第122話 条約締結
困ったなあ。とりあえずこれは聞いておかないと。
「ツァハリアス殿、ソファにおかけください。そのような姿勢では話しがしにくいですから。やはり同じ目線でないとこういう話しは出来ませんから。」
そう言うと、ツァハリアスさんはソファに座ってくれた。僕は彼の目を見て問う。
「貴方にとって民とは何ですか?」
「民ですか?それは、奴隷なども含めてということでしょうか?」
「そうです。貴方の施政下にいる人々のことです。」
「ならば、答えは簡単ですな。民とは我々、貴族が
「ほう。」
今まで会ってきた貴族の人たちと同じような回答だ。これだけでも満足だけど、ツァハリアスさんは続ける。
「“我々、貴族が民を
「なるほど。では、貴族は税を取らずに民の守護をすればいいのでは無いですか?」
ちょっと意地悪な問いかけをしてみる。
「それは、閣下、結論の飛躍というモノです。確かに我々、貴族に王家の方々は民よりの税を生活の
「ああ、もう結構です。丁寧に答えていただきありがとうございます。先程のご提案をお受けいたしましょう。ただし、条件があります。」
「どのような条件でしょう。」
「そうですね。名付けるなら相互安全保障とでも言いましょうか。ようはシントラー領が僕の庇護下に入るのではなく、お互いに危機に
「それはよいですね。しかし、我が領の軍は海軍が7、陸軍が3という割合ですからご期待に沿えるかどうか・・・。」
「そのための冒険者ギルドではありませんか。彼らに依頼として出せばいいのですよ。」
「しかし、それでは、ゴロツキが混じる可能性も・・・。」
「その時は、そのゴロツキの方々には不幸が訪れるだけですよ。」
笑顔で答える。ツァハリアスさんが引き攣った笑みを浮かべる。うーむ、普通の事を言ったつもりだったんだけどなあ。ま、いいや。話しの腰を折ったわけでもないし。
「さて、相互安全保障の件について詳しく煮詰めていきましょう。これは、条約として締結し施行するべきです。しかし、時間がありません。明日には、僕たちは帰りますから、せめて形だけでも作り上げましょう。」
「わかりました。」
その後、僕たちは夜遅くまで話しを詰めた。ちょっと
条約の草案をまとめ上げ、2人して長く息を吐く。締結は今、現在をもってと決まった。それぞれに署名し、家紋印を押す。公布と施行は、ゲーニウス領に僕が着任してからとなった。これから、この相互安全保障条約には様々な条文が追加されていくのだろう。
「いやはや、閣下。これほどまでに事務仕事に熱を入れたのは久しぶりかもしれません。」
「ハハハ、僕は初めてのことなので楽しかったですよ。色んな条件を考えていくというのは。」
「いやあ、艦隊司令として艦隊指揮や野戦をしていた方が楽でいいですな。将兵の命を守りながら敵に勝つことを考えればいいだけですから。早く、息子に家督を譲りたいものです。」
「フィン殿のことですか?実はぼくの祖父もフィンという名なのです。奇遇ですね。」
「おお、そうなのですね。これも縁でありましょう。それで、我が子の事についてお話しをする機会がありませんでしたね。娘は3人いて
「なるほど、それは残念ですね。みなドゥルシネアさんとの間のお子さんですか?」
「ええ、彼女が頑張って5人も産んでくれましたよ。しかも、みんな大きな病気も無く元気に育ってくれました。それにドゥルシネアは美しいですから側室や妾を取る気にはなりませんでしたね。」
「そうなんですね。そのように一途なツァハリアス殿から見れば、僕は女好きの遊び人に見えるのでしょうけど。」
「いえいえ、愛や恋と云ったモノは人それぞれです。私はドゥルシネアと子供達にしか愛を
ハハハと笑うツァハリアスさんは、しかし、その言葉とは裏腹にとても幸せそうに見えた。
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