助けようではないか。その後はラウレンツ卿を捕縛するための作戦会議だ。」
「なぜ、我らをすぐに信じられるのですか?」
「私を裏切ったとしても逃げ切れないし、家族も危ないとわかっているのだろう?ま、恐怖による呪縛だ。これがある限り、
「ご自分が殺されそうだったのに、そのような考えを持てるとは閣下は何者ですか。」
「さっきも言ったと思うが、フォルトゥナ様の使徒にしてゲーニウス領領主、ガイウス・ゲーニウス辺境伯だ。」
そう笑いながら言う僕をポカンとした顔でグイードさんは見ていた。
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