第124話 国境

 昨日は、行政庁舎で代官のヘニッヒさん、駐留国軍総司令官のベレンガーさん、領都衛兵隊司令のウルリクさんの3人と話しをした後は、冒険者ギルドに行った。そこでは、アントンさんとレナータさんが冒険者をボコボコにしていた。


 なんでも、依頼クエスト掲示板を眺めていたら、クリスたち女性陣に絡んできたそうだ。相手は酔っていて何を言っても理解できていないようだったから、ボコボコにしたそうだ。僕が、「骨を折ればよかったのに。」と言うと周りの冒険者がひいていた。変なことは言わなかったはずなのにおかしいね。


 その後はヘニッヒさん達に教えてもらったオススメのお店をはしごして、行政庁舎近くのちょっとお高い宿にて就寝した。あ、勿論、次の日の行動予定をヘニッヒさんに再度会って伝えてからだよ。


 そして、今日は国境まで行く日だ。午前6時30分、馬に乗って行政庁舎に行くとすぐにヘニッヒさんとベレンガーさんが出てきた。ベレンガーさんの後ろには4人のおそらくは騎士がいる。昨日話していた案内人と護衛の人だろうね。さて、僕は此処から辺境伯として振る舞わないといけない。


「ヘニッヒ卿、ベレンガー卿、朝早くからすまない。どうしても今日のうちに国境を見ておきたくてな。それで、ベレンガー卿、後ろの4人が昨日言っていた者たちか?」


「はい、閣下。いずれも騎士爵で、腕が立ちます。4人ともこの地の出身者です。」


 すると、ベレンガーさんの後ろに控えていた4人が前に進み出てひざまずき、自己紹介を始めた。


「アルヴィ・ハータイネンでございます。案内役をおおせつかりました。」


「エサ・サッリネンでございます。護衛をおおせつかりました。」


「カッレ・ソンニネンでございます。同じく護衛をおおせつかりました。」


「パシ・スルクネンでございます。同じく護衛をおおせつかりました。」


「ガイウス・ゲーニウス辺境伯である。諸君らの働きに大いに期待するものである。また、今日、私が行うことは口外無用だ。それがわかれば立ちたまえ。嫌ならばそのまま去りたまえ。ああ、罰にはとわん。」


 そう僕が言うと、4人とも起立し直立不動の姿勢をとった。


「よろしい。それでは、アルヴィ卿、案内よろしく頼む。卿らも護衛頼むぞ。ああ、それと、私の後ろにいるのがパーティメンバーの冒険者だ。アルムガルト辺境伯の御令孫に騎士爵持ちもいる。まあ、道中、自己紹介をしたまえ。それでは、ベレンガー卿、騎士たちを借りる。」


「はっ、閣下。お気を付けて。」


「私からも。閣下、どうか大事な御身です。お気を付けて。」


 ヘニッヒさんとベレンガーさんに見送られ、門ではウルリクさんに見送られニルレブから出た。道中に2つほど町があるけど、素通りだ。馬を駆けさせれば昼過ぎには着く予定だ。道中は黒魔の森が近くにあるけど、魔物も出ずに順調に移動できた。


 【気配察知】で探ってみると、グレイウルフリーダーの“ルプス”率いるグレイウルフ達が街道に出ようとする魔物に襲いかかっているのがわかった。レナータさんもわかったみたいで、笑みを浮かべながら森の方を見ている。一昨日、こっち方面に行くって伝えたから着いてきちゃったのかな。


 12時になり、昼をとるために街道の脇によける。偽装魔法袋から【収納】したアツアツの料理をみんなの前に並べる。勿論、護衛の4人の分もある。そして、森の中から、ルプスの孫たちと息子夫婦が出てきた。アルヴィさん達はギョッとしていたが、


「私の知り合いだ。でるとよい。ほれ、この肉をやれば落ち着くであろう。私はまだ森の中にいる知り合いに会いに行ってこよう。」


 そう言って、部位ごとに解体してあるコボルトの肉を出す。アルヴィさん達は恐る恐る。クリス達は喜々として肉をあげていた。僕は、森の中に入り、配下のグレイウルフにまもられるように鎮座しているルプスに会う。


「やあ、ルプス。わざわざ、ここまで来てくれたのかい?」


「うむ、ガイウスが行く場所がどのような所かと思うてな。ここはよいな。獲物が多い。」


「僕たちと並走しながら狩っていたね。」


「うむ、ガイウスがこちらに拠点を移すならば、我らもここを拠点としよう。幸い、同族はいないようだ。」


「うん、歓迎するよ。その時は“グレイウルフに危害を加えないこと”って領主の名で布告しておこうか?」


「うむ、我らも元から人は襲わなんだが、そうしてもらえると助かる。」


「それじゃ、僕はそろそろ仲間の所に戻るよ。」


「うむ。それではの。」


 みんなの所に戻ると、アルヴィさん達もクリス達みたいにグレイウルフをモフモフしている所だった。


「打ち解けたようで何よりだ。さて、諸君、名残惜しいが国境を目指そう。」


 クリス達はバイバイと手を振り、アルヴィさん達は名残り惜しそうに手の平を眺めていた。


「あのグレイウルフの群れのかしらは私の知り合いだ。フォルトゥナ様より【能力】を授かっている。使徒である私と同じだな。なので、グレイウルフに会っても危害を加えないようにしてほしい。」


「「「「はっ、閣下。」」」」


「よろしい。では、進もうではないか。」


 そして、国境の砦には13時過ぎに着いた。石とレンガ造りの砦では防衛隊長に最敬礼で迎えられた。そして屋上に出て遠くを眺める。しかし、帝国の砦は見えない。アルヴィさんに聞いてみよう。


「アルヴィ卿。帝国の最前線は此処からどのくらいだろうか?」


「はっ、大体15kmほどかと。我々と同じような砦を築いております。」


「なるほど、では【召喚】。」


 まばゆい光と共にジョージ・マーティン中尉が現れる。彼の敬礼に答礼をし、笑顔で握手をする。


「久しぶりだな。中尉。この口調のことだが慣れてくれ。辺境伯になってしまった。」


「それは、おめでとうございます。では、これからはガイウス卿とお呼びしましょう。」


「うむ。それでな、今日、貴官を呼んだのは他でもない、この先15km地点にある石とレンガでできた砦を攻略する場合はどうすればいいだろうか。味方に被害は出したくない。あと、航空機は無しだ。あれは最後の切り札だ。」


「あー、それですと、陸軍の管轄ですねえ。ま、最近採用したM777 155mm榴弾りゅうだん砲なら、20門ほど並べて一斉射撃を繰り返せば簡単に攻略できると思いますよ。」


「よし、モノは試しだ。やってみよう。【召喚】。」


 すると、砦の帝国側に魔法陣が現れ20門の榴弾砲が【召喚】され、指揮官らしき人物が敬礼して報告してきた。


「アメリカ陸軍第1軍団第7歩兵師団第17砲兵旅団旅団長バートン・リーチ大佐であります。砲撃目標を司令官。」


 うん、ゴツイのが出てきたね。20門もいらなかったんじゃないかな?


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 自分から喧嘩を売っていくスタイル。どうしてこうなった・・・。

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