第126話 クスタ・その2

 さて、この場をどうおさめるかだけど、とりあえずは落ち着いてもらおう。


「落ち着きたまえ、帝国の将兵たちよ。お主らの命は取らん。もとより命を取るつもりであったなら事前に警告などせぬ。アルセーニー卿、少しよろしいか。」


「はい、ガイウス閣下。」


「これより、この地を治める・・・、誰であったかな?」


「イオアン・ナボコフ辺境伯閣下であります。」


「うむ、ありがとう。今からイオアン閣下に書状をしたためよう。内容としては、要塞の失陥はアルセーニー卿を含め守備兵の皆の落ち度で無い事、そして、領土の問題だな。帝国は国境をまもる砦を失ってしまった。それに関する話しができればよいな。おお、砦を破壊してしまったからには代わりのモノがいるな。【召喚】。ここから帝国側に100m進んだ所に木製の関所と兵舎を設けた。そこを仮の防衛線とするがよろしかろう。」


 僕は、机と椅子、紙と万年筆を【召喚】し、文を書いていく。守備兵さんたちは後方に突然できた関所に驚いているようだけど、今は無視無視。書き終わると、封筒に入れ、家紋入りの封蝋印を押し、アルセーニーさんに渡す。


「アルセーニー卿。けいに任せる。イオアン閣下に渡してほしい。」


「はっ、確かに。」


「あとな、お主と家族が帝国に居づらくなればいつでも王国に来るといい。書状にもけいの責任ではないとしるしたので大丈夫だと思うがな。」


「ご配慮ありがとうございます。」


「うむ、それではな。騒がせてすまなかった。」


 そう言って、僕は翼を広げ、空高く舞い上がりゲーニウス領のツルフナルフ砦に戻る。砦守備隊指揮官のパーヴァリ・マカライネン準男爵が、砦の屋上でクリス達やアルヴィさん達と共に待っていてくれた。


「パーヴァリ卿、帝国の砦は完全に破壊された。嘘だと思うなら、偵察をしてくるといい。瓦礫の山が見えるだろう。バートン大佐、ジョージ中尉、両名ともご苦労だった。また、力を貸してほしい。」


 パーヴァリさんはすぐに守備兵さんに偵察を出すよう命令をしている。僕はそれを横目にアメリカ軍の2人と相対し、お礼を述べる。2人とも敬礼してきたので答礼し、笑顔で別れの握手をする。20門のM777 155mm榴弾りゅうだん砲と砲兵たち、観測班とバートン大佐にジョージ中尉を【送還】する。


「ここですることは大体が済んだな。しかし、偵察に出た兵が戻って来るまで待たせてもらおう。よろしいかな、パーヴァリ卿?」


「はっ、閣下。どうぞ、応接室がありますので、そちらの方へ。」


「うむ、ありがとう。クリスティアーネ達とアルヴィ卿達はそちらで待たせてもらいたまえ。私はオツスローフに少し行ってくる。」


 ユリアさんが“あっ”という顔をして言う。


「クスタ殿の件ですね?」


「そうだユリア卿。まあ、飛んでいくので一瞬だがな。偵察に出た兵が戻ってくるよりは早いかもしれん。」


「わかりました。お気を付けて。」


「うむ。」


 僕はみんなの見送りを受けて一気に高度を稼いで、オツスローフ方面に向かって飛び立つ。みんなの視界から外れたと思ったあたりで、【空間転移】を行う。すぐに、オツスローフ付近の空に着いた。門に向かってゆっくりと降下していく。


 高度が下がるにつれ、僕の姿を視認した門に並んでいる人が騒ぎ始める。いつも通り【風魔法】でみんなを落ち着かせるために声を広く響かせ、


「私は女神フォルトゥナ様の使徒にして、アドロナ王国ゲーニウス領の領主ガイウス・ゲーニウス辺境伯である。みな、落ち着くのだ。」


 そう言うと、門に並んでいた人々がお祈りを始める。僕はそれをなかば無視する形で、衛兵さんの近くに下り立ち、貴族証を見せて言う。


「入門を許可していただけるだろうか。」


「はっ、閣下。大丈夫であります。ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか。」


「教会に用事がある。オツスローフ方面軍司令官のジギスムント・クンツ男爵には知らせても良いが、会えぬかも知れぬぞ。」


「ありがとうございます。ジギスムント閣下には報告を今すぐさせていただきます。もしかすると、教会へ向かわれるかもしれません。」


「かまわんよ。それでは、入らせてもらおう。」


「はっ、ようこそオツスローフへ。」


 入門すると、いつもの黒馬を【召喚】して教会へ向かう。教会に着いて、馬止に馬を繋ぐと教会入口で受付をしている巫女さんに貴族証を見せながら言う


「神官長のアキーム殿を頼む。ガイウス・ゲーニウス辺境伯が“クスタ殿の件で来た。”と伝えればわかるはずだ。」


「はい、わかりました。使徒様。別室をご用意しましょうか?」


「いや、フォルトゥナ様にお願いしたいことがあるからな、礼拝堂で大丈夫だ。」


「わかりました。では、アキームをお呼びいたしますので少々お待ちください。」


 そう言って巫女さんは教会の奥へ向かう。入れ替わりに礼拝堂にいる別の巫女さんが、受付の場所に立つ。僕は、そのままフォルトゥナ様の像の前に行き、純白の翼を生やし、その翼で自分自身を包み込む。そして、手を組み目をつぶり念じる。


“フォルトゥナ様、僕に遠くの人の状況を見る【能力】を前倒しでください。帝国のアルセーニーさんが処罰されないように、命が奪われないように見守っていたいのです。”


 すると、すぐに祈るために組んでいた手の中がもぞもぞする。開いて見てみると、


“わかったわ。【能力】を授けましょう。名前はとりあえず【遠隔監視】にでもしときましょう。また、よい言い回しがあれば、それに変更しましょうね。”


 そう文字が浮かんでいた。僕がそれをステータスで確認していると、


「ガイウス閣下。」


 と、アキームさんの声が聞こえた。僕はすぐに翼を消して、彼を見る。彼の隣には、クスタ君がいた。僕は頭を下げ、


「1日遅れてしまって申し訳ない。クスタ殿の返答を聞きに来た。しかし、この場だと堅苦しいな。」


 僕の言いたいことを察してくれたアキームさんが、


「それでは、私の部屋で話しをしましょう。さ、閣下。どうぞ。クスタも行きますよ。」


「うむ、感謝する。」


 さて、どんな返答を貰えるかな。

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