第132話 王都ヌレク、到着

 ニルレブの行政庁舎の屋上階へと出る。服装は軍装のままだ。シュタールヴィレのみんなと、ヘニッヒさん、ベレンガーさん、ハンジさんが見送りのためついて来てくれた。僕はみんなの前で背中から純白の翼を生やし、大きく広げる。初めてこの姿を見るヘニッヒさんベレンガーさんは「美しい。」とか「使徒様」だとか言って祈り始めた。ハンジさんだけが申し訳なさそうな顔をしていた。


 僕は彼に近づき、肩には手が届かないから、腕をポンポンとし言う。


けいの責任では無い。気落ちする必要はないぞ。なに、空を飛べば一瞬で王都だ。飛竜ワイバーンが出ようが鎧袖一触だ。」


「どうか、お気を付けて。私には、このお言葉を送ることとフォルトゥナ様に祈ることしかできません。」


「それだけで、充分だ。3日間に渡る強行軍で護衛ともども疲れているであろうに。ヘニッヒ卿、ハンジ卿たちにはこの地でゆっくりと休養してもらうように。軍総務局には私から伝えておく。」


「はっ、閣下。」


 ハンジさんは何か言いたそうな顔をしていたけれど、すぐに「ご配慮ありがとうございます。閣下。」と納得してくれた。よし、これでうれいなく王都に行ける。


「それではな。早ければ明日の夕方までには戻れるであろう。」


 そう言って僕は飛び立つ。グングンと高度と速度を上げ、人目の無いところで王都ヌレクまで飛行して30分のところに【空間転移】する。一気に風景が変わる。前方には王都の外壁が見える。あとは、全速力で飛行するだけだ。時刻は既に17時を過ぎて18時になろうとしている。西に沈む夕日が眩しい。


 王都の正門前まで飛んでいくのはよそう。絶対にパニックになる。人目のない王都に近いところを見つけて、そこに【空間転移】し、いつもの黒馬を【召喚】する。


「今回も頼むよ。」


 そう言って一撫でしてから騎乗する。すぐに街道に出て、王都へ向かう人の列に混じり、抜かしていく。10分もかからずに正門についた。僕は、列には並ばずにそのまま衛兵さんの所に行き、下馬して貴族証を見せる。すぐに中に入れてもらえた。貴族特権万歳といったところかな。


 そのまま、大通りを進み貴族街へと向かう。貴族街の門の所でまた貴族証を見せて通行させてもらう。そのまま、以前来たことのある王都のアルムガルト辺境伯邸へと向かう。時間的にはかなり失礼な時間だけど仕方がない。


 アルムガルト邸の門前で下馬すると門番さんがやって来た。


「何か御用でしょうか?・・・。あっ、ガイウス・ゲーニウス辺境伯閣下ではありませんか。これは失礼いたしました。」


 そう言ってひざまずく。僕の顔を覚えていたなんて優秀な門番さんだね。


「すぐに、家令をお呼びいたしますので、しばしお待ちください。」


 そう言って、詰所まで走って行く。詰所からは別の人が邸内へと走って行った。さっきの門番さんがやって来て、


「閣下。狭いですが詰所の中でお掛けになってお待ちください。」


「急な訪問であるのに、気遣いすまぬ。」


 「いえいえ」と言う門番さんの後を馬の手綱をきついて行く。馬止に手綱を巻き付け、詰所の中に入る。意外といっては何だが、かなり整理されていて綺麗だ。家具類のたぐいおもむきがあっていい。こういう所まで手がまわるとは、さすがはアルムガルト辺境伯家だ。


 5分ほど詰所の中で門番さんと談笑しながら待っていると、家令のジーモンさんがやって来た。


「閣下。お待たせして申し訳ありません。」


「いや、ジーモン殿、急に来た私が悪いのだ。申し訳ない。それで、こちらがクリスティアーネ嬢に書いてもらった書状となる。」


「拝見いたします。・・・。ほう、これは、中々面倒なことに巻き込まれましたな、閣下。」


「内容は私も見ていないのだが、私の現状が書いてあったかな。」


「ええ、お嬢様らしい書き方で。それでは、お屋敷の中へどうぞ。ご準備は出来ております。馬はそのままでお願いいたします。厩舎の者が後で参りますので。」


 そして、ジーモンさんの先導で屋敷の中に入る。玄関に入ると、両側に分かれた使用人さんたちが一斉に頭を下げ、


「「「いらっしゃいませ、ガイウス・ゲーニウス辺境伯閣下。」」」


 と出迎えてくれた。すると、料理長が進み出て、申し訳なさそうに言ってきた。


「ガイウス閣下、申し訳ありません。お食事は今から用意いたしますので、少々お時間をいただきます。」


「ふむ、まだ、何もしていないのだね?」


「はい、使用人の賄いのみです。」


「ならば、今夜は結構。散策を兼ねて街のほうで食べてくる。ああ、それと、いちいちの出迎えは不要だ。当直の者のみが対応してくれればよい。・・・。はあ、この口調は疲れますね。ま、そういうことなので、明日までよろしくお願いします。」


「「「はい、閣下。」」」


「では、ちょっと行ってきます。ああ、馬車はりません。歩いていきます。」


「「「行ってらっしゃいませ。」」」


 門番さんにも出かけてくるむねを伝え、貴族街の門を出る。衛兵さんからは怪しまれたが、貴族証と冒険者証を見せて、「普通の食事が摂りたくなった。」と言えば納得したような表情をして通してくれた。


 それで、門を出てからすぐに【気配察知】に引っかかる反応がある。最近になって【気配察知】の利便性が上がって、性別や種族がわかるようになったほか、表示の拡大縮小、僕に対して敵意や悪意などの感情を持っている害あるモノは赤く表示されるようになった。味方は緑、興味無しや中立は白といったように色分けされるようになって、便利になった。ただ、最初のほうはいきなり色がついたから少しパニックになったけどね。


 視界の隅に映る【気配察知】の表示図を見るとあとを着けてくるのは3人で全員、男性で赤。お腹もいているしチャチャっと済ませたいねえ。人出が多いところでは襲ってこないだろうから、少し、人気が無い所までご同行を願おうかな。ああ、勿論、殺しはしないよ。殺しはね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る