第125話 鉄の暴力

「攻撃目標は此処から15km先にある敵の砦だ。徹底的に破壊してもらいたい。」


「了解しました。しかしながら、こちらからですと、標的が見えません。ですのであの山の中腹に観測班を置きたいと思います。」


「ネリー山脈のあれは、・・・。」


「オフヌラ山です。閣下。」


「ありがとう。アルヴィ卿。オフヌラ山に観測班を置くということだが、徒歩で行かせるのかね。」


「いえ、司令官。できればヘリで輸送をお願いします。」


「ふむ、ならば私が運ぼう。こう見えても飛べるからな。」


 というわけで、純白の翼を生やし観測機材と観測班をオフヌラ山の中腹まで運んだ。大体10分くらいかかったかな。結構、速く飛べるからね。観測班からの情報が届いて、砲口が上下する。


「司令官、砲撃準備完了しました。いつでもいけます。」


 さて、いきなり攻撃でもいいけど、ここはすじを通すために、帝国側に挨拶をしに行こう。一方的に殺してしまうのも気が引けるからね。それに少し考えがある。僕はヘッドセットをつけ、いつでも命令が出せるようにして、帝国の砦に向かって飛び立つ。


 15kmなんて飛んでいけばあっという間だ。その距離でも王国と帝国を行き来する人達は多い。行商人や冒険者などだ。僕は帝国に向かう彼らには30分ほど帝国の砦300mに近づかないように警告した。


 フォルトゥナ様の教会に対するお告げにより、純白の翼を持つ僕はフォルトゥナ様の使徒の“ガイウス・ゲーニウス”とすぐに認識されたおかげで、みんな2つ返事で言うことを聞いてくれた。中には祈ってくる人もいた。長旅に出るときは教会で祈る人多いからね。


 そして、帝国の砦についた。警戒にあたっていた兵士が弓を構えて僕の出方を見ている。僕は、【風魔法】をつかい風に言葉を乗せて告げる。


「私は女神フォルトゥナ様の使徒にして、アドロナ王国、旧ナーノモン領、現ゲーニウス領の領主ガイウス・ゲーニウス辺境伯である。この砦の指揮官に警告したいことがある。指揮官はいるか!!」


 すると、要塞内から1人の男性が出てきた。


「ガイウス閣下、私がこの砦の指揮官アルセーニー・マハーリナー子爵です。今回はどのようなご用件で?」


「うむ、今からこの砦に鉄の雨を降らせ、廃墟とさせてもらう。そのため、砦内の人員の退避をお願いしたい。」


「そのようなお話しを信じるとお思いですか?仮にも国境線で争っている相手ですよ。まさか、フォルトゥナ様のお名前を使い、この砦を乗っ取るつもりではないのですか?」


「ふむ、アルセーニー卿の懸念も最もである。それでは、この砦の目の前、王国側に300m離れたところに同じものを出して、それを破壊してみせよう。【召喚】。」


 すると、光と共に王国側の街道に帝国の砦が現れた。あのあたりには人がいなかったからよかった。僕の【召喚】を見た帝国の兵士さん達はだいぶ驚いているようだ。アルセーニーさんも動揺している。


「アルセーニー卿、あれが本物かどうか調べてみるか?2人なら運べるぞ。」


 少し悩んで、頷いた


「それでは、私と参謀を連れて行ってください。」


「よろしい。それでは、手をとりたまえ。」


 そして、アルセーニーさんと参謀さんを【召喚】した砦に案内する。ざっと見ただけど、どうやら、寸分違すんぶんたがわず同じモノみたいで、2人とも驚いていた。


「ガイウス閣下。その、素晴らしいモノでした。砦に戻していただけますか。」


 そうして、青い顔をしたアルセーニーさんと参謀さんを砦に戻す。彼らを下ろすとすぐに上昇し、小声でヘッドセットに呟く。


「『観測班、王国側に出ている砦を砲撃目標にする。その後方300mにある砦に対する砲撃はまだだ。』」


『了解しました。司令官。』


「『バートン大佐、観測班より情報が届き次第、砲撃準備を。準備が終われば通信をしてくれ。私は返答できないが、合図として、火の玉を上げる。それが、砲撃開始の合図だ。』」


『了解。司令官。』


 通信を終え帝国砦の上に下り立つ。すぐに守備兵のみなさんの槍に囲まれる。すぐに、アルセーニーさんが、「やめんか!!」と一喝して包囲を解いてくれる。


「感謝する。アルセーニー卿。」『砲撃準備完了。』


「いえ、閣下。それでいつ鉄の雨が降ってくるので?」


「ふむ、では、降らせようではないか。」


 【火魔法】のファイヤーボールを打ち上げる。ヘッドセットからバートン大佐の『砲撃開始します。』との声が聞こえた。数秒後、僕の背後、アルセーニーさんと参謀さん達にとっては目の前の砦に砲弾が降り注ぐ轟音が聞こえる。


 砲撃開始から1分後『目標の破壊を確認。』『砲撃を終了しました。司令官。』観測班とバートン大佐の両方から通信が入る。振り返ると、さっきまでそこに有った【召喚】した帝国砦は瓦礫の山としていた。


 アルセーニーさんを中心とした砦の守備兵たちは、全員が口をあんぐりと開け、目の前の光景を眺めていた。僕は笑顔になりながら告げる。


「アルセーニー卿、理解してくれたかな?貴重な将兵と己の命を無駄にしたくなかったら、今すぐ貴重品を持ってこの砦より退去したまえ。破片が飛んでくると危ないから、そうさな・・・。【召喚】。あの防壁の陰に隠れると良い。」


 アルセーニーさんを中心に守備兵のみんなが青い顔をしながら高速で首を縦に振る。


「急げ、ガイウス閣下の慈悲にすがるのだ!!我々も粉微塵こなみじんにされてしまう前に砦より退去するのだ。責任は私がとる!!急げ!!」


 アルセーニーさんの怒号にも近い命令が響き渡る。守備兵たちは皆が「砦より総員退去!!」と叫びながら散って行く。その間に僕は【召喚】して瓦礫の山とした帝国砦を【送還】する。その後は、砦の出口にて皆が荷物を持って退去するのを確認する。アルセーニーさんが「私が最後です。」と言う言葉と共に防壁の方へ向かうと、【気配察知】で砦の中に人がいないかを確認し、飛び上がり、砲撃開始の指示を出す。


 そして、数分後、そこには先程よりも念入りに破壊された帝国砦の残骸があった。僕は通信で、観測班とバートン大佐をねぎらった。【召喚】した防壁を【送還】すると、最初は何が起こったのか理解できていない守備兵もいたが、全員が現状を理解すると、青いを通り越して白い顔をしている。


 そして、宙に浮いている僕に許しをう者や祈りを捧げる者が出てきて、波のようにそれが広がる。犠牲者ゼロで帝国砦を排除したかっただけなのに、どうしてこうなった。

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